2人の密談
ほとんど最後まで書いていたのに、保存するのを忘れて、全て消してしまいました!こまめな保存、大事ですね(涙)
「で、イヴァン様はオネエになって、どうするつもりなんですか? ベルローズ様を好きなのは分かるんですけど、それでなぜオネエなんですか?」
とりあえず僕とソフィアは、そのまま空いた席に向かい合って座り、現状と今後について話し合うことにした。
「僕らは同じ歳だし、これからは同じ目的に向かう同志だ。様はなし。イヴァンでいいよ。僕もソフィアと呼ぶし」
僕はソフィアにどうしてオネエキャラを演じることになったのか、僕の目的とここに至る流れを説明した。
とにかくローズを悪役令嬢にしないのが第一目的であるということ。そして、どうせ婚約破棄でローズがアレクサンドル王子に捨てられるのなら、いずれローズを手に入れたいということも全て話した。
「ええっ!? ベルローズ様にアレクサンドル王子が好きだって叫んだんですかっ!? ちょっと引くんですけど……。それでよくベルローズ様は応援すると言ってくれましたねぇ」
ソフィアは目を丸くして驚き、この世界の常識から逸脱している僕の行動に少し呆れているのか、自分の想い人を演技とはいえ、好きだと叫ばれるのは微妙な気持ちだったのか、少し顔が引き攣っている。
「……僕とローズの絆は、深いんだよ。それに、ローズはまだアレクサンドル王子を恋愛とか、そういう対象には全く見ていないようだ」
ソフィアの顔が少しほっとしたような表情になった。
「そっか。ベルローズ様はゲームのように、まだアレクに恋をしていないんだ。良かった……。
わたし、ずっと初めての両想いの恋に完全に浮かれてて、周りが見えていなかったから……。最近になって、なんて酷いことをしているんだろうって自己嫌悪に陥っていたんです。まぁ、恋をしていないとはいえ、ベルローズ様にとって、婚約者と自分より仲良くする女なんて、ウザいに決まってるし、恨まれて当然だとは思うけど……」
ソフィアはそう言って傷ついたように自嘲気味に微笑むと、目を伏せた。
僕はローズが寂しそうにしていたのを知っているので、ソフィアに掛ける言葉が見つからなかった。
そんな答えに困った顔の僕に気が付いたのか、ソフィアは話を変えてきた。
「それにしても、オネエになるなんて、随分突拍子のない発想ですね。大体、将来自分の仕える王子に、恋する男色の演技だなんて、かなりリスクが高くないですか?」
「周りに笑われるとか、気持ち悪がられるとか、悪評がつくことは全て覚悟の上だよ」
僕だって、なんの覚悟もなく決めた訳ではない。それ以上に、ローズが大切なだけだ。
「でも、それでは下手すると、イヴァンがアレクに嫌われて、将来側近としての出世も棒に振ってしまうかもしれないんですよ?」
「うーん。僕は別に王宮での出世とか望まないんだけど……。領地を豊かにして、ローズとのんびり暮らせさえすれば……」
僕はローズと2人、のんびり田舎暮らしをする姿を思い描いて、思わずニマニマしてしまった。
「でも、イヴァンのお父様に失望されたら、廃嫡にされますよ。のんびりどころか、貧乏生活です! 今まで上位貴族の生活が長いベルローズ様が、幸せにやっていけるんでしょうか? 大体、ベルローズ様のお父様である公爵が、そんな相手との結婚を認めるとは思えないんですが」
ソフィアの話に、僕は頭を殴られたようなショックを受けた。
確かに彼女の言う通りである。根っからの公爵令嬢であるローズが、庶民に近い暮らしが出来るとは思えない。……というか、その前に僕がローズに振られるか、求婚しても公爵に大反対されるだろう。
僕は腕を組み、深く考え込んでしまった。このままでは、ベルローズを手に入れるのは、前途多難そうである。
「うーん」
ソフィアも顎に手を当て黙り込み、何やら思案しているようだ。
「……どうでしょう? オネエ作戦については、一か八かアレクも巻き込みませんか」
しばしの沈黙の後、ソフィアがおもむろに提案してきた。
「あ、アレクサンドル王子を!? 」
僕は驚き、顔を上げた。
「アレクにも演技に一役買ってもらうんです! 最初から、イヴァンがアレクを追いかけ回すのは、あくまでも演技であると教えておくの。 イヴァンがベルローズ様をずっと愛していて、アレクが私と結ばれて、いずれ婚約破棄をするのなら、イヴァンはベルローズ様との結婚を望んでいるということまで、全て正直に話してしまうの!」
ソフィアは両手を握りしめ、熱く語り続けた。
「……普通、嫌がられると思うよ。演技だとはいえ、男に追い回されるなんて。僕は嫌がられるの覚悟で、やろうと思っていたけど。
アレクサンドル王子はベルローズが嫉妬に狂って、これからソフィアに嫌がらせをするなんて知らないし、僕が男色のフリまでするのは理解できないんじゃないかなぁ。しかも、そのお相手が自分だなんて」
ソフィアが大きく首を横に振った。
「男色のフリをするのは、自分の結婚話を避けるためということ。そして、ベルローズの側で精神的フォローをするために、警戒されない女友達のような存在になるには、オネエになるのが最適と考えたからだということをわたしが説明するわ。
オネエの概念は理解してもらうのが難しそうだけど、イヴァンは頭が良すぎて少し変人だから、考え方も飛んでいるんだとでも言っておくわ」
「頭が飛んでるって……」
僕は思わず額を抑えた。
「一方的に婚約破棄をして、ベルローズ様の生家である公爵家を敵に回すことは、アレクにとっても、リスクが大きいわ。婚約破棄した際に、受け皿として、イヴァンがベルローズ様を引き取ってくれればアレクも安心でしょう。
それに、交換条件として、わたしの未来の後ろ盾になる作戦を考えてもらっていると説明すれば、きっと協力してくれるはず!」
ソフィアをちらっと見ると、何やらやる気に燃えている。彼女はなんせ天下のヒロインだ。なんとかアレクサンドル王子を説得してくれるかもしれない。
「前世のゲームの話は?」
「それは黙っておいてもいいですか? わたしは自分の前世の話は墓場まで持って行くつもり。だって、なかなか信じられる話ではないし、自分がゲームの攻略対象だと知ったら、わたしの気持ちもそこから来るものと疑われるのも嫌だし……。
わたし、別にアレクが攻略対象だからでも、王子様だからでもなく、アレク自身が好きだもの。きっとゲームの記憶がなくても、恋に落ちていたと思うわ」
きっと彼女にとって、アレクサンドルと恋に落ちるのは、必然だったんだろう。前世の記憶とは関係なく。
―――僕がローズを愛しているのと同じで。
「分かったよ。前世のことは、しばらく2人の秘密にしよう。次にソフィアの後見の計画だけど、僕に少し考えがある。少し時間をくれないか。じっくり計画を練ってみるから」
気付けば、結構な時間を話し込んでしまったので、そろそろ話を切り上げることにした。
「うーん。どうもイヴァンが立てる計画、心配なんですけど……」
ソフィアが僕に疑いの眼差しを向ける。
心外だ。僕が前世の記憶と今世の知識を駆使して、最高の計画を提案してあげようというのに……。
「とりあえず、わたしもアレクに話してみます! そもそも、婚約破棄なんて、きっとまだ頭にもないでしょうし」
運命の婚約破棄の卒業パーティまであと2年と少し、僕らがやらねばならないことは、山積みのようである。
読んでくださり、ありがとうござます!