お嬢様専属侍女リリィ
今回はティナの専属侍女リリィの視点です。
私はリリィ。
シーナ家の1人娘のお嬢様もといティナ様の専属侍女として働いている。
あれは今から二週間前のこと、同僚の1人の侍女からお嬢様が突然屋敷の庭の花壇に顔を突っ込んだ、という話をもらい、慌ててお嬢様の部屋へ訪れ、お嬢様が鏡を前に何かを叫んでいるのを見た時は、驚きすぎてしばらく声が出なかったのを覚えている。
だけど、それ以上に驚いたのはお嬢様の変わりようだった。
お嬢様なら旦那様のコネを使ってでも行くと言うであろうと予想していた『マリンschool』には行きたくないと仰るし、挙句には、興奮のあまりお嬢様の肩をつかんでしまった私をクビにする気はないとまで仰る。
少し前のお嬢様ならなんの躊躇いもなく旦那様に言いつけ、私をクビにしただろう。
お嬢様は花壇に顔を突っ込んだ後から変わった。
もちろん、いい方に。
と、お嬢様について考えながら幅の広い階段を下りていると何かが私の横を猛スピードで通り過ぎた。
《何か》が何かなんて見なくても分かってるんですけどね。
「はぁ……、お嬢様ーーっ!!」
階段の1番下でドレスをヒラヒラとさせて、華麗に着地を決め、ドヤ顔をしている美少女のもとへ私は急いで向かった。
「あ、リリィー! どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、階段を下りる時に手すりを使わないで下さいと何回言ったら分かるんですかっ!?」
「ええー、だってこっちの方が早いんだもーん」
お嬢様は口を尖らせ、不満そうに言った。
「ダメです!! 怪我したらどうするんですか!」
「大丈夫だよー。手すりの幅、すっごい広いし」
そんなドジしないよー。
と呑気に笑うお嬢様に私は深いため息を吐きながら続けた。
「お嬢様、昨日の朝ベットから出ようとしてそのまま落ちましたよね?」
「うっ!」
「一昨日は磨きたての廊下で滑ってこけてましたよね?」
「あー……」
「その前はー……」
「っわぁーー! もうやんないからこれ以上はヤメテー!!」
「本当ですね?」
「うん」
お嬢様、目が泳ぎまくってます。
「はぁ……、今回だけですよ?」
ため息を吐きながら仕方なくそう言えば、お嬢様は嬉しそうに目をキラキラさせ、「ありがとう!」と満面の笑みで言いながらギュッと私に抱きついた。
「……っ!」
ビックリして固まっている私をよそに、お嬢様は走って庭へ出て行った。
少しした後やっと動けるようになった私は小さくため息を吐きながら、お嬢様が居るであろう庭を見て微笑んだ。
見るとお嬢様と私の会話を見ていた使用人たちも私のように庭を見て優しげに微笑んでいた。