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6話 考えて選択しよう

 先ず、このダンジョンにおける、いわゆる『ゲームシステム』に付いて触れおこう。

 この『ゲームシステム』はRPGのゲームシステムに似ているのだが、一部致命的に違う点がある。

 死んだらホントに死ぬ、がソレだ。

 だが、それ以外にも大きく違う点がある。それは、スキルシステムと経験値システムが混ざっている事だ。

 通常のRPGでは、経験値の累積でレベルアップし、その際スキルポイントを収得、それによってスキルや魔法を修得したり鍛えたりする。

 だが、このダンジョンの場合は、経験値の累積によるレベルアップで増えるパラメーターは、生命力(HP)と魔力量(MP)のみで、筋力などの他のパラメーターは増加しない。

 ならば、どうやって強くなるかというと、経験値を消費して各パラメーターを増やすのだ。

 そして同様に、経験値を消費して魔法やスキルを修得する事に成る。

 パラメーターを育てようとするとレベルが上がらない。レベルが上がらないとレベル制限の掛かっているスキルや魔法を習得出来ない、って事に成る。

 また、この経験値を消費する値は、幾つかの法則によって増加の一途をたどる。よく考えずにスキルや魔法を習得すると、筋力を+1する為に莫大な経験値を消費しなくては成らなくなったりする。

 実は、当初軍が専属で行っていたダンジョン探索を、民間軍事会社が請け負う事になったのはこの成長システムに原因があった(ようだ)。

 どうやら、当初ダンジョン探索を行っていた者達(大半は軍人)は、この成長システムに気付かず魔法やスキルを不効率に修得し、一定以上の成長が事実上難しくなった訳だ。

 ま、人柱になったって事でもある。ただ、アメリカにしろロシアにしろ、当初このダンジョン探索に当たったのは軍におけるエリート達だった。

 その後、他の一定以上能力のある者達を次々に送り込んだらしい。噂ではあるが、ある種の実戦訓練の場として使用していたのでは無いかと言われている。あくまでも噂ね。

 で、システムに気が付いた時には、大半の使える軍人が成長が厳しい状態に成り下がっていたのだと…… 閑話休題。

 そんなシステムだから、気を付けて選択しなくちゃ成らない。特に最初の選択は重要で、自身の成長の方向性を決めてしまう可能性があるのだから…

「やぁりぃー! さっすが私ぃー! 日頃の行いが良いんだよねぇー♪ はい、ポチッとな♪」

 ……ステータスの確認が終わって、ものの20秒と経たず碧の弾んだ声が聞こえてきた。

 オイ、まさか、もう選択したのかよ。速いだろう。…家で考えていたのが有ったって事か? 何選んだ?

「速攻で選んだみたいだけど、何を選んだんだ? ってか相談しろよ」

「フッフッフッ、『錬金術』だよ♪ 等価交換だよ等価交換。錬成!!ってやるアレ♪」

 碧の陽気な声を聞いた瞬間、俺は唖然としてしまった。漫画等だったら、アゴが伸びて地面についてしまっているだろう。バックにはデカい書き文字で『ガビーン』とか『なんですとぉー』なんて書いて有るはず。

 数秒間フリーズしたよ。身体だけで無く思考もね。

 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て!!!!!!

「アホかぁーーーーー!!! 何で『錬金術』なんぞ選ぶんだよ!」

「あによぉー、アホの子のお兄ーにアホ呼ばわりされたくない。錬金術だよ、ポーションとか作れるんだよ。お兄ーの言う安全第一に貢献出来るんだよ。宝箱見つからなくっても安定して薬が手に入るんだよ。完璧じゃん!」

 ………どうやら、碧のヤツはダンジョンの事と、成長システムの事を理解していないようだ… こんな事なら昨日のうちに話し合っとくべきだった。失敗した。

「あのな、表層のモンスターの大半は何もドロップしないんだぞ。今日までのヤツらで魔石以外をドロップしたのを見たか? 見てないだろう? レベル6以降のヤツらじゃ無いとドロップじたいしないんだよ。つまり、当分使えないんだ」

「マジ?」

「マジ」

「リセットは?」

「無理、このダンジョンのシステムにリセットは無いんだよ」

 やっと状況を理解したのか、両肩を落としてガックリポーズを取る碧。だけどな、問題の本質はそれだけじゃ無いんだよ。

「ま、しょーが無いね、取りあえずサクッと()って、別の取り直せば良いよね」

 一瞬前のガックリポーズが何だったんだよ、って感じのニッコリ顔で思っていた通りの事を言い出しやがったよ。こやつは。

「あ・の・な、お前は当分の間、スキルも魔法も取れないよ」

「はぁ? なんでぇ?」

 俺は、ため息交じりに理由を説明した。

 先ず、今回の登録直後の修得は特別のモノで、本来はスキルも魔法も一番低いグレードのモノでも、レベル3で有ることが条件となっている。

 つまり、初回以外はレベル3にならないと何も修得できない訳だ。

 で、普通のRPGで考えれば、レベル3なんてあっと言う間になれるので、誤差の範囲、って思うだろ。碧のヤツもそんな事言ったよ。

 でもね、このシステムはチョット違うんだよ。

 このダンジョンでは、レベル1からレベル5までのレベルアップが、その後のレベルアップに比較して3倍から5倍時間が掛かる。

 『時間が掛かる』という言い方は正確では無いが、『経験値を多く必要とする』も正しくない。

 そのレベル帯で、それに相応しいモンスターを相手にした場合を比較して、より多くを倒さなくては成らない為、時間が掛かってしまう、と言う事だ。

 何で? と思うよな。RPG的な思考ではさ。

 でも、現実で考えて欲しい。物事を始めた場合、一番上達が遅いのは、始めた直後とある程度極めた後じゃないか?

 個人差はあるだろうが、コツをつかむまでが大変で、それ以降は一気に伸びるだろ。つまり、このダンジョンのシステムもそれにならっているんじゃ無いかと言われている。

 後、このシステムでは、複数の系統の魔法やスキルを修得すると、幾何級数的に多くの経験値を消費することになる。

 そして、その値は、それ以降の全ての修得・パラメーターアップにも継続される。

 これは例えの数字だが、普通なら、修得に必要な値が1→2→4→8→16……と成っていくところが、1→6→12→24→48……と成ってしまう訳だ。

 (しかも嫌らしいことに、その倍率が上がるのは、他の系統を修得する際では無くその次の時と成る)

 これは、2系統を修得した場合で、それ以上の系統を選択すれば当然それに従って値は大きくなる。

 そして、この値は、後に成るに従ってドンドン差が大きくなる。

 そして、通常、『魔法・スキル』と『パラメーター』の計算式は個別なのだが、この別系統を選択した場合は、パラメーターの方にも倍率が課せられてしまう。そして行き詰まる訳だ。いくらモンスターを倒してもパラメーターを上げられなくなるから。

 そして、行き詰まる以前の状態でもパラメーターアップ等に経験値を多く消耗すると、レベルアップに回せる経験値が削られることになる訳だから、HPとMPも上がらないし、レベル制限のある魔法やスキルも修得条件を満たせなくなってしまう訳だ。

 あと、念のためだが、『生命力』(HP)はゲームのHPとはだいぶ違う。

 大きい値ならそれだけで死なないって訳でも無い。急所をやられれば普通に死ぬ。

 一応、ゲーム的に分かりやすくHPと書いたけど、実際はそのままの『生命力』で、ケガやダメージを受けた際、死ぬまでにどれ位時間が掛かるか、と言う値だと思えば良い。

 つまり、生命力10の者と生命力20の者の腕を同じように切断した場合、生命力10の者が10分で死ぬとしたら、生命力20の者は20分で死ぬ、と言う事だ。(止血等も行わなかったとしてね)

 ダメージの値も、ゲームのように攻撃が当たった瞬間に全部引かれるのでは無く、スリップダメージのように回復するまで継続される。切られた瞬間は生命力の値は変化しない。次の瞬間からそのケガの度合いに応じて減り続ける。

 ま、その辺りは現実なのだから当たり前って言えば当たり前の事ではある。ショック死でもしない限り、たいていは出血多量で死ぬのだからね。

 そして、現実だから、心臓を切られればスリップダメージ云々関係なく死ぬ訳だ。

 と言う訳で、『生命力』の値はHPと考えればあまり意味は無い。

 だが、この値は有る意味SPでもある。つまり、スキルを使用した際消費される値で、スキル使用によって0に成る事は無いが、その後の僅かなダメージで0に成れば死ぬ。HPであり且つSPでもあると言う事だ。まあ、某暗黒系の技を使用した際と同じといえるか。

 そして、このスキルによる消費値は『スタミナ』が高ければ高い程少なくなると言う特性もある。

 一方の『魔力量』はそのままMPと思って良く、有った方が良い値だ。

 …………

 と言う解説を、噛んで含めるように碧のヤツに説いた訳さ。

 で、やっと自分の過ちに気付いてくれたようで、先程のような漫画的な落ち込みポーズでは無く、本心から落ち込んでいる様子がうかがえる。

 碧が選んだ『錬金術』は他に系列の無い単独のモノだ。つまり、それ以外を今後修得しようとすれば、それ以降の消費経験値が3倍に成ってしまう訳だ。

 ちなみに、魔法は炎・水・土・風のように系列が分かれており、ファイアー・ボールやファイアー・アローなどを、それぞれ個別に修得する事に成る。

 故に、複数の属性(系統)魔法を個別に修得可能な訳だ。そして、倍率の罠にはまる。

 修得出来るのが、火魔法・水魔法のような大きなくくりだったら良かったんだが、その中の個別の魔法を1つ1つ修得する形になっている。

 それでいて、系統違いに制限を掛けるなんて事までやらかしてくれてたりするし…何考えてんだか…

 後、スキルの系統は、だいたい武器の種類による系統だと思えば良い。一部、移動系などと言った系統もある。いわゆるゲームで言う『縮地』とか『ステップ』とかのカテゴリーね。

 碧の今後の事は、色々考えてから選ばせないといけない。

 ま、それはそれとして、俺だ。碧の『錬金術』を踏まえて選択しなくちゃいけない。

 当初は、俺か碧のどちらかが回復魔法系統を選択して、もう一人が攻撃系のスキルか魔法を、と思っていたんだけど…

 まあ、実際、2人しか居ない状態だったので、最低限1人2系統は取るつもりでは居たんだけど、『錬金術』は無いわ~。

 『錬金術』は序盤はともかくドロップが出始めた以降は使える、と思うでしょ、でも残念。この『錬金術』はダンジョン入り口の水晶柱でしか行えないんだよ。

 そして、未だ『魔法の袋』や『ストレージ』的なモノは発見されていない。つまり、ドロップ品はリュックなどに入れて延々持ち運ばなくては成らない。ね、微妙でがしょ。

 俺的には、絶対選択しない枠に真っ先に入れたモノだったりする。

 ちなみに、○○の爪とか○○の鱗的なドロップ品は放置するつもりだった。実際、職業的にダンジョンに潜っている者達はそうしている。

 回復薬や貴金属類のドロップはもちろん回収しているらしい。当然だね。俺も回収するよ。

 何か、思考が別の方向にズレて行ってばかりだ。碧のせいだよ。全く。

 ま、気を取り直して自分の分を確認しよう。最初のこれだけは選択出来る魔法やスキルが個人で違うらしいからね。

 …………

 俺の選択可能リストにあったのは以下の通りだ。


  ・ファイアー・ボール

  ・アイス・ボール

  ・ストーン・ボール

  ・ライティング

  ・唐竹割り

  ・牙突

  ・転移


 レベル3魔法の、いわゆる『ボーム系魔法』で有るエアー・バレット、サンダー・ボール、ウォーター・ボールが無い。それに、回復魔法のヒールも無い。ただ……

 ……『転移』だとお? これって、通常レベル8制限のスキルのはず…

 実は、この『転移』は『錬金術』と同じ単独の系統なのだが、俺は元々これは2系統になっても絶対に選択するつもりでいたモノだ。

 このスキルは、二つのポイントを設定可能で、その設定ポイントへ転移が可能なスキルだ。通常は、一つはダンジョン出口にポイントを設置し、もう一つは最終到達地点に設置する。

 つまり、『帰還』と『続きから始める』が可能になる訳だ。ゲームのように一定の場所にポータルが設置されていないこのダンジョンでは、有る程度以上潜るのであれば必須のスキルだ。

 これは悩む、別段レベル8になってからでもこの『転移』は修得出来る。無論、その際は1ポイントなんて数字では無く最低でも3桁は行くだろう。

 だが、ここで取ってしまうと、攻撃手段が包丁槍等の物理武器のみに成ってしまう。碧も『錬金術』だし…

 しかし、いざと言う時に一瞬で逃げられるのはかなり有りがたい。悩むよこれは…

「お兄ー、まだ? いくら何でも時間掛かりすぎ!」

「あのな、誰のせいで悩んでると思ってんだよ。全く。……良し、決めた!」

「何? 何にしたの?」

「あー、今決めたって言ったたのはそっちじゃ無くって、系統を最低限にして効率良くやるのを止めることを決めたって事だよ」

「何それ」

 有る意味、俺の考え違いだった所も有るのだが、元々()()ダンジョン最深部まで行くつもりは無かったんだ。

 有る程度、生活出来る程度に稼げる所まで行ければ十分だったはずなのだが、なまじ過去の者達の失敗を知っていただけに、ついそれを参考に効率よくやろうと考えてしまった。

 安全第一で、中層までしか行かないのなら、成長の頭打ちなんて考える必要が無かったんだよ。

 例え、3系統だろうが4系統だろうが、必要なモノは修得すれば良いんだ。ついゲーム的に攻略する方向で考えてしまってたよ。やっぱ俺はアホの子だったようだ。

 ブーブー文句を言い出す碧をほっといて、俺は『転移』を選択して修得した。

 安全第一をモットーに、『攻撃』でなく『防御』ですらない『逃走』を選択した訳だ。

 ゲームじゃ滅多に使わないが、これが現実となれば、危なくなったら逃げる、では無く、危なそうだったら即逃げる、で行くべきなのだよ。死ぬからね。

「えーっ、何、私落ち込んで損したって事?」

「アホか、お前が錬金術選んだから、結果としてそうせざるを得なかったって事だよ。

 それ以降も、ブーブーと文句を言ってきたが、無視だよ。無視。

 そんな碧には、今晩はPCに取り込んであるダンジョンの情報に全部目を通すように言っておいた。さすがに失敗が重なると、マズいからね。

 分かっているつもり、だったんだが、やはり確認は必要だった… 要反省。

 その後は、不要なゴミや工具の運び出しを行い、最後の工程として、地下室内に照明の設置を行う。

 電源は自宅の縁側(えんがわ)部分にあるコンセントから取る。

 VVFケーブルを30メートル量り売りで購入したモノにコンセント(オス)を付け、縁側(えんがわ)の床に開いた節穴から通して、庭は地面に穴を掘って直接埋設した。

 多分、これって違法だと思う。何か昔テレビでそう言っていたのを聞いた記憶がある。

 そして、その埋設したケーブルを一旦、穴の上に設置した屋根の柱に立ち上げ、そこにスイッチボックスを設置し、そこから地下室へと入れて、天上に設置した白熱電球用ソケットへと繋ぎ込む。

 天井部のソケットや、ケーブルの固定用の器具は全てPYプラグというプラスティック製のアンカーをドリルで開けた穴に打ち込んで、タッピングビス(木ねじのようなモノ)で固定。

 一応、電球は国産LED電球を使用した。だって、以前店用に買った某国産の安いのが2つとも1年で切れてしまった経験があるから…

 これで、全ての準備は終わったことになる。後は、俺達自身の心の準備だけだ。

 若干一名は、既に準備万端のようで、某無双ゲームの趙雲並に包丁槍を庭で振り回して意気を上げている。

 いや、狭いダンジョン内でそんなに振り回したら、壁に当たるよ。じゃなくても、一緒に居る者(多分俺)に当たるって。

 ゲームのように、味方には当たり判定が無いなんて事は無いからね。槍は前後に動かしましょう。特にダンジョンでは。

 その晩は、2時間程掛けて、碧に俺が知っている範囲のダンジョンの知識を教え込んだ。

 その過程で、ほとんど詳しい事は知らなかったことに気付き、唖然とさせられた。確か、一緒にテレビで見てたはずだよね…ダンジョン特集。

 こんななのに、俺が『知力 08』で碧が『知力 11』っておかしいだろう? って声を大にして言いたい。

「私、取説読まない派だから。RPGって、どのみち最初にチュートリアルが有るでしょ」

 なんて言い訳を吐いてたよ。ゲームに似たシステムだけど、ゲームじゃ無いっての! 全く。

 色々先が不安だ。仏壇に手を合わせながら今後の無事を祈ってしまう。神様仏様じゃなくって自分の死んだ親に祈ってど~すんだ、って話だけど。祈らざるを得ない俺の心境を分かってくださいよ…

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