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43話 バカとスキルは使いよう

────────────────────

「発動したな」

「…ええ。実際にリアルタイムで見るのはこれが初めてね。映像では幾つも見たけど」

「俺もだ。本来そうそう見る様なもんじゃ無いからな」

「見るのもだけど、自分たちが発動する立場には絶対成りたくないわ」

「しかし、値が少し小さくないか? これも例外ってヤツか?」

「値? …あっこれ? これはアレよ、途中で対処された分があったでしょ。アレで無くなった分」

「なるほど、アレか。…しかし、焼け石に水とは言え、1つでも対処出来ただけ奇跡だな。対処出来たって言う記録は少ないんだろ」

「0.01%にも満たないわ。そして発動後、全体を対処出来たケースは管理機構で知られてる範囲ではゼロよ」

「連盟や共和連合の管理区域には有るって事か?」

「他の所のそんなデータが分かる訳ないでしょ。まあ、確率としてはゼロでは無いけど、限りなくゼロに近いとは思うわ」

「つまり、ここも終わりって事か」

「ええ、私達がせっかく苦労して見つけたここは、完全に終わった訳よ。後は、この例外だらけのデータを取って、それをお金に換えるしか無いわ」

「ついでに、DD社からも取れれば万々歳って事だな」

………………

………………

「……なあ、アレって変じゃないか?」

「…明らかにおかしいわね。普通じゃ無い」

「Lは原因となったヤツらによって、ある程度変化するってのは分かってるが、基本は同じだろ」

「そうよ、アレは明らかにDDの色が入ってる」

「だよな、そう言えばDDも対象種によって、ある程度変化するんじゃなかったか?」

「ええ、変化って言うか、積極的に参考にするのよ。もちろん、元々のDDの設定を超えない範囲でね。それが売りだもの」

「『全ての人々に夢と冒険を』、『同じものは2二つと無く、全ての人々が楽しめる』だったな」

「そうよ。……やっぱり、LにDDが融合しているとしか考えられないわ」

「…だが、システム的に全く違うだろう? それが融合出来るものなのか?」

「システムって言うより、概念レベルで別物なんだけど… でも、現実にああなってるのを見れば、そう考えざるを得ないでしょう」

「…LとDDが、少しずつ現地のヤツらに影響を受け合って、その上で融合した状態がアレって事か?」

「今のところ、最もそれらしい理屈を捏ねるとそうなるわね」

「もうしばらく様子を見るか。どうせ、全てを記録するまでは帰れないしな」

「経過を見て、長く掛かるようだったら、また寝ましょう」

「先は長そうだ」

────────────────────





「結局さ、ダンジョンが地上まで広がったって事なの?」

 夕食時に、唐突に碧が聞いてきた。

 食卓には、ファイアー・ボアの肉を使ったチンジャオロースが並んでおり、4人でばくばくと食べている最中だった。

「魔法が使えるようになったって事はそう考えても良いけど、自然復元力は無いし、何より地上ではモンスターが湧いてないから地上がダンジョン化したってのは無いと思う」

「でも、しばらくしたらそうなるかも知れないよ」

「……怖い事言うなよ。否定出来ないけどさ」

 現状、モンスターがダンジョン内からしか発生していないから、僅かながらも対処出来ている。

 これが、所構わず湧き出すようになれば、完全に終わりだ。夜寝る事も出来なくなる。

 場合によっては、安心して眠る為には、各個人が棺桶の様なモノに入らなくては成らなくなるかも知れない。

 僅かでもスペースが有れば、そこにモンスターが湧く可能性が有ると成れば、気の休まる暇が無い。

 ゲームのようなセーフゾーンが無かったとしたら、多分数年で人類は滅ぶだろう。

 そうならない事を今は祈るしか無い。

「ステータス」

 ステータスのホログラムスクリーンを表示させると、ダンジョン内のように普通に表示される。

 それどころか、『マップ』も使用可能で、『気配察知』なども使える。

 ただ、『気配察知』は多少調整が必要だった。なぜなら、ここはダンジョンと違って、生命の気配が多すぎるからだ。

 植物には反応しないのだが、虫には普通に反応してしまう。だから、ある程度の大きさ以上には反応しないように意識して調整する必要があった。面倒な話だ。

 幸い、調整自体可能だったし、2日ほどで無意識レベルで出来る様に成った。

 この辺りは、マジックアイテム込みで『知力』34と言うのが効果を発揮したんだろう。

 そう、魔法だけで無く、パラメーターによる値がそのままここ地上でも発揮されている。

 俺達は普通に100メートルを5秒以下で走れるし、平屋建ての屋根の上までジャンプだけで上がれる。

 スーパーマンとまではいかないが、特撮ヒーローレベルの身体能力を発揮出来る。

 『冒険者、ダンジョン出たら、ただの人』改め『冒険者、ダンジョン出ても、冒険者』って事だ。

「こんな事なら、この間ダンジョンから出る時、パラメーターアップだけでもしとくんだったな」

 あの日、芸能人達を送り出した後、再度中に入って時間を潰したのだが、その後帰る段になって水晶柱を使用しなかった。

 なぜなら、自衛官が直ぐ側にいた為、落ち着いて操作が出来ないと思った為だ。

 俺と碧だけなら良いが、デボとぺんぺんの事も有る。入る際は、仕方なかったとは言え、自衛官の数が増えた状態では、身体でカバーするにも限界があった。

 だが、今の状況を考えると、そうそう簡単には水晶柱の所に行けるとは思えない。

 で有れば、あの時、パラメーターアップなり、レベルアップなり、魔法・スキルの修得なりをしておけば良かったって事だ。

 無論、今となってはって事だよ。まさか、こんな事に成るとはね…

「今出て来てるのって、表層モンスターが殆どでしょ。それに中層や下層が混じってる感じ。だったら行けるよ。ヤバかったら転移すれば良いだけだもん」

 …だもん、ってそんな簡単にはいかないと思うぞ。

「あのな、仮に、水晶柱の所まで行けたとしても、パラメーターいじっている間にも次々に襲われるんだぞ。どーすんだよ」

「お兄ーはアホだね。ストーン・ウォールとか、アイス・ウォールで、全面囲っちゃえば良いんだよ。二重三重にね」

 ……いかん、元々は別として、今は俺の方が『知力』は高いはずなのに…

「やり方次第じゃ、パラメーターをいじる時間ぐらいは持つか」

「持つ持つ、充分」

 ペン

 ぺんぺんもテーブルを一叩きして賛同する。デボは…チンジャオロースを喰ってる。

「いくまでが大変そうだな」

 今、摂津市を中心として半径30キロ圏内は完全に立ち入り禁止エリアになっている。

 無論、完全に囲むだけの物資は無いので、忍び込む事は可能なんだけど、その後が更に大変そうだ。

 こんな事なら、『転移』の座標ポイントを上書きするんじゃ無かった。

 『転移』が地上で使えるか実験する為に、『大阪ダンジョン』内に設定して居たポイントを消してしまったんだよ。

 もし、あのポイントが使えたなら、出入り口近くの『部屋』へと転移出来たはずなんだよな。

 広い地上と違い、幅が限定されるダンジョン内なら、モンスターのレベル次第ではあるが、充分に対処出来る。

 その意味では、圧倒的に楽だったはずだ。……色々失敗してるな。

「それもさ、何とか成るんじゃ無い?」

「なんとかって、転移のポイントは消してるからダンジョン内へは跳べないぞ」

「基本さ、私達って、レベル10位までのモンスターなら無双出来るよね。でも、MPやHPの関係で限界はある訳でしょ」

「ああ、そうだけど、それがどうした?」

「だからさ、先ず、行ける所まで全開で行くわけ。で、無理だって成ったら、そこにポイントを打って転移。次の日にはそこからまたって事」

 ………なんて事は無い、今までダンジョンでやって来た事だ。それをただ地上でやると言うだけの事だ。

「…モンスターのレベル次第だが、出来ない事では無いな」

「でしょう~♪」

 右の口元だけを僅かに上げた表情が腹が立つ。どや顔ってヤツだ。鼻の穴も膨らんで、鼻息が若干荒くなっている。

 だがそれでも、大きく表情を崩さず、よく見れば分かるというレベルの表情、完璧などや顔だ。

 こいつ、絶対に鏡の前で練習したな。…何時かその現場を見つけてやる。その時は腹一杯笑ってやる。

 このどや顔ってヤツは、普通に自慢げにされるより何倍も腹が立つ。ついでに、碧が考えつく事を考えつかなかった自分にも腹が立つ。

「とは言っても、そこまでして危険を冒す価値が有るかって事だよ。先を考えれば強くなるに越した事は無いけど、その為にし死んだら全く意味無い」

 俺達は、漫画の主人公なんかじゃ無い。ただのモブだ。『俺達が人類を救う!』なんて行動はもちろん考えすらしない。

 そんな事は、お国の仕事だ。その為に、高い税金を払っているんだよ。俺達はモブ。歯車の一つ。

「それも何時も通りで良いんじゃない? 無理そうだったら止める。出来る所までいく。で、ついでに肉を手に入れるって事で」

 デボのヤツは、『肉』の所で反応した。

 …でも、確かに『肉』と言うか、食糧の調達は考えないと行けないんだよな…

 畑の野菜も、とてもでは無いが毎食分には足りない。山が近いので山菜はある程度取れるだろうが、キノコとかは…あっ!

「おい、碧! 鑑定だ!、鑑定を試して見ろ! ダンジョン外の物を鑑定出来るか、確認するんだ!」

 俺が急に大きな声を出したので、碧はもちろん、デボとぺんぺんもビックリしている。

「鑑定? 良いけど、なんで?」

「あのな、今後、山菜とか取りに行く事を考えて見ろ、その時鑑定が出来れば、毒キノコと食えるキノコの区別が付くだろう? 入手出来る食材の数が格段に増えるぞ」

 俺の話の途中から、碧の目が輝き始めた。そして、直ぐにキョロキョロすると、箸を見て鑑定を実行した。

「鑑定! ……! 箸! 竹製! 食器だって!! 鑑定出来るよ!!!」

 名称だけで無く、材質、用途まで表示されるのか。これなら行けるんじゃ無いか?

「ついでだ、念のために何か野菜を鑑定して見ろ。あっ! 出来れば調理する前のヤツ」

「分かった!」

 そう言うと、碧は台所へと走って行く。そして、『ステップ』並の速度で戻ってくると、Vサインを出す。

「ニンジン、植物の根、可食だって。食べられるかの表示が出るよ! あっチョット待って」

 それだけ言うと、また台所へと消えた。そして、今度は手にジャガイモを持って来ている。…なるほどね。考えてるじゃ無いか。碧のくせに。

「鑑定! …ジャガイモ、植物の地下茎、芽や緑化した塊茎に毒性有り、その他可食だって!! 使えるね! 鑑定!! これで毒キノコもOKだね!!」

 どうやら、毒物を含むモノの鑑定も完璧のようだ。しかも、毒を含む部位まで表示してくれている。これは大きい。

 意外に、自然界に有る物には、部位によって毒が有ったり無かったりする物が多い。それが分からなければ、毒有りって事で全てが食べられない事になる。

 ジャガイモで例えると、僅かな新芽と緑色になった部分だけを取り除けば、後の大部分は食べられるのに、毒有りと言う事で全てを捨てると言う事だ。

 ネギ系の植物にも、球根だけ毒が有る物とか有った気がする。それらが分かると言う事は、食糧事情に大きく寄与する事だと思う。

「おぉぉー、これで夢の自給自足生活がー。……お兄ー、あのさ、今度『水中呼吸』のスキル取るよ、私!」

 途中まで夢見る少女(?)っぽい表情をしていたのが、急に目をぎらつかせてそんな宣言をした。

 ……魚か。

「海産物目当てか?」

「あったり~♪ 肉はモンスターから取って、野菜は畑と山で取って、魚や貝は潜って取るの。完璧でしょ」

 全く完璧では無いぞ。穴だらけだ。

 ちなみに『水中呼吸』は文字通りのスキルだ。正直、このスキルを修得している者は少ない。

 先ず、水中を移動する必要の有るダンジョンの数が、10に満たないからだ。俺が知っている範囲では6ヶ所しか無い。

 もちろん、新規に増えたダンジョンはまだ大して探索されていない為、有無は不明なんだけどね。

 そんな訳で、大半の者には最も不要なスキルとなっている。

 だが、このダンジョン外でスキルが使用出来る状況になったからには、需要は全く変わってくる。

 仮に、ダンジョンが別途海の中に無い限り、水中専用モンスターは海までは移動できないことになる。

 つまり、陸上より遙かに安全だと言う事だ。もちろん、リザードマンのような、水陸両用のモンスターも居る為、完璧では無い。

 だが、比較で言えば、圧倒的に安全だと言えるだろう。

 将来、全世界にモンスターが広がった際には、海の中に逃げると言う事も考慮すべきかも知れない。

「手に入れて損は無いか。でもな、碧、肉や野菜、海産物はそれで良いとして、米はどうする?」

「あぁぁぁぁ!!!」

 ムンクのポーズで絶叫する碧。うるさい。飯に唾が入るって。

「お兄ー! 米をドロッ「居ない!!」…」

 そんなモンスターが居れば、もうとっくに狩りまくってるっての。

 絶望状態でちゃぶ台に突っ伏す碧をぺんぺんとデボがペンペン、ツンツンやってる。

 そんな3人を尻目に、俺は残りの飯を食べてしまう。

 冷えたチンジャオロースは美味しくない。暖かいうちに喰わなきゃ損だ。

 そして、1分程で半分復活した碧が飯を食い始めた時、充電器に刺したままの携帯が着信した。

 碧が近かったので立とうとするが、俺が飯を食い終わっていたので手で制して、俺が出た。

「はい、どちら様ですか?」

 着信番号が見慣れない番号だったので、間違い電話かと思って受けだのだが、そうでは無かったようだ。

鴻池(こうのいけ) (みのる)様と、碧様のお宅でしょうか? 私はダンジョン管理機構の大柴と言う者です」

 …………

「誰から? 長かったけど?」

 携帯を充電器に差し込んで、軽く一呼吸置いて、今の電話の内容を碧に教えた。

 それは、『ダンジョン管理機構』からの応援要請だった。

 つまり、現状の自衛隊戦力だけでは厳しい為、『冒険者』にも防衛を手伝ってくれないか?と言う事だ。

 それは、命令でも、指示でも無く、単なる『お願い』に過ぎない。

 金銭も出ない。何ら保証も無い。そんな状況でも良ければ手伝ってくれないか?と言う話しだ。

 全国にいる『冒険者』全てに連絡を取っているらしい。とは言え、半数以上とは連絡が取れていないとの事。

「と言う訳だ、どうする?」

「行くよ!!」

 即答だった。ぺんぺんとデボも、明らかにやる気の眼差しで俺を見ている。

 …この戦闘民族どもが。野菜の名前に改名しろ。

「行くのは良いが、条件が1つだけ有る」

「条件?」

「うん、行くとしたら大阪に成ると思うけど、軍の組織に正式編制されるようなら止めるって事だ」

 これは絶対条件だ。これだけは譲れない。

「……どっちみち、行けば自衛隊の指示に従う事になるんじゃ無いの?」

「それはそうなるよ。でも、正式編制と成ったら、勝手に止められなくなるんだよ。『敵前逃亡は銃殺だ』ってヤツ」

 もちろん、今の時代にそれは無いが、状況次第では有り得なくも無い。

 それ以上に、いくら状況が状況とは言え、軍人に成る気は無い。防衛すらままならないと分かったら、即座に逃げるつもりだから、軍に入るのはマズい。

「…正式編制って有り得るの?」

「普通に考えれば無い。でも、それに準じた形を取る可能性は有る。軍隊じゃ無いが、それに準じた、なんて形でだ。当然、縛りは同じでね」

 まあ、自衛隊なんで、形の上では『軍』では無い事になってるけど、中身は同じだからね。

 普通はこんな形でさえ有り得ない。だが、現状が既に有り得ない状況になっている。

 戦争で言えば、既に本土決戦状態だ。しかも、5ヶ所に同時上陸された状態だ。完全にじり貧…

 そんな中に、隊としての能力は無いが、火力、戦闘力としては、確実にただの自衛隊員より遙かに上の『冒険者』が来たとしたら、それを戦力として取り込もうとする可能性が高い。

 と言うより、使わないのはバカだ。間違いなく使っては来る。使わざるを得ないと言う方が正しいか。

 ただ、問題は、その際の『冒険者』の立場だ。それをどう取り扱うか… それ次第だな。

「う~ん、取りあえず行こう。んで、お兄ーが言うような事になりそうだったら、即転移で逃げよう。それでOK?」

「分かった、それで行くか」

 あと、問題なのは、デボとぺんぺんの事だな。戦力としては捨てがたいけど、色々面倒な事になる気もする。

 でも、そんな事を言っていられるような状況でも無いのも事実なんだよな…

 話し合って決めるか。

 ……この時点で既に決まってる気もするけどな。民主主義って結構問題が無いか?

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