54話 エラー
ダンジョン入り口から真っ直ぐ続く20メートルの直線通路は非常に狭い。
直径が2メートルしか無いうえ、完全な円形をしている為、2人並ぶのが限界で身体を使った戦闘行為を行うとしたら1人が限界だ。
だから、この20メールの区間は、モンスターのレベルを無視して魔法やスキルで押し通る。MPやHPの温存は実行しない。
この通路に入って、先頭を切ったのは碧だった。
見える範囲だけで10匹以上のモンスターが居る状態で、碧は思いっきり槍を振りかぶりダンジョン内に向かって投げた。
槍は碧の手を離れる瞬間から青白く輝きだし、その輝きを保ったまま前方のモンスター達を次々に貫いていく。
そして、大半の貫かれたモンスターは、その部分から細かな砂のように成って崩れ去った。
一番奥にに居た、匍匐前進中のトロールは、左肩から左足の先までが砂と成り、しばらくの間半身は残ったが、絶命と共に何時もの黒い靄と成って消えた。
「戻れ!」
碧の声と共に、先程投げられた槍が碧の手元に飛んで帰ってくる。『呼び戻し』だ。
「今のは?」
「投振破。かなり使えるね」
期待以上だったようで、碧は嬉しげに笑っている。
投げ槍系の中級スキルだな。しかし、普通、その前の『飛槍』を試さないか? まあ、大量に居たからこの場合は、威力的に『投振破』で正解だったのかも知れないけど…
このスキルは、攻撃時に振動波を発し、傷口周囲を粉砕するスキルだ。碧が以前、デボの『超音波』修得の際期待した『ソニック・バスター』に近い能力だ。
碧の『投振破』で一気に空いた空間だったが、直ぐに先の空間から後続が続々と入ってくる。
今度は俺が、『ブースト(パワー)』を掛けた上で『飛燕』を3連する。
『飛燕』は扇状に3つの斬撃が飛ぶ剣用のスキルだ。レベル3制限と非常にリーズナブルな上に、使い勝手もかなり良い。俺が最も多用するスキルでもある。
そんな『飛燕』によって生まれた斬撃9個が通路に入ってくるホワイト・タランチュラ等を切り裂いていく。
天上すれすれに居て、俺の斬撃が当たらなかったキラー・ビーには、俺の肩の上に居たぺんぺんから『アイス・ボール』が放たれている。
残り数メートルは、そのまま俺が先頭と成り『飛燕』で切り進んだ。
そして、その直線通路の先に『サンダー・ストーム』を放り込む。広くなった部分のモンスターを一斉に掃除する為だ。
カメラフラッシュ程の光が瞬き、天井部に発生した青白い光の幕から下に向かって紫電が乱れ飛ぶ。その一部は俺達が居る通路にも入って来たが、それは前もって起動させていたMシールドリングの楯で防ぐ。
このMシールドリングは、元々デボが身につけていたものなのだが、MシールドリングⅡを発見してから、俺が身につけるように成った。
同様に、シールドリングⅡを発見した際、ぺんぺんのシールドリングは碧の手に渡っている。
10秒ほどの紫電の放射が終わったのを見計らって、俺達は全員広い通路へと飛びたした。
大阪ダンジョンは、5メートル四方の四角い用水路の様な構造をしていた。そのはずだった。以前は…
「おい! マップがおかしいぞ!」
多分以前このダンジョンに入った事がある『マップ』持ちなのだろう、自衛隊員から焦ったような声が上がる。
その気持ちは俺も同じだ、先程まで脳内に表示されていたこのダンジョンのマップが、一瞬にして消え去ってしまった。『エラー』の表示と共に。
「お兄ー! ダンジョンが洞窟に成ってる!!」
表現はともかく、碧の言っている事は正しい。先ほども言ったが、このダンジョンはレベル14帯域までは用水路の様な真四角の通路だったはずなのだが、ここは岩肌の凸凹した通路に成って居た。
幅は、平均的には5メートルだが、見える範囲でも狭い所広い所が見える。確実に以前のダンジョンと違う。
俺達は、T字路の左右の通路に向かって魔法を放ちながら、状況を整理する。
交互に、ストーム系魔法を放ち、その間に、一旦両側にウォール系魔法で壁を作る。無論、デボとぺんぺんがメインと成ってだ。
デボは現在、訓練で仲良くなった牧村陸曹長のヘルメットの上に乗っている。お気に入りらしい。
一通り『壁』による封鎖が完了し、ある程度の余裕が出来た状態で話し合う。
「以前このダンジョンに潜った事の有るヤツは分かっていると思うが、マップが完全に変わっている。完全に異常事態だ」
「ダンジョンの壁のタイプだけじゃなく、マップ自体も違うぞ、ここは元々はT字路じゃない。真っ直ぐが50メートル以上続いて十字路だったはずだ」
「全く別物だって事ですか? じゃあ、最短コースで最深部へって計画はこの時点で不可能だと言う事ですね」
「ああ、そうなるな…」
「しかし何故だ?」
「大氾濫が原因で変わったって事だろう。その直前まではこんな事は報告されていない」
全員が不可解な状況に戸惑っていたが、碧は違ったようだ。
「はいはい、そこまで! 原因とかは考えても無駄。ようは、この後どうするかよ。行くの? それとも帰る? どっち?」
両手を叩いて、大きな音を出して、注目を集めると、そう言い放った。
俺としては、ここまで来たからには、ある程度は潜って状況を確かめたい気持ちがある。あくまでも、確かめたいと言うレベルで有り、何としても目的を達しよう、ではない。
自衛隊員達が集まって話し合い始めた。そんな中でも左右に『気配察知』を持っている者が1人ずつ警戒している所はさすがだ。
そして、この二人は定期的に壁の向こうに『ファイアー・ウォール』などの接触でダメージを与えられるウォール系魔法を使っている。こう言ったフォーメーションも前もって訓練済みだ。
話し合いは、意外に短い時間で終わった。彼らが出した結論は「先へ進む」だった。
「ある程度、不測の事態が発生する事は想定済みだ、さすがにこんな状況は考えては居なかったが、全滅の危機がない限りは最深部を目指す。それが我々の任務だ」
普通は、不測の事態を想定して、その個々の不測の事態にどう対処するかを検討するのだが、彼らは、どんな不測の事態が発生しても、身の危険が無い限り進むと言う計画を立てたらしい…
おいおい、と言いたい所だが、よく考えてみると、俺達も丸っきり同じ考えで有る事に気づいて、突っ込めなくなった。
『取りあえず危険だったら逃げる、そうで無ければやれるだけやってみよう』と言う俺達の行動方針と言葉が違うだけで中身は同じだ。
まあ、『国の為に』『命を賭けてでも』なんて考えじゃ無いのはありがたい。そんな無謀な行動を取られれば、俺達も危険に巻き込まれる可能性が高い。
そんな、俺達と相通ずる所の有る彼らは、相談の上、右の通路を進む事にしたようだ。
今更だが言っておくと、俺達に作戦指揮権は無い。当たり前の話だ、俺達は一般人なのだから。
あくまでも、外部支援の立場だ。例え、最大戦力であってもだ。
逆に言えば、作戦に口出しする権利が無いと言う事は、責任が無いと言う事だ。いつでも逃げて良いと言う事だ。
だから俺は、自分たちの身に致命的な危険が訪れる可能性が無い限り、口出しはしない。
故に、現状は無言で彼らに従う。
この作戦における、最大の行動方針は『戦力の維持』だ。常時一定以上の戦闘力を維持する事。つまりはMP、HPを全体として見て一定量に保つと言う事だ。
MPやHPは『知力』の値やレベルに応じて自然回復する。その自然回復を前提として、一定量を消費した者は休息に入り、その間他の者が前戦に立つ。
これを30人で繰り返す事で、戦闘力を維持し続ける訳だ。
そして、先ず先頭に立ってエネルギーを消費する役割を俺達が担う事に成っている。
実際は、最後尾に位置する者達も、バックアタックに備えている為、同じ立場と言う事に成る。
故に、一時的に設置した『壁』を壊すのも俺達の役割だ。
デボの『ストーン・アロー』と碧の『爆裂突き』で中央部に穴を開けると、そこから俺が『サンダー・ストーム』を放り込む事でその先に群れていた集団を殲滅する。
後は、その穴から入り、雷耐性が有って生き残って居たモンスターを剣や槍で殺しながら進んでいく。
「あれぇ? 数が減ってない?」
低レベルモンスターを、リアルスキルの武器攻撃だけで殺しながら進んでいく中で、碧が首を捻りながら聞いてきた。
実際、出入り口付近の1秒1匹ペースからすると確実に少無くなっている。
「単純な事だよ。入り口で二股に分かれてただろ。半分は向こうから来ていた訳だ。単純計算で1/2に成ったって事だ」
「おー、なるほどぉ。じゃあ、この後分岐が有る度に数はどんどん減っていくって事?」
「そうなるな。ただし、行き止まりの方からはほとんど来ないから、そんな場所では数は減らないとは思う。でも、潜れば潜る程数が少なくなるのは間違いない」
「…じゃあ、さ、分岐に来たら、沢山モンスターがいる方に向かえば、奥へ繋がってるって分かるんだね」
「正解。でも80点だな。数だけで無く、モンスターのレベルも重要だ。高レベルのモンスターがいる方が、より深い層に繋がっているから、数が少なくとも、その場合はそっちに向かう」
「おー、さすが、伊達に知力値が40越えてないね。とても元8だったとは思えないよ」
そんな考察と軽口をたたきながら、モンスターを殲滅しながら進んでいく。
基本、低レベルモンスターに対しては、武器攻撃だけで対処し、低レベルでも武器攻撃が効かない又は時間が掛かる相手の場合は魔法で対処している。
また、魔法とスキルを交互に使用するようにし、僅かでも回復する余裕を作っている。
そして、最初の分岐点に達した時、俺達の直ぐ後ろにいた自衛隊員から鋭い警告が発せられた。
「グリフォンだ!」
自衛隊関係者は、ダンジョン内でグリフォンと対峙した事が無い。その為、かなりグリフォンに対して警戒感があるようだ。
彼の発した声に従って、全員が緊張するのが後ろから聞こえてくる息づかいだけでも分かる。
だが、俺達4人にとっては全く問題ない。手慣れたものだ。逆に地上で対峙する方が機動力があって面倒なぐらいだ。
警告の声が上がった時点では既に、ぺんぺんが『アイス・アロー』を放つ準備をしていた。
そして、グリフォンがブレスもしくは状態異常スキルを使用する為クチバシを広げた所に、その中に向かってそれを放った。
放たれた『アイス・アロー』は口の中を穿ち、そのまま脊髄を破壊しながら後頭部から抜け、グリフォンの後ろにいた鎌鼬の左肩も撃ち抜いていた。
相変わらず、射線とタイミングの読みはさすがだ。多分、ぺんぺんが一番エネルギー効率が良い戦い方をしていると思う。
「一撃だと?」
「アイス・アローでいけるのか…」
「口内だからだろう。他の場所だとアローでは一撃とはいかんはずだ」
後方でなにやら騒いでいるが、気にせず俺達はやるべき事をやっていく。
ぺんぺんが攻撃を実施している間に、デボはY字路の反対側に『ストーン・ウォール』を築き始めていた。
碧も、グリフォン側は問題無いと判断して、デボの支援に入っている。
分岐点に達したら、先ず行くべき通路を確定させ、それ以外の通路を閉鎖していく。バックアタック防止だ。
更に、定期的に、後方にも『壁』を作る事で、更に危険度を下げる。
通常なら、待避路を自分たちで塞ぐのは愚の骨頂だが、『転移』が使用出来る俺達には、走って逃げる意味は無い。故に、MPの消費量に余裕が有る限りは定期的に『壁』を作って行く。
分岐路に設置した『壁』を壊されて追ってこられる可能性も有るし、『湧き出し』によって後方にモンスターが出現する可能性も有る。用心に越した事は無い。
「めんどくさ~」
モンスターを殲滅しながら進む碧がため息交じりに呟く。
それは擬態モンスター対策の為に、ある程度以上の出っ張った部分を槍で突きながら移動している事についてだろう。
本来は、こんな表層部にはオクトパス・スライムや、カメレオン・アントなど居ないのだが、地上にまで出て来ている以上は当然のように潜んでいる。
だから、チクチクと突きながら進む以外無い。
「昔通りの通路だったら、しばらくはこんな事しなくって良かったはずなのに」
以前の通路はコンクリート製のように真っ平らな四角い通路だった。故に、こんな擬態系モンスターが居たとしても、不自然な出っ張りに成り直ぐに分かったはずだ。
当初の計画では、レベル14帯域までは、最短コースを短時間で一気に移動する予定だった。
だが、ダンジョンマップの変化と、外観の変化という二重の変化の為、何倍もの時間と手間が必要となった訳だ。面倒くさい話だ、ホントに。
モンスターとのエンカウントは、分岐点を経るに従ってどんどんと減っていく。20秒に1匹平均になるのに30分と掛からなかった。
その時点で、俺達は先頭を交代し、休憩に入る。それでも、時折現れるレベル60以上のモンスターの場合には助っ人に入った。
そして、ダンジョン突入から2時間が経過した時点で、『湧き出し』によってレベル15帯へと到達した事を確認した。
ただひたすら進むだけなのだが、やはりエンカウント率が高い為、移動に時間を要している。
以前だったら、30分も有れば十分に移動可能な帯域だったのだが…
その帯域に到達して間もなく、左手に『部屋』を発見した。
『部屋』は通常枝道に有る。奥へと繋がるメイン通路とでも言うべき道沿いには滅多に存在しない。
その為、『部屋』を見つけたのは今日初めてだった。そして、その『部屋』には『宝箱』が存在していた。
この地点まで、ドロップアイテムのほとんどを放置していたのだが、やはり『宝箱』は放置しづらい。
と言うより、考えている時間に開けてしまった方が早い。と言う訳で、罠系スキル持ちの自衛隊員がサクッと開けた。
「マジックアイテム? おい!鑑定持ち、頼む!」
その隊員が右手に持って居る物は、腕輪のようだった。平べったいタイプでは無く、リング状の物だ。
そして、『鑑定』持ちの隊員が確認した所、『剛力の腕輪』で、筋力を+6するマジックアイテムだったようだ。
パラメーター上昇値的に、中級マジックアイテムに当たるだろう。帯域的にはレアか。
「お兄ー、このクラスってここら辺で出たっけ?」
碧も疑問に思ったのか、俺に聞いてきた。肩に居たぺんぺんも俺の左ホホをペンペンと叩いて碧に賛同する。
デボは相変わらず牧村陸曹長の頭の上なので、この話は聞いていない。
「家では出てないな。だけど、入り口近くで低級マジックアイテムが出た事は有ったから、無い事では無い。…でも、もしかすると、このダンジョンではコレが当たり前って可能性は有る」
「…ダンジョンの変化が宝箱にも影響し居るって事? って言うか、宝箱関係もリセットされてて、部屋に宝箱が有る確率も高くなってるのかな?」
部屋の入り口の方からは、進行方向から来るモンスターに攻撃する音が響いている。そんな中で、俺達3人は首を捻りながら考察を続けた。
「可能性は有るな。ただ、そうで有った場合、どうするかって事だ。積極的に宝箱を探して戦力強化を行うのか、当所通り最下層を目指すのかって事だ」
「先の事を考えれば、マジックアイテムで底上げした方が良いよね。でも、外の事を考えると、あんまり時間掛けられないでしょ?」
今回の作戦の為、大量の武器弾薬を消費してしまった。
その分『ユーザー登録者』が増えた事で、魔法やスキルを使える者は増えたが、現在の戦闘能力を維持出来る時間は圧倒的に短くなった訳だ。
もし可能だとしたら、出来るだけ早くこのダンジョンを攻略して消滅させる事で、その分の戦力を他のダンジョンに回せるようにしたい。
ただでさえ、今回の作戦の為に、戦車などの戦力をこのダンジョンに集めた為、他のダンジョンの攻防はギリギリの状態だったはずだ。
出来るだけ早く対処するに越した事は無い。無論、ここのダンジョンを攻略出来るとしたら、だが…
俺達の会話を聞いていた周囲の隊員達も、思案顔になっている。
「まあ、それは移動しながら話し合いましょう。取りあえず行きましょう」
ここで話し合っていても無駄だ。現在も戦い続けている者達の方を指さす俺に頷くと、全員が『部屋』から出て行く。
そして、ここからまた俺たちが先頭に立って移動して行く。もう既にHP・MP共に完全回復している。今回のパラメーターアップとレベルアップは効果を上げているようだ。
当所、レベルダウンしたせいで、レベル数に依存しているHPの回復速度が落ちたのでは無いかと考えたが、以前のレベルに応じた回復量になっていた。
そして、今回のレベルアップした分も追加されているのも今回確認出来た。レベル81相当のHP自然回復力だ。
更に、俺の場合は、スキルの『ブースト(インテリジェンス)』を使う事によって、一定時間『知力値』を上げる事でMPの自然回復力を上げる事も出来た。
魔法の付与(インテリジェンス)でも同様の事は行えるが、消費するMPと回復するMPで考えると微妙な値となる為、意味が無いだろう。
その点デボの『ドレイン』系は優秀だ。定期的な使用で、ほぼ満タンに近い状態を維持し続けている。その為、『壁』設置はデボ一人の仕事になってる。
風の噂によれば、同様の機能を持った武器が存在するらしい。あくまでも噂であり、確定情報では無い。
だが、RPGでも良く有るタイプなので、有ってもおかしく無いと思っている。もし有るならMPドレイン能力のある武器やマジックアイテムが欲しい。Mixドレインが一番良いんだけど、贅沢は言わない。…って既に贅沢か?
俺達は、奥と思われる方に進みながら、今回のレベルアップによって修得した力を試しつつ慣れていく。
俺は、ひたすら『瞬歩』と『空歩』の練習だ。『ステップ』の時にも思ったのだが、どうやら俺はあまり才能が無いらしい。
ぺんぺんは別格だとしても、碧にも遙かに負けるようだ。慣れるのに倍以上の時間が掛かる。
『空歩』と『瞬歩』の併用なんて夢また夢だな…
碧は、投げ槍系のスキルと光魔法系の攻撃魔法をひたすら練習している。
『飛槍』は残念ながら、ダンジョン内では余り有効なスキルでは無かった。
このスキルは、投げた槍を一定時間コントロール出来るスキルで、広い場所なら縦横無尽に飛び回らせる事が出来ただろう。
だが、残念ながらここは狭いダンジョンだ。軌道を多少変更する程度が限界だった。
また、このスキルは、上位スキルである『投振破』のような+αな攻撃力は無い。そのまま、スピードと槍そのものの攻撃力だけのスキルだ。
外であれば、飛行系モンスターを攻撃するのに重宝するかも知れない。
そして、魔法の『レイ』とその上位である『レイ・ボウ』は意外に使える魔法だった。
下位の魔法が『ライティング』と言う、明かりを点すだけの魔法なので、修得する者が少ない系統なのだが、とにかく貫通力が高い。
その為、現在の様に大量に連なって洞窟内に居る場合は、一撃で大量のモンスターにダメージを与える事が出来る。
その上、速度はまさに『光速』だ。一番早い『ストーン・アロー』ですら比べるべくもない。
『レイ』は、3秒間程照射が続く直径2センチ程のレーザーで、『レイ・ボウ』は一瞬だけ放たれる直径10センチ程のレーザーだ。
ゾンビ系に特効で、鉱物系に効果が低い。一般の生き物系モンスターには普通に効果がある。結構当たりスキルだと思う。
そしてぺんぺんは、相変わらずスキルの併用を難なくこなしている。
『縮地』や『空歩』で接近し、『鉄人』で身体を鉄以上の硬度にした上で『加重』を使用して増加した体重を加えた『爪斬』で高レベルモンスターの首を刎ねまくっている。
今までは体重が無かったせいで、硬いモンスターは浅くしか切り裂け無かったが、自重を増加出来る『加重』スキルによって、弾かれる事無く深くまで切り裂く事が出来る。
また、ある程度までの攻撃や魔法を受け付け無い『金剛』の行動可能バージョンである『鉄人』によって、短時間とは言えダメージを気にせずに接近戦を実行出来るのも大きい。
そして、意外に役立っているのが『ウインド・プチブレス』だ。それ自体は風を吹き出すだけの殺傷能力を持たない魔法なのだが、今回新たな使い道が見つかった。
それは、火魔法を使用した後の煙や熱を吹き飛ばせると言う事だ。地味だが、これによって存分に火魔法がダンジョン内で使用出来るようになった。
この為、対象を足止めしたり、小さめの飛行系モンスターの牽制をすると言う以前までの使い方以上に、使用頻度が増していた。
風系の魔法でもある程度は似たような事は出来るが、ブレスのような持続性も、使用中の放射方向を変える事も出来ない。この辺りがブレスの優位性だろう。
同じ系統の『ウインド・ミニブレス』は攻撃力を持つブレスで、いわゆる風の斬撃がブレスに乗って複数放たれるものだ。
ただ、個々の斬撃は小さく、5センチから10センチ程の傷にしか成らない。その為、意外に使えなかったりする。
最後にデボだが、それぞれの属性を纏う『雷神』と『風神』がⅢまで使えるようになり、それと『斬翼』を併用して集団の中を駆け巡ったりもしている。
そして、その途中でちゃっかり『Mixドレイン』も使用して回復も図っている。
デボの場合は、実際は『天駆』や『宙駆』などの飛行系スキルとも併用している訳だ。
最近では地上でも当たり前のように飛んでいるので、ついつい実は飛べない鳥で有る事を忘れてしまう。
ちなみに、『擬態』の上位スキルで有る『光学迷彩』と『空』は集団戦では全く使用するチャンスは無い。
これは、地上がモンスターで溢れて以降の世界を想定して修得させたもので、現在は役に立たなくても問題無い。
ちなみに、『光学迷彩』は名前の通り、光を屈折させて姿を見えなくするスキルで、『擬態』と違って一定速度までなら移動も可能だ。
そして、『空』は、姿はもちろん、『気配察知』にも反応せず、臭いや音すらも消す事が出来るスキルで、その効果時間も30分と長い。
これを試しに使わせてみたが、居ると分かっていても存在を疑いたくなる程だった。『空』の名に相応しいスキルだ。当座は役立たないけどね…
俺達は、そんなスキルや魔法を身体になじませつつ、高レベルモンスターとの戦い方を実践で自衛隊員達に教えながら着実に進んでいく。
だが、まだレベル20帯域にすら達していない。先はまだまだ長い。




