38話 どーせいちゅうの
パイロ・キャタピラー狩りを実施して4日。更にブラック・ワームを狩ること3日。
その後準備に2日を費やして、やって来ました『八岐大蛇(仮称)退治』。
「お兄ー、ホントにやるの?」
「ああ、やるぞ」
「……でもさ、普通もっと、こう……」
「確認の意味だよ。やれるかどうかまだ分からないだろ?」
碧の渋い顔が、更に歪む。
「成功したらどうするのよ」
「アホか、成功したら万々歳だろうが」
何を言ってるんだ、このアホ娘は。
「ほら準備しろよ。1・2・3、はい、で行くぞ。で状況を見て後は突っ込むなり逃げるなりだ」
「うーっ、分かったよ。納得いかないど…」
そんな碧を余所に、俺はかけ声を掛けた。
「1・2・3、はい!!」
そのかけ声と共に、『八岐大蛇(仮称)』の居る『部屋』への入り口部分に躍り出た俺と碧は、一斉に各自のリュックに入れていた『炸裂弾Ⅱ』をドンドンと投げ込んでいく。
2人の投擲が空中でぶつからない様に、入り口の左右に分かれた状態での投擲だ。
1発目が『八岐大蛇(仮称)』の近くに着弾すると、爆音と共に炸裂する。
だが、その爆圧を感じながらも、次の『炸裂弾Ⅱ』を取り出して投げで行く。
この間の索敵と言うか、『八岐大蛇(仮称)』の観察は肩に乗ったぺんぺんに任せて、俺はひたすらに『炸裂弾Ⅱ』を投げ続ける。
2発目からは、ほとんど間を開けない状態で大爆発が続いている。耳も既にバカになった状態だ。
『炸裂弾Ⅱ』は名前の通りの爆弾だ。Ⅱと有る様に、他のナンバー付き同様に少なくともⅢまでは有ると思われる。
これは、パイロ・キャタピラーの『火薬玉』とブラック・ワームの『Mクレイ』を錬成して出来る物で、かなり前から作れる様に成っていた。
だが一度、恐竜たちの居るあの森で使った所、余りにも威力がありすぎて使えないことが判明してしまった。
間違っても通常の洞窟部で使用すれば、爆風でこっちも大ダメージを受ける。
かと言って、恐竜の森で使おうにも、木が生い茂っている為、とてもではないが遠方に投げられる状態ではない。
と言う事で、試しに作っては見たが、それ以降は完全にお蔵入りと化していた物だ。
だが、この場所ならば使える。奥行き50メートル近く有る障害物の無い空間で、こちらは狭まった入り口から安全に投げ込める。
ここで使わず何時使うのか?って代物だよ。
てな訳で、投げる投げる、対象も見ないでひたすら投げた。爆風よけに肩のぺんぺんが居る前だけにシールドが作られている。
デボは通路側を監視しているので問題は無い。
問題があるのは、俺と碧だけだ。石の破片が何度となく身体やヘルメットのシールドに当たっている。
だが、その衝撃も痛みも我慢して、手持ちの『炸裂弾Ⅱ』15個を全て投げ込んだ。
碧の分も合わせれば30個だ。この間、1分と掛かっていない。
幾つかの『炸裂弾Ⅱ』は爆圧に押されて、かなり手前で落ちたり、爆圧に反応して空中で爆発した物もかなり有り、効率はかなり悪かったはずだ。
手持ちの『炸裂弾Ⅱ』を全て投げ終わったことに気付いた段で、やっと意識を脳内マップに向けられた。
その脳内マップ無いには、消える寸前の赤い光点がまだ残っていた。
「まだ生きてるぞ! 多分死にかけてる。でも、魔法とかは打てるはずだから油断はするな!」
俺はそれだけ言うと、予定通りに通路側の壁へと待避した。
碧も直ぐに来ると、俺の肩に手を置き、いつでも転移可能な体勢を取る。デボも右肩に駐まって準備OKだ。
「アレで死なないんだ。ムチャクチャ強く無い?」
「炸裂弾の半分は手前で爆発してたからな、直撃は数発しか入ってないからしようが無いと思うぞ」
そんな会話をしながら、粉塵で全く見えなくなっている『部屋』の中を壁越しに覗く。
さすがにアレだけの『炸裂弾Ⅱ』を使っただけはあって、無煙性爆弾なのだが、周囲の壁などが削れてそれが舞っている為視界はゼロに等しくなっている。
その浮遊物が落下するまでかなりの時間が掛かりそうだ。
「ヒュードラみたいに自動回復しない?」
「…今のところ光点が強くなるっては……あっ! ……消えた」
薄ボンヤリと灯っていた『八岐大蛇(仮称)』を示していた赤い光点が完全に消えてしまった。
「消えたって、死んだって事?」
「多分…でも、ステルスとかの可能性も有るから、様子見だな。何よりこの煙が治まらないと話にならない」
風も無い密閉に近い空間のため、舞い上がった粉塵が治まるのにかなりの時間を要した。
視界がある程度利く様になるまでに5分掛かった程だ。それでも念のためにと、碧達を抑えて更に2分待たせた。
「お兄ーはチキン過ぎ!」
そう言って『縮地』を使って『八岐大蛇(仮称)』が居た場所へとカッ飛んで行く。
ぺんぺんとデボも同じように、移動系スキルを使用して先に行ってしまった。
俺はトボトボと急ぎ足で向かう。……何か寂しい。仲間はずれ、だ~れだ………
俺が『部屋』へと入って数歩行った当たりで、碧の奇声が聞こえてきた。一瞬身構えるが、次の瞬間碧が回っているのを見て力が抜けた。何か良い物が見つかったらしい。
喜びの舞を舞う碧の手には、ショートソード程の剣が握られていた。
俺が近寄ると、ずびしっとその剣を俺に突き出し、「草薙剣ゲット~♪」などと言ってきた。
「……鑑定したのか?」
「まだ! …鑑定……ほら、草薙剣だって!! えっとね、切りつけた対象の魔法力を吸収し?一定以上蓄えることで?それを使用して魔法刃?を展開出来る?だって!!」
「魔法陣? 魔法陣なんか書いてどうするんだ?」
「ほえ? ……違う違う、そっちの魔法陣じゃなくって魔法の刃、刃の魔法刃!」
…碧の『龍槍』の様に使用者のMPでは無く、モンスターから奪ったMPを使って魔法の刃を飛ばす? イヤ展開って事は飛ばせないって事か? 役に立つのか?
いや、それ以前に、なんであんなモンスターから剣なんかがドロップするんだよ。おかしいだろうが。
中ボス用レアアイテムとかってヤツなのか? いや、それって完全にゲーム脳だよな。あー分からん!!
「剣だからお兄ーが使うでしょ。魔法剣欲しがってたし、ちょうど良いじゃん」
俺の悩みなどお構いなしの何時も通りの碧だ。悩まないヤツって幸せなんだろうな……
「まあ、もらうけどさ、あのな、その剣、名前は草薙剣じゃなかったはずだぞ。お前がそう呼んだからそうなったってヤツだ」
「あっ、…モンスターの名前と同じ?」
そう言うことだ。だぶん、他のダンジョンで未発見のモノなんだろう。もしくは誰か1人しか所持していない物。
だから、碧が『草薙剣』を連呼したことでその名が『鑑定』で現れる名前の部分に設定された訳だ。
多分元々の名前は、魔刃の太刀とか言う感じだったかも知れない。
碧から件の剣を受け取ると、鞘から抜いてみた。
刀身は青銅の様な色をしていて、柔らかそうな感じを受けた。まさか、本当に青銅器じゃないよな…
マジックアイテムを扱う時の感じで、意識を剣に向けると、イメージのフィードバックが有り、その中にスイッチが2つと残量メーターが1つ有るのが分かる。
無論、コレは比喩的な感覚で、それぞれ扱う者によってこの感覚はバラバラらしい。俺はスタンダードに、スイッチなどの電化製品的な感覚で認識している。
スイッチの1つは、ON・OFFスイッチの様で、多分魔刃を出す・止めるの為の物だろう。
後1つのスイッチはスライダーで、魔刃の長さを調節する物の様だ。
実際に試してみないと分からないけど、多分実際の刃の先以上に魔刃が伸びるのでは無いかと思う。
こんな時、自分のMPを使用出来るのなら簡単に試せるのだが、この剣は敵のMPを吸収する必要があるので、直ぐには確認出来ない。
便利な反面不便な所でもある訳だ。ま、使用上では圧倒的に利点なんだけどね。自分のMPを使わずに魔法(?)を施行出来るんだから。
「何か、じみーな剣だね。うん! やっぱり私の龍槍の方が格好いい!!」
はいはい、そーデスか、そーデスか。…まあ、正直否定出来ないけどね。見た目は装飾も全く無いただの『青銅の剣』だから…
「それは良いとして、アレだ」
俺がアゴで奥の水晶柱を指すと、碧が「あっ、忘れてた!」なんて言いやがりましたよ。コレで、俺より成績も上で、『知力』も上なんだぜ…
普段なら、ぴょんぴょんと先に宙を飛んでいくぺんぺんも俺の肩に乗ったままだ。
碧も珍しく、ゆっくりと移動して行く。
全員が、状況が初めての物なので、警戒感を持って行動している。かなり珍しい風景だと思う。本来はずっとこう有るべきなんだけどね…
4人の眼前に有る水晶柱は、ど~見ても普段見慣れた入り口に有る水晶柱と同じものだ。色・形・大きさ、全てが同じに見える。
「同じだよな」
「うん」
ペン
ツン
……デボ、頭を突くのは止めてください。お願いです。俺の将来の毛根の為に。
「念のため、全員接触した状態で触れよう。もし、転移とかが勝手に起こっても同じ所に行く様に」
「分かった」
碧はぎょっと一瞬目をむいて、慌てた様に俺の左の掌をがっつりと握り込んでくる。多分、今の俺の掌に掛かっている握力は100キロは楽に越えてると思う。加減しろって。
まあ、こっちも強化されているから大丈夫ではあるけど、痛いのは痛いんだよ。
俺が右手を伸ばすと、碧も水晶柱の上にかざす。そして、俺の手の甲にぺんぺんが腕伝いに乗ってきた。
それを見て、デボも飛び立つと碧の左手の甲に乗った。
「全員一緒にタッチね」
そして、俺達は一斉に水晶柱に手を触れた。
うららかな昼下がり、俺は畑の草をむしっている。
近くではデボがキャベツに付いている虫をクチバシで突いて捕っている。もちろん、パックン、ゴックンですよ。
背伸びしたりジャンプしたり、羽ばたいたりしながら、1個1個のキャベツを回って虫取りをしてくれている。
あれで、夕食はしっかりと普通通り取るんだよな。だから痩せないのかも知れない。
ぺんぺんは今日は、碧と買い物だ。…と本人は思っている。
そう、毎年恒例の予防接種日だ。あえて昨年と月をずらして、その上碧に連れて行かせた。あの道を曲がるまでは気付くまい。フッフッフ。
碧は俺程甘くないからな。
そんな風に、ぺんぺんの病院での様子を想像しながら草むしりを終えた。
肥料をマメにやっているせいか、雑草も直ぐに生えてくる。
いくら根から取っても、どこからか生えてくるんだよな、草ってさ。種が風で飛んでくるのか?
ど~せ生えるんなら、食べられる草が生えてくれよ、と思う。ほうれん草とか青菜とかさ。
明日は果樹園の草刈りをするか。追肥の時期はまだだから、買いに行くのは来月頭当たりかな。
そんな事を考えていると、家の軽自動車の音が聞こえてきた。
帰ってきた帰って来た。さてはて、どう成ったことやら。
手の土を払いながら庭に向かって歩き出すと、白い塊が凄い勢いで走ってくる。
そして、俺の足下にたどり着くと、そのまま爪を立てて足から駆け上がって、肩まで上がった。
ペンペンペンペンペンペンペンペンペン…………
毎秒16連射レベルでペンペンし出す。
「俺にしてどうする。碧にしろよ」
ペンペンペンペンペンペンペンペンペン…………
「……分かった分かった」
ペンペンペン
「来週、狂犬病の予防注射は俺が連れて行ってやるから」
あ、逃げた。一目散に逃げていった。
分からないよな、モンスター相手には、多少のケガとか気にせずに戦うくせに、なんで注射が怖いんだろうか?
不思議だ。
そんな事を思いつつ、庭に着くと、碧が買い物袋を車から降ろしていた。
「手伝おうか?」
「大丈夫、これで終わりだから」
どうやら、一度家に運んだ後だった様だ。
周囲を見るが、さっき逃げていったぺんぺんの姿は無い。
「ペンペンどうだった?」
「うん? 大人しかったよ。すんごく良い子だった」
……ペンペン君、何か対応が違うんじゃ無いですか?
「あ、後ね、肉は今回までは買ってこなかったから。まだ1週間は残ってるから」
「そっか、来週からは不味い肉生活になるのか」
「もー、言わないでよ。考えない様にしてるんだから」
ダンジョン肉に慣れた身としては、ただの豚肉や鶏の肉では満足出来なくなっている自信が有る。
今なら、一徹バリのちゃぶ台返しが出来るよ。ただ、その時は碧も一緒にちゃぶ台をひっくり返すとと思うけどね…
「大阪に行って狩ってくるしか無いよな」
「だね。でも、どれ位の頻度で行く? 交通費の問題もあるし、肉を狩るとしたら、キャンプとかで長々居る訳にも行かないでしょ」
……確かに。交通費を抑えるには、向こうでキャンプなりして泊まりがけで何日か潜れば良いんだが、肉は日持ちしないからな。
最終日に肉持ちを狩れば良いんだが、他の『冒険者』も居る関係上、確実に狩れるとは限らないんだよ。困ったことだ。
「今度の火曜日辺りに一度行くか? それで様子を見よう。他の『冒険者』と被らない狩り場が見つかれば良いんだけどな」
「分かった、4日後ね。……こんな事なら、八岐大蛇なんか倒すんじゃ無かった」
碧は大きくため息をつきながら、荷物を持って家へと入っていった。
……あの日、アノ水晶柱に全員で手を触れた瞬間、ダンジョンが消滅した。
俺達は地下室の中に転移されていて、入り口も完全にふさがり、ダンジョン内に飛び出ていた『出窓』の構造物は全てそのまま地下室内に転がっていた。
壁に打ち付けたアンカーと金属板はそのままで、元々ダンジョンが存在した場所からバッサリと切断されていた。
穴の空いていた場所は、元々のコンクリート壁に戻っている様で、明らかにそれ以外の壁と同じ古さがあった。
多分、元々あった壁なんだろう。ダンジョンが有った間は次元の狭間にでも隠れていたとでも言うのだろうか?
……何はともあれ、我が家からダンジョンが無くなってしまったのだ。
家の飯の種が…… 今後の生計が…… これじゃ『鍛冶』が出来ないじゃないか……
誰か、時間を戻してくれ~。
はぁ~、どうしよう、これから。




