45話 行けば分かるさ
「畑山さん、俺達をダンジョンまで転移させてもらえませんか」
話の流れて的に予想は付いていたのだろうが、やはり驚いたようで、その目が見開かれた。
「いや、無理だよ。知ってるだろ、一秒に1匹ずつ出て来るような状態の中に転移したら、直ぐ死ぬよ」
「あ、大丈夫です。転移したら、直ぐに一人で戻ってもらって構いませんから。1~2秒でしたら問題無いでしょう?」
この時点で、この会話に他の『冒険者』達も慌てたように入って来て食って掛かってくる。
「おい、止めとけって。死にに行く気か? 出入り口は定期的に爆撃してるけどよ、直ぐに修復されてドバドバヤツらが溢れてきてるんだぞ」
「そうだ、そうだ。中にはレベル50クラスも入ってる。ひょっとしたら今頃レベル60クラスが居るかも知れねーんだ」
「行って何しようって言うんだ? あんたらがレベル60の帯域まで潜れてたとしても、ワラワラモンスターが居る中じゃ何も出来ないだろう」
「無駄死にするだけだ。止めとけ」
全員が、俺達の事を心配してくれているのが分かる。お義理や、馬鹿にするような態度は無い。
義勇軍のような形で、こんな金にもならない戦いを買って出るだけ有って、結構いい人達のようだ。
「大丈夫、大丈夫、取りあえず行って、お兄ーが転移ポイントを取ったら直ぐ帰るよ。様子見、様子見。水晶柱使えるような状況か分かれば後が楽でしょ」
相変わらず碧は軽い。実際、状況を見て、無理そうならポイントすら取らずに『転移』で戻るつもりだ。
場合によっては、転移ポイントを取る0.1秒が致命的になる場合も有るから、そこら辺は考えている。
「一応、俺は、転移を実行するのに1秒掛かりません。ですから、最悪でも帰る事は問題ないので、送って頂けるだけで結構です」
スキルの発動時間は、個人差というモノは無い。誰が起動しても同じ起動時間が掛かる。
ただ、それは言わば魔法における『詠唱時間』のようなモノで、その前提と成る準備の段階は個人によって変わってくる。
つまり、スキルを発動しようとする思考速度や記憶しているポイントを選択する速度だ。
他の魔法やスキルも同様で、種類によっては更に照準を設定する速度なども含まれる事になる。
そう言った意味では『知力』の値が高い程早く発動出来ると言う事に成る。このダンジョンの『ゲームシステム』では『知力』が一番影響力が大きい。
『冒険者』達は、俺の話で一瞬考えたが、やはり口々に「やっぱり止めておいた方が良い」「もしもって事がある」等と言って止めてきた。
その後も同様の会話がしばらく続いたが、なんとか畑山氏の説得に成功した。
「……良いけど、向こうに転移可能なスペースが無かったら、転移じたい出来ないよ。……3回試して転移出来なかったら、もうしない。それで良い?」
『転移』は、目的転移座標に何か物体が存在した場合、有る程度の範囲内で座標をずらして転移する。
その為、いわゆる『壁の中に居る』と言う事は発生しない。
だが、その猶予範囲内全てに何らかの物体が存在する場合、『転移』自体が実行出来ない。この場合MPだけが消費される。
「うん。それでOK、OK。大丈夫。だって、一秒に1匹のペースでしょ? 出て来るの。余裕有るって。ガラガラだよ」
ガラガラとまでは行かないが、よほど大型の個体がその場に居ない限り問題無いはずだ。
更に言うと、ダンジョンの出入り口は直径2メートルの筒状なので、それ以上の大きさのモンスターは出て来る事が出来ない。
だから、こちらのフォーメーション次第では充分に『転移』可能だろうと俺は思って居る。まあ、実際は試して見ないと分からないんだけどね。
畑山氏はもちろん、他の『冒険者』達もまだ言いたい事は有ったようだが、諦めてくれたようだ。
と言う事で、話が決まった訳だ。
で、先ず、自衛隊へと爆撃の確認に行った。
ダンジョン出入り口付近は、一番モンスター密度が高い所なので、定期的な攻撃が行われている。
その為、『大阪ダンジョン』の施設は完全に破壊され、瓦礫すら存在しない状態になっているらしい。
ダンジョンの自然回復によって破壊され埋められても半日で復活するのだが、その間はモンスターの流出が止まると言う副次効果も有る。
ただ、復元直後は通常よりも多い数が一気に出て来る為、トータルとしての流出数を抑える効果は無い。
世界中で地中貫通爆弾等によるダンジョン破壊が試みられたが、成功した例は現在まで報告されていない。
現在、最も効果的な戦術は、定期的なダンジョン周辺へのナパーム攻撃だ。出て来るモンスターを一定範囲内で殲滅し、周囲に広がったモンスターを包囲殲滅する訳だ。
ちなみにナパームは色々問題が指摘され、現在は大半の国で無い事に成っているので、実際はMark77等の別物と言う事には成っているモノが使われている。
日本の場合は、ナパームはもちろん代替え品すら所持していない、更に言うといわゆる『空爆』に必要な爆弾及びそれらを積載する装備すら持ち合わせていない。
自衛隊と言う名の縛りの為、航空爆撃能力を排除されてい訳だ。結果この戦術を効果的に行えない現状がある。
その為、FH70の様な榴弾砲や各種誘導弾を使う事で補っている。費用対効果がかなり悪い。
一番費用対効果が高いのは、攻撃ヘリによる機関砲掃射だが、既に数機が魔法や飛行系モンスターの攻撃によって破壊されており、現在は実行されていない。
更に、日本の場合は、周辺設備の破壊を躊躇った為に、この戦術を実行するのが遅れた。その結果周囲へ拡散したモンスターの数が多過ぎて包囲が縮められずにいる。民意が強すぎた故の弊害だ。
費用対効果は別として、この戦術は、時間さえ掛ければ効果を発揮するものだ。だが、残念ながら前言ったように『弾薬には限りが有る』訳だ。
つまり、そうそう長くは続けられないと言う事だ。日本の場合は特に。
大分話がズレたが、その攻撃が何時行われるのかを聞いておかないと、モンスターでは無く、自衛隊に殺される事になってしまう。
と言う事で、『冒険者』用の担当官を訪ねて、確認をしてもらった。
無論、反対はされたが、水晶柱によるレベルアップの必要性は彼らも分かっているので、「タダで私達が勝手に検証してくれるって思えばお得でしょ」と言う碧の軽い言葉に微妙な表情を浮かべつつも了解してくれた。
確認の結果、今度の爆撃は明日の正午で、前の爆撃時間から考えてダンジョン入り口は復活しているであろう事も教えられた。
「時間から考えて、閉鎖中、中で詰まっていたヤツらも出て、1秒1匹位に戻ってる頃か?」
「大丈夫、大丈夫、行けば分かるよ」
……相変わらず碧には理論が無い。若干アゴな人に毒されてる感がある。そう言えば、赤いタオルばっかり使ってたな…
それは別として、まあ、試して見るか。『転移』が成功した時点で密度がさほどでは無いって事に成る訳だから、何とか成るだろう。最悪直ぐ『転移』で逃げても良いし。
と言う訳で、とっとと宿舎へと帰ってきた。
そして、休憩室に行くと畑山氏達はまだそこに屯ったままだった。
そして、他にも5人の『冒険者』も来ており、その中には2名の女性もいた。
……何となく既視感を覚えたので、よく見てみると、その2名の女性は俺が初めて『大阪ダンジョン』へと行った際出会ったアマゾ…『女性冒険者』パーティーの中の2人だった。
二人は、あの時とは全く違う表情で、デボとぺんぺんをそれぞれ膝の上に載せて撫でている。
以前と同様、化粧っけは全く無いスッピンだが、以前の様な怖さは全く無く、女性らしく見えた。
その後しばらくは、その新しい5人からも諫められるなど有って、無駄な時間を使ってしまった。
まあ、心配してくれてる訳だから、有る意味有りがたい事ではあるんだよ。面倒ではあるけどね。
一通り説得が終わると、部屋に戻って全員が装備を身につける。もちろん、畑山氏もフル装備だ。
「と言う事で、畑山さん、よろしく~」
俺達は、畑山氏を挟む形で何時もの転移用ポジションを取る。
「……分かったよ。3回だよ。3回出来なかったら終わりだからね」
「は~い」
ため息交じりに宣言する畑山氏に、碧は何時も通り軽く、俺はうなずくだけで返した。
「じゃあ、行くよ」
他の9人が見守る中、俺達は転移した。
意外にも『転移』は一回で成功し、何時もの落下感と共に風景が一瞬にして変わる。
転移時俺が向いていた方向はダンジョンの外だった。
目前5メートルにトロールがいた。こいつは、レベルは25~31と今となっては大したことはないんだが、ガタイが異常にデカいんだよ。
…そんな全長3.5メートルは有るこいつが、半径2メートルの出口を潜って来たって事か。マジかよ。匍匐先進したのか?
それ以外にもノームやミニ・トロールの姿も見える。
そんな状況を見ながら、即座に畑山氏の肩に置いていた手を外す。既に畑山氏は『転移』を実行する体勢に入っているだろう。
俺は、肩に碧の手が置かれるのを確認しながら、反対のダンジョン側に目を向ける。
その途中で、直ぐ横にいたグレムリンの首に碧の龍槍が吸い込まれていくのが見えた。…大丈夫そうだ。
既に最大限に加速された思考速度によって、周囲の動きはスローモーションと化している。マジックアイテム込み『知力』34『素早さ』33はダテではない。
もどかしい程に遅い眼球の移動にイラつきながら、視界に入ってきたダンジョン側には3匹のモンスターが見えた。
イエロー・キャタピラー1匹、サーベル・ドッグ2匹だ。距離は7メートルはある。よし、大丈夫だ。
それだけ確認すると、俺はこの地を『転移』のポイントとして記録する。
俺がポイントを記録し終わった瞬間、畑山氏は転移して消えたのが目の端に映った。
そして、それと同時にダンジョン側に『アイス・ウォール』が発生し、こちらに向かっていたモンスター達との間を遮断する。
再度目線をダンジョン外へと向けると、真正面に既に『ストーン・ウォール』が1つ出来ており、デボは次の『ストーンウォール』の準備に掛かっていた。
この思考速度が加速された世界では、言葉によるコミュニケーションが不可能だ。意思の疎通が出来ない。
故に、前もって行動を有る程度決めておき、それに従って実行しつつ、予定外の事には臨機応変に対応するしか無い。
俺達は、この2年半以上の月日で、こう言ったリアルスキルを身につけてきた。故によほどのイレギュラーが発生しない限り問題は無い。
ぺんぺんとデボが、各自のウォールを作る間、俺と碧はウォールが無い場所から来るモンスターを牽制し続ける。
ぺんぺんは、ダンジョン側に2つの『アイス・ウォール』を作ると、ダンジョンの天井部分に当たる外側から『アイス・ウォール』を作って行く。
デボは、正面側から向かって右に、順次『ストーン・ウォール』を築いていった。
俺は、直近で最大の戦力であるトロールを中心に『サンダー・インフェルノ』を連発し、碧も反対側に向かって『ファイアー・インフェルノ』を叩き込んでいる。
MP残量など気にせず連発する。
天井部分を含む全周囲が、2重に2種類のウォールでふさがれた時点で、俺の脳内マップに映る赤い光点は周囲20メートル圏内には居なくなっていた。
無論そこから範囲限界である40メートルの範囲には20匹程存在しているが、当座は大丈夫だろう。
「寒っ!」
碧が喚いているが、確かに寒い。周囲を囲むウォール魔法の壁の半分が氷で出来ているから仕方が無い。
俺達が着込んでいる装備には、魔法系の防御力があるモノも有るのだが、魔法によって生じたその後の自然現象には全く効果が無い。
つまり、『アイス・ウォール』で冷やされた空気による冷気はダイレクトに伝わるって事だ…
「我慢しろ、壁も長くは持たないから、とっととやるぞ」
ダンジョン側に作った壁が叩かれる音が聞こえている。地上側も、もう少しすればモンスターが寄ってくるだろう。
モンスターの種類次第では、1分程度しか保たない可能性がある。急ごう。
俺達は、久々に見る水晶柱に手を置き、魔法やスキルの選択を始めた。
前回の『大阪ダンジョン』から出た際、残っていた経験値は全員ほぼ700程だ。
最後の1時間半にやった間引きの効果だ。
それを踏まえて、前もって話し合って、今回修得するモノは決めてある。
先ず、何よりも『効率を考えた選択』を今回は徹底する。特に碧には厳重に言い聞かせた。
デボの時の様に、とにかく最初の段階で、今後必要となる魔法・スキルの系統を取れるだけ取る。
そうすれば、3倍が重なっても、元の数が小さければ大した値には成らない。
効率良く。とにかく効率良くだ。
と言う訳で、取り急ぎやった結果がこんな感じ。
・氏名 鴻池 稔
・年齢 23歳
・Level 3(+2)
・生命力 670(+20)
・魔力量 670(+20)
・スタミナ 22(+1) +6(大地母神の指輪)
・筋力 22(+1) +8(力の指輪Ⅲ)+8(力の指輪Ⅲ)
・知力 27(+1) +4(賢者の腕輪)+4(賢者の腕輪)
・素早さ 25(+1) +9(音紋のブローチ)
・魔法 転移・サンダー・ボール サンダー・アロー
サンダー・ウォール サンダー・ストーム
レジスト・サンダー サンダー・インフェルノ
★付与
・スキル マップ 盗む 罠探知 罠解除 気配察知
飛燕 蓮華 瞬刃 ☆ブースト(パワー)
★ステップ ★水中呼吸 ★鍛冶
・経験値 99
次回UPに必要な値(パラメーター) 142(+141)
次回修得に必要な値(魔法・スキル) 162(+160)
・氏名 鴻池 碧
・年齢 20歳
・Level 3(+2)
・生命力 710(+20)
・魔力量 710(+20)
・スタミナ 17 +6(大地母神のカフス)
・筋力 19(+1) +8(力の指輪Ⅲ)
・知力 19(+1) +4(賢者の腕輪)+8(叡智の腕輪)
・素早さ 25(+2) +9(音速のネックレス)+6(瞬きの腕輪)
・魔法 錬金術 ファイアー・ボール ファイフー・アロー
ファイアー・ウォール ファイアー・ストーム
レジスト・ファイアー ファイアー・インフェルノ
★ライティング ★デバフ(パワー)
・スキル ステップ 瞬歩 空歩 縮地 鑑定
牙突 爆裂突き 輪舞 青龍破
☆呼び戻し ★水中呼吸 ★細工
・経験値 105
次回UPに必要な値(パラメーター) 142(+141)
次回修得に必要な値(魔法・スキル) 162(+160)
・氏名 鴻池 ぺんぺん
・年齢 2歳
・Level 3(+2)
・生命力 720(+20)
・魔力量 720(+20) +30(女神の雫)
・スタミナ 20(+2) +6(大地母神のカフス)
・筋力 18 +10(インドラ神のタリスマン)
・知力 24(+1) +4(賢者のブローチ)+8(叡智の指輪Ⅲ)
・素早さ 20(+1) +6(瞬きのネックレス)
・魔法 アイス・ボール アイス・アロー
アイス・ウォール アイス・ストーム
レジスト・アイス アイス・インフェルノ
☆ウインド・プチブレス ★付与
・スキル ステップ 瞬歩 空歩 縮地
爪斬Ⅰ~Ⅲ 旋風爪
★水中呼吸 ★加重Ⅰ ★金剛
・経験値 102
次回UPに必要な値(パラメーター) 142(+141)
次回修得に必要な値(魔法・スキル) 162(+160)
・氏名 鴻池 デボ
・年齢 2歳
・Level 3(+2)
・生命力 660(+20) +40(大地母神の祈り)
・魔力量 660(+20)
・スタミナ 17(+1) +5(絶倫のタリスマン)+9(ゼウスの耳飾り)
・筋力 16(+1) +4(力の指輪Ⅱ)
・知力 21(+1) +4(賢者のブローチ)
・素早さ 20(+1) +6(瞬きのネックレス)
・魔法 ストーン・ボール ストーン・アロー ストーン・ウォール
ストーン・ストーム ストーン・インフェルノ
ヒール ミドルヒール ハイヒール
エリア・ヒール エリア・ミドルヒール エリア・ハイヒール
クリア ミドル・クリア ハイ・クリア
★雷神Ⅰ ★風神Ⅰ
・スキル 超音波 怪音波 忌音波
HPドレイン MPドレイン Mixドレイン
天駆 宙駆 瞬転
☆斬翼 ★水中呼吸 ★擬態
・経験値 94
次回UPに必要な値(パラメーター) 142(+141)
次回修得に必要な値(魔法・スキル) 162(+160)
☆は前回修得したモノ、★は今回修得したモノだ。括弧内の増分は前回の『大阪ダンジョン』でレベルアップした後の値。
何はともあれ、『水中呼吸』は全員修得した。安全圏が海のみになる可能性と、海産物を自力入手する事を考えてだ。
基本、名前で能力は分かると思う。
分かりにくいのは、デボの『雷神Ⅰ』と『風神Ⅰ』かな。これは、それぞれの属性を身に纏う魔法で、モンスターで使ってくるヤツが居て苦労した覚えがある。
『雷神』は接触するだけで感電するし、『風神』は接触しないでも一定距離近づくだけで風属性のダメージを受ける。
この前取った『翼斬』の系統と相性が良いと思う。
スキルの『擬態』はオクトパス・スライムなどが使っているスキルで、体色を周囲の色と同化出来る。
ただ、目的はこれでは無く、この上にある同系列の『光学迷彩』『空』を取る為の修得だ。
ぺんぺんの『加重』は自分自身の重量を増加出来るスキルで、体重の軽いぺんぺんの攻撃力を底上げする効果を狙っている。
そして、『金剛』は一角鬼等が使っていた身体全体が硬化するスキルで、その間動けなくなると言うペナルティーがある為役に立たないスキルなのだが、同系列でこの後『部分硬化』『鉄人』と言う動けるスキルがある為あえて修得させた。
碧の『ライティング』は、明かり魔法だ。ダンジョンでは実質役立たずに近かったが、実生活を考えれば今後必須と成る可能性も有る。電気がいつまで使えるか分からないからね。
まあ、それ以外にも、同系列で、『レイ』と言うレーザー攻撃の様な魔法もあり、攻撃も可能だったりする。
そして、俺とぺんぺんは『付与』魔法を修得した。1人で付与するには限界があると考え、2人で取った。
この『付与』系は、個人の『ブースト』系と違って、消費MPは多いが倍率は1.5倍だ。『ブースト』系が1.3倍なので他人にも掛けられる上、強化も高いと言う優れものだったりする。
ただ、『ブースト』系には『Mixブート』と言う、一度に全てのパラメーターを1.3倍にするスキルがあるが、『付与』系ではまだ見つかっていない。無い可能性も有る。
俺は、両方選択したって事だ。
そして、俺が『鍛冶』、碧が『細工』を修得した。これに加え『錬金術』も有れば、最低限のモノは作っていけると考えている。
基本は、今後の生活の為に修得したモノだ。鍋や釜、包丁やお玉、鍬や鎌を作る為の『鍛冶』だ。
そして、針、工具、ボタン等の細かな生活用具を作る為の『細工』だ。
無論、防具やマジックアイテムも作るが、それは二の次三の次。先ず生活ありき、なんだよ。
それと、俺はやっと念願の移動系スキルで有る『ステップ』を修得する事が出来た。
今まで、俺だけが持っていなかったので、結構寂しい思いをしてたんだよ。
実際その為に、パーティー全体の行動が制限される事もあった。フィールドが地上となった事で、そういった事態がまた起こる可能性は増えたと思う。だから、何はともあれこれは絶対に取る必要があったんだ。
全員の修得が終了したのを確認していると、地上側の『ストーン・ウォール』に何かがぶつかる音が響き、石が崩れる音と共に俺達の目前の壁にもヒビが入った。
「うわっ! 一撃で崩れた!」
碧が慌てて俺の肩に手を置く。デボとぺんぺんも両肩へと移動した。
「一応相手を確認しとくか」
「うん、その方が良いね…って来たぁ!!!」
話の途中で壁を突き破って現れたのは、巨大な角だった。根元の直径が40センチ以上有って長さが1メートルはある。
デビルホーンと呼ばれるレベル53~56のモンスターだ。
四つ脚獣の体型を持ち、異常に大きな角を頭の前に持っている。体長は角を除いて2メートル程。そして、その角には火の魔法を纏っており、高温を発する事が出来る。
実際、見ている間に黒茶から赤を通り越して青白く輝き始めている。
だが問題は無い。相手が何者か分かれば、対処方法は身に付いている。
即座に牽制の『アイス・ボール』がデビルホーンの角越しに背中に向かって連射される。
その攻撃に反応したデビルホーンの角が上に上がった為に僅かに見えた喉元へ、『ストーン・アロー』『青龍破』『飛燕』を叩き込む。
正直『青龍破』は過剰攻撃だ。『牙突』や『爆裂突き』でも充分だっただろう。ただ、俺とデボの遠距離攻撃に巻き込まれない為に、同じ遠距離攻撃の『青龍破』を使ったのだろう。
それに、碧の攻撃魔法は火系なので、火耐性の有るデビルホーンには効果は少ないからって言う理由もある訳だ。
「角ー! 要らん子だぁー!」
ドロップは『デビルホーンの角』と言う、あの角そのものだった。無論、角ベースの武器に錬成可能なんだが、俺達が今使っている『龍槍』『草薙剣』には遙かに性能で及ばない。
故に碧いわくの『要らん子』なのだ。
俺もそのまま無視して『転移』を実行しようと思ったが、休憩室の面々の事を思いだし持って帰る事にする。
「えぇー! 要らないよそれ。ゴミだよゴミー!」
「俺達は要らないけど、他の冒険者で居るヤツが居るかも知れないだろ?」
納得顔に成った碧は、空いた穴から入ってこようとしていた他のモンスターへ牽制として放たれていた『アイス・アロー』と『ストーン・アロー』の間を縫って『角』をつかみ引き寄せる。
それを確認し、3人全員が俺に接触している事もしっかり確認した俺は、『転移』を実行した。
転移先はあの宿舎の休憩場だ。
今回の件で、自宅の転移ポイントを消してしまった。これで自宅に『転移』で帰れなくなった訳だ。
それだけが少し悔やまれている。




