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44話 ゴーストタウン?

 小学校時代、社会の授業で、「民主主義は多くの問題もあります」と担任が言っていたのを思い出す。今思い出すと、色々偏向した事を教える担任だったと思う。

 民主主義の基本は『多数決』だ。是非はともかく、多に従うと言う主義だ。と言う事で……、ぺんぺんとデボは連れて行く事になりました。はい、民主主義万歳。

「大丈夫、大丈夫、レベル上げて『知力』が上がったから賢くなったって事にすれば良いの」

 だ、そうだ。

 一応、細かく聞かれた時を考えて、カバーストーリーは作った。

 索敵要員として連れて行っていたら、いつの間にか経験値が溜まっていて、試しに水晶柱に触らせたらユーザー登録出来た。

 更に、試行錯誤の末、魔法やスキルを取らせる事も成功し、レベルアップなども出来る様に成った。

 その結果『知力』を上げていたら、ダンジョン内だけだけど喋れないけど言葉が分かるようになった。

 ……こんな感じの、実に適当な話しだ。無いよりはマシ程度か。

 疑問に思ったとしても、それを確認するすべは現状無いだろうし、その疑問を理由に4人の戦力を捨てるようならそれはそれで良い。

 俺達の参戦理由は、どうにか出来るなら手伝いたい。そして、あわよくば、水晶柱の所まで行って魔法やスキルの修得をしたいって事だ。

 間違っても、日本を守るんだ! なんて考えは無い。故に面倒な事に成るなら、とっとと帰るつもりだ。

 そんな訳で、話が決まった段階で、『ダンジョン管理機構』へと電話をしたのだが、延々3時間通じなかった。

 食事時に来た番号に折り返したのだが、他の『冒険者』への電話をかけ続けていたのかずっと話し中だった為だ。

 その上で、電話回線自体がパンク状態が続いており、掛かり難い状態だった事もある。

 そして、なんとか繋がった相手は、あの時電話を掛けてきた大柴と言う職員だった。

 どうやら、ずっとあの後もこの人が電話をかけ続けていたらしい。

 その大柴氏に、応援に向かう旨を伝え、具体的にどうすれば良いかを尋ねた。

「そちらからですと、大阪ダンジョンが一番近いですから、京都市の桂駐屯地へと向かってください。ゲートでその旨を伝えれば大丈夫なようには成っています」

 との事だ。

 どうやら、自衛隊とはある程度話が付いているようだ。なら、準軍人、予備役扱いは無いか?

 移動手段については、既に京都周辺の公共交通機関は完全に停止しているので、自家用車を使用してくれとの事だった。

 正直コレはキツい。俺としては電車などで行って、帰りは『転移』で帰りたかったんだよ。

 もし、緊急時や問題が有って逃げる事に成った場合、軽自動車を放棄する事になる。

 諸費用込み12万円とは言え、この御時世、足が無いと後々困る可能性が有る。

 状況次第では、新規に車を購入なんて手続き自体が出来なくなる可能性も有る。…その時は法律もへったくれも無いから、無ナンバーで走っても問題無いかもしれないけどね。

 それでも、自分の正規の車が有ると言う事は、気持ち的に楽だ。それが無くなる可能性が有るのはキツい。

 この件を碧に話すと、「レンタカーは?」と言って来たが、調べると京都市内は全店営業していなかった。つまり、『乗り捨て』は出来ない事に成る。

「…面倒だから、もう一台買おうか? 今のも古すぎるしさ、ちょうど良いでしょ。この先お金が有っても使えなくなる可能性も有るし」

 何となく、3年前のアパート探しの時の『貸してくれないなら、買っちゃえば良いじゃない』を思い出した。

 確かに、お金が紙くずになる可能性は有る。手続き時間の問題も有るので、お金だけ払って手続きをしてもらっておけば良いか?

 この後ある程度話し合った結果、地元の自動車販売店で、軽自動車を手続きする事にした。

 碧は後々の事を考えて、キャンピングカーを買いたいと言ったんだが、車庫証明関連の事も有るので、手続きが簡単な軽自動車にした。

 軽自動車は、県庁所在地などの車庫証明を必要としない地区で有れば、車検が残った状態なら、車検証と自賠責保険の名義変更を行うだけで済む。

 暇な販売店で有れば、朝手続きすれば夕方には納車出来るケースも有る。

 方や普通車は、どんなに頑張っても1週間は掛かる。

 所轄の警察署によっては、車庫証明受付日が決まっていたり、交付(確認)手続きに1週間を要する所も有る。

 書類だけ書いて、後は販売店に丸投げでも良いのだが、このご時世に民間はともかく、警察が車庫証明関連の手続きを実施しているか?って問題も有った。

 そんな訳で、面倒を省いて、軽自動車の箱バンにする事に成った。箱バンなら、有る程度の荷物は積み込めるからね。


 翌日、早朝から地元の自動車修理工場と併設している販売店へと押しかけ、開店前から頼み込んで手続きをした。

 郊外の販売店だけ有って、軽トラックや箱バンも結構数を置いていたので、中古で比較的新しい型を購入。

 全額払い込んで、手続きが終わったら家の庭まで持っていってもらう事にした。鍵はドアポストから放り込んでもらう。

 販売店のおっさんも、現状に不安を感じているようで、僅かでも金が入る事を喜んでいた。

 俺としては、その金がいつまで金として役立つか微妙だと思ってはいたが、口にはしない。

 おっさん達は、ダンジョンの無い沖縄へ行こうかと考えているらしい。まあ、飛行系モンスターだけを注意すればいいわけだから、良い案ではあるんだけど、同じ様な考えの者が大挙して押し寄せているから、程なく食糧問題が発生すると思うよ。

 海産物以外の食糧自給率が低い所だからね、あそこは。一応、その事は忠告しておいた。後はおっさん達が判断するだろう。

 そんな感じで手続きを終えた俺達は、そのまま京都を目指す。

 途中、京都に近づくとガソリンスタンドが営業していない事を考えて、ガソリンを入れる場所を悩んだりもした。

 早く入れすぎると、京都に着いた後残量が少なくなるし、遅く入れようとすれば営業しているスタンドが無い地域に突入する可能性も有る。

 地味な事だが、意外に面倒だった。

 俺達の移動ルートは、下道だ。普段大阪へ行く時は高速なのだが、現在は一般車両の通行は禁止されている。

 自衛隊の輸送用に使用されている為だ。

 西日本側は、『阿蘇』『特牛(こっとい)』『米子』『大阪』と4つのダンジョンを抱えていた為、その防衛に必要な戦力が周辺駐屯部隊では足りていない。

 その分の物資や部隊の輸送を高速道路で行っている為、一般車両は通れない訳だ。

 駐屯中のアメリカ軍も全て本国へと帰還していった為、今回の事は自衛隊だけで対処する事に成っている。

 その為の、臨時法案が毎日のように国会で飛び交っている。こんな事態でも『9条がー』と言う脳に虫が湧いた者が未だに居たりするのを見ると。アホか、としか言いようがない。

 そんな状況なので、俺達はチンタラと国道を使って京都を目指した。

 そして、京都に近づくに従って、確実に車の数が減り走りやすくなっていくが、それに反比例するように周囲の店舗にシャッターの数が増えていった。

 俺達は、中古で1万5千円ほどのポータブルタイプのカーナビを見ながら、目的の桂駐屯地を目指す。

 古い機種で地図も何年も前のモノで、新しいバイパスなどが載っていない地図なのだが、駐屯地の場所はそうそう変わらないので、問題無くナビしてくれる。

「もう、完全に無人だね。原発事故後の街の映像そっくり」

 人が居ない街って、こんなに寂しいんだな。これで、西部劇に出て来る丸まった草が転がってくれば、完全に『世紀末系』か『アウトブレイク系』映画のワンシーンだ。

「この10分で、すれ誓ったのがパトカーと自衛隊車両の2台だけだったからな… お寺の住職とかは残ってる所も有るらしいけど、一般人は誰もいないんじゃないか?」

 ちなみに、途中ですれ違ったパトカーに、誰何されそうになったが、ダンジョン入場許可証で有るタグを見せるとそのままスルーした。

 どうやら、『冒険者』が駐屯地へと向かっている事は警察も知っているようだ。

「第二次世界大戦中も空爆されなかったけど、今度は自分たちの爆弾で壊す事になるのかもね」

 数日前から、銃器だけで無く、ミサイルや迫撃砲などを使った攻撃が開始された。

 当初は、周辺施設への被害を考えて自粛していたのだが、そんな事態を越えたと言う事だ。

 特定の場所(大型石油貯蔵所や危険物を貯蔵している場所)以外は制限無く攻撃が行われている。

 戦線が京都市内にまで及ぶ様になれば、当然この地も爆撃等が行われるだろう。重要文化財がどうとか言っていられないのだから…

 ただ、当然ではあるが、弾薬には限りが有る。そして、普段と違い外国から購入してくる事も出来ない。他国も同じ状況だからだ。

 そして、国内で武器関連を作っている工場も今回の騒動で閉鎖となった所も有る。ダンジョンのお膝元である摂津市にある、一般には業務用エアコンで有名な会社だ。

 他の軍需産業系でも、そこ程では無いが生産に問題が有る所も多い。つまり、国内生産も期待出来ない状態になる可能性が有ると言う事だ。

 そうなった場合、戦力となるのは『冒険者』だけと成るだろう。

 自衛隊にも、『ユーザー登録』を行った者は多いが、数は限られている。一般の『冒険者』の方が圧倒的に多数だ。

 そんな事も有って、今から取り込もうとしているのかも知れない。

 そんな、夢も希望も無いような会話をしながら、なんとか目的の桂駐屯地へとたどり着いた。

 入り口が良く分からないので、西側にあるゲート前の駐車スペースに車を止めた。

 俺達が車を止めている間に、2人の自衛官がこちらに向かって来ていたので、サイドブレーキを引きながらタグを掲げると顔の(けん)が取れた。

 碧達は残したまま、俺だけが降りて話をする。

 大柴氏の言葉通り、話は通っていたようで、後は指示に従って軽自動車ごとゲートを潜った。

 ちなみに、碧も『冒険者』だと言った際、ゲートの自衛官は驚いた顔をしていた。

 まあ、年齢的に駆け出しにしか見えないから、ここに来た事に驚いたんだろう。実際は3年目のベテランなんだけどね。

 その後、案内に従って事務所の様な所へと案内される。

「その子犬と…鳥は、車に残してください」

 案内の自衛官がそう言った瞬間、ぺんぺんは『空歩』を使って俺達の周りを一周して俺の肩へ戻って来た。そして、デボは何も無い場所へ向かってストーン・ボールを放って見せた。

「……」

 自衛官は唖然とした顔で、目を見開いてしばらく口を利けなかった。

「あっあの…魔法をその鳥?が使った様に見えたんですが…」

 やっと放せる状態になったが、まだ若干口調がおかしい。

「ええ、この2匹は索敵要員でダンジョンに連れて行ってたら、いつの間にか経験値が溜まっていたみたいで、半分冗談でユーザー登録したら出来たんで」

 と、例のカバーストーリーを肩をすくめながら半笑いで話すと、「そうですか…」と渇いた口で喋り辛そうに言うだけだった。

 この間、俺はデボとぺんぺんから、ツンツン攻撃とペンペン攻撃を受けていた。ごめん、人って言ったら俺と碧の事と勘違いされるかもって思って、あえて匹って言ったんだよ。許して。

「この子達、レベル70位有るから、そこら辺の冒険者より役に立つよ。ねっ」

 碧はそう言いながら俺をペンペンツンツンする2人を撫でる。

「レベル70?」

 驚愕から立ち直りかけていた自衛官の顔がまた引きつった。

「元々のパラメーターが人間と比べれば低いんで、普通の育て方をしたレベル60代と同じ位のパラメーターだと思ってください」

 この会話は、この後2回程繰り返される事になった。受付窓口で1回、説明をしてくれる部屋で1回だ。

 そんな感じで、駐屯地に来て、手続きが終わったのは1時間半後だった。他の『冒険者』が来ていなかった事もあって、結構早かったと思う。

 ちなみに、問題の軍属化の件は問題無かった。一応、民間協力隊の形で配属される事になる。

 その為、現状では給料などは一切無い。そして、保証なども一切無い。ただし、戦場で入手したドロップ品は、本人が自由に出来ると言う事になっている。

 要は、ダンジョンに入る事と同じって事だ。ただ、全体の指揮を自衛隊が執り、それ指示の範囲で行動を義務付けられると言う事だ。そりゃあ、勝手にやったら逆に邪魔にしか成らないから、当然の事だな。

 一応、「この件が収束した折には、参加した冒険者には何らかの…」という不確定な話はあるが、収束自体が出来るか不明の状況だから、その言に意味は無い。

 この間、俺達に保証されるのは、食と住だけと成る。ただ、何時辞めてもいい。これは非常に有りがたい。

 そんな訳で、俺達は、ある程度の戦力が集まるまでは待機と言う事に成った。

 待機場所は、駐屯地の隣りに有る高校を借り受けて作られた仮の宿舎だ。

 1つの教室をコンパネで通路と4つの部屋に分けただけのモノだ。廊下側に通路が設置され、ドアがずらりと4つ並んでいる。

 廊下と教室の仕切りを壊して良いなら無駄な通路部分を作らずに済むんだろうが、現状ではそこまでの事は出来ないんだろう。

 部屋は広くは無いが、パイプベッドと机が置かれ、コンセントもむき出しではあるが引かれていた。

 ただ、照明は元々の天上のモノを共有する関係で、壁が天上まで達しておらず、50センチ以上空いている。消灯・点灯も4部屋同時って事だ。

 トイレは当然、共同だ。そして、風呂は、自衛隊が災害時にやっているアノ風呂が校庭に作られている。

 食事は、学校の食堂で提供されるとの事。

 現時点で集まっている『冒険者』は俺達を除いて、まだ15人だけらしく、部屋はがら空き状態だったので、並んだ2部屋を選んだ。

 一応、女子専用の部屋も準備していると言ったが、いざと言う時の事を考えてそこは断った。

 ぺんぺんとデボは当然部屋は無い。だが、食事は出してもらえる事になった。戦力に成る事を示す為に、一人の自衛官がズボンと下着を着替える事になったけどね…

 ま、あれはしょうが無い。あんまりにも態度が悪かった。一緒に居た他の自衛官ですら眉をひそめていた位だしね。

 …デボの『忌音波』のスポット照射からの、ぺんぺんの『縮地』で顔面すれすれに『爪斬Ⅲ』四閃。下半身を汚しながらへたり込んだ状態で、身体が『石化』するのを見てパニックに成って更にジョバー…

 と言う事で、充分に戦力になる事を(くだん)の自衛官は身を挺して証明した訳だ。あ、もちろん、『石化』は『ハイ・クリア』で治したよ。

 車に積んでいた荷物や、自衛隊からの支給品を部屋に運び込み終わると、全員が俺の部屋に集まった。

「この後どうする?」

 まだ昼の3時を回った頃で、時間はある。

「取りあえず、詳しい情報をもらいに行かないか?」

「公開されてるの? って言うか、教えてくれる?」

「普通の軍事行動なら絶対公開はしないけど、相手がモンスターだろ、秘密にする意味は無いと思うんだよ。後は、個別に対応してくれるかどうかって事かな。誰でも見られる形で、ネットとかで良いから上げてあれば良いんだけど」

 単純に自衛隊だけの作戦行動なら、自衛隊内部だけで情報を持っていれば良い。だが、今回は一般人である『冒険者』が参加する訳だ。

 と成れば、有る程度の情報の共有化が必須となるはず。軍事行動に完全に組み込まれる形では無いだけに、それは絶対に必要だ。

 作戦前後の全体ブリーフィングだけで伝えられるものでは無いだろうから。

「他の冒険者に聞いてみる?」

 …聞いた話では、今居る『冒険者』の大半は、ここに来て1日から2日程度しか経っていないらしい。あまり期待は出来ないけど聞いてみるか。

「休憩室に居たら聞いてみるか、それで分からなかったら事務所に行こう」

 話が纏まると、そのまま1階に作られている休憩室と名付けられた部屋へと移動する。

 この部屋には、テレビとPCが置かれ、ネットもwifiで繋がるようになっている。

 テレビを半円状に囲むようにして、ソファーが4脚ほど並べられており、その後ろには長机とパイプイスが並んでいる。

 俺達が入って行くと、その中には5人の『冒険者』らしき者達がテレビを見ながらタバコを吸っていた。

 全員が男で、年齢は20代後半から30代半ばだ。

「こんにちは~、今日来た者です。よろしく~」

 入った途端向く全員の目を全く気にする様子も無く、碧は軽~いあいさつを放つ。

 その余りにも軽いあいさつに、厳つ目の『冒険者』も、反射的に「お、おう」と答えた位だ。

「どもども、私達、大阪ダンジョンを潜っていた者です」

 碧のヤツは、全く物怖じせずに彼らの中に入っていた。ここら辺は俺には出来ない芸当だよな。社交性って言うパラメーターが有ったら、俺はかなり低い自信が有る。

 俺は黙礼と、簡単なあいさつだけをして、碧と彼らの会話を聞くだけだった。

 彼らは別段同じパーティーって訳では無く、バラバラの者達らしい。共通点は、住んでいた所が大阪市内だったと言う事だ。

 彼らにとっては、住んでいた土地の奪還と言う事も理由に有る訳だ。

 後でトラブルにならないように、ここでデボとぺんぺんを紹介すると、しばらく大騒ぎになった。

「まじか、動物でも登録出来るのかよ」

「攻撃で無くっても、牽制で経験値が入るって初めて聞いたよ」

(うち)のレトリバーも登録出来た可能性があったのか…」

 全員が驚きつつ、2人をなで繰り回した。どうやら問題無く受け入れられたようだ。後々入ってくる者にも彼らから伝わるだろう。

 そんな感じで、懸案事項が解決したので、問題の件を聞くと、アッサリ答えが返ってきた。

「事務棟2階に、現状を表した立体地図が有るぞ。1時間ごとに情報は更新してるらしいから、そこに行けば最新の状況は分かる」

 思っていたとおり、ちゃんと有った様だ。それだけ『冒険者』を戦力として当てにしているって事でも有るのかも知れない。

 その後、ダンジョンの攻略帯域の話で、俺達が『大阪ダンジョン』のレベル60帯まで行った事を言うと全員が驚いて居た。

 この中で、同じ帯域にまで行ったのは、近藤というアゴ髭を生やした32歳のゴツいおっさんだけだった。

 この近藤のおっさん、年齢はともかく顔がおっさん顔なんだよ。45と言っても納得する。だから、おっさんと呼ぶ。心の中だけでね。

 後は、レベル45帯からレベル50帯までの者ばかりだ。

 ステータスを見せろ、と言われると困った事になる所だったが、意外にもすんなり信じて貰えた。

 多分、グリフォンの『肉』の味談義を熱く語り合う、碧と近藤のおっさんの会話が原因では無いかと思う。

 そんな、半分無駄話をしている中で、急に碧が「あー!」と言って突然立ち上がった。

 俺はもちろん、周囲の『冒険者達』も驚いている。どうした、と声を掛けようとする前に、碧は『冒険者』達にそれを尋ねた。

「あのさ、この中に『転移』持ち居る? で、まだ大阪ダンジョンの入り口のポイント残ってない?」

 おおっ、偉いぞ碧! ただの脳()じゃ無かったんだな。

 …しかし、こんな事にも気付かないとは、自分が情けない。どうも俺は思考が一直線なんだよな。周りが見えないというか、広がりが無い。

「転移は持ってるが、ポイントは別の所に変えちまったな」

 近藤のおっさんが首をかしげながらそう言う。

「俺は一応残ってるけど…モンスターが大量に居るから、どうせ使えないよ」

 そう言ったのはこのグルーブの中では一番若い、26歳の畑山と言う細面の男だった。

 碧が俺の方を見て笑った。ニコリでは無い、ニヤリだ。

 ひょっとしたら俺の顔も笑っているかも知れない。いけないいけない、()に染まっちゃ駄目だ。

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