52話 指輪とコーラのビンの相似性
2度目の墓穴でドツボにはまった俺は、結局『ダンジョン攻略作戦』に参加する事になってしまった。
安全策として『危なくなったら逃げる』を承知させていた事も有ったし、自分たちだけなら何とか成るだろうと言う思いも有ったので、まあ、良いんだけどね。
もちろん、不安は有る。入り口の状況はこの1ヶ月でほぼ把握出来ているけど、内部の状況は全く分からない。
外に出て来るモンスターの種類と数から、ある程度予測は立ててはいる。それが確実で有れば何とか成る気はする。
だが、何はともあれダンジョンだ。原因も、法則も何もハッキリした事が分からない。故に、何があっても不思議ではない。
しかも、以前と違って『大氾濫』という不測の事態が発生した後だ。全ての法則が変わっていたとしても不思議ではない。
入り口から『マップ』で見える範囲は、今まで通りのマップなのだが、内部が実際どう成っているかは、実際に入ってみないと分からない。
全てが、分からない尽くしだ。
だが、行くと決めた以上は何とかしよう。最低限、俺達4人は生き残れるようにだ。
と言う訳で、あの日の約束通り、お偉いさんの『ユーザー登録』の実施と相成った。
もちろん、ここに現在詰めているお偉いさんズには、色々と忙しい仕事が別途ある為、全員同時になどと言う事は出来ない。
その為今日は、キリスト教徒らしい、あの陸将補とか言う階級のおっさん1人が行く事に成った。
何でも、この陸将補なる人は、かなりのお偉いさんらしく、『ユーザー登録』すべく集まっている他の自衛隊員が、全員ガッチガッチに緊張しまくっている。
大半が20代で、中には19歳なんて者もいる下っ端達にとっては、雲の上の存在なのだろう。
だが、既に俺や碧にとっては『ただのおっさん』というカテゴリーに入れている。心の中での敬称は『おっさん』だ。それで充分。
そんなおっさんは、やはりこう言った場には慣れないのか、落ち着きが無い様子だ。
「うーん、私のような歳の者には、どうも、魔法だファンタジーだと言うモノはピンと来んよ」
若干覇気の無い声で、そんな事を言っている。どうやら、現場がどうこうではなく、魔法やスキル等と言ったモノに対する違和感が取れないようだ。
まあ、もうじき定年がどうとか言っていたから、生まれた時期的にもゲームはもちろんファンタジー系の小説も大して無かった時代に青春を送ってきた世代だろう。
馴染みが無くって当たり前か。
「え~っ? でも、映画とかは見た事有るでしょ? えーっと、あっ、ほら、指輪を捨てに行くヤツ」
リスペクトなど欠片も無い碧の問いかけに、陸将補本人はともかく、周りの自衛隊員がビックリした顔をする。
中には、顔をしかめて碧を見やる者も居た。
だが、当の本人は全く気にしていない。「指輪を捨てに?」等と呟きながら首を捻っている。
「…指輪を捨てに行く話は見ていないな。捨てに行く映画なら、コーラのビンを捨てに行くの位だ」
首を捻ったあげくの、陸将補のそんな訳の分からない発言に、碧はもちろん、周囲の自衛隊員すらあっけに取られた。
「コーラのビン? 何それ? どこのB級映画? C級でも良いぐらいだよそれ」
碧は、そんな事を言って、笑い出してしまった。
そして、その笑いに釣られた何人かの自衛隊員も笑いかけ、慌てて口を手で塞いでいた。
俺は笑いこそはしなかったが、この人B級・C級映画マニアなんだな、ってそう思ったよ。
良く有るじゃ無い、有名な映画が出来た直後や、出来る直前に、微妙に似た題名の低予算映画が公開されるってパターン。
多分そんなモノを見たんだろう。さすがに、間違って見たって事は無いと思いたい。故に、マニアだと。
だが、俺の予想はものの見事に覆された。
「うん? B級とかじゃ無いぞ。世界中で公開された、A級に入る映画だった。主人公も日本にも呼ばれて、映画公開前後にはテレビで引っ張りだこだった」
陸将補の表情を見るに、嘘や冗談では無いようだ。……マジ?
「…えっと、コーラのビンを捨てに行く映画? それで全米が泣くの?」
「いや、コメディーだから、全米は泣かんが、ヒットはしたはずだぞ」
「コーラのビンを捨てに行くだけの映画? さすがにそれは無いよね」
碧が俺の方を見て、同意を求めてくる。だが、俺は同意出来なかった。
なぜなら、あの指輪を捨てに行く話しも、有る意味『指輪を捨てに行くだけの話し』だからだ。
「いや、それだけの話だぞ。ある日、空から1つのコーラのビンが降ってきて、その部族間で奪い合いが起きて、それではマズいと思った1人の者が、それを地の果てに捨てに行く話だ」
陸将補からその映画のストーリーを聞いた周囲の者全員が、微妙な顔になった。
指輪の方の話と、細かな部分は全く違うが、有る意味そっくりでもある。
周囲では、自衛隊員が「パクリ?」「いや、どっちがどっちを?」「映画はともかく元の本はかなり古くから有るから」なんて考察を始めていたりする。
正直どうでもいい話なんだが、その話で自衛隊員の緊張がかなり解けたようだった。
狙った訳では無いだろうが、陸将補GJ。
お偉いさんズの『ユーザー登録』は順調に進んだ。ただ、このお偉いさんが入って来た事で、その分若い隊員10名の登録が遅くなった訳だ。
結果としては、戦力ダウンではあるのだが、隊内の士気はかなり上がったそうだ。ちなみに、あの場にいた担当官は、立場が違う為『ユーザー登録』はしていない。
また、この間、早々と『黒の魔石』を使用したフライングポッドが試作され、実験が開始されている。
構造は気球のゴンドラ状のモノに、下部とサイドの4面に『黒の魔石』を使用した板を設置しただけのものだ。
この板は、2枚の板の間に結晶構造に従った向きで複数の『黒の魔石』を挟み込み、それを電動モーターで加圧減圧出来る様にしただけのモノで、加圧、減圧によって重力場を簡単に調整出来る。
この装置の場合、モーターを使用しているが、即時性を求めないなら、手動でも問題無い。水道のバルブ状のダイヤルを回して加圧減圧をすれば良いのだから。
試作機は、下面の板で浮上降下を行い、4面の板でバランス制御と移動を行っている。なんでも、全体のバランス制御はドローンに内蔵されているモノを流用してたらしい。
現在は、低空で飛びながら、操作面と機動面のテストを行っているが、最終的にはこれに操縦者と2人の『魔法使い』を乗せて上空から攻撃を実施する予定だそうだ。
高機動性と、安定性は両立出来ないようで、最終的にはある程度のユーザースキルを必要とするモノになるらしい。
まあ、ヘリにしろ戦闘機にしろ、最終的な部分はユーザースキルに頼っている訳だから、それは仕方が無い事だろう。
ただ、実戦配備は全く予定が立たない。構造が簡単で、量産も容易とは言え、その前の段階が終わらなければ意味は無い。
またレールガンも、既に実際に発射出来るモノが完成していた。
とは言え、ただ発射出来るかどうかを実験する為だけの物で、実戦はもちろん量産にも向かない代物だ。
それでも、雑な試作段階でアサルトライフル程度の威力を確認している。
エネルギー効率も意外に悪くないらしい。学の無い俺には、何を持っててエネルギー効率云々と言っているのかすら分からないんだけど…
彼らいわく、量産とか考えなければ、1月と掛からないで単一の兵器としてなら形に出来るとの事だ。無論、それでは全く意味は無いんだけど。
正確な状況は、俺達に教えられないが、漏れ聞く限りではかなり弾薬の枯渇が近いらしい。
その為、テロリストばりに一般の薬品などを使用した爆発物なども製造を始めている様だ。
終いには、工事用のダイナマイトに蚊取り線香を差し込んで、火を付けて投げるなんて事になるんじゃ無いかと心配だよ。
日本は、化学薬品の備蓄量はかなりの物が有る。だが、こう言った兵器として即時転用出来る物は限られている。
そして、西日本と岩手県周辺では、工場生産が事実上ストップしている。他の地域も、流通が麻痺している事もあり閉鎖されている工場が多い。
その為、改めてこの様な『武器』を生産しようとしても、簡単には作れない。
そんな訳で、この簡易爆弾などの生産も、やっと始まったばかりと言う事らしい。
今回の事に連なる大本である、ダンジョン消滅関連のことだが、俺達が『特定のダンジョンを攻略した』と言う事は、一般自衛官や冒険者には伝えられなかった。
ただ、海外からの情報と言う曖昧な言い回しで、『ダンジョン最深部に居るボスモンスターを殺せば、ダンジョンが消滅するかも知れない』と言う噂が流されていた。
また、アメリカや、一部の海外政府向けに、俺達の事例は報告されたらしい。その反応までは俺達の元には伝えられていないので分からない。
そして、それらは当然ながら日本のお偉いさん方にも伝えられた訳だ。
その件で何度か、テレビで見た覚えのある防衛大臣だの統合幕僚長なんて肩書きを持つおっさんどもが、俺達の元に訪れ、その度に「ステータスを見せろ」だの「あの話は本当なのか」など、質問攻めに遭った。
まあ、防衛大臣や統合幕僚長はまだ分かる、自衛隊がらみだから。でも、与党の幹事長だの、○○大臣なんて何の関係があるんだ?
文部科学大臣とか、厚生労働大臣なんて役職の者が話を聞いて、ど~するんだよ。
同じ話をするのを2回までは我慢した。だが、それが5回も続くとさすがに我慢出来なかった。碧が…
碧程では無いが、俺も思ったよ。話を聞きに来るなら、全員で一緒に来いよ、と。
ただでさえ、航空燃料の残りとかを心配しているって言うのに、同じ事を聞きにバラバラに来やがったんだよ。こいつら。アホかと。
挙げ句の果てに、こいつらは必ず、俺達がダンジョンを秘匿していたことをなじって来た。そしてしつこく追求してきた。
まあ、『ダンジョンに関する特例法』なるモノで定められているので、違法なのは間違いない。
間違いないんだけどさ、それって今追求すること? しかも10分以上にわたってさ。
多分政治家って存在が、他人の問題点を追求するのが仕事の一部なんだろう。国会でも本題そっちのけで、くだらない追求合戦をやっている。
まあ、国会でやっている分には、中継を見なければ良いだけなんだが、実際に自分たちが追求される側になると、そうは行かない。
「あっそ、じゃあ、私達を刑務所にでも入れれば? 逮捕でも何でも好きにすれば?」
碧のヤツが当然のように切れた訳だ。
こう言う言い回しの場合、たいていは、相手がそれを実行出来ないの分かっていて、出来るものならやってみろ、的な意味を持っている。
状況的に今がまさにそれだ。俺達が当所での作戦の要になっているのだから。
多分この場に居た、他の大臣とその秘書や自衛官もそう受け取っただろう。
だが、碧の場合は違うんだよ。碧の言葉を要約すると『もう面倒くさいから、好きにすれば?』と言う事だ。無論、最後に『当然、逃げるけどさ』ってのも付く。
逃走オプション付き自暴自棄ってヤツだ。
駆け引きだと思った、大臣関係者は怒り、自衛官達は眉をひそめた。
「あのぉ、多分皆さん勘違いされていると思うんですけど。……碧、お前のさっきの発言は、そのままの意味だろ?」
大臣連中はどうでも良いが、自衛官達に勘違いされたままは、やはりマズいので訂正を図る。
「? 意味って? そのままも何も、言葉通りだけど? どうかした?」
そんな、首をかしげながら、何言ってるの?って感じで言う碧を見て、周囲の大半が碧の意図を理解してくれたようだ。
そして、自衛官側が慌てた。駆け引きでも何でも無く、本気だと分かったからだ。
「それは困る! 大臣!、貴方も今そんな事を問い詰めても意味は無いでしょう!」
なんて感じで、今更ながらな事を言い出した。それが分かってるなら、何でその時止めてくれなかったんだよ、って思うんだけどね… しかも5回目だし。
自衛官側の慌てように、状況を理解出来てきた大臣側が、謝罪に全く聞こえない謝罪をする事で、その場は何とか八角形位には治まった。丸くは治まっていない。でも角は残っているけど、鋭くない感じか。
無駄な航空燃料と、ジャンパーの『転移』を消費し、その上無駄な時間を浪費しただけの聴聞会だった。
そんな無駄なことをしに来た、5回目の聴聞団が部屋から居なくなった時点で、碧はまだ残っていた自衛官のお偉いさんズに尋ねた。
「あのさ、アイツらバカなの? それとも、東京が横の連絡も取れない位混乱してるの?」
最初の防衛大臣や統合幕僚長は別として、その後の与党幹事長から今回の大臣まで、全て同一政党の者達だった。
しかも、質問された事、追求されたことはほぼ同じ事だ。
視察等が行われれば、当然その事が報告されてしかるべきだ。それが成されていないと言う事は、それほどまでに混乱していると言う事なのか?って事だな。碧の質問は。
現在この部屋には、陸自のお偉いさんと、海自のお偉いさんが居る。その両方が、碧の質問を聞いて同じ様に困った顔をしていた。
その表情で、俺は何となく状況を理解した。
「混乱はしていないけど、各自がスタンドプレーに走ってるって事なんですね。震災とかの時に、無駄に被災地に行くアレみたいに」
俺の予想を聞いた際の彼らの表情で、大まかな所は間違っては居ない事が分かった。
「……つまり、アホだったって訳だね。マスコミとかにまで規制を掛けて、邪魔させないようにしてるってのに、政治家が邪魔しに来てどーすんのよ。全く」
碧の言う様にアホかどうかはともかく、人的・物資的・時間的損失を与えて、何もならない行為を行った集団だったことは間違いない。
その後、碧程では無いが、ささくれ立った気持ちを宿舎で、ぺんぺんとデボ2人と戯れることで癒やした。
碧はいつの間にか、包囲部隊への交代要員と一緒に前戦に行って、『ファイアー・インフェルノ』を連発して憂さを晴らしてきたらしい。
さすがに、驚いて「何一人で勝手な事してるんだよ!」と本気で怒った。すると意外にも「ごめん」と素直に謝ってきた。
どうやら、冗談抜きにイラつきが限界点まで来ていたらしい。
確かに、現在の環境は碧には合わないのは間違いない。
ここへ来る事には積極的だったが、それは防衛を考えてでは無く、戦闘やドロップアイテムを求めてのモノだった。
だが現状は、『ユーザー登録作戦』を実施する為に、どちらの目的も事実上実行出来ていない。
『ユーザー登録作戦』時は、瞬間的な戦闘は有るのだが、壁を構築し終わると殆ど戦闘は無くなる。そして、その際のドロップ品は回収出来ないケースが大半だ。
完全に碧の思惑と違う形になっている。そこに来て、政治家達からの追求を繰り返し受け、あげくにそれが全く無駄な行為であったことを知って、我慢の限界を超えたらしい。
で、俺達に内緒で前線へと赴き、モンスター相手にストレスをぶつけまくったと言う事だ。
「気持ちは分かるけど、今度は俺達にも言ってから行けよ。少なくともデボかぺんぺんは連れて行け」
俺がそう言うと、ぺんぺんとデボも碧に近寄って、それぞれ前足とクチバシで同意を示した。
そんな2人を抱きしめながら、碧はもう一度小さく「ごめん」と呟いた。
あの聴聞会から12日後、世界中に朗報が駆け巡った。
この時、俺達の『ユーザー登録作戦』における幹部のおっさん達の登録は既に終わっており、現在は2人ずつ壁作りの訓練人員を伴ってこの作戦実行していた。
そんな俺達は『転移』で帰ってきた際、その情報を聞く事になった。
「台湾のダンジョンが1つ消えたってよ!」
「ボスを殺せばダンジョンが消えるって、あの噂は本当だったんだ!」
「希望が見えて来たぞ!」
口々にそんな事を言って騒ぐ自衛隊員を問い詰めると、意外なことが分かった。
それは、洪水を原因としたダンジョンの消滅だった。
何でも、4日前までの2日間、台湾は10年に一度クラスの集中豪雨に見舞われたらしい。
ただでさえ、モンスター関連で大変な時で、対策らしい対策も出来ずにかなりの被害をもたらしたようだ。
土砂崩れ、河川の氾濫等が方々で発生したのだが、台湾北部のダンジョン側の川も決壊していた。
そこに関しては、『大氾濫』の為に既に周辺の住人は全て待避済みだったので、この決壊による人的被害は発生しなかった。
ただ、1メートルを超える水がその街を完全に水没させた。
この洪水を見て、ダンジョンを包囲していた軍は、大量のモンスターを殲滅出来た、と神に感謝したと言う。
無論、ここで言う『大量のモンスター』は、ダンジョンから這い出して周辺に屯していたモノを指している。
日本以上に弾薬の備蓄が少ない台湾軍にとっては、この場の決壊は天恵とも言えるモノだった。
だが、水が引き始め、この間に包囲網を縮める作戦を取っていたその軍の偵察部隊から、意外な報告が上がってくる。
「ダンジョンが見つかりません。まだ埋まったままのようです」
この時点では、土砂で単純に埋まってしまっただけだと判断された。何時も通り、12時間もすれば『ダンジョン爆発』が発生し、入り口がまた現れるはずだと。
だが、それから12時間経っても『ダンジョン爆発』は発生しなかった。
疑問に思いつつも、山間部に残ったモンスターを殲滅しつつ、包囲網の縮小を実施していたのだが、24時間経過しても『ダンジョン爆発』が発生しなかった。
そして、ついに『ダンジョンの消滅』を確認するに至った、と言う事だ。
考察として、ダンジョン内に大量の水が流れ込み、『ダンジョンの自然回復力』の時間内で最深部まで到達し、それによってボスモンスターが溺死したのではないか? と言うモノだった。
ダンジョンモンスターは、ゴーレム系と我々が分類するモノと、ゾンビ系と分類するモノ意外は、全て色の違いは有れ血を流す。
そして、完全に死んで黒い靄と成って消える寸前までは、普通の生物と同じ様相を見せる。
首を切れば血がピューピューと吹き出し、腹を切り裂けば内蔵がドバッとこぼれ出る。
俺も、レッド・ゴブリンの胸部を切り裂いた際、その中で動く心臓を見た事がある。肺と思しきモノも見ている。
つまり、特定のモンスター以外は、生きている間は普通の生物と同じで有る可能性が高いと言う事だ。
空気が無ければ死んでしまう可能性だ。
無論、この考えには穴がある。それは、胃や腸が有るのに人間以外を喰わずにどうやってダンジョン内で生きていたのか? って言う問題だ。
ダンジョン発生から、13年以上経つが、共食いはもとより、モンスター同士が争っているシーンを見たモノは居ない。
そして、ダンジョン内には、モンスターの食糧となるようなモノは全く見つかっていない。それどころか、大半のダンジョンには水すら無い。
それから考えると、生き物と同じ構造をしているからと言って、おなじ様に空気を必要としているとは限らないって事になる。
だが、実際にこの台湾北部のダンジョンは消滅した。
この報告を俺達が聞いた時点で、既に50時間以上『ダンジョン爆発』が発生していない。
日本だけで無く、多くの国のデータで、『大氾濫』以降は『自然回復』と同時に『ダンジョン爆発』が発生することが分かっている。
それが、4倍以上の時が経過しても発生していない訳だ。
ダンジョンが消滅した可能性が高い、と見るのは希望的観測では無いだろう。
実際の所の、消滅原因はハッキリしないが、この事実は、世界中に歓喜の声と共に伝えられていった。
日本による『ボスモンスターを殺す事によって、ダンジョンが消滅する可能性』が違う形では有るが実証された可能性が出たからだ。
まだ、この時点では可能性が高まった、状態で、確定した訳ではない。だが、間違いなく希望は生まれた。大いなる希望が。
そして当然ながら、他のダンジョンでも同様の手段が執れないかが検討された訳だが、日本のダンジョンは全て実行不可能な場所ばかりだった。
無論、1年に一度クラスの豪雨が降り続けてくれれば可能ではあるが、人工的に川の水を引き込めるような位置にあるダンジョンは皆無だった。
『大阪ダンジョン』も淀川にせよ、直ぐ側を流れる安威川にせよ、平常時の水位では高低差の関係でダンジョン内に導く事は不可能だ。
琵琶湖を決壊させて、宇治川経由で淀川を氾濫させる方法も検討したようだが、摂津に至るまでに周囲へと広がる為、目的の水量がそこまで行かない事が分かり検討初期で切り捨てられたようだ。
他のダンジョンでも、ダムなどを決壊させる事でなんとか出来ないか検討したが、どこも条件に適していなかった。
ただ、世界レベルで見ると、この方法が有効と思われる場所もあったようで、そこでは実際にダムを破壊してまでこの方法を取るつもりらしい。
世界レベルの連絡網がほころびを見せている為、実際にどれだけの場所で検討されているのかは不明だ。
それだけの事をやるのであれば、ぜひ成功して欲しい。こちらとしては、成功を祈るだけだ。
そんな訳で、この方法自体は残念ながら日本では使用出来ないのだが、『大氾濫』後でもダンジョンを消滅出来ると言う事が分かったのは福音だ。
この後に迫る『ダンジョン攻略作戦』の根本的な問題であった、『ボスを殺してもダンジョンが消えない可能性が有る』を考えなくても良い確率が高くなった訳だ。
この事は、俺たちに取っては大きな力となった。精神的に全く違う。
駐屯地の雰囲気もかなり良くなってきている。
あとは、作戦実行の2週間後まで準備を続けよう。




