58話 どこでも眠れる図太さは大事
「アレってさ、完全にドラゴンだよね。八岐大蛇擬きみたいな半端なヤツじゃなくって、正真正銘のドラゴン」
ヒュードラ系の八岐大蛇擬きが半端かどうかはともかく、アレが絵に描いた様なドラゴンなのは間違いない。
二足で立ち、その背中には巨大な皮翼を持っており、身体に対して小さめの頭部には、鋭く赤い目と尖った角が2対付いていた。
多分、現代の中学生から高校生100人に聞いたら、99人がドラゴンと判断するだろうと言う姿だった。
「ドラゴンで良いと思うぞ。問題は強さだな。普通に考えて八岐大蛇擬きより弱いって事は無いだろう」
「そだね。他のモンスターのレベルから考えれば、レベル120以上は絶対有るでしょ」
既に、ここまで移動してきている間、レベル107程のモンスターを確認済みだ。むやみやたらとデカい黒いスライムだった。
打撃、斬撃、大半の魔法がほとんど効果が無く、唯一効いたのが光り系魔法だった。
その為、碧を含め2人しか所持していなかった『スター・ボウ』を各2連、計4撃加えて殺した。
この『スター・ボウ』は、『レイ』程のレーザーが100以上同時に放たれる魔法で、個別魔法であり、範囲魔法でもある変わった魔法だ。
この魔法は、起動時に、術者の前方に輪を描く形で光点が100以上並び、それが目標地点へと一斉に光の帯となって放たれる。
その輪から一点に収束される地点までに居たモンスターに対しては、範囲魔法的な個別のダメージを与える事が出来、収束地点だけ見れば、極大の光魔法攻撃となる。
無論、このダーク・スライム(仮称)の場合は、単体攻撃魔法として使用した訳だ。
最初、この魔法名を見た時には、転移魔法の一種かと思ったよ。
ちなみに、このモンスターのドロップ品は『闇の宝珠』と言う『細工』や『鍛冶』で属性付与に使うアイテムの様だ。
俺も後々のことを考えて『鍛冶』を取っているが、全く使用していない。碧の『細工』も同様だ。そんな暇、全く無かったからね……
まあ、真っ黒スライムの件はともかく、アレがレベル107位だったって事は、このドラゴンはそれ以上で有る事は間違いない。
ボスモンスターで有るとすれば、10や20は上だと考えるのが普通だろう。
こう成ると、あの八岐大蛇擬きと全く戦っていないのはマズかったかも知れない。
僅かでもマトモに戦っていれば、体感的なレベル差を感じられたかも知れない。そうすれば、その差から今回のこのドラゴンの強さも想定出来た可能性は有る。
そこから考えれば、今後の事を考えて、こいつとはまともに戦っておくべきなんだろうが、その危険度は半端なさそうだ。
本能が「止めとけ」と言っている。
「あれに炸裂弾Ⅱが効果が有ると思うか?」
「厳しいんじゃ無~い?」
「だよな。スター・ボウはどうだ? 一応、アレが一番攻撃力がある気がするが」
今まで見てきた魔法の中では、単体に対する攻撃力として見れば、『スター・ボウ』が一番だと思う。無論、属性耐性を考えなければって条件が付くが。
「やるなら、干渉しない魔法を重ね掛けしながらかな。単体じゃキツそう」
「インフェルノ乱舞にスター・ボウか。30人掛かりで一人3連発で90発… アイツの属性耐性しだいか」
「魔法反射とか、魔法無効化なんて持ってたら最悪だよね」
実際、今までのモンスターの中にはそんなスキルを持っているヤツが居た。
初見のモンスターでそんなヤツが居なかったのはホントに幸いだった。有る意味『空』持ちモンスターが居なかった事より有りがたかったと思う。
「あっ、そうだ。レーダーの光点はどお? 八岐大蛇擬きの時は光が強かったんでしょ?」
「ああ、それか、光は間違いなく他のモンスターより強いよ。だけど、八岐大蛇擬きとの比較はチョット無理だな。正直覚えてない。ただ、アレより暗くは無いと思う」
「数字じゃ無いもんね。しかもお兄ーだし、覚えてる方が奇跡か」
「悪かったな、どうせ知力8だよ」
そんな事を話す俺達の横では、自衛隊員達も騒ぎまくっていた。
「ドラゴンだとぉ」
「アレが、噂で聞いたダンジョンボスって事か。アレを倒せばこのダンジョンは消えるんだな」
「勝てるのか? アレに…」
「どうする? 一旦帰って、MPやHP全快にしてから挑むか?」
「おい、アイツがこっちに向かってきそうになったら、即転移だぞ。絶対に手を離すなよ。分かってるな」
「普通の剣が通じる気がしない… 魔法しか無いな。あとは炸裂弾か」
「絶対居るって話は合ったが、やはり居たかドラゴン」
「アイツを殺せば…」
「無理だろう、アレとどうやって戦えって言うんだ…」
ドラゴンの居る小型ホールへと続く5×5メートル程の入り口壁面に身体を隠す様にして交互に覗き込みながら、それぞれがバラバラに会話をしている。
ただ、その声は全員小声で、ドラゴンに対して見つからない様に気を使っている。
一通り確認が終わった所で、全員が来た道を塞いでいる『壁』際まで戻ると、そこで話し合いを正式に開始した。
俺達4人はしばらく静観だ。彼らの話を聞きながらぺんぺんの身体を撫でる。リラックスにはこれが一番良い。
デボの肌触りも良いんだが、身体が小さすぎて撫でにくい。
碧は、抱え込む様に強引に持って来た『ヌリカベの肉』をニコニコ顔で眺めている。
真っ黒スライムを殺す時にも、しっかりと手に持ったままだった。まあ、魔法だったから、手は塞がっていても問題無いんだけど…
デボは定位置と成った牧村陸曹長のヘルメットに乗っかったまま、彼らの会議に混じっている。
彼らの話し合いは、紛糾し続けていた。案が対立しての紛糾では無く、まともな案が出ないが故の紛糾だった。
「入り口から一斉に魔法で攻撃して、その隙に回り込み背後を…」
「シールド魔法でブレスを塞ぎつつ、口内にアロー系魔法を…」
「何とかして背中に取り付けば、何とか成るんじゃ…」
「無反動砲か個人携帯対戦車弾を持って来て撃ち込めば行けるのでは…」
そんな感じで話し合う、彼らを見て、これ以上ここで話し合っていても無駄だと感じた俺は、彼らの方へと移動して行く。
「すみませ、取りあえず、今日の内に色々試して見ませんか?」
煮詰まっている所に、急に声を掛けた為、結構ビックリさせてしまった様だ。
「試す? 何をだ?」
「えっと、魔法を各種撃ち込んで、効果の有無を確認して置いた方が、明日の戦いの参考に成ると思うんです。魔法反射や魔法無効とか持っていたらヤバいですから」
俺の意見を大半の者が頷きながら聞いていた。
「効果的な属性とかも確認出来れば、それに越した事は無いな」
「はい。あと、反射スキルが無ければ、最大魔法を全員で掛けてみたいですね。それでどれ位削れるか確認しとくと、あとの計画が立てやすいかと」
「それは良いが、そんな余裕が有るのか? 最初の魔法反射を確認する為の攻撃で襲ってこられれば、その後の検証が出来るとは思えん」
ほぼ全員が、その意見に同意の仕草を返している。
…忘れてた。俺達しか知らないんだ。アレが八岐大蛇擬きと同じだったら、小型ホールへと入らない限り襲ってこない可能性が高い事を。
俺は彼らに、噂として聞いたとして、その事について話した。
「そこら辺の確認もしたいですね。もし、その噂が本当なら、大ホールの恐竜みたいにこの通路から一方的に攻撃が可能かも知れません」
「…普通に考えれば有り得んが、あの恐竜の件があるからな。だが、襲って来ると言うつもりで当たる方が良いだろう」
そこら辺は当然だな。
その後、確認の為の攻撃をすると言う前提で計画が練られていく。
そして、大分帰還予定時間を超過するが、2時間休息してその上で作戦を実施する事になった。
その2時間は、出来るだけ自然回復速度を高める為、見張りの者以外は横になって休息を取った。
横になった場合と、そうでない場合では、極端な違いは無いが、差は確実にある。当然僅かな差でも、有るに越した事は無いので、その方法を取る。当然の事だな。
そして、十分とは言わないが、かなり回復した状態で、改めてストレッチなどを行い、身体を温めて行く。
一通り身体がほぐれると、作戦を確認し、全員で顔を見合わせると、小型ホール入り口まで移動して行った。
「GO!!」
そのかけ声と合図のアクションと共に、展開済みの『ストーン・アロー』が牧村陸曹長のヘルメットの上に居たデボから放たれる。
この間、ぺんぺんが『シールドⅡ』を準備しており、仮に魔法反射が使われた場合、反射された『ストーン・アロー』を防ぐ事に成っている。
だがその必要は無かった様だ。放たれた『ストーン・アロー』はドラゴンの胸の中心部にしっかりと当たり、そして砕け散っている。
魔法反射も魔法無効化も無かったが、『ストーン・アロー』では全くダメージを与えられていない事も分かった。
そこまでを分かった段階で、15人が入り口前に飛び出ると、5人ずつ3列を作り、前列はしゃがんだ状態で、中列中腰で、後列は立った状態から一斉にインフェルノ系魔法を放つ。
俺達4人はこの時、この15人には入っておらず、サイドから状況の確認を行っていた。
15人によるインフェルノ系魔法が放たれようとする瞬間、それまで微動だにしていなかったドラゴンが動き出した。
特撮怪獣の様に、無駄な嘶きやポーズなどせず、俺達に向かって動き始める。だが、体重と初動の問題か、意外にその動作は鈍かった。
そんな動き始めのドラゴンに、火系以外のインフェルノ魔法が一斉に放たれた。
火系を使わなかったのは、水と氷の魔法2つと影響する為で、火を除くのが一番効率が良いと判断した。
複数のインフェルノが荒れ狂う小型ホールに向かって、更に同じ数のインフェルノが放たれる。
俺は、この間脳内マップの赤い光点ずっと注視していた。仮に、この光点が出入り口に一定以上近づけば、全体に合図を出して出入り口から待避しつつ『転移』の準備に入る事に成っていた。
だが、初動を叩かれたからなのか、ドラゴンの光点は最初の位置から全く動いていなかった。
それどころか、わずかでは有るが、光点の光度が暗く成って来ていた。
「効果有り!! 効いてます!!」
俺の怒鳴り声と合図で、3回目のインフェルノ群が放たれ、更に出入り口左右から『スター・ボウ』も放たれる。
雷鳴や風切り音、そして色々な物がぶつかる音にかき消されつつも、ドラゴンの声と思われるうなり声も聞こえてくる。
そんな複数種類のインフェルノが荒れ狂う中に初めての赤い色が混ざった。
「ブレスだ! Mシールド!!」
程度の差こそあれ、全員思考加速状態に入っている為、声は文章として伝わらない、だから前もって手による合図を決めていた。
その合図に従って、待機していた面々が予め決めていた持ち場に対して『MシールドⅢ』を展開していく。
マジックアイテムとしてはまだ手に入れていないシールド系のⅢだが、魔法としてはレベル制限は大して高くはない。自衛隊員達は、8名が修得していた。
だが、その『MシールドⅢ』は必要無かった。
小型ホール内を吹き荒れるインフェルノの猛威が、ドラゴンの吐き出すブレスを完全に遮断していた。
多分、上空から叩き付ける鎌鼬を含んだダウンバーストで有る『ダウンバースト・エッジ』が最もそれに貢献したと思う。
全員がそれを理解したのか、方々から『MシールドⅢ』解除要請の合図が出される。
そして、解除された所から、更なるインフェルノや『スター・ボウ』がMPの設定下限値を超えない範囲で放たれ続けた。
途中で、MP切れを起こした者に変わって、俺も『サンダー・インフェルノ』を放っている。
碧は、最大限『スター・ボウ』を放つと、その後は『青龍破』を手持ちの上級回復薬を飲みつつ放ち続けた。
そして、体感的には数十倍に感じる異常に長い5分の後、俺の脳内レーダーに有ったドラゴンを表す赤い光点が消滅した。
『マップ』持ち全員にもそれが分かったのだろう。歓声と思われる声が方々で上がる。
『マップ』を持たない者達も、彼らのその様子で状況を理解した様で、一斉に歓声らしき声を上げて周囲の者達と抱き合う。
むさい30越えのオッサン達が抱き合う姿は凄い。
元々、日本人には抱き合って喜ぶという感情表現はあまり無い。
だが、そんな事も超える程の喜びだったのだろう。抱き合い、肩を叩き合い、涙を流して喜んでいる。
そんな姿を見ながら、加速していた思考速度が通常に戻るに従って、間延びした声が理解出来る言葉として耳に入る様になった。
だが、その耳に入ってくる言葉は、残念ながら理解できるような言葉では無かった。
感極まった男達の声は、完全に言葉に成って居ない。ただ、断片的に「勝った」「良かった」「これで…」などが聞き取れるだけだ。
男泣きと言う言葉がある、だが、この場のそれは真逆だろう。激情のままに喜びを全身で表している。
中には、膝立ちで両手を上に上げて上空に向かって叫ぶ某戦争映画のポーズを取っている者すら居た。
そんな彼らの周りをデボが飛び回ってはしゃいでいた。
俺達3人は、デボ程ははしゃげず、静かに喜びをかみしめる程度だ。
なにぶん2回目だ。そして、前回よりは大変だったとは言え、想像していたよりも簡単だった事もあって、少し気が抜けた感がある。
ぺんぺんは静かに俺の腕の中で周囲の騒動を眺めている。
碧は一人治まっていくインフェルノを凝視していた。そして、ぽつりと呟く。
「ボスって、二段変身、三段変身がパターンだよね」
……止めれ。なんて不吉な事を言うんだよ。そんなフラグをわざわざ作るな!
そんな俺の願いが天に通じたのか、魔法地獄が治まった時には、切り刻まれた上で凍り付いた床や壁面しか存在していなかった。
唯一有ったのは、ドラゴンが居た場所に転がる、2メートルを越える巨大な幅広の剣だけだった。
それ以外は何も無い。…そう、何も無いんだよ。水晶柱もね。
「あー、あ。やっちゃったな。考えてみれば当然か、ホール全体にインフェルノを30発以上叩き込めば、水晶柱が無事な訳無いな」
「あっ!! マジだ! 水晶柱壊れてるじゃん!」
俺の声を聞いて状況を理解した碧の声で、周囲で騒いでいた者達もその事実に気づく。
「別に要らないだろう、ボスを倒したんだから、水晶柱が必要なら入り口にあるじゃ無いか」
何を言ってるんだ? って感じで自衛隊勢は俺達の方を見ていた。
「お兄ー、ダンジョンの消滅って上の水晶柱でも出来るのかな?」
「…どうなんだろう。言われてみれば出来る気がしなくは無いけど、ここに水晶柱がわざわざ有った事を考えると、上のじゃ無理って気はするな」
「ステイタス……あ、やっぱりまだ変化無しだね」
碧はステイタススクリーンを出して、下部にここのダンジョン攻略情報が書き込まれていないか確認した様だ。
「おい、どうした? 水晶柱が無いとダンジョンを消せないのか?」
俺達の会話を聞いていた一人の隊員が眉をひそめながら尋ねて来た。
同様に側に居た他の隊員達も、俺達の方を向いている。
「…以前消滅したダンジョンの件ですが、ボス部屋に有った水晶柱に全員が触れた時点で、地上への転移と消滅が発生したそうです。一応、台湾のダンジョンが水の浸水で消滅した事から考えると、ダンジョンの消滅自体は自動的に…って言うか可能なはずですが、攻略ボーナスの問題があります」
「攻略ボーナス?」
当然、彼らはダンジョン攻略ボーナスによるリセットの事も知らない。この事も、また、噂のていで教えた。
「そうなのか… じゃあ、後の事を考えれば、リセットは是が非でもしたいな……」
「ん、じゃあ、明日の朝、自然回復で復活してから来るしか無いね」
碧の発言に、周囲の者も納得した様子を見せる。
「問題は、一度でもダンジョン外に出た事をシステムがどう判断するかって事です。あと、ボスモンスターがリポップする可能性も…」
周囲で「リポップだとー」と言う声が上がる。無論そうで無い事を祈りたいんだが、可能性は否定出来ない。
…さっき、碧の『二段変身…』をフラグ扱いしたが、自分の言ってる事も同じだと気付きかなり落ち込んでしまったのは内緒だ。
「後、ダンジョンの自動消滅が水晶柱のリポップより速かった場合、って言う問題もあるります」
「じゃあどうすれば良いと思う?」
「一番確実なのは、この場に水晶柱が復活するまで留まる事です。その途中でドラゴンがリポップしたらその時は一旦帰って、水晶柱を壊さない形でドラゴンを殺す方法を検討するしか有りません。ダンジョン消滅の方が速かった場合は、……諦めるしか無いですね」
碧を含む全員からため息が漏れた。いや、俺も同じ気持ちだよ。好きで言ってる訳じゃ無いからな。
結局全員で再検討した結果、この場に12時間留まる事になった。
だぶん、駐屯地の方では『全滅』の可能性を考えて大騒ぎになりそうだ。
そして、この段階で始めて俺達は小型ホール内に足を踏み入れ、中央部に落ちていた大剣を手にした。
「……ドラゴンスレイヤー、爬虫類系に特効、魔力量を消費する事で刀身の長さを一定範囲で変化させる事が出来る、変化した長さは再度変化させない限り維持される、だそうだ」
鑑定を行った隊員が読み上げた鑑定結果聞くと、MPを消費するよりHPを消費すスキルに近い機能の様な気がする。
多分、MP消費より、HP消費だった方が使い勝手は良いと思う。そこら辺が少し残念だ。
この剣は、そのまま持って帰って『風鳴りの弓』と共に提出するらしい。
しかし、『ドラゴンスレーヤー』ねぇ… 多分、ドラゴンのドロップした剣って事で、単純にそう口走った者が何人か居たんだろう。
そこから考えると、ひょっとして、付いてる効果の『爬虫類系に特効』は、名前が付いた段階でそれに合った効果が付加されたんじゃないか? なんて邪推したくなる。
一通り小型ホール内を確認した俺達は、幾つか『ファイアー・ウォール』を作り、張り付いた氷を溶かし、室温をある程度上げると通路へと戻った。
そして、一番離れた場所に『ストーン・ウォール』で箱を作り、床を魔刃を使った草薙剣で切った上で穴にし、トイレとした。これで後12時間をここで過ごす為の最低限の環境が出来た訳だ。
ちなみに、飯は常備している携帯用固形食品で我慢する。『ヌリカベの肉』は碧が断固として提出を拒否した。塩すら無い状態では絶対食べたくないそうだ。
まあ、30人で分けたら、1人一切れ分ぐらいしか無くなるから、さほど惜しくは無いんだけどね…
水に関しては、水系の魔法で出した物を水筒で受けて使っているので、全く問題ない。
その後は、警戒要員を定め、随時睡眠を取っていく。
長い夜だった。
一番、緊張したのは約6時間後だ。以前のダンジョンでの再湧きだしが約6時間だった。
その時間は、碧以外は全員起きて固唾を飲んで見ていた。
6時間を過ぎても、誤差を考え、10分、20分と待ち、1時間を越えた時点でやっと安心して眠りにつけた。
そして、寝る時間が遅かった為か、ぺんぺんに叩かれて起きたのは水晶柱復活予定時刻の10分前だった。
どうやら、自動消滅時間の方が速いと言うケースも免れそうだな。まあ、リポップタイムと同時の可能性も、まだ残ってはいるんだけど……
その時点では、ほとんどの者が起きており、まだ寝ていたのは碧だけだった。…男だらけのこんな所で、良くもまあ、ぐっすりと10時間近く眠れるもんだ。
呆れてみていると、ぺんぺんが俺を起こしたときのように、顔をペンペンし始めた。
多少寝ぼけた声を上げながら起き出す碧の声を聞きながら、俺は小型ホールの中に目を向ける。
周囲の者が騒いでない事から、リポップしていない事は分かっては居たが、やはり自分の目で見るまでは不安があった。
昨日の魔法で、水浸しになっているホール内には、モンスターの影は無かった。
「あっ、まだ復活してないんだ。起こすなら、復活してからで良かったのに」
あくびをしながら、俺の横に来た碧は、そんな事を言いながら目を擦り、寝癖の付いた髪を手ぐしで解かしている。
それからの10分間は、全員が余り口を開かなかった。
ほとんどの者が、ホール内と自分の腕時計を交互に眺めている。
そして、誰かが「あと1分」と声を上げると、「59、58、57…」と誰からと無くカウントダウンが始まった。
そのカウントダウンが10に成った所で、ホール内の水や傷が入った床や壁の部分が一斉に淡く橙色に輝き始めた。ダンジョンの自然回復が起動した証拠だ。
そして、俺達30人が見守る中、奥の壁沿いにそれまで無かった水晶柱が、カメラのピントがゆっくり合う様に現れて、纏っていた淡い光が消えると共にその存在が確定した。
歓声と共に、全員がその復活した水晶柱に駆け寄る。
そして、その水晶柱を30人全員で囲む様にして集まる。
その上で、全員が同時に手を触れる事が出来る隊形を作って行く。
ある者は床に寝そべるり、ある者は腰を下ろすし、ある者は中腰に成り、ある者は前の者に乗りかかり、強引な形では有るが、全員が水晶柱に手を伸ばす。
「せーの」
そのかけ声と共に、全員が水晶柱のどこかしらに手を触れた。。




