39話 終わりの始まりの始まり?
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「なあ、これヤバいんじゃないか?」
「……ええ、バースト寸前ね。…やっぱり早すぎる」
「起きてこっちの増分を見ても、確実に3倍は行ってるな」
「しかも、どんなに調べても、数値が上がる様な事は実行されていないのに、よ」
「やっぱりDDが原因か?」
「そう考えるのが一番合理的なのは間違いないわ…でも、どうやって?って言われたら答えられる?」
「………無理だな」
「でしょう」
「しかし、この間の件が無ければ、もうとっくにバーストしていたな」
「そうね、でも、結局は誤差の範囲ね。せめて後30位……」
「俺達は干渉出来ないからな。干渉したくても、無効化される。面倒なシステムだよ」
「だからこそのLなんでしょ。本来は……」
「その干渉不可のLに、何かが干渉している… しかもそれがDDで有る可能性が高い…」
「色んな意味で、大問題であると同時に、画期的よね」
「俺らとしては、その情報が金にさえ成れば良いんだよ」
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専用ダンジョンという優位性を無くした俺達は、色々な意味で途方に暮れていた。
先ずは目先のこととして『肉』問題だ。
たかが『肉』と言う無かれ。味が隔絶しているんだよ。
有る意味、毎日の様に最高級肉を食べ続けていた様なものだ。実際、売りに出された『ダンジョン産肉』は種類に応じて最高級肉として扱われている。
そんな『肉』が無くなるってかなり痛い事なんだよ。
贅沢を全くと言って良い程していない我が家の唯一の贅沢が、この『ダンジョン産肉』だったんだよな…
で、次が、碧のストレスだ。毎日の様に無双していただけに、それが急に無くなった為、色々と溜まってきている感がある。2日に一回夕方にやっていた、入り口周辺の間引きがかなりストレス発散に成ってたんだよな…
一応、毎日の様に庭で『龍槍』を振り回して型っぽい事をやっている。1時間程、汗だくになるまでやってはいるが、それでは解消されない様だ。
俺的には、そっち方面はどうでも良いのだが、今後の生活設計が成り立たなくなったことが一番困っている。
全ての前提条件として、自宅にダンジョンが有る事、が有ったからだ。
実際、節制すれば、10年以上生活出来るだけの蓄えはある。
更に、まだ売却していない分も売れば、それ以上生活出来るだろう。
だが、一人1千万円ずつ2千万円を貯金する計画は、完全におじゃんとなった訳だ。
無論、収入を得ようと思えば、『大阪ダンジョン』などの他のダンジョンへと行けば良いのだが、やはり効率が全く違う。
もう少しすれば『特牛ダンジョン』が一般開放されるので、そちらに向かう『冒険者』が増えて、『大阪ダンジョン』などに潜る者の数が一気に減るはずだから狩りは容易に成るとは思う。
特に、奥へと入っている様なベテラン組は、『宝箱』目当てで新規ダンジョンへと向かうだろう。既存のダンジョンの最前線を除く深部の『冒険者』密度は確実に減る。
それまでは、芋洗い状態で非効率な狩りと成るだろう。そして、一定期間たてばまた元通りだ。憂鬱だ。
俺的には、『肉』の件が無ければ、月一回以上には、他のダンジョンには行きたくないんだよ。
でも、『肉』の為に行くよ。そして、何とかして1ヶ月分の『肉』を入手するんだ。そうすれば月一ペースに組み込める。……だぶん無理だろうな。
碧は、泊まりがけで行きたい様だ。実際『肉』の件が無ければキャンプ用具一式を買いに走っただろう。
と言う訳で、やって来ました『大阪ダンジョン』。
バッグや武器の入った箱を担ぐ碧の鼻息が荒い。むっふーと音が聞こえそうな位だ。
俺の肩に居るペンペンとデボからもやる気が溢れている感じがする。
どうやら、家の家族は俺以外全員戦闘民族の様だ。
この日は、午前8時30分にここへ到着している。家をかなり早めに出たおかげだ。
碧がね、3日以上前から遠足前の小学生状態で、抑えきれなかったんだよ。しょうが無いんで、早起きしてくることになった訳だ。
そんな訳で、今日は受付が混んでいることを覚悟していた。覚悟してたんだけど…… これはヒド過ぎるだろ。
受付前の広間は、着替え場所もかねている為、かなりの広さがある。
柵で分けられた部分を入れなくても、体育館の半分のスペースが有るんだが、それがほとんど埋まっていた。無論、人でだ。
そんな状態に唖然としていると、近くに居た5人程の『冒険者』らしくない格好をした者達が、俺達の方を一斉に見てなにやら言い始めた。
「なんだアレは? アレじゃ駄目だ。ちくしょう、まともなヤツらはいないのかよ」
全員が、一瞬期待の目で見た上で、即座に失望の表情に変わった。その上で全員が、かなり殺気立った感じが有る。
「何か分からないけど、ムカつく。殴ってきて良い?」
アホなことを言い出す碧をなんとかなだめる。…殴るのはともかく、確かにあのグループの雰囲気は良くない。関わらないのが一番だろう。
「お兄ー、朝ってこんな混んでるんだ。ゆっくり来たら良かったね」
…お前のせいだろうが、と思わず出掛かったがなんとか抑える。
「……イヤ、何か変だな。職員に食って掛かってるヤツらもいるから、何か有ったんじゃ無いか?」
「ひょっとして、ここのダンジョンも消滅したとか?」
……マジか? 有り得なくは無いけど、もしそうならニュースに成ってると思うけど。
そう思って、周囲の者達の会話をしばらく聞いていると、ある程度状況が分かってきた。
「何か、モンスターが異常発生してる? 何かそんな感じみたいだね」
「だな、で、あの普段着組は映画関係者で、中で行方不明になったヤツが居るみたいだな」
「そうなんだ。行方不明って、多分死んでるよね」
まあ、そうなんだけどさ、聞こえる様には言うなよ。…あ、良かった聞こえてないか。彼らは、携帯でどこかと連絡を取っている様でこっちには気にしていなかった。
「どする?」
「異常発生のレベルしだいだろ、どれ位かで判断しよう。厳しい様ならファイアー・ボア当たりで我慢するしか無いな」
「えぇー、最低でもマンティコアにしようよ」
マンティコアはレベル55帯に居るモンスターだ。ファイアー・ボアに比べるとかなり奥になる。通常なら楽勝な場所だが、今の状況次第では厳しいかも知れない。
「状況しだい、な」
俺は肩のぺんぺんを碧に預けると、人混みをかき分けて受付へと向かった。
だが、入退室用の受付は人でごった返していたので諦め、物品受け渡しカウンターを見るが、そこも駄目だ。
結局、買い取りカウンターへと向かった。
買い取りカウンターには、50代のおっさんが一人だったが、誰の相手もしていなかった為直ぐに話が出来た。
「済みません、今来た所なんですが、簡単にで良いので状況を教えてもらえませんか?」
おっさんの目線が一瞬俺の背後に移動した。多分、周囲に誰もいないので付いて来た碧達…と言うか肩と頭の上のぺんぺんとデボを見たんだろう。
「ああ、詳しい事は向こうの受付で聞いてくれ。俺が言えるのは大ざっぱな事だ」
そう前置きして、おっさんは話してくれた。
何でも、早朝の6時台に、急に大量の『冒険者』がダンジョンから帰って来たのだと言う。
そして、口々に「大量のモンスターが出た」と言い出した。帰還した者達はバラバラの場所に居たにもかかわらず、全員がそう報告したのだそうだ。
そして、その後1時間にわたって、夜通し潜っていた者達が、ほうほうの体で逃げ帰ってきた。6人中1人だけしか帰れなかったケースも多かったのだと。
その、『大量のモンスター』の密度は、おおよそ3倍ほどらしい。
「で、あのグループは?」
ついでに、映画関係者らしい者達を指さして尋ねると、肩をすくめてから教えてくれた。
どうやら、ダンジョンモノの映画を作っていて、『本物志向』を出す為に実際のダンジョンでの撮影を敢行したらしい。
…なんとも無駄なことをするモノだ。ダンジョンに入る為には、『ダンジョン入場許可証』が必要で、それを手に入れるには10日間の講習を受けなくては成らない。
しかも、全員がだ。映画なら、俳優以外にも、カメラマン・照明・音声・監督・助監督・その他のスタップなどと少なくとも20人以上が必要なはずだ。
その全員が講習を受けたと言う事だ。ハリウッドの様にCGで良いだろう。多分、話題作りの為なんだろう。
で、その撮影の為、ダンジョン内が混まない深夜から早朝の時間を使って撮影を行ったらしい。ここら辺は正しい選択だとは思う。
そして、例の『モンスターの異常発生』が起きて、その際、主演女優と主演男優が地面に現れた魔法陣に巻き込まれて消えたのだという。
「主演の2人が巻き込まれたから騒いでたんだ」
ちなみに、俺は2人とも知らなかった。碧は知っている様で、女優は前作の映画でデビューして、今かなり人気の有る女優で、男は、例のごとく例の事務所の男性アイドルらしい……こんなキャスティングを続けるから、邦画のレベルが……
ちなみに、おっちゃんいわく、この撮影には2組の『冒険者』パーティーが護衛に付いていたのだそうだ。
「それで、罠にお客放り込んでたら、護衛の意味ないじゃん」
碧の言におっちゃんも肩をすぼめて苦笑いだった。
まあ、実際は、多分撮影組がパニックを起こして、『冒険者』達の言う事を聞かなかったんだと思う。…それでも、それに対処出来なかったって事は事実なんだけどさ。
彼らは、他の『冒険者』パーティーに依頼して、2人の救出をしたいらしい。
契約中のパーティー2組の内、1組は「契約内容と違うから行けない」と断っており、もう一組も「最低限3パーティー位でないと行けない」と言っているらしい。
そんな訳で、契約出来そうなパーティーを探していた訳だ。
ちなみに、現在ここに集まっているパーティーには全て交渉済みらしい。当然拒否られたってさ。
「私達は、あの時『駄目』って判断された訳ね」
ま、2人連れで、子犬とぬいぐるみか何か分からない鳥を頭に乗っけた20歳代の者を見れば、無理って思うわな。俺でも。
しかし、ワープ罠か。やっぱりアレ以外にも有ったんだな。
一応、あの後、日本の『ダンジョン管理機構』のWeb上のデータベースに、ワープ罠の件が載せられていた。
『未確認では有るが』との言葉に続けてではある。図らずも、その確認が今回のことで成された訳だ。
……さて、どうするかな。
「で、どうする。約3倍だってさ」
「3倍ならファイアー・ボアは楽勝でしょう。コカトリスも行けるよ。で、その後は状況見て考えよう。基本行けるとこまで行くって事で」
「一応決を取るぞ、碧の意見に賛成なモノ」
碧とその肩と頭の上に居たぺんぺんとデボの両手(?)も挙がっている。この戦闘民族集団め…
しょうが無いので、碧のタグを預かって入退出カウンターへと向かう。
そして、カウンター前で訳の分からない文句を受付嬢相手に言っている者を押しのけて入場手続きを行う。
一瞬、文句を言っていた『冒険者』達が、「今俺らが話してるだろうが!!」と怒鳴ってきたが、「俺達は中に入るんで、手続きするだけだよ」と言うと、慌てた様に状況を説明して「止めとけ」と言い出した。
意外に良いヤツらだな。なんて思ったよ。顔はヤクザか大阪府警かって顔をしているけど、性格はマトモだった様だ。
職員も、止めたが、「深くは潜らない」と言って、とっとと手続きをする。
もう、2年以上通っているので、書類の場所も分かっているから、勝手にとって書いて提出した。
今日は応援も入っている様で、3人の受付嬢が居たんだが、全員が眉をひそめていたが、現状彼らに止める権利は無い。
だから、勧告は出来るが、指示は出来ない。故に苦虫を2~3匹かみつぶす訳だ。ごめんよ。悪いのは碧達だから。…ま、俺もファイアー・ボアまでは問題無いと思ってるけどさ…
「あ、そうだ、アノ映画組、ワープ罠に引っかかったみたいだけど、どこで引っかかったんですか?」
手続きを終えて、碧達の所へ行こうとした時、ふと思いだして聞いてみた。
「あ、あの人達? アイアン・アントを撮影したいって言ってたから、その辺りだと思うわ」
「……アイアン・アントって事は、以前罠に引っかかったあの子と同じ場所?」
俺の呟きを聞いて、側に居た受付嬢がハッと顔を上げて俺を見た。
「あっ、貴方、子犬を連れてた…」
よく見ると、あの時受付に居た受付嬢だった。
「もし、ワープ罠が同じ所のヤツで、転送先が固定なら、行き先はレベル60帯ですよ。よほど運が良くない限り300%死んでますね」
「……その可能性が高いと思ってるわ。……有名人だから色々面倒な事に成りそうよ」
受付嬢の額にはシワが縦に3本入っている。自己責任だとは言え、マスコミがあ~でもない、こ~でもないと言って騒ぐんだろう。
当然、ここにも押しかけて…
俺は、「頑張ってください」とだけ言ってその場を後にした。背中に小さなため息が聞こえた。
その後、碧達の所で装備を装着し、何時も通りダンジョンへと向かう。
とは言え、柵を開けてもらうだけでも無駄に手間が掛かった。
その間、周囲から「止めとけ!」「バカかお前らは」「死ぬぞ」「何だその、こまい犬は」「あの鳥は毒ガス対策か?」などの声を無視するのも大変だったよ。
……デボはカナリヤ扱いされてたな。どこかのカルト教団や、鉱山に入るんじゃ無いからカナリヤは要らないだろ。全く。
そんな事を思いながら、何とか鉄扉を潜ると、一気に周囲の喧騒が消えて静寂に包まれる。
今まで気付かなかったが、この鉄扉はかなりの防音性が高い様だ。
「あれ? 自衛隊さんが居る」
碧の言うとおり、ダンジョンの入り口に中を向いて2人の自衛官がアサルトライフルを構えて立っていた。
その横には予備マガジンが大量に置かれており、手榴弾も置かれている。
碧の声に反応して、左に居た自衛官がこちらを振り向いた。
「潜る気か?」
「はい、無理しない範囲で潜るつもりです。一応、レベル15帯当たりまで行くつもりですので、その間のザコは間引きしますよ」
35歳ほどの自衛官は、渋い顔を歪めているが、立場上彼らも俺達を止めることは出来ない。
「もし、モンスターが出口に向かって来たら、ここで応戦する。ある程度は転移帰還位置は避けるつもりだが、それにも限界が有る。場合によっては帰還した途端、銃撃や爆発に巻き込まれる可能性が有る、それでも良いか?」
あっ、なるほど、そう言う問題もあったか。
「えっと、水晶柱の先で攻撃したら良いんじゃないですか?」
お、碧が珍しく良いことを言うじゃないか。
「済まんが、我々は上の指示が無いとダンジョン内には入れんのだ」
あっ、思い出した。何かそう言う決まりが出来たんだった。
「えっ! そうなの?」
「アレだよ、米子ダンジョンが開放されて、入り口付近で宝箱が見つかって、過去に自衛隊が宝箱を独占していた事がバレただろ、アレで決まった決まりだよ」
俺の説明で、さっきと違った意味で自衛官の顔が歪んだ。
「何か、アホな決まり作るんだね。バカみたい。良いじゃん、そんだけ危険なめにあってるんだし、ダンジョンのシステムの実験台になってくれたんだからさ」
『冒険者』や『ダンジョン管理機構』からの苦情で出来た決まりなのだが、その『冒険者』からそれを全否定する様な言葉が出るとは思わなかった様で、自衛官もぽかんとした表情を浮かべていた。
さっきまで、ダンジョン側を警戒していたもう一人も、こっちを見て同じ表情を浮かべている。…警戒忘れてますよ。
「えっと、帰りは何とかしますんで、そちらは気にせずやってください。ほら、碧行くぞ」
「分かった。肉~♪、肉~♪、肉~♪」
俺達は、2人の自衛官に黙礼をすると水晶柱へと向かった。
家のダンジョンが消滅したことで、これ以上パラメーター上げに拘る必要が無くなったので、思う存分魔法とスキルを取ろうという事に成った。
数日前から、色々と取りたいスキルや魔法を、検討しまくっていた。ムチャクチャ楽しい時間だったよ。
と言う事で、全員修得するモノは決まっている。さあ、取りまくるぞ。
俺達4人は一斉に水晶柱へと手を乗せた。




