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9話 BGM

「お兄ー、この曲何の曲?」

 何時ものネット越しグッサグッサ作業をやっていると、碧のヤツがいきなり聞いてきた。

 それは、モンスターを呼び寄せる為にかけ続けているカセットデッキから流れる昭和の音楽だ。

 多分、お袋が少女時代編集したモノだと思うのだが、カビる事無く残っていたので絶賛利用させてもらっている訳だ。

 磁気テープ素材は、以外にカビが生えるんだよ。家に残っていたVHSビデオテープも、大半がカビの為ビデオデッキのヘッドを痛める原因になってしまった経験がある。

 で、今流れている曲は、全編英語の歌詞なのだが、あっちこっちに『NINJA』の歌詞が入っている。

 旋律部分だけで無く、時折シャーかシャカとか言うかけ声だか何だかに続いて『NINJA』と言う合いの手も定期的に入ってくる。

「何だろうな、アニメとかって感じじゃないよな、この曲の前の曲が全部映画主題歌っぽかったからこれも映画じゃねぇ?」

 ズドン、ガン、グサ。

「伝説の忍者がどうのこうのって言ってるから、ハリウッドNINJAものかな? ほら、今んところ」

 グッサグッサ、ポイ。

「あ、今のとこって、レジェンド・オブだったんだ。やっぱ俺は英語駄目だわ英語耳無い」

 グッサグッサ。

「じみーに結構好きかも、この曲」

 そんなBGM評価をしながら俺達は経験値稼ぎを続けていく。

 昭和の曲は、よほど有名だったり『懐かしの~』シリーズで流される曲以外の大半は俺達は知らないので、結構新鮮で飽きが来ない。

 ただ欠点は、モンスターをおびき出す目的の為、その音量が大きすぎる事だ。BGMと言うより街宣放送レベル。

「俺は、前の曲の方が好きだったぞ」

「そーなんだ、でもあれ、微妙に静かな曲って言うか悲しげな曲だよね。映画って何の映画?」

「俺もよく知らん。邦画で潜水艦が出て来るヤツ。何か、北極だか南極だかの海の中から潜水艦が浮かび上がってくるのと一緒に流れてた」

「えっ、邦画なの? 歌詞英語だったから洋画だと思ってた」

 懐かしのシリーズのバラエティー番組で見ただけだからな… それもだいぶ前だから。

 しっかし、お袋の選曲センスが分からん。アイドル歌手のヤツは分かるんだよ。あと、この映画音楽集っぽいヤツとかは。

 でも、このテープの前に掛けたアレは何だ?

 最初はアニメか何かの放送を録音したモノかと思ったら、そうで無くラジオドラマか? と思えたが、今度は随所に歌が入ってくる。

 ストーリーはNATO情報部だ伯爵だKGB(カーゲーベー)だのドタバタコメディ? ポイのだ。

 挙げ句の果てに、碧が気付いたのだが、3曲程入っていた歌を歌っていたのが某『兄貴』だった。

 熱血系の主題歌で有名なのだが、このテープの曲はバラード調で、俺は碧に言われるまで気付かなかった。

 ……(うち)のお袋の趣味は分からん。

 そんな感じで、この日もここの所ルーチンワークと化してきている作業をやっていたのだが、久しぶりに新しいモンスターが現れた。

「お兄ー!、何か来た!。新種来た!」

 角アルマジロを突き回していた時だった。

 その際は、角アルマジロ1匹しかいなかった事もあり、余裕もあったので直ぐにダンジョンの奥へと視線を巡らす事が出来た。

 そして、その視線の先10メートル程に、二足歩行で小走りに近づいてくるソレが見える。

 ダンジョン内は、壁や天上が薄らと発光しており、ある程度の光量がある。その為、日中の国道トンネル程度の視界がある。

 その明かりに照らされた存在は、全体として緑色の肌をした身長140センチ程の腰布一丁と棍棒らしきモノを持った小男だった。

「グリーン・ゴブリンだとお?」

「ゴブリン? あれゴブリンなんだ、幾ら?」

 いやいやいやいや、ちょっと待て、確か、グリーン・ゴブリンはレベル6~のモンスターだったはず。

 生息域って言うか深度はもう少し奥のはず。リザードマンやオークの居る所の手前ぐらいのはず……

 あっ、そうか、一応、ダンジョン爆発直後の大量発生がまだ影響してるのか。

 『ダンジョン管理機構』が公開している『モンスターリスト』は、あくまでも平常時のデータなんだよな。

 ダンジョン爆発直後は、モンスターの数が通常より3倍近くに増えると言われている。

 その増えるモンスターは『表層部』のモンスターで有り、『表層部』はレベル10以下のモンスターが居るエリアの事だ。

 つまり、レベル6~のグリーン・ゴブリンも異常増殖した状態だと言う事だ。そして、その増殖したヤツらがついに、この入り口部分にまで達したと言う事なのだろう。

 ……ってか、碧さんや、何はともあれ『幾ら?』が先ですかい。人型に対する忌避感とか無いんかい…

「レベルは6~多分8だったと思う、魔石は紫、永久磁石を作るのに使われてる。買い取り価格は400円だったはず」

「おおぉぉ 400円! かなり美味しいんでないかい?」

 そんな事を言いながら、既に2メートル程の位置に近づいていたグリーン・ゴブリンの左胸に包丁槍を突き刺していた。

「うりゃぁ!」

 しかも、その直後かけ声と共に時計回りに捻りやがります…

 だが、さすがに肋骨などが有る関係か、腹部などのようには捻る事は出来なかった様で、傷口を広げる事は出来なかった様だ。

「碧さんや、おたくはどこの鉄砲玉(ヒットマン)なんですかいな」

 捻りの効果は関係なく、心臓を一突きされたグリーン・ゴブリンはそのまま崩れ落ちて、黒い(もや)となって消えた。

 不思議な事に、持っていた棍棒と腰布も一緒に消えている。

「お兄ー、このゴブリンって、レベル6なんでしょ? って事はドロップアイテム落とす可能性が有るんだよね。こいつ落とさなかったけど」

「ああ、『香木』を落とすぞ。多分、棍棒の材料が香木って事なのかな?」

「コウボクって、香木? 臭いのする木の香木?」

「そっ、錬金術の素材にも成るけど、そのまま売っても結構な金になるモノも有るらしいよ。モノによってはキロ10万円単位だってさ」

「マジィィィ! お兄ー、ゴブリン狩りしよう、ゴブリン狩り」

 あのな、現状じゃ相手が来てくれないと無理だろうが。全く。

 ちなみに、グリーン・ゴブリンが落とす香木は、複数の種類があり、既知の香木だけで無く、未知の香木も2つ程発見されているらしい。

 ただ、初期の頃と違い、伽羅だ羅国だ何だという既知の香木もかなり値崩れしており、ダンジョン発生以前のようなグラム数千円~数万円なんて事は無くなっている。

「あっ、また来たぁぁぁ!」

 歓喜の声を上げる碧の視線の先には、先程と同じグリーン・ゴブリンが6匹ぞろぞろと群れてこちらに歩いてきている。

 ぱっと見ただけで、その中の2匹が棍棒を所持しており、1匹は短剣らしきモノを持っているのが分かる。

「やばっ、オイ、短剣を持ってるヤツが居るぞ、それに数も多い。ネットに近づきすぎるなよ」

 俺は、丸まった状態で対処出来ていなかった角アルマジロを放置して、向かってくるグリーン・ゴブリンに対処するべく一旦包丁槍をネットの隙間から抜き取った。

 だが碧は逆に、ネットの隙間に包丁槍を差し込んだ状態で向かい来るグリーン・ゴブリンに対処し始める。

 俺が設置したワイヤーネットは、直接モンスターと対峙せずに済むという大きな利点があるのだが、当然欠点もある。

 その欠点の最たるモノが、こちらからの攻撃にもワイヤーや柱(C鋼)が邪魔になると言う事だ。

 そして、今の碧のように、特定のネットの隙間から包丁槍を出した状態でいると、攻撃できる範囲がかなり狭く成るという問題もある。

 だから、俺は一旦ネットの隙間から引き抜いたのだが、碧は攻撃を優先する為にそのままの位置を維持したのだろう。

 実際、先頭の短剣を持ったグリーン・ゴブリンを3メートル程の距離を置いて左胸を先程同様に一撃の下に突き刺して殺した。

 ネットの隙間から腕を肩まで出した上での攻撃だった。

 俺は、それを見て、慌てて次に近い位置に居たグリーン・ゴブリンを、ワイヤーネットに滑らすようにしなから包丁槍を繰り出し、腹部へと突き刺す。

 俺の一撃は致命傷には成らなかったが、碧がワイヤーの間から手を抜き、次の攻撃に備える時間を稼ぐ事は出来た。

 全く、無茶しすぎだっつうの。

 それからは、乱戦だ。

 棍棒でワイヤーネットを叩いてくるヤツは腹部を突き刺し、檻の中の猿の様にワイヤーネットをつかみ揺するヤツには顔面に一撃。

 一撃で決めようとせず、先ずはダメージを与え、防御のワイヤーネットに掛かる負荷を出来るだけ抑える事に注意した。

「香木よこせ~!」

 碧は変な事を言いながら『五月雨突き』なんて名前が付きそうな連続突きを出している。

 器用な事に、柱はもちろんワイヤーネットにすら当てていない… 変な才能を持ってたんだな。いや、パラメーターをアップしているおかげか?

 碧のヤツは、この時点までに『素早さ』と『筋力』をそこそこ上げている。特に『素早さ』は元の1.5倍以上になっている為、動体視力がかなり上がっているのかも知れない。

 そんな碧の『スキル』では無くリアルスキル『なんちゃって五月雨突き』のおかげもあり、3分と掛からず全滅させる事が出来た。

 ついでに、角アルマジロも丸まる前にひっくり返して腹部に一撃加えて殺した。

「何で、何で香木落とさないのよぉぉぉ!」

 何か吠えてるヤツが居るが、この6匹も香木は落とさなかった。だが、1匹居た短剣持ちが短剣を落としていた。

 その短剣は、刃渡りが45センチ程度で、両刃で直刀のいわゆるショートソードなどと言われるモノだ。

 当初、グリーン・ゴブリンが手にしていた短剣は、明らかに薄汚れた感があったのだが、ドロップはソレとは別物のようで綺麗に輝いている。

 この『アイテムドロップ』と言うシステム(?)は、モンスターの所持している物または身体の一部を()()()落とす物らしい。

 故に、仮に『オークの腰巻き』なんて物がドロップしたとしても、ソレは○○臭くも無く新品の皮の腰巻きと成る、らしい。

 『スキル』で『盗む』と言うモノが有るのだが、これによって盗める物もアイテムドロップと同様に新品だそうだ。

 某RPGなどで良く有る、マミーやゾンビが薬草を落とすアレだが、普通に考えてればゾンビが持っていた薬草なんて腐ってなくても使いたくないだろう。絶対臭いし。

 でも、このダンジョンの場合は、同様の場合でもソレはあくまでも新品なので、臭いも無い普通の薬草だと言う事に成る。ま、薬草って無いけどね。

 むっきー、となっている碧を余所に、俺はドロップした短剣と魔石を回収していく。

 一通り回収が終わったあとは、ワイヤーネットの点検を行った。

「ガッチリ止めただけ有って、どこも問題ないな。ワイヤーもズレてないし」

 十字型になっている二本のワイヤーを固定するクロスクリップという器具には、プラスティック製とステンレス製の2つがあった。

 プラステック製は、ベースはステンレスなのだが被せる部分がプラスティックだったので、強度を考え選択しなかった。値段は半分近かったんだけどね。

 その選択は正解だったようで、グリーン・ゴブリンがつかみ掛かって動物園の猿よろしく揺すりまくったのだが、全く支障は出ていない。

 やはり、このての命を預ける物をケチってはいけない。数百円をケチって死んだらアホ以外の何者でも無いからね。その分、懐はかなり寂しくなったけどさ…

「このゴブ、多分経験値7は有るよ」

 むっきー状態を脱した碧は、自分のステータスを表示して今得た経験値を確認したようだ。

「グリーン・ゴブリンは、そこそこ奥に居るヤツなんだけど、ソレがここに来ているって事は、同じエリアのヤツらも来る可能性が有ると思った方が良いかもな」

 場合によっては、今やっている『昭和懐メロ作戦』は考えた方が良いかも知れない。

 特に、グリーン・ゴブリンのような人型モンスターは、ある程度知能があり、このワイヤーネットを壊す事が出来るかも知れない。

 俺達が居る時ならまだしも、いない際に来て壊されたら、こいつらなら地下室から出るタラップも多分上がれるだろうし、地上まで這い出てくる可能性がある。

 だから、今までのように、俺達が居ない時間帯まで懐メロを流し続けるのは悪手かもしれない。

 そんな事を考えていると、また碧から声が上がる。

「香木また来たぁぁ!!」

 いや、香木じゃなくってグリーン・ゴブリンね。

「今度は、香木を落とすゴブよ♪」

 …………。

 今度現れたグリーン・ゴブリンは3匹で、残念ながら棍棒を所持しているヤツはいなかった。全員が無手だ。

 香木、香木と歌うように呟く碧には今はその事は言わずにおこう。

 今回は、先程よりも数が少ない事もあり、碧も早い段階で数を削る必要性が無い事から先程のようにワイヤーネットから包丁槍を出した状態では構えなかった。

 そして、3匹がワイヤーネットに近づくまで待ち、それから攻撃を実施しする。

 グリーン・ゴブリンは、レベル自体は高いのだが、個体自体の防御力はさして無い。

 その上人型で有る様に、人と同じ部位がそのまま弱点となっている事も有り、比較的殺し易いのかも知れない。

 ただ、棍棒や短剣という武器を使用する事と、ある程度の集団で襲ってくると言う点が脅威ではある。

 しかし、その問題点は、ワイヤーネットというバリヤー越しであればある程度問題ない訳で、サクッと殺す事が出来る。

 あ、俺は、『倒す』とか『ぬっ殺す』なんて御為ごかしの言い方は嫌いなので、『殺す』『ぶっ殺す』と言うよ。

 ごまかしは駄目だよね。アニメで少年主人公が「お前を倒す!」なんて言うシーンを見ると、俺は違和感を感じる子供だったんだよ。実際殺してたからね。

 と、言う訳で、サクッと1分程度で3匹とも黒い(もや)と化しましたよ。

「お兄ー、何で落とさないの、香木!!!」

「……あのな、香木を落とすのは棍棒を持ってるヤツだけなんだよ、多分。今回の3匹は全部無手だっただろ」

「そー言う事は先に言ってよぉー!」

 先に言っても、後で言っても、どのみち殺さ無きゃ行けない事は同じだと思うんだけどね…

 念のために、碧のヤツにアイテムドロップのシステムを話してやる。

 自分が勉強していなかった事を棚に上げて、俺に「先に教えてよー」なんて言って来やがりましたよ。ま、何時もの事だけどね。

 そして、その日は念のために俺達が居ない時間帯は音楽を流さないようにした。

 それでもグリーゴ・ブリンが次々と現れ、結果としてその日の修得経験値は131と成り、碧が78、俺が53と成った。

 碧は、17・21・26を消費して『筋力』『知力』『素早さ』をそれぞれ+1とした。俺は貯金だ、現在96に成っているこの調子なら明日にはレベル2になれそうだ。

 しかし、やはりパラメーターのアップは効果が出ているな。昨日までと違い、俺も積極的に攻撃に出ているんだが、結果として取得経験値で25の差が出来ている。

 この差は、俺がレベル3に成ってその上でパラメーターに割り振れるようになるまで開き続けるのだろう。

 この結果を考えると、どっちが効率が良いのか微妙な気はする… 失敗したかな。ま、良いさ。長いスパンでの効率で選択したんだから。

 などと、自分に言い訳してたりする。

 実際、碧のヤツも、次のパラメーターのアップに必要な経験値は32とかなり大きな値になってきているから、今後は今までのようには上げていけないだろう。

 マイペースだ。初志貫徹だ。うん。頑張ろう。


  ・氏名 鴻池 稔(こうのいけ みのる)

  ・年齢 20歳

  ・Level 1

  ・生命力 10

  ・魔力量 10

  ・スタミナ 11

  ・筋力 11

  ・知力 08

  ・素早さ 10

  ・魔法 転移

  ・スキル 無し

  ・経験値 96

    次回UPに必要な値(パラメーター) 2

    次回修得に必要な値(魔法・スキル) 2


  ・氏名 鴻池 碧(こうのいけ みどり)

  ・年齢 17歳

  ・Level 1

  ・生命力 10

  ・魔力量 10

  ・スタミナ 09

  ・筋力 12

  ・知力 12

  ・素早さ 18

  ・魔法 錬金術

  ・スキル 無し

  ・経験値 15

    次回UPに必要な値(パラメーター) 32

    次回修得に必要な値(魔法・スキル) 2



 ☆グリーン・ゴブリン

  ・レベル 6~9

  ・体長 140センチ

  ・攻撃方法 武器(棍棒や短剣)噛みつき 引っ掻き

  ・使用魔法・スキル 無し

  ・弱点 左胸・頭部

  ・魔石 紫(ランクA サイズ1)400円 永久磁石

  ・その他のドロップ品 香木(棍棒持ち限定) 短剣(短剣持ち限定)

  ・その他の特徴 無手・棍棒・短剣を所持しているケースがある 基本5匹以上で行動する

  ・棲息ダンジョン名及び深度 ほぼ全てのダンジョンに湧く 表層部

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