50話 呼び出し
翌朝早朝に、碧にも手伝わせて、家から持って来た野菜を全て食堂の隊員に渡した。
普通なら、色々問題の有る行為なんだろうが、食料品の調達にも問題が出ている御時世なので、喜んで受け取ってもらえた。
自衛隊や俺達はまだ良い方なのかも知れない。備蓄の戦闘糧食が有るおかげで、食には困っていないのだから。
一般はこうはいかない。元々食糧自給率が低い日本では、1ヶ月も海外からの輸入が滞れば、食糧不足が深刻化する。
更に、そう言った場合に対処を行うべき国や自治体も完全に機能しなくなって来ている。
不幸中の幸いは、米の量が当座は問題無い事だ。備蓄米も含めて、十分な量が残っている。無論、今年の分まではだ。
現在の包囲網が崩れてしまえば、西日本での稲作は厳しくなるだろう。出来て四国のみか。
そうなった場合は、来年度以降は米すら不足する事態になる。最悪だ。
こう言った状況なので、生鮮食料品の存在は僅かでもありがたい物なんだよ。
あと半月、あの畑が荒らされなきゃ良いんだけど… 虫とか、草とか、猪とか、人間とか、人間とか、人間に…
そう言えば、世紀末系やパンデミック系の映画や漫画などで、生き残った者が缶詰を漁っているシーンが描かれる事が多いけど、二昔前ならともかく、現在では缶詰なんて僅かにしか作られていないから、アレは有り得ないだろう。
真空パック技術が発展して、缶詰を駆逐し始めた為、大手スーパーに行っても缶詰コーナーは僅かなスペースしか無い。
有る意味、ペットフードコーナーの缶詰の方が多い位だ。
真空パック技術は格段に進み、無菌状態でのハッケージングを行うなどして、保存期限を缶詰レベルまで延ばしたモノも有るが、実際に多く市販されている物は常温での保存可能期間数ヶ月程度の物が大半だ。
映画などのように、数年後に…など絶対に無理だろう。所詮、映画やドラマは作り物だと言う事だ。
そして現実は、そんな缶詰の無い状態で、同様の食糧問題が起こりかけている。世界レベルで、お先真っ暗だな。
俺達4人は、『水中呼吸』スキルも有るので、海産物で生き残れる自信はある。『鑑定』も有るしね。
そのレベルまで事態が進行したら、他人の事を構っていられない。家族だけで精一杯だ。
そんな未来にならない事を祈っては居るが、現状では、その未来が訪れる確率が高そうだ…
『冒険者用宿舎』の食事の時間は決まっている。特別に作戦等で早朝から出掛けなければ成らない場合を除いて、午前6時半から7時半までの1時間のみ提供されている。
基本、『冒険者』の包囲網防衛は日中のみと成っており、夜間警備は実施されていない。一般会社の女性社員の様な扱われ方だな。
今のところは、この状態で維持出来ている。いつまで持つかは不明だが…
そんな訳で、その時間に来れば、現在ここに居る全ての『冒険者』に合う事が出来る。
俺達は、そんな彼らを一同に集め、マジックアイテムと武器の配布を行った。
言うまでも無く大騒ぎだ。
大半の者が、マジックアイテムに関しては1つ持っていれば良い方で、持っていない者の方が多い。
無論、数には限りが有るので、武器かマジックアイテムどちらか一つ、と言う形で配布した。
その上で、余った分はジャンケンだ。一発勝負、待ったなし。
悲鳴や歓喜が入り乱れたが、何とか無事に配布が終えられた。
一応、配布前に「どこで手に入れたかとかは内緒。物はここに有るだけで後は無いよ。それに、新たに手に入れる方法も無いから、聞いて無駄だから」と碧が言っていたが、当然ながら追求してくる者は多かった。
そんな者には「じゃあ、それ返して」と返却を求めると全員黙った。そんなもんさ。
と言う訳で、その場は治まった。その場はね。
包囲網防衛を担当する組が出ていった後、直ぐ位に担当官からの呼び出しが来た。
アイテムを配布した場には、食堂担当の自衛官も居たのだから、当然連絡が行っていた訳だ。
「先程、宿舎で君たちがマジックアイテムを冒険者に配布したと聞いたんだが、事実かね?」
部屋に入った直後に、何の腹の探り合いすら無く率直に聞かれた。この辺りが、政治家とかと自衛官の違いなのかも知れない。
そうですが、それが何か? って感じでごまかせない事も無いのだろうが、余りにも率直過ぎる為、しらを切る事に罪悪感を感じてしまう。
これが、遠回りに言って来たり、搦め手で来られたら、こちも気にせずにしらを切り通せたと思う。
「何か、それらを入手出来るルートを持っているのか? もし有るのなら、隊で買い取りたいのだが」
という感じで来られ取ると…… 無理だ。胃が保ちません。ヘタレです。
横に座っていた碧に目を向けると、それに気づいた碧は肩を僅かに上げて言葉に代えた。良いんじゃない?って事だろう。
まあ、元々ある程度は覚悟の上だったんだから、良いんだけどね。
「あのですね、マジックアイテムの在庫はアレで終わりです。入手ルートは無くなりました。手に入れるとしたら、ダンジョンに潜るしか無いですね」
「……そうなのか。しかし、どこでそれほどの数を?」
「ダンジョンですよ。自衛隊の方と同じです」
「いや、だが、あの時の我々とは立場が違うだろう。他の冒険者も居るし、何より深層部分以外は取り尽くされているはずだ」
担当官は、しかつめ顔を更に歪めて言ってくる。
「…面倒なんで、これを見てください。ステータス」
俺は自分のステータスを表示して、その表示を他人にも見られるようにする。
そのホログラムスクリーンを見た担当官の顔が、驚きに染まった。
「レベル3だとぉ!? いや、だが生命力は670有る、他のパラメーターも明らかにレベル3の値じゃ無い!。どう言う事だね、これは!」
「あ、そこは良いです、一番下を見てください」
「下? ……鴻池ダンジョン(レベル2)踏破者、だと?」
訳が分からないと言う顔で、俺の顔とホログラムスクリーンを何度も交互に見ている。
混乱する担当官に、自宅にダンジョンが発生した事、そこを秘匿して自分たちだけで攻略した事、最終的にボスとみられる八岐大蛇擬きを殺した途端ダンジョンが消滅した事を話した。
唯一話していないのは、デボとぺんぺんについての考察だけだ。
この説明は、途中何度も質問が入った為、10分以上掛かった。
「……ボスモンスター、いわゆるダンジョンマスターと言うヤツか?」
「さあ、ゲームや小説に出て来る様なダンジョンマスターには見えなかったんで、ボスモンスターの方が合うかと」
「だよね、ど~見ても頭良さそうには見えなかったし」
「いや、頭が良いかどうか、確認すらしないで、炸裂弾Ⅱを10発以上叩き込んだんだけど… 実際はアレで頭が良かった可能性は有るぞ、だって頭が8個有るし」
俺の碧に対する返しに、担当官は頭を抱えていた。…いや、事実だし。
「炸裂弾か… では強さの程度は分からないんだな」
「はい、実質戦ってませんから。しかも、ダンジョンが消えたんで、入手経験値からレベルを想定する事も出来ませんでした」
「挙げ句の果てに、大阪ダンジョンで確認したら、レベルは1に戻ってるし、経験値も1だったもんね。結局分からずじまい」
碧も、うんうんとうなずいている。
「では、一番の問題なのだが、他のダンジョンもボスモンスターを倒せば消滅すると言う事なのか?」
やっぱりそこが一番重要な問題だよね。でも…
「正直、分かりません。大氾濫前ならその可能性が高かったでしょうが、その後も同じかどうかまでは…」
「だが、可能性は有る、とも言えるな」
担当官の目には力が込められている。そんな目で見られても、困るんだよな。俺は答えなんて持っていないのだから。
だが、希望としてその事を見いだしたいのだろう。現状希望はソレしか無いのだから。
「私達からは、なんとも言えません。やってみなければ分からないとしか言えません」
「実際、やれるかって言われたら疑問だよね。以前でさえ結構大変だったのに、今の状況ででしょう? 無理っぽくない?」
俺が残した僅かな希望を、碧がものの見事にたたき折った。
でも、現実的に考えて、以前の状態ですらボスモンスターの所に到達出来なかったのに、今の大量発生状態のダンジョンでそれまで以上の深さまで潜れるのかって話だ。
そう考えると、碧の意見が正しいと思う。
だが、担当官の顔に失望感は無かった。まだ希望が残っていると言わんばかりの表情だ。
「確かに、碧君の言うとおりだ、だが、今回は戦力の集中が可能だ。そして、モンスターの数が多いと言う事は、得られる経験値も多いと言う事でもある」
戦力の集中? 1つのダンジョンに、大量の人員を送り込む気か?
探索を無視して、とにかく深く深くと進めば、以前より効率は上がるだろうが、ダンジョンの構造上、同時に戦闘可能な人数は限られてる。
狭い所になると、2人並ぶのが限界の場所もある。
「数が多くても、戦闘出来る人数は限られますから、意味はあまり無いのでは?」
俺が疑問を投げかけると、担当官は微笑んだ。ニッコリとニヤリの中間の微笑みだ。
「1戦闘単位で考えればそうなる。だが、長期戦と考えれば話は違う。生命力や魔力量を気にせず大技を使って進み、残量が乏しくなったら部隊を換えれば良い。それを繰り返す事で到達距離は格段に伸びるはずだ」
なるほど、そう考えれば確かに有効的ではあるな。数が多ければ、通り過ぎた後の分岐点などからのバックアタックも先頭の者は気にする必要が無いし、ステルス系や擬態系に帯する精神的消耗もメンバーチェンジで対処出来るか。
「な~るほどぉ、冒険者達じゃ出来ない方法だね。…でも、なんで自衛隊が独占してた時にその方法を取らなかったの?」
『大氾濫』以前の冒険者達では、それだけの人数を集める事は無理だっただろう。
何せ、信頼出来る仲間、しかも命を預けられる仲間というのは、そうそう居るものでは無い。だから自然に、1パーティーは6人以下の少人数となっている。
効率良く戦闘が出来る最大人数と、信頼出来る仲間を集められる最大人数が共に6人程と言う事なのだ。
そして、以前実行しなかった事については、俺は予想は付いている。
「我々が、以前その方法を取らなかったのは、君たち冒険者と同じだよ。ダンジョンのとらえ方が今と全く違うからだ。当時はダンジョンとは恵だった。資源のないこの国に与えられた天からの恵みだよ。我々に当時与えられた使命は、より良い資源をこの地より手に入れる事だ。その上でダンジョン自体の謎を調べるとこだ。事実上調査よりも採取が優先されていた。冒険者も同じだろう?」
碧も、話の途中で理解したのか、「そっか」と呟いていた。
実際、今はともかく『大氾濫』以前の『冒険者』達に、『ダンジョンの攻略』や『ダンジョンの謎解き』などを目的とする者など皆無だったと言える。
ましてや、鴻池家の銭ゲバ娘こと碧の思考がまさにコレだったのだから。
仮に、八岐大蛇擬きを殺す事で、ダンジョンが消滅すると分かっていたら、絶対に実行しなかっただろう。現に『大氾濫』直前まで後悔しつ付けていたし。
「我々が当時取ったのは、くまなく探索して、より多くのアイテムを入手すると言う事だ。特に宝箱入手のポーション類だな。理由は、まあ、言わなくても分かるだろう…」
他国での『ダンジョン』一般開放後に発覚して騒動と成った、通称『宝箱事件』で、当時重篤状態だった自衛隊関係者の親族や、政治家の親族が急に元気になった事も暴露されていた。
このポーションによって恩恵を受けた『自衛耐関係者』とは、基本的にお偉いさん方で、実際に命を賭けて手に入れた者達では無く、エアコンの効いた部屋でのうのうとしていた者達が、その甘い蜜をむさぼった訳だ。
「だが、今は状況が違う。だからこそ出来る手段が有ると言う事だ」
とは言え、その大前提として『ボスモンスターを殺せば、ダンジョンは消える』と言う事が現在も有効であればだ。全てはそこに掛かってくる。
この件については、いくら尋ねられても俺達に答えるすべはない。
それに現在の状況で、ダンジョンにそれだけの戦力を送る事が出来るのか? と言う問題も有る。
弾薬の枯渇に対応する為に、『ユーザー登録』を実施している訳なので、基本的に戦力に余裕は無いはずなんだよ。
なので、その件を尋ねたのだが、すると意外な答えが返ってきた。
「ダンジョン由来品に対する、軍事利用の制限が解除されたんだよ。遅きに失したがね」
この制限は俺も知っている。ダンジョンから入手出来る魔石やドロップアイテムには、軍事利用可能な物が多く有った。
それらを規制する取り決めが、国際的に定められたのが上記の規制だ。
この規制は、完全に規制するものでは無い。電子部品の様に、2次的3次的に使用されるケースは勘案されない。
つまり例としては、黒の魔石を使用して、無音、無風で自由に飛び回る戦闘機の様な物を作ってはならないと言う事だ。
この制限事項は、実際の製造だけで無く、研究も制限されていた。だが、実際は普通に研究されていたと言われている。全ては軍事機密の一言で守られるのだから。
どうやら、この事態になって、やっとその制限が無くなったか、無視する事にしたって事の様だ。確かに、遅すぎる決定だよな。
「でも、今更では? 直ぐにどうこう成る物でも無いでしょうし。『実は、こう言う事も有ろうかと』なんて事は無いですよね、米軍ならともかく自衛隊では」
SF系の常套句『こう言う事も有ろうかと』は現実では先ず無い。
米軍当たりなら、普通に隠れて作っていそうだが、自衛隊では研究はともかく、製造は無理だろう。自衛隊には真田工作班長は居ない。
そんな、俺の言葉に、元ネタを知っていたらしい担当官は、苦笑しながら否定した。
「ああ、それは無い。だが、反重力発生装置は構造的に簡単だから、作るだけなら2日も掛からんだろう。それに、コンデンサーの大容量化が可能な魔石なども、短時間で簡易のレールガンに出来ると言う話だ」
…黒の魔石の件はある程度想定はしていた。確かに構造は子供の工作レベルでOKだから、2日で作れるってのは納得出来る。ただし、コントロール可能な状態にするには、膨大な時間が掛かると思う。
黒はそれで良い。問題は、水色だ。コンデンサーの材料と言えば水色の魔石だったはずだ。
既存のコンデンサーの数十倍の蓄電要領が得られる事から、チップコンデンサーサイズで、大型電解コンデンサーほどの蓄電能力を発揮すると、読んだ記憶がある。
多分、その事だろう。でも、それとレールガンが結びつかない。それは、碧も同じだった様で、「レールガン?」と聞いていた。
「レールガンと言っても、漫画などに出て来る様な大砲レベルのものでは無い。個人が工作で作れるレベルの物を少し大きくした程度の物だ。単に、火薬を使用しない事と、弾体が大量生産可能だという利点で、物に成るならば有効な武器になり得るか、と言う事だよ」
「そんなに簡単に作れるの?」
既に敬語もへったくれも無い碧だが、担当官は咎める様子は無い。
「ネットで見た事は無いかね? 日本では問題が有るだろうが、アメリカなどでは学生が作って、その動画をネットに上げているぞ」
…俺も1度だが見た事がある。アルミの2枚の板に電線を繋いで、多分コンデンサーらしき物を大量に繋げた物を使って電気を流すと、間に挟まれた玉が前方に置いて有ったカボチャを貫くヤツだ。
確かに、構造自体は難しくは無い気はする。電気は余り詳しくないので良く分からないが、動画で見た範囲では簡単に見えた。
実際にどれだけの威力が出るのか分からないが、仮に機関砲や機関銃クラスの威力があれば、電気と弾体だけで使用できることを考えれば、確かに有効な武器だとは思う。
問題は、連射性と、整備上の問題だな。後は、電源車などとの絡みか。それ以前に大容量コンデンサーを作る必要がある訳で、こちらは直ぐにって訳にはいかないだろう。
実際、コンデンサーの件を聞くと、やはり新たに製造するしか無いとの事だ。
ただ、大型のモノは無いが、再生可能エネルギー系の発電設備用に作られたコンデンサーを使用すれば、数がかさむだけで使用は可能なのだという。
ちなみにこのコンデンサーは、曇り空などで発電量が低い際に、そのままではバッテリーなどに充電出来ない為、一旦このコンデンサーに貯めて、バッテリーに充電可能な電力にしてから充電する為の物だ。
キャパシターやバッテリーの大容量化・低価格化に伴って、発電設備に一時蓄電設備が併設される様になった為、このコンデンサーも需要も上がっており、在庫は充分あるだろうとの事だ。
量産はともかく、実用に耐えるレベルにするのに数ヶ月と掛からないだろうと言う話だ。無論、消耗するであろうレールを予備として持つなどの対策込みでだ。
そして、次にダンジョンレベルの話になった。
「ダンジョンレベルの件はどうしようも無いんだな?」
「はい、分かりません。根本的には、何がレベルの基準に成っているのかすら分かりませんから」
今回、『大阪ダンジョン』の水晶柱に触れた際、ダンジョンレベルを確認出来ないか、色々やってみたんだが出来なかった。
「もし、レベルの低いダンジョンが見つかったら、そちらから攻略する事で成功率を上げられたんだが…」
残念ながら無理だ。もしそれが可能なら、簡単な所を1ヶ所でも消滅出来れば、その後はそこに張り付いていた人員を別の場所に回せる。
そうすれば、高レベルモンスターが湧き出してきている現状でも対応出来るようになるかも知れない。
その後、更に細かな事を聞かれた後、何とか開放された。
だが、その日の夕方には再度呼び出され、今度はお偉いさん10人以上に囲まれて、同じ事を話す事になった。
幸いだったのは、誰も、ダンジョンを秘匿した事について文句を言ってこなかった事だ。
まあ、今更の事だし。結果として、今がある訳だからね。
だた、一人だけ「大氾濫と、お前達が潰したダンジョンに因果関係があるんじゃ無いか?」と言って来た者が居た。
当然、肯定も否定も出来ないのだが、家のダンジョンが消滅してから、1ヶ月以上経ってからだった事と、その直前にニューヨークにダンジョンが発生している事からも、因果関係は少ないと思うと答えた。
それで納得してくれなかったけどね。あーだこーだ言われても、俺達に分かるはずもない。
そんな若干、責められている感が有る中、碧が開き直った言葉を発した。
「聞かれても分からない事聞いてど~すんの? 今聞く事? 聞いて何か対処出来るの? 私達のせいにしたければ好きにすれば? お兄、家に帰ろう、こんなヤツらにもう協力してもしょうが無いよ。私ら4人なら何とでも生きていけるし」
俺もこの発言には驚いたが、この場に居た大半のお偉いさん方も驚いた。
問題の発言をした1等陸佐とか言う階級のおっさんは、凄い目で碧を睨んでいたが、周囲の他のお偉いさん方が慌てて碧を取りなし始めた。
さっきまでの上から発言は何だったんだって感じで、どこのセールスマンだよって感じだった。
どうやら、今俺達に居なくなられたら『ユーザー登録作戦』が実行不可能になると言う事が原因の様だ。
この時点では、まだ壁作り練習用人員は入っていないので、他の班を作れる状態ではない。
ジャンパーは居ても、壁によるセーフゾーンを構築出来る者が居ないのだ。
更に言えば、俺達をこの場で拘束する事も不可能だ。ここに居る者で『ユーザー登録』をした者は誰一人として居ない。
彼らが外部の者を呼び込む前に、素手でも簡単に殲滅出来るだろう。その上で悠々と『転移』で逃げられる。
彼らはその事は充分に分かっていた。何せ、その戦闘力を求めて『ユーザー登録作戦』を実施していた張本人達なのだから。
そして現状、そんな冒険者の中で俺達が最大の戦闘力を有していると成れば、手出しは不可能って事だ。
つまり、懐柔するしか彼らに手は無い。そう言うことだ。……まあ、理屈では分かる。でも、その対処の早い事早い事。
結局は、大急ぎで件の1等陸佐に謝罪させる形で、かなり強引に話を納めた。
そして、ある程度場が治まった所で、また碧が違う爆弾を落とす。
「あのさ、実際、私達を疑う前に考える事があるんじゃ無い? 発生したダンジョンの数、数えてみなさいよ。665に家の1個を入れれば666個でしょ。いかにもな数じゃ無い。で、その666個目のダンジョンが発生したと同時に大氾濫。ど~見でも数が原因って考える方が普通でしょ」
この瞬間、この場から音が消えた。
あの1等陸佐ですら息をのんだぐらいだ。そして俺もだ。気付いていなかった。…改めて思う、俺はアホの子だと。
第3次ダンジョン発生までは、家のダンジョンも計算して考えていたが、『大氾濫』以降はその計算をしていなかった。
計算を必要とする場が無かったからではあるが、足してさえ居れば、この不自然な数字に気付かないはずが無い。
不自然に揃った数字、某ホラー映画で一躍有名になったぞろ目の数字…
確かに、何らかの行動のトリガーとして使われた、と言われれば納得出来るモノでは有る。
「666…、確かに…」
「アレは、モンスターでは無く悪魔だと言うのか?」
「いや、たまたま大氾濫発動切っ掛けとしての値で、ダンジョン全てをその数字が象徴しているとは…」
「アレは悪魔では無く、獣だったのでは?」
一瞬の静寂が破られると、後は混乱と戸惑いの騒音で部屋は満たされた。




