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四三返 鈴音の邂逅旅行(エンカウント)

東京。

ここは、欲望と因縁と狂気を孕んだ魅惑の都市。

そんな街では、今日もどこかで事件が起きている。

ここは、死と隣り合わせの場所―


「はぁっ…はぁっ…」

俺―飯田 唯道(いいだ ただみち)は、息を切らしながら深夜の曇り空の下を走っていた。

深夜と言っても、新宿なので割と明るい。

俺はいたって普通の高校生だ。体格も一般的で目立った特技もない。何の取り柄もないつまらない人間だ。ただ、今の状況は異質だ。何故なら、

「おら待たんかいっ、オマエ!!」

どう見ても関わってはいけないであろう方達に運悪く絡まれてしまったからだ。

最早考えることも止め、ただ走ることだけに集中していた。

どうしてこんな目に会ってしまったのか。

それは俺の学校内での立ち位置が関係している。

俺は所謂いじめられっ子だ。何も出来ない人間は、何か出来る人間に常に見下される運命にあるのだ。

今日も廃ビル裏に呼び出されてリンチを受けていた。そしたら、

「おいガキども、誰のシマか分かっていてここにいるんだよなぁ、あぁん!?」

最悪の出来事だった。

まさかよりヤバい人達が出てくるとは思わなかった。

蚊取犬魔里威(かとりいぬまりい)

ここらへんで一番強いとされているギャングだ。

俺に暴行を加えていた不良達は、まるで蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げたが、殴られたり蹴られたりしていた俺は、逃げるのに出遅れてしまった。


そして今に至る。

蹴られたところがズキズキと痛む。

しばらくすると雨が降ってきた。まるで俺の心模様を表しているようだった。

夏場なので自分が濡れているのが汗か涙か雨か分からなくなった。

雨宿りをしようとして、屋根のある場所を探していると、路地裏のど真ん中に人影を見つけた。

俺は一瞬身構えたが、すぐにギャング達ではないと気付いた。

何故ならその人物は、和装に和傘、そして長い髪だったからだ。

その先にちょうど雨宿り出来そうなところを見つけた俺は、恐る恐るその人影に近づいた。

ちょうどすれ違うそのとき、その人影がこちらを向き、

「あら、いかにもただ飯食べてそうな顔ね、そこの少年。」

こう言い放った。

ただ飯。それは俺の学校での渾名。何も出来ずただ弁当を食べるだけの生活を送っていることから、名前を文字って付けられた、何とも不名誉な渾名だ。

だが何故この人物は俺からただ飯という単語を導き出したのか、不良達でもギャング達でもないのならこの人物は誰なのか、そもそもただ飯食べてそうな顔とは何なのか、などと疑問が湧いて出てきた俺は、その声が聞こえてきた方を向いた。

すると、

「あなたの死に様、見せてもらったわ。」

予想だにしない言葉が飛んできた。

「え?」

思わず俺は聞き返した。

「ああ、ごめんなさい。つい癖で… とにかく、私はあなたの敵ではないわ、安心しなさい。雨宿りしたいならこっちよ。」

そう言って彼女は俺の手を引いて走り出した。

何故女性だと分かったのか。それは、落ち着きのある声色と握られた手が柔らかくしなやかだったからだ。

大通りに出て信号を駆け抜け、ほっと一息ついたのも束の間、後ろから、

「おいクソガキぃ!!今からそっち行くからなぁ!!」

ギャング達が追って来た。

すると彼女が、

「見てなさい、少年。彼らはもうじき死ぬわ。」

そう言い、そしてギャング達に向かって、

「―あなた方の死に様、見せてもらったわ!」

と叫んだ。

「あぁ?何言ってんだテメェ、ブッ殺すぞ!!」

ギャング達のボス格であろうスキンヘッドがキレ気味に吠える。

そして信号が青になる。

ギャング達が渡って来る。そこへ、

キキィー、ガシャーン!

大型トレーラーが曲がりきれずに横転し、ギャング達がまるで蟻のように潰された。

目の前の事故に思わず吐き気を催したが、なんとかこらえ、そして彼女を見た。

彼女は顔色を一切変えずに、その光景を見ていた。

その目は、何人もの死に様を見て来たように思えた。そして、諦めの表情を映しているようにも思えた。

でもその目には、僅かに悲しみが宿っていた。

「さあ、行くわよ。」

彼女はそう呟き、俺を引っ張った。


「…ここは?」

「私の事務所兼家よ。」

俺はとあるビルの一室にいた。そこには、いかにも高そうなソファーと広めのデスク、最新式のパソコン、そして壁には警察からの感謝状のような物が幾つも飾ってあった。

「…てことはつまり…」

「そう、私は探偵よ。よかったら、名刺もあげるわ。」

彼女が名刺を渡して来る。

その名刺には、『転生探偵 四三返 鈴音』と書いてあった。

「えっと…し?…さん?…かえし?」

「『よみがえり』よ。四三返 鈴音(よみがえり りんね)。それが私の名前よ。」

「…じゃあ、この『転生探偵』っていうのは…」

「私の二つ名よ。」

「はぁ…」

余りにも珍しすぎる名前と奇妙な二つ名に、最早何も言えなかった。

「ところで、あなた随分と事件を呼びそうな雰囲気ね。名前は?」

「えっと、飯田 唯道って言います。」

「そう… 決めたわ。ただ飯―いや唯道、あなたは私の助手になりなさい。」

「えっ!?」

これが、転生探偵 四三返 鈴音さんとの出会いだった。

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