反抗期-2-
「見苦しいところをお見せしてすみません」
家の中に入り、シウォルさんと向かい合うように椅子に腰掛けると、シウォルさんは申し訳なさそうな顔をして謝った。
「ところで、お嬢様は何故ここに?」
「この前のお茶会でソフィアと友達になって、今日遊ぶ約束してたの」
そう説明すればシウォルさん納得したような顔をした。
「そう言えばシウォルさんは今日は休み?」
「はい。今日から1週間旦那様にお願いして休みを頂いたので久々に家に帰っていました」
「久々ってー……普段は帰ってないの?」
「はい。家から屋敷まで結構な距離がありますし、いつもは屋敷で寝泊まりしてますね」
確かに、家から隣街のこの家まで距離がある。
馬車を使って行き来するならそんなに負担になる距離じゃないとは思うけど、シウォルさんは馬車を所有してる訳じゃないから無理かなー……。
まぁでも、馬車を所有していない人でもお金を払って馬車に乗ることは出来る。
けれど、シウォルさんの場合、毎日お金を払って馬車を使うなんてことをしていたらお給料が飛ぶだろう。
「……でも何で1週間も父様から休み貰ったの? あ、いや! 別に駄目ってわけじゃないけど、ちょっと気になってー……」
慌ててそう付け加えると、「分かってます」と少し笑われた。
「今更なんですがあの子との親子関係を修復しようと思いまして……」
言いにくそうにそう言った。
「修復ってー……何かあったの?」
そう聞くと、暫くの沈黙の後、ゆっくり口を開いた。
「……実は2年前に妻が亡くなり、いきなり娘と2人っきりになりまして。年頃の女の子の扱いに慣れてなかった私は、仕事に逃げしまい気付いた時にはあの子に私は父と見なされなくなっていました。それに加えどうやら反抗期も始まってしまい……そろそろ何とかしないと、と思って休みを頂いきました」
まぁ結局悪化させてしまったようですが。
そう言って自嘲気味に笑った。
「奥さんが亡くなったってことは、シウォルさんが仕事で家を空けている間、ソフィアはこの家に1人っきりだったってことだよね?」
そう言うと、シウォルさんはハッと俯いていた顔を上げた。
お母さんが亡くなって、頼りのお父さんは仕事で家に全然帰ってこない。
そりゃあ、辛い時に支えてくれなかった人を父だなんて思えないだろうさ。
「わ、私は本当に取り返しのつかないことを……!」
やっと事の重大さに気付いたようだ。
「ソフィアと親子関係を戻すには結構な時間かかると思うよ? 1年で元に戻ればラッキーな方だろうね。反抗期も始まっちゃってるし。それでもやる?」
っていうよりそこまで逃げ出さずに頑張れる?
と聞けばシウォルさんは唇を噛み締め黙り込んでしまった。
暫く沈黙が続いた後、シウォルさんが意を決したように顔を上げた。
「あの時ソフィアの手を離したこと、本当に後悔しているんです。もう……もうあの子の手は離しません」
真っ直ぐに私を見てそう言い切った。
うん、もうこれなら大丈夫そうだ。
「合格!」
「あの、お嬢様1つお願いがあるのですが……」
そう言って区切り、再び口を開いた。
「あの子の……ソフィアの所に行ってあげてくれませんか? お嬢様とソフィアは友達なんですよね? なら、私が行くよりお嬢様が行く方がいいと思うんです。
……私が行くと喧嘩になってしまいますので。
きっと近くの広場に居ると思います。どうかソフィアを連れて帰ってきてください」
そう言って深々と頭を下げた。
「シウォルさん、頭上げて」
その言葉にシウォルさんがゆっくりと頭を上げるのを見てから私はその場で立ち上がった。
「じゃあちょっくら行ってくるね」
後ろから聞こえてくるシウォルさんのお礼の言葉を聞きながら私は2階建てのレンガ造りの家を出、広場へと向かった。




