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46話 三佐を○○せし者達

 『転移』で高校内に設置された休憩室に戻ってくると、10名を超える『冒険者』達が俺達の帰りを迎えてくれた。

 数名、知らない顔が見受けられるが、彼らも俺達の帰還を喜んでくれている。

 「無事だったか」「(おせ)ーから死んだかと思ったぞ」「良かった」等と口々に言ってくれる。

 殆どがムサイおっさんだらけなので、潤いは無い。だが、本気で俺達の無事を喜んでくれているのが分かるので、結構嬉しい。

「…お嬢ちゃんが持ってるのは、デビルホーンの角じゃ無いのか?」

 そんな中、自称32歳で45歳位にしか見えない近藤のおっさんが、碧の持って来た『デビルホーンの角』を指摘した。

「そだよ、2重のストーンウォールを崩して襲ってきたから、狩って来たの。胆嚢(たんのう)落とせば良いのに、落とさないんだもん、腹立つー!」

 デビルホーンの胆嚢(たんのう)は『中級回復薬』『上級回復薬』『中級回復進行剤』などポーションの錬金素材と成る。

 碧的には、使えない武器にしか出来ない『角』より、ポーションとして使える胆嚢(たんのう)の方が欲しかったんだろう。

 おれも、一定時間ごとにHPが少しずつ回復する『中級回復進行剤』は結構使うので、『角』より胆嚢(たんのう)の方が良い。

「おい、デビルホーンって、確かレベル50台半ばじゃなかったか?」

「ああ、レベル53~56だったはずだ。……ついに、55クラスが出始めたって事か」

 この休憩室に居た『冒険者』の大半がこの事実に衝撃を受けていたようだ。

「確実に、出て来るモンスターのレベルが上がってるって事だな…」

 近藤のおっさんの顔にも、更なるシワが出来ている。外見年齢+5歳って感じだ。

「レベル60台のグリフォンが出て来ない限り、しばらくは大丈夫だよ。オクトパス・スライムとか移動は殆ど出来ないから、ダンジョン周辺でミサイルでボンでしょ」

 碧が言う程簡単では無いにせよ、当座の問題はグリフォンなのは間違いない。なんと言っても飛行能力を有しているのだから。

 こいつは、レベル60に見合った強さを持った上で、機動力も有る。実際に屋外でどれほどの速さで飛行出来るかは未知数だが、キラー・ビーより遅いと言う事は無いだろう。

 グリフォンが出て来れば、現在の30キロ包囲網は簡単に突破される可能性がある。

 無論、ダンジョンにいた時と同様に、モンスターは目先の人間に襲いかかってくる為、その包囲している人間を無視してその包囲網の外に向かう事は今のところ無い。

 だが、包囲網は現状ザルだ。方々に隙間がある。その隙間をたまたま通れば、包囲網を出る可能性は有る。

 実際、キラー・ビーやジャイアント・バットで実例が幾つもあるのだから…

 だが、『冒険者』達の表情は優れない。碧の発言に微妙な顔をしている者が大半だった。

 その理由は、ここに居る大半の者がレベル45~50帯で活動していた者ばかりで、その上のクラスとの戦闘経験を持っていなかったからだ。

 あのアマゾネ…『女性冒険者』2名も、活動範囲はレベル47帯当たりが中心で、レベル50以上のモンスターとは遭遇した事が無いらしい。

 やはり、俺達は感覚が少しおかしくなっているようだ。

 俺達は、自宅に専用ダンジョンが有った為、他の『冒険者』より圧倒的に効率良く狩りが出来ていた。

 その感覚で考えると、『冒険者歴』3年以上はレベル60帯以上に居るのが当たり前だと思ってしまっている。

 そして更に、彼らは俺達のように、無駄な余裕を持って帯域を選択していない為、レベル差5も有れば死の危険が伴うのだろう。

 彼らの活動帯域は、そのまま彼らのレベルと同義だと言う事だ。それも勘違いしないようにしなくちゃいけない。

 しかし、…実際の所いつまでこの包囲網を維持していられるのだろうか?

 幾つかの国は、既に包囲網すら存続出来ない状態になっている所も有るらしい。

 国によっては、軍備の乏しい国も多く、事実上の放置状態になっている所も有るのじゃ無いかと思う。

 さすがに発展途上国などのような、元々マスコミのネットワークが出来ていない所の情報は全く入って来ていない。

 多分、爆撃装備が無いとはいえ、世界で5指に入る軍備を有する日本は、まだ良い方なのかも知れない。

「俺だとレベル55以上はキツいな…」

 俺達を転移してくれた畑山氏も暗い顔で呟いている。それに同意するように頷く者も多い。

「……取りあえずは、俺達は包囲網の維持で良いんだから、高レベルモンスターに当たる事は無いさ」

 俺達に自衛隊が現状求めているのは、近藤のおっさんが言うように、弾薬の消費を抑える為の包囲網からの殲滅行動だ。

 で有れば、ダンジョンから出て来たばかりの高レベルモンスターに出会う可能性は低い。

 ダンジョンから出て来たばかりのモンスターは、しばらくはその周辺をうろつく為、一気に外へと向かって移動すると言う事は無い。今のところ……

 だから、その間に迫撃砲や対地ミサイル等で殲滅している訳だ。それが出来ている間は、何とか成る。

「一応、ガソリンなんかを散布して、それに火を付けるナパーム擬きも準備中らしいから、それが出来りゃぁだいぶ楽になるって言ってたぞ」

 自衛隊も、効果的な装備が無いなりに何とかしようと頑張ってはいるみたいだな。

 話を詳しく聞いてみると、一つの兵器としてでは無く、輸送ヘリで上空からばら撒いてミサイルなり発光弾等で着火爆発させると言う、思いっきり手作業だった。

 武器では無く、作戦レベルのモノだな。

 そして、ナパームと言うよりも、燃料気化(サーモバリック)爆弾の方が近いかも知れない。

 多分、実施すれば、空中散布したガソリン等は空中で気化し、地上に液体で降り注ぐ量は僅かになるはずだ。

 その為、着火された場合は空中での爆発になり、その爆風とその際の熱がダメージ源となるだろう。

 ナパームのように粘着性の炎で長時間炎を維持する物とは、かなり趣が違う事になる。

 …これが漫画やアニメなら、数日でそれっぽい爆弾が作られ、それを一か八かで主人公が使用するってのがパターンだが、現実にはどんな簡単な武器でも数日で作る事など出来ない。

 この『空中散布→着火』と言う方法も、散布ヘリへの影響、散布する装置の選択、散布量の適正値、着火装置の選択とその為の安全距離等々の問題が当然有る訳で、この方法すら一朝一夕には出来ないだろう。

「一応な、正式に決まっちゃいないが、その空中散布の際、飛行モンスターからヘリを守る為に俺らにも乗ってもらう事になるかも知れないって話だ」

 どうやら、近藤のおっさんは、一番早くからこの駐屯地に来た事も有って、自衛隊側との間にそれなりの関係を既に築いているようで、そんな情報も手に入れているようだ。

「自衛隊のダンジョン経験者は、戦車や攻撃ヘリの守りにメインで付いてるからそっちにやれる人員が居ないらしい」

 『大氾濫』当初からこっち、複数の攻撃ヘリ、戦車がモンスターによって破壊され、乗員が戦死している。

 旧型の90(きゅうまる)式戦車はもちろん、新型の10(ひとまる)式戦車も追加装甲装着状態でモンスターの魔法による集中砲火によって破壊されている。

 無論、それまでの間、かくやくたる戦果は上げている。しかし、無敵たり得なかったと言う事だ。

 その為、現在では『Mシールド』等を使える、通称D徽章(きしょう)と呼ばれるダンジョン経験を持つ隊員を随伴している。

 自衛隊は、ダンジョンが民間開放された時点で、基本的にダンジョンへとは入れなくなった。

 その為、ここ6年は新規の『ユーザー登録』が行われていない。無論、正式にはと言う但し書きが付くけどね…

 個人で、あるいは身分を偽ってダンジョンに潜っていた者が居たにせよ、その数は限られている。

 そして、一般開放以前の者達の大半は、以前言ったように『超不効率成長』の為、魔法やスキル所有数は多いが、パラメーターは低い者が大半だ。

 つまり、一定以上のモンスター相手に、実践レベルで随伴可能な者はある程度限られていると言う事だ。

 そしてそれは、戦車、攻撃ヘリの随行員で手一杯と言う事なのだろう。

 逆に、戦車や攻撃ヘリのように、搭乗員数に限りが有るモノには、俺達のようなド素人を乗せる余裕は無い訳で、俺達が変わる事も出来ない。

「シールド系持ちは居る?」

 碧が周囲を見回しながら尋ねると、4人程の手が上がっている。

 ついでに、『女性冒険者』の膝の上に居たぺんぺんも右前足を上げていた… ぺんぺんの場合はマジックアイテムのだけどね。デボも『Mシールドリング』を持っているが手(?)は上げてない。

 俺達も、今回の修得でシールド系を取ろうか悩んだんだが、マジックアイテムで複数所持している事もあって取らない事にした。これは結構最後まで悩んだんだよ。

「結構居るんだ。念のため、空歩持ちの方が良いよね、行くなら」

 ……周りで、「落ちた時の用心か」とか「なるほどな」等と言う声が聞こえているが、どうなんだろう?

 散布するとしたらそれなりの高度を取ると思うんだが、そんな高度から『空歩』で降りられるだろうか?

 HPがある程度高く無いと厳しい気がする。……その時はポーションを持っていかせるようにした方が良いな。念には念をだ。

 その後、情報交換と自己紹介を終えた後、「このデビルホーンの角、誰かいる?」と言う碧の言葉で、また一騒動起こった。

 レベル45帯で活動していた者には、『デビルホーンの角』から錬成出来る『デビルホーンの剣』はそれなりに良いモノらしく、欲しがる者が多かった。

 結局は、ジャンケンでの勝負に勝った森村と言う30歳の男性が獲得した。錬成は本人が『錬金術』を持っているので出来るとの事。

 最後に近藤のおっさんが、一応ここの古参と言う事で、「金になるモノはともかく、それ以外のモノだったら、有る程度皆で融通し合って行こうや」と纏め、皆それぞれにうなずいていた。

 やはり今ここに居るメンツは、金銭以外の理由で集まっている関係か、有る程度まともな者が多い気がする。

 そう言う意味では、俺達4人が一番駄目なヤツらなのだろう。少し危なくなったら、逃げる気満々だからね。

 『女性冒険者』二人からデボとぺんぺんを取り返して、俺達は一旦各自の部屋に戻り装備を外した。

 もう少し、状況が緊迫してきたら、就寝時以外は防具は着けた状態でいるつもりだが、今はまだ大丈夫だろう。

 その後、報告もあって駐屯地へと行く事にする。

 今回の事の報告だけなら、教えられた担当官への電話だけで済んだんだが、現状の立体地図が置かれた部屋を確認しておく為、全員で向かう事にする。

 本来は、高校の敷地から自衛隊駐屯地へと入る通路は無い。ま、当たり前の話しだな。

 だが、それだと無駄が多い為、敷地を隔てている塀を壊し、通路が設けられている。俺達は、そこを通って駐屯地へと入った。

 ただ当然ながら、立哨2名が立っており、誰何(すいか)される。

 今日、俺が往復した際も、ダンジョン入場許可証と自衛隊用のゲストカードを提示して通ったのだが、今回はフリーパスだった。

「その子達が、あの江原(えばら)三佐にお灸…… ご苦労様です!」

 デボとぺんぺんを見ると、なにやら言いかけて、ビシッとした敬礼で通してくれた。

 まあ、色々有ったんだろうな…

 その後、事務所へと行き、受付で帰還した旨を伝えた。

 俺たち的には、担当官を呼ぶまでも無いので、受付に報告だけで済ますつもりだったが、何故か担当官の部屋まで連れて行かれてしまった。

 そして、結局10分以上にわたって細かな事まで聞かれる事になった。

「我々としても、水晶柱には興味があるんだよ」

 一通り質疑応答が終わった所で、お茶を一口飲んだ担当官はぽつりと呟いた。

「本来、この戦いは我々自衛隊だけで対処すべきモノだ。君ら民間人に頼るべきものでは無い」

「だが、残念な事に、現実として対処出来る戦力に限りが有る、そして、弾薬にも限りが有る。故に君たちに協力を願っている訳だ。心苦しい限りだよ」

「この事態は、残念ながら短期間で対処出来る状況では無い。と成れば、最終的な戦力となるのは魔法・スキルというダンジョンで手に入れた力となる確率が高い」

「出来る事なら、既存のD徽章(きしょう)達のレベルアップはもちろん、新規のユーザー登録も行いたいんだよ」

 確かに、当然の考えだよな。戦力が足りないのなら、新たに作り出せば良いのだから。

 そして、物資と違って、『冒険者』は水晶柱によっていくらでも(?)作り出せる訳だ。今までやってこなかった事が不思議な位だ。

「あのー、何で今までやらなかったんですか?」

 碧も俺と同じ疑問を持ったようだ。…一応、碧のヤツも『冒険者』のおっさん連中に対する時のような口調は使わない分別は有ったみたいだ。良かった。

「自衛官は、高い金を使って育てられているんだ。状況の分からない作戦に参加させる訳にはいかんのだよ」

「それに、実行しようとなれば、最低でも1人転移持ちを投入せざるをえん。だが、転移持ちは貴重でな、尚更上の許可が出んのだ」

 担当官は、少し自嘲気味に薄く笑っている。

 ダンジョン外で、魔法やスキルが使用出来るようになった事で、一番大きな力を発揮したのが『転移』だった。

 沖縄→ワシントンDC間の転移も成功している位だ、多分世界中どこへでも、ポイントさえ前もって記録してあれば転移可能なはずだ。しかも一瞬で。

 個人だけで無く、体積にもよるが8人ぐらいまでの人員の移動や同体積の物資の移動も可能だ。

 無論、一日2回という制限は有るがそれは複数人で対処すれば良いだけの事。

 この非常時であるが故に、多用される能力だと言う事だろう。故に、使い潰す事を躊躇してしまうと言う事だ。

「だったら、私達が連れて行きましょうか? 私達だったら、デボとぺんぺんは体積的に1人分にも成らないから、後5・6人は連れて行けると思いますよ」

 こらこら、勝手に交渉するな。俺は慌てて、横に座っている碧を突く。

「いーじゃん、私達もさっき連れて行ってもらったんだから、今度は私達が送る番」

 ……そう言われると拒否しづらい。無理を押して畑山氏に頼んだ立場としては……

「それにさ、今ならまだ大丈夫でしょ。今日のである程度勝手も分かったし。次は私達は水晶柱使わなくて良い訳だから、その間防御も出来るしね」

 ペン

 ツン

 俺の腕の中のぺんぺんが腕を叩き、碧の腕の中のデボはそこから俺の腕を突いてきた。

 ……また、3対1だ。偶数なのに、一度も2対2に成った事が無い不思議…

 状況次第では有るけど、出来ない事はないのは間違いない。だからこそ俺達は実行した訳だし。

 人数が増える事で、多少のリスクは増えるが、それはあくまで全体としてのリスクであって、俺達4人に限定すれば変化は無いともいえる。

 ……

「……一応、近日中なら出来ますよ。ただ、その時の状況次第です。さっき報告しましたようにレベル55クラスのモンスターが居たように、もっと上のクラスが偶然集まっている可能性も有りますから」

 担当官は俺の話を聞いた後、しばらく目を閉じてジッと考えていた。そうそう簡単に「じゃあ、やりましょう」なんて言える訳が無い。彼は、ただの『冒険者』向けの一担当官に過ぎないのだから。

「了解した。今の件は上に具申して見よう。それ次第だが、その際は頼む事になるかもしない」

 担当官が言えたのはそれだけだ。実際、具申が通らない可能性の方が多い気がする。

 自衛隊も官僚機構と同じ様なモノみたいなので、基本冒険はしたがらないはずだから。

 もし、まかり間違って協力要請が来たら、自分たちの安全を最優先する形で了解を取った上で協力する事にするか。多分無いとは思うけどね。

「分かりました。あまり日にちが経つと、高レベルモンスターが増える可能性がありますので、出来るだけ早くでないと無理ですよ」

 一応、こう言っとけば問題無いだろう。仮に話が通ったとしても、直ぐには動くはずも無い。時間が経てば経つ程、断る理由が出来る。完璧だ。

 担当官がうなずいたのを機に、俺達はその場を退いた。…よし、言質は取った。

「一回5人として、畑山さんも入れれば1日10人はユーザー登録出来るよね。その後のレベルアップの問題も有るけど、1ヶ月で100人位は戦えるように出来るんじゃない?」

 …何をもって『戦えるようになる』と言っているのか微妙に分からないんだが。って言うか、畑山氏も巻き込むつもりかよ。

 まあ、俺ら4人が防御要員で付けば行ける事は行けるだろうけど、本人がやると言うかは分からないぞ。

「あのな、多分、この話は通らないぞ。ニュースで見てただろ、自衛隊って現場はともかく、トップ連中は官僚と変わらないからな、先ず許可が出ないよ」

 いわゆる制服組と背広組と言うヤツだ。実質官僚で有る背広組が許可するはずが無い。

 仮に許可したとしても、無駄に長い時間を費やす為、結果として実行の期を逃す事になるはずだ。その場合の為の布石と言質は取ってある。

「えぇー! そんな事無いでしょ! 今緊急時だよ! 戦争中だよ! 大戦だよ! ハルマゲドンなんだよ!! 官僚がどんなにバカでもそこまでバカじゃ無いでしょ?」

「甘いぞ、日本の官僚を甘く見たら駄目だ。てって~てきに、融通が利かないのが、日本の官僚なんだよ。自分達の立場さえ守れれば国がどう成っても良いって思ってるのが官僚なんだよ」

「そこまで酷くは無いでしょ? って言うか、だったら逆に自衛官や冒険者の命なんか気にせずに、ダメ元でやらせるんじゃない?」

「あのな、官僚が一番気にするのは、『自分に掛かってくる責任』なんだよ。失敗するかも知れない事を命じた責任を取りたくないから、承認しないって可能性の方が遙かに高いぞ」

 『責任』については碧も思う事が有る様で、う~ん、と唸っている。

 まあ、実際の所どう成るかは分からない。

 ただ、俺の知っている官僚というイメージからすると、認可されないと思える。無理はしたくない俺的には、初めて「GJ官僚」と言いたい。

 碧はまだブツブツ言っていたが、それは無視して2回の会議室へと向かう。

 その会議室は、学校の教室より心持ち広い位の面積で、中央部に大阪を中心とする地図の立体模型が設置されていて、窓の反対側の壁側にはホワイトボードが3つ並べてあった。

 地図は、発泡スチロールで作製されており、街も航空地図を貼り付ける形で全て詳細に分かるように成っていた。

 その上で、方々に自衛隊側の戦力を示すピンが立てられ、それぞれに所属する部隊数まで書かれていた。

 そして、(くだん)の包囲網内には、モンスターごとの写真が付けられたピンが方々に立てられており、大まかなモンスターの分布状況も分かるように成っている。

 俺達は、これが初めてだったので、時間を掛けてこのマップをつぶさに見ていたんだが、その間に自衛官達も何人も訪れ、状況を確認して出て行く。

 この部屋は、『冒険者』用ではなく、自衛隊でも情報の共有をする為に使われているようだ。

 ただ、来る自衛官、来る自衛官全てが、ぺんぺんとデボを見て、「おおっ! アレが例の三佐を…」と言って、立体地図の枠に座っていた2匹を撫でて行くのだった。

 何人かは「良くやった」と言ってたよ…

 この部屋は、立体地図もだが、3枚のホワイトーボードも情報の塊だった。

 このホワイトボードには、時系列で何を実行したか、そしてこの後の予定が書かれてあり、古くなった分を消しながら追いかける形で書かれていた。

 これには、実際に行った作戦の大まかな成果も書かれており、状況把握の一番の材料になった。

「お兄ー、私知らなかった、大阪周辺てムチャクチャ自衛隊関連施設が多いんだね」

 碧が立体地図にポイントされた自衛隊施設を見回しながら、指折り数えている。

 確かに多い。30キロ圏内に駐屯地だけで6ヶ所以上有る。一部は放棄して、人員と物資の集中を行って居るみたいだが、そこを橋頭堡として包囲網を維持しているようだ。

 既に死者もかなりの数に上っていると聞く。こう言う事を聞くと、『取りあえず危なくなったら逃げよう』と思っている俺としては、酷くやましい気持ちになってしまう。

 だから、どうしても碧達の意見を強固に拒めないんだよ。色んな意味でヘタレなんだよな、俺は。困ったもんだ…

 一通り確認が終わり、出て行こうとした時、2人の自衛官が入って来て、ホワイトボードと立体地図に分かれて、変更を始めた。

 立体地図には数カ所の新たな航空写真が貼られ、元の町並みが瓦礫へと変わって行き、その場に有ったモンスターのピンが全て取り除かれた。

 そして、新たに3ヶ所モンスターの集団がピンで作られる。

 ホワイトボードには、予定として書かれたモノに結果が書かれ、何故か、ダンジョン出入り口に転移した俺達の事も書かれていた。

  ・冒険者5名による、大阪ダンジョン出入り口への転移による強行偵察及びレベルアップ作業 成功

  ・現時点における、水晶柱正常動作が確認された

  ・レベル55クラスのデビルホーンと遭遇、これを撃破

 …こう書かれると、正規の作戦だったかのように見えるな。

 強行偵察って… 別にそのつもりは全く無かったんだけど。いや、そう言えば碧のヤツが『私達が勝手に検証』とか言ってたから、偵察って言えば偵察になるのか。

「何かこう書いてると、やった~って感じがするよね~♪」

 碧もだが、若干ぺんぺんの鼻の穴も広がっているような気がする。デボは両方の羽をぱたぱたと羽ばたかせている。こいつらは……

 多少浮ついた状態の3人を引っ張って、俺は外へと出た。

 さすがにもう夕方だけ有って、薄暗くなり始めていた。

 この施設には大型発電設備が有り、商用電源が停止しても電力の維持が可能らしいのだが、現在はまだ商用電源にて外灯などが付いている。

 そんな中を学校側の臨時門へと向かって歩いていると、碧が急に「あっ」と小さな声を上げると慌てたようにパーカーのポケットを探り始めた。

 電話のようだ。しかし、誰からだ?

 (うち)の電話は公共機関と『ダンジョン管理機構』位にしか教えていない。既に学生時代の友人達との交友も無くなった。

 その為、一番多く掛かってくる電話が『間違い電話』だったりする。どこの引きニートだよって話だ。

「はい、…はい、そうですが。……えっ! 本当ですか! はい、分かりました。では明日ですね。……はい、分かりました」

 何だ? 碧が敬語って事は…

「お兄ー! あの作戦、OK出たって!! 明日朝9時に担当さんのあの部屋まで来てくれって!! やったね!!!」

 ……チョット待てー!! マジか? マジなのか? どーした背広組!! 何時もと全然違うじゃないかー!!

 何時もの無能さはどうした! 即決即断とは正反対だっただろう!

 いや、今後の事を考えれば、間違いなく良い事なんだよ。背広組がマトモに機能しているって事だから。

 でも、納得いかないぞ。納得いか~~~ん!!

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