可愛い可愛い義弟
「クリス、自己紹介」
そう言ってお父様が私の前に押し出したのは、お父様と同じ黒い髪の美少年だった。
「クリス、12歳です。今日からお世話になります。宜しくお願いします」
そう言って深々とお辞儀する彼は、歳に似合わず、この世の全てを諦めているような冷たい瞳をしていた。
「ティナ。クリスの両親は2年前に亡くなっててな、この子の両親には昔大変世話になった恩があって、私が養子として引き取ることにしたんだ」
なるほど。
と、いうことは、私に義弟が出来たってことか!!
……あれ? ティナ=シーナに義弟って居たっけ?
あー、ダメだ、全然覚えてない。
前世の記憶を思い出したって言っても、『ドキドキッ! マリンschool』の細かいとこまでは思い出せないのだ。
そういや、どうして自分が何で死んだのか思い出せないんだよなー。
老いゆえかもしれないし、それとも事故でかもしれない。
住んでた場所とかは分かるのになぁー。
……まぁ、いいか。
自分が死んだ経緯なんてあんまり思い出したくないしね。
今はそんなことより、目の前に居る美少年についてだ。
義弟かわいいっ!!
歳、1つしか違わないけど、義弟かわいいっ!!
だ、抱きついてもいかなっ?
ああ、でも、いきなり抱きついてクリスに引かれるのはヒジョーに困る……!!
我慢しなきゃ。
「ティナです。クリス、こちらこそよろしくね?」
キュッとクリスの手を握り、お母様を真似して優しく微笑んでみた。
手を握るだけなら大丈夫だよね? 引かれてないよね?
「はい」
チラリと握られた手を見てクリスは先ほどと同じ冷たい瞳のまま小さく答えた。
「あら、ティナったら緊張しているのかしら」
いつもより大人しいわ
と珍しそうにお母様は言った。
いえ、お母様。
本当は今すぐにでもクリスに抱きつきたいです。
でもクリスに距離を置かれたくないから我慢しているんです。
大事な事なのでもう1度言いましょう。
私、我慢しているんです。
「あの、僕疲れてしまって、もう部屋に戻ってもいいですか?」
少し青白い顔でお父様に尋ねた。
「ああ、そうだね。部屋分かるかい? 私が案内しよう」
その役、私がやりたかったなぁ。
と思ったが、黙っておいた。
「はい。ありがとうございます」
それから2人は書斎を出、お母様と私も談笑しながらその後に続いて書斎を出た。