シーナ家の長男クリス
今回はお察しの通りクリス視点です。
ほんの少しですが暴言が含まれています。
苦手な方はUターンを!
「クリス! 楽しみに待っててねー!」
「まっ……ゴホッゴホッ!」
風邪をひいた。
本に夢中になりすぎて、自分の部屋に戻って寝なかったせいだ。
「ふふふ。じゃあ、代わりに私がクリスが眠るまでここに居るわね。私じゃティナの代わりにならないかもしれないけれど」
姉さんが出ていった扉を見ているとお母様がそんな事を言った。
「そんなこと、ないです」
戸惑いながらフルフルと首を振れば、お母様に「そう?」と疑いの目で見られた。
姉さんが部屋を出ていく時、せめて眠るまでは傍ににいて欲しかったなんて思った僕は結構重度のシスコンなのかもしれない。
僕の両親はある雨の日、車の事故で死んだ。
1人になった僕はすぐに親戚のおばさんとおじさんに引き取られた。
子供が6人もいる家に。
なんとなく嫌な予感はしていた。
『邪魔なんだよ! この死にぞこないが!』
その家の子供たちからの暴言は日常茶飯事。
暴言だけならまだしも、時たま暴力も飛んでくる。
口を開けば黙れと言われ、目の前をウロチョロすれば、蹴られる。
反抗することも疲れて僕はとうとう部屋から出なくなった。
そんな僕の扱いに困ったおじさんとおばさんは僕を違う親戚の人に預けることに決めた。
次こそは上手くやれるかな。
なんて思いはすぐに消えた。
そこでもヤッパリ僕は邪魔者でしかならなかったのだ。
それから親戚中をたらい回しにされ最終的には施設に落ち着いた。
施設暮らしに慣れてきた頃、父さんが『マリンschool』に通っていた時の親友で、父さんに世話になった恩があると言うイリア=シーナと名乗る、この辺で有名な貴族の家に養子として引き取られた。
親戚中をたらい回しにされたおかげで僕は色んなものを諦めていた。だから、新しい家でこれから自分の姉になる可愛らしい女の子と顔を合わせ挨拶をした時、
あぁ、この子もどうせ邪魔者が来た。とか笑顔の裏で思ってたりしてるのかな。
なんて想像したりもした。
けれど、その想像は次の日とんだ勘違いだったと気付かされた。
次の日与えられた部屋で1人本を読んでいると、
訪問者が現れた。
扉を開けると昨日会った女の子が満面の笑みで立っていた。
その少女に敬語禁止とか、姉貴と呼べだとか言われた時は本当にビックリした。
どんな暴言が飛んでくるかと構えていたものだから尚更。
そして姉さんに抱きつかれた時は、久しぶりに感じた人の温もりに息が詰まった。
抱きついて僕に引かれないか心配していたらしい姉さんを見ていると僕は涙の代わりに笑いがこみ上げてきた。
笑ったのは何年ぶりだろう。
僕の新しい姉さんは僕にたくさんのものを与えてくれるらしい。
本人はそんなこと、全くやってるつもりはないんだろうけど。
これからも姉さんの傍に。
そう願ってもバチは当たらないだろうか?
取り敢えず、姉さんが帰ってきたらお礼を言おう。
「僕の姉さんになってくれてありがとう」って。
笑ってくれるかな?喜んでくれるかな?
ってか姉さん、いったいどこに行ってるんだろ?
危ないことしてなきゃいいんだけど。