本好きの義弟
「ここに来たばっかりだから屋敷を案内しようと思ったんだけどー……、何か用事あったりする?」
「ううん。何も無いよ。今だって本を読んでいただけだったし」
クリス、本好きなんだ。
お母様と気が合いそうだ。
うん……。よし、決めた。
「行こう!」
「え!?」
驚くクリスの手を引き私は目的の場所へと駆け出した。
「ね、姉さん! どこに行くの!?」
「んー? 着いてからのお楽しみー!」
そう言えば、「姉さん!」と怒られた。
だって見てからの方が感動が大きくなるじゃない?
そうしていると、階段が見えてきた。
クリスの手を離し、いつものように手すりに腰掛け、シャーと滑り降りた。
華麗に着地を決め、見上げて、「クリスー! 早く早くー!」と声を掛ければ、「姉さんって本当にお嬢様……?」と呟きながら階段を降りてきた。
失礼な。
「とーちゃーく!」
私達の部屋がある屋敷から出て庭を歩いてすぐの所に建っている屋敷ほどではないがそこそこ大きい木製の建物の前で、立ち止まった。
「ここは……?」
「まぁまぁ、取り敢えず入ってみて」
建物の扉を開け、中に入るよう促した。
「うわぁー……スゴイ」
驚きの声を口にしながら吸い込まれるように奥へと入って行くクリスに微笑みながら、私も後に続いた。
「いつ見てもここは凄いなぁ……」
中は、三階建てで、造りは簡単に言うとドーナツ型。
私が今いる1階の中央には机やら椅子やらソファーやら快適に本を読める環境が整っている。
本は難しいものから簡単なものまで揃っている。
なんでこんなに本があるのかっていうと、お父様曰く、付き合う前、本好きのお母様を振り向かせるために世界中から本を集めたんだそうだ。
「姉さん! ここ凄いね! こんなに本がたくさんあるとこ僕、初めて見たよ」
瞳をキラキラと輝かせて言うクリスに私は堪らなくなってヨシヨシと少し下にある頭を撫でながら「好きなだけ読んでいいよ」と許可を出した。
「さて、何を読もっかなー……」
本棚に小走りで駆け寄っていくクリスを見送った後、私も何か読もうと近くの本棚へ向かった。
今日はとことん義弟に付き合ってあげよう。
……ん? ここで夜を明かすなんてことないよね?
本をたくさん抱えてソファに向かうクリスを見て少しだけ不安になった。