零
いつからだろうか。
この感情を抱き始めた頃を、私は既によく把握しきれていない。
ある夏の夕暮れのこと、群青に滲んできた空を薄い白いレースカーテン越しに見ながら、私はふと、己の中の感情と真正面から対面することになった。
その理由は分からないが、何故だか心が空っぽになって、どうにも不思議とそうせざる終えなかったのだ。
思えば、その感情は、出会ってから数日後には抱いたような気もするが、何ヶ月も目を逸らし、1年近くになってからようやく自覚したというようにも思える。
それは抱いてはいけないものだとどこかで思い、その気持ちが浮かぶたびに否定し続けていたような気すらする。
ああ、だがしかしなるほど、結局のところ私は、この醜く汚い黒く淀んだ感情を最低でも1年は身の内に飼い慣らしていたらしい。
時に嫉妬で身を焦がし、また時にはほんの少しの肌の触れ合いに胸躍らせたものだった。
初めの頃——といってもやはり、その時期ははっきりとは分からないのだが——は、酷く新鮮で軽やかなこの気持ちを、幼子が甘い飴を下の上でからんころんと転がすように、何度も反復しては楽しんだように思う。
しかし私は、この想いは思春期特有の「恋」と呼ぶに相応しくない——あるいはそんな崇高で素晴らしい、美しいものではないのだと、強く否定したいと思うのだ。
今まで胸を幾度となく過っていったこの心は、そんな恋なんてものよりずっと欲深でおぞましく、己の腹の胃の裏側でずるりずるりと蠢いて——そう、まさに「独占欲」というに相応しいものだった。
彼女との出会いから早3年、私はついに、この感情と決別せねばならない。
少し涼しくなってきた風が柔らかに頬をなぞっていく。
外ももうすっかり日が暮れて、気がつけば子供の甲高な声ももう闇にぼやけた。
私は部屋に一人、ペンを握ると「彼女」のことを思案する。
そういえば一体、君は、どんな人だっただろうか。