春の収穫祭-4-
「あ! 俺いいこと考えた!」
誰が路地の壁の後ろに隠れた人物を誰が見に行くかで言い争っている、3人組の1人が声を上げた。
「さっさとコイツから金奪ってトンズラしたほうが早くね?」
「「あぁ〜」」
『あぁ〜』じゃねーよ。
何ハモっちゃってんのさ。
そうツッコんでいる間にも、3人組はニヤニヤと笑いながら財布をギュッと抱え込んでいる男の人をぐるっと囲んだ。
マズイな、アイツら殴ってでもお金奪う気だ。
優しそうな男の人もそれを感じとったのか、財布を抱えている手がカタカタと震え始めていた。
タイミングとしては今かな……あ! やべぇ、コードに足、引っかかった……!
ちょっ! 待って待って!?
「なぁ、俺ら面倒なこと嫌なんだわ。だからさ、それ、さっさと渡してくんね?」
「い、嫌です!!」
「そうか、……恨むなら自分を恨めよ?」
そう言って男は腕を振り上げた。
「ちょっと待ったー!!」
殴られる寸前で私は看板から出て、声を張り上げた。
ま、間に合って良かった〜……って言ってもまだコードに足、引っかかったまんまだけど。
「あ? 誰だお前」
「邪魔しないでくんね?」
「痛い目にあいたくないならさっさとどっか行ったほうが身のためだぜ?」
いやいや、そーいうワケにもいかないんですよ、お兄さん。
「おい、お前聞いてんのか!?」
何処にも行く様子のない私に苛立ったのか、3人組の1人の鼻ピアスをした男が大股で近付いてきた。
今だ!
手に持っているペットボトルのフタをぐるっと回し、鼻ピに向け発射した。
「ッブ……!」
充分に振りまくった炭酸ジュースは想像以上の威力を発揮して鼻ピの顔面に直撃した。
「「……は?」」
「今のうち! 行って!!」
ポカーンとしている3人組をよそに私は優しそうな男の人に向かいそう叫んだ。
「、ありがとうっ!!」
同じく呆然としていた男の人は私の声にハッとして慌てて立ち上がり小さく頭を下げ、3人組が止める前にダッシュで走って路地を出て行った。
「……てめぇ!!」
「子供だろうが容赦しねぇぞ!?」
ヒィ!!
お願いします、容赦してください!!
そう懇願したかったが、背に腹は代えられない。
と、炭酸ジュースを掛けられてからまだ一言も発していなかった鼻ピの男が何かを取り出しゆらりゆらりと近付いてきた。
「俺の……、俺の顔に炭酸ジュースが……俺の、俺の顔に……!!」
うそん。
その手にあるモノを見た瞬間私は自分の目を疑った。
鼻ピの男が何処からか取り出したのは剣だった。
「あ、アイツ止めないとやばくね!?」
「無理だって! アイツ結構な潔癖症だから、こうなると止まんねーんだよ!」
そう言った鼻ピの仲間に私は言いたかった。
それ、早く言ってよ! 知ってたら鼻ピに掛けなかったのに……!
と。
「間に合わねぇ!」
「ガキ!! 早く逃げろ! 死ぬぞ!」
鼻ピの仲間の2人は私を殺すつもりはなかったようで、そう私に大声で警告した。
いや、私も逃げたいよ!? けどさ、けどさ! コードに足が引っかかって離れないんだよ!!
落ち着け、落ち着け!!
焦れば焦るほどコードが絡まり余計酷くなっていく。
あー……私死ねのかな?
もしかして前世もこんな感じで死んでたりして。
……笑えねぇー。
鼻ピが振り上げ、だんだん近付いてくる剣をどこか客観的に眺めながらそんな事を思った。
「……っ!」
痛みに備え目をつぶり身を固めていると痛みの代わりに、キンーーという金属と金属がぶつかり合う音がした。
「……え」
目を開けると、そこには被っていたフードが取れて綺麗な金髪が露になった白マントの後ろ姿があった。
どうやら先ほどの音は白マントの持つ短剣と鼻ピが振り上げた剣がぶつかった音だったようだ。
「そこ、どけ」
鼻ピが唸るような声でそう言った。
「それは無理かな」
体格が全く違う鼻ピと互角、いや、それ以上かもしれない、に剣を交えながら白マントが少し挑発したように答えた。
「だ、誰だアイツ……?」
「わっかんねぇ……けど、なんかどっかで見たことあるようなー……」
「「ああ!!」」
鼻ピの仲間が突然白マントの方を指さし叫んだ。
「なななんで!? こんな所に!?」
「知らねーよ!! けど、マジでマズイって!! アイツなんとかしねぇと!」
慌ててこっちに来たかと思うと、白マントと剣を交えている鼻ピの襟を掴んで引き離した。
「「すいやせんっしたぁあ!!」」
ガバッと頭を下げて2人は鼻ピを引きずる形で走って逃げていった。
「ふぅー……」
何が起こったのかよく分からずポカーンとする私をよそに彼はそう息をつき短剣を鞘に収め懐の中にしまった。
なんかよく分からないけど、私助かった感じ?
『春の収穫祭』もう少しで終わります!