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立案

 伝令を飛ばして全体に戦闘の終結を伝え、広場にて二人の小隊を合流させる。

 合流した瞬間徐にルディアンヌがカエデをひっ捕まえて頭を脇に抱え込んだりとじゃれあっていたので、ルーは二人の関係性に首を傾げた。殆ど初対面ではないのだろうか? 多分最初の広場にいた誰よりも綺麗だったくせに変に男言葉を使うし、名前も変だし、カエデという人間は謎が多い。

 ルーが少し残念に思いながらも、ルールに従いリタイアをしようとしていると、慌ててカエデがそれを止めた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は降参してくれって言っただけで、何もリタイアしろって言ったわけじゃないんだ」

「……え?」

「そっちの隊、右翼が壊滅しただけでまだ戦えるだろ? だったら俺達協力出来ないか? 見たとこ、協力者がいるって訳じゃないんだろ。そっちにも悪い話じゃないと思うけど」


 ルーは少し考える。

 確かに選択肢は無いように思える。どうせ話にのらなければ見逃してはもらえないだろうし、よしんば見逃して貰ってもただでさえ少ない上に襲撃を受けて更に減った兵では逃げ切る事もままならないだろう。

 生き残っている兵は三十人程。それで済んでいるのは、広場にも兵を置いていたのと、本隊の兵を右翼と左翼よりも少し多くしていたからだ。人数比でいうと、本隊:右翼:左翼:広場=11:8:8:10。左翼の兵は全員が失われたが、手痛く負けたように見えて実際の損耗は八人ぽっちだ。確かに協調すればまだ戦える。寧ろそれを見越して、カエデは右翼以外潰さずにルーに降伏を勧告したのだろう。

 だが、それでもルーが悩んだのは、その協調に未来があるのかが謎だった為。筆記でも一位であり、此処まで自分を華麗に負かせた相手の実力を疑うわけではないが、それを踏まえてもこの試験は過酷。先の戦いに於ける彼の戦術をまだ聞いていないので、身を委ねても徒らに時間を浪費するだけに終わるかもしれないと思ったのだ。

 どんな魅力的な提案だろうと、その先に勝利が見えていなければ無意味と言わざるを得ないのだ。


「聞かせて。貴女はどういう思考で作戦を立てて、この結末に至らせたのか」


 カエデは少し考えたが、ルーの考えを理解したらしく。


「じゃあ、兵の休憩がてら。あと、多分誤解しているみたいだから言っておくけど」

「?」

「俺、男だからな?」

「………………!!?!??!?!!?」


 瞬間、ルーの心に、その日一番の驚愕が叩き込まれた。



 ◇◆◇◆◇◆



「南西に敵部隊だと?」


 斥候に望遠鏡を持たせて木の上に登らせて情報を集めさせていたところ、不意にそんな情報が飛び込んできた。

 何やら南西にあるそこそこな広場に敵が腰を据えているらしい。距離はかなり近いそうで、周りには他に敵は見当たらないとのことだった。


「ふぅん……ルディアンヌ! 走らせた斥候は回収出来てるか!?」

「問題ないぜ。バッチリ四十人全員いる。だが攻めに行くのか? まだ二位の奴とも合流が終わってねぇが」

「いや、合流を待ってたら時間がかかり過ぎる。ちっと作戦を思いついたんで、此処は攻めに行きたい」


 タルトは、望遠鏡の力を借りても流石に見つからなかった。遠方に部隊がある、という情報こそは手に入ったものの、タルトの姿を見分けろというのは甚だ難しい。勿論合流地点自体は定めてあるが、時間そのものの指定はしていないため、今からどれだけ急いでもまだタルトが来ておらず、合流自体は出来ない可能性もあった。事実、合流地点あたりを見させたところ何か部隊が近づいている様子はなかったらしい。

 そこまでして急ぎたかったのは、今この瞬間でしか敵への奇襲が成功しないかもしれないという懸念があったからである。


「…………よし、考えが纏まった。ルディアンヌ、南西に向けて斥候に出せ! ただし、警戒網に引っかかりそうな程近づいたら歩く事。それと敵の部隊がほんの少しでも見えたら、その瞬間に踵を返すこと。大体の位置を把握してる、木の上に出してた斥候を流用させろ!」


 ルディアンヌはその意図をはかりかねたようだったが、僕が少し焦りを感じていることは受け取れたのかその通りに指示を出した。指示は一度ルディアンヌを通した方が士気が上がるらしい。此れは、恐らくはルディアンヌに対する忠誠の為だろう。伍長という地位に相応しい戦争を、共にくぐり抜けた経験からくる忠誠。殆ど初対面の俺にはそれがまだない。

 斥候が走って行った後、ルディアンヌは俺に尋ねてきた。


「で、さっきの指示はどういう事だよ、大将」

「あぁ、えーっと……どっちだ?」

「どっちもだな。見当がつかねぇ訳じゃねぇが……ちゃんと口から聴きてえ」

「じゃあ一つ目から。警戒網に引っかかったときに歩かせるのは偶然を装わせる為。偶々そこら中を調べていたら偶然見つけました、って感じにな。二つ目の直ぐに踵を返させるってのは敵に反撃を許さない為だ」

「反撃を許さない?」

「敵は堂々とこの序盤に堂々と腰を据えて休憩してるくらいだ。周りに斥候くらいは置いてるだろ。俺たちの斥候が警戒網に入ったら反撃して追い払うか、そのまま脱落させるかしてくる筈だ。これで敵が反撃してくるとな? 俺たちが、敵に気づかれた(・・・・・・・)事に気づく(・・・・・)

「…………どう不味いんだ?」

「全部だな。敵は警戒し、場合によってはあの広場から兵を引く。追いかけても無駄だろうな。逃げる算段がなけりゃあそこまで堂々と腰は据えられない。だが、俺達が敵に気づかれていないと思ってると、敵の指揮官が勘違いしているとしたら? 敵はこう考える。『敵は、俺達が敵に気づいている事に気付いていない。きっと速攻の奇襲を仕掛けてくる筈だ。なら、それを利用して待ち伏せ、逆に倒してやろう』──ってな」

「…………そうか! 自分が有利だと勘違いさせるのか!」

「ご明察。『自分が有利だ』、『この状況で負けるはずがない』。そう思わせて、狩られる側なのに狩る側だと誤認させる。そういう時の敵が一番無防備だ。横っ面叩いてやるだけで倒れる。恐らく予め森に兵を忍ばせて包囲を狙ってくるだろうな。だったらこっちは広場に突っ込むと見せかけて森に突っ込み、兵を薙ぎ払うだけだ。右翼にでも突っ込めば、包囲なんざ敷いてるせいで本隊と左翼は遠くて助けに来られない。端的に言って、戦力が分散されちまってるんだよ。指揮官が最もやっちゃいけねぇ事だと知ってる筈なのに、勘違いが認識を誤らせる。そこに俺達の全戦力をぶつけられるんだ。どうだ、簡単なお仕事だろ?」


 ルディアンヌはその説明に舌を巻いた。

 発想が凄いのは勿論だが、此れは一種の博打。こうなる可能性もある、というだけで、絶対にそうなる、という確証はその実ないに等しい。

 恐らく本人も分かっているだろう。

 だが、メリットとリスクを天秤にかけ、迷わずリスクに飛び込めるその精神性。此処で飛び込まなければならないと分かっていても、恐怖で足が竦むということが彼にはない。加えて、確かな可能性を見出す戦術眼。


 此れは、とてつもない。


 ルディアンヌはそう確信し。


「……敵が見えたからと言って斥候が直ぐに踵を返したら不審がられないか? あと、乱戦になった後敵が直ぐに引く可能性や、敵の斥候に同行を探られて早期に作戦がバレる懸念は?」

「ああ、それなら────」


 念の為に、計画の細部の問題点と思しき部分を問い詰めたが、即答以外で帰ってくることは終ぞなかった。

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