35話 デビュタント
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「起き抜けに悪いけど、これ見て」
「……俺はまだ寝ぼけてるのか? それとも予定の3倍寝てたのか?」
「残念ながら、どちらも違うわ。Lの値が酷い事になってるでしょ」
「…確か、寝る前言ったよな、まだまだ当分先だって、だから寝たんだぜ」
「私に言われても困るわよ、私だって起きてこれを見て、自分の目を疑ったんだから」
「あそこに住んでるヤツらが、何かやらかしたのか?」
「一応それも考えて、私たちが寝ていた間の事を調べさせてるわ。あと、ついでに過去も再調査ね」
「しばらく時間が掛かるな。じっくり待つしか無いか」
「起きたばかりだから、また寝る訳にも行かないものね」
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碧が指し示すテレビ画面には、携帯で撮ったと思われる粗い動画が流されていた。
その動画の中で、逃げ惑う年配の男女数人を、ブルー・コモド2匹が追いかけていく。
場所は小さめの漁港の様で、漁船が何艘が停泊しているのがバックに写っている。
「日本か?」
「うん、山口だって」
「…この間が鳥取だったけど、結構近場だな。島根を飛ばしたか。法則性でも有るのか? 山口のどこ?」
山口はあまり詳しくない。知ってるのは下関と秋芳洞ぐらいか。
「えっとね、何か変な読み方をする街だったよ。牛が付くの、も~も~の牛」
「……ひょっとして特牛か?」
「あっ!それ! お兄、良く知ってたね」
「前、イカ漁の番組で見たからな。変わった読み方だったんで、何でか覚えてたよ」
「お兄ー、好きだよね、ドキュメンタリー系の番組」
ドキュメンタリー限定じゃ無いけど、仕事をしている人の話は好きだ。
ただし、ドラマや再現ドラマは除くよ。実際にやっている姿を撮ったヤツね。おかげで今時珍しく、○HKを見る率が高かったりする。
あ…昔ね、今は見てないよ。って言うか、家にはテレビはありません! 放送法?それって美味しい?
……嘘です。来たら契約します。はい。
そのままテレビを見ていると、どうやら今回は犠牲者が出た様で、死者1名、重軽傷者4名と発表された。
こう言う時って、えてして重傷者もこの後病院で亡くなるケースがある。今はそうならない事を祈ろう。
場所は特牛で間違いなかった様で、場所的に警察官なども駐在しか居なかった関係で、対処が遅れた事が被害を大きくした原因の様だ。
「ここってかなり田舎みたいだね」
碧がネットで地図を見ながらそう言ってきた。
俺も、以前の番組で見ただけなので良く分からないが、ワイドショーだかニュース番組だか分からない様な番組で写されている地図を見ると、かなりの田舎だという事が分かる。
海沿いまで山が来ていて、そこに集落が固まっている感じだ。
一応下関市には成っているが、平成の大合併で引っ付いた端の方だ。下関市中心街から車で1時間近く掛かるんじゃ無いかな?地図的に見て。
そんな街の直ぐ側にある山際にダンジョンが発生した様だ。簡易郵便局の裏手当たりらしい。
発生したのは午前8時頃らしく、現在は陸上自衛隊山口駐屯地より派遣された自衛隊によって簡易封鎖までが完了している。
ただ、陸上自衛隊が来るまでに、かなりの数のモンスターがダンジョン外に出た様で、その一部が山側へ向かったと思われる痕跡が複数見つかった為、現在山狩りを実施しているらしい。
12年前のダンジョン騒動以来、自衛隊の株は上がっている。
二昔前までは、飲み屋などで職業を明かす事が出来なかったが、平成になると明かせる様に成り、ダンジョン発生以降は堂々と言える様になったそうだ。
自衛隊を罵倒する某組織や政党も、今日では力を無くし、消滅し掛かっている。良い傾向だと俺は思ってる。
所で余談だが、飲み屋で初対面の者に職業を聞かれて『公務員』としか答えない公務員が後2組織有る。
一つは『刑務官』で、もう一つは『警察官』だ。無論、全員が、と言う訳では無い。だが明かさない者が多いのも事実だ。
その理由は、『刑務官』は職業に対する一般人のとらえ方を卑下する傾向があり、答えづらい様だ。
そして、『警察官』は、交通違反の取り締まり等で恨まれている意識があるらしく、絡まれたり引かれたりする事を考えて明かさないらしい。
ただ、『刑務官』に関しては、平成の大不況に伴う失業率が急上昇した折から、急激に職種としての人気が上がり、就職希望者が増えそれに伴って内部の意識も変わり始めているらしい。
ホントに余談だな。閑話休題。
その日の夕方、ベトナムにダンジョンが発生した事が発表され、それから数日にわたって前回の様に、次々と発表されていった。
結果、136個が新規に発生し様だ。家の分も入れれば現在512個のダンジョンが有る事に成る……
ちなみに、今回、北朝鮮に2個のダンジョンが発生したらしい。当初は何時もの嘘かと思ったが、外国記者団に見せた事で事実だと判明した。
今回のダンジョンは世界規模で見れば、かなり街中に出たモノが多かった様で、それに伴って被害も相当出た様だ。
日本も、結局死者は2名となってしまった。これで今までの、ダンジョン発生時にダンジョン外で生じた死者数は7名となった訳だ。
この事から考えると、前回の米子の件がいかに運が良く、対処も良かったかがハッキリと分かる。テレビのコメンテーターもその件に触れ、その際退職した基地司令官を悔やんだ。
ダンジョン増殖騒動で騒がしい中、俺達は『大阪ダンジョン』へと来た。
碧はこれが、記録上のダンジョンデビューと成る。
今回は、人数が多いので軽自動車で高速道路を通って来た。高速道路を通るのは自動車学校の高速実習以来だったので、結構ビクビクだったよ。
途中で碧が「換わろうか?」など寝言を言ってきたが、無視した。こいつは俺以上に、自動車の運転経験が少ないからな。その上、絶対飛ばすのは目に見えている。
諸費用込み12万円で、既に12年以上前の軽自動車にそんな無理はさせられない。俺は死にたく有りません。
リュックと大型スポーツバッグなどを持って施設内へと入っていく。
碧は、「おおぉー」とあちこちを見ながら感心している。完全なお上りさん状態だ。
受付広場へと付くと、碧に荷物などを預けると、碧のタグと俺のタグを提出して何時もの手続きを行う。
その途中で、何時もなら無言で手続きをする受付嬢が、珍しく話しかけてきた。
「あの、そちらのワンちゃんと、……鳥?も連れて入る気ですか?」
ぺんぺんはともかく、デボの存在には疑問符が付いていた。ま、しかたないやね。スズメと言っても誰も信じないよ。
「はい、索敵要員です」
碧の肩と、頭の上に乗っかった2人を見ながら俺が答えると、綺麗な顔を歪めて何か言いたげな様子だ。
だが、職業意識が勝った様で、何も言わずに手続きを進めてくれた。ただ、何度となく2人の方をちらちらと見てたけどね。
それは、隣の荷物受け渡しカウンターの受付嬢も同じで、物言いたげな顔をしている。
手続きか終わると、隅の着替え場所で装備を付けていく。剣と槍は長い木箱に入れていたので、鍵を開けて取り出した。
そして、俺と碧はもちろん、ぺんぺんとデボの鎧も装着していく。
その様子を先程の2人の受付嬢だけで無く、買い取りカウンターの男性職員までガン見していた。
装備を付け終わった俺は、ぺんぺんだけを左肩に載せて、バッグや箱などを預ける手続きを行った。
「あの… その子、大丈夫なんですか?」
結局我慢出来なくなった受付嬢が聞いてきた。子犬サイズだからな…いや、子猫サイズって言う方が近いか?
「ええ、鍛えてますから大丈夫ですよ。妹より役立つ位です」
後ろで碧が何か言ったが、無視、無視。
受付嬢は、「そうですか…」とだけ言って、「お気を付けて」と何時もの言葉で送り出してくれた。表情は何時もと全く違うけどね。
そして、俺達は柵と扉を開き、吹き抜けホールに出た。
「おぉー! ここが大阪ダンジョンなんだ! 地下鉄入口そっくりだね」
兄妹だからなのか、思う事は同じだった様だ。
「ホンじゃ行くぞ、一応油断するなよ。知らないモンスターも出るからな」
「了解♪」
一応、俺の初回同様に、碧には水晶柱に触らせる。そして、その間、俺が身体でテレビカメラの方向をブロックしておいた。
その後は、ずんずんと進んでいく。
今までは入り口付近で時間を潰していたんだが、今回からはいける所まで行くつもりだ。
ただ、『転移』のポイントは水晶柱の所1ヶ所しか打てないため、来月来る時も入り口から歩いて行く必要がある。
「よ~っし、他の冒険者に注意しろよ。魔法を使う時には特にな」
それだけ注意すると、前もって考えていたコースへと向かって最短距離で進んでいく。
無論、何時もの『マップ』『気配察知』『罠探知』は実行済みだ。この3セットはダンジョンに入った時には無意識に実行する癖が付いている。必須だからね。
10分後、レベル10帯で冒険者5人組と遭遇した。
『気配察知』に青点で表示されていたので、前もって気付いていたこっちは驚いて居ないが、向こうにはこのスキル持ちは居なかった様で、かなり慌てていた。
「あれぇ? ひょっとして近藤さん? あっ三村さんも居る、って事は後は飯田さんと佐伯さんに三枝さんだ。おひさ~」
碧の知り合いって事は、受講時の同期って事か。
向こうも碧の事が分かった様で、急に肩から力が抜けた様だ。
その後、5分程碧は彼らと話をした。近状報告的なことのようだ。あと、俺とデボやぺんぺんの事も聞いてる。碧はぺんぺん達の事は適当にはぐらかしていたけどね。
思わぬ邂逅があったが、その後は30分は他の冒険者達と出会う事も無く進めた。
無双だ。まあ、普段夕方にやる入り口付近の掃除と同じ事だ。ただ場所が違うだけ。
30分程潜った、レベル30帯から急に冒険者の『青点』が脳内マップに頻繁に現れる様になった。
どうやら、このダンジョンではレベル30帯が良い狩り場の様だ。俺達は、そんな『青点』を避けながら奥へと向かう。
基本、『皮』や『牙』などのドロップは全て放置だ。魔石も放置で良いのだが、碧はしっかり回収していく。嵩張らないからOKとの事。
デボとぺんぺんは、周囲に『冒険者』が居る時には攻撃を控える様にしている。実質碧と2人だけとなる訳だが、レベル50帯までなら問題無い。
俺達はずんずんと進む。無双より鎧袖一触の方が合う気がする程の勢いで、黒い靄をばら撒きながら突き進む。
この『大阪ダンジョン』で現在公開されているマップは、レベル50帯までだ。
実際の最前線は、それより10は上だと思われるが、『宝箱』を荒らされるのを嫌がる最前線組が公開していないらしい。
俺達は、2時間半程でその最後のマップまで到達していた。
「よ~っし、これからはマップ無しだから、少しゆっくり進むぞ。コースは適当になるけど我慢な」
それだけ言って、比較的広い洞窟を進んでいく。
この『大阪ダンジョン』は、場所場所によって周囲の様子が変わる。最初の部分は用水路の中の様な真っ平らな壁面だったが、現在の場所は一見すると土壁に見える凸凹した壁となっている。
もちろん地面と天上も同じで、天上からは時折木の根が飛び出していたりもする。まるで、地上に近い洞窟の中の様だ。
そんな中を時折出て来る初見のモンスターや、やり成れたモンスターをぶち殺しながら進む。
ぺんぺんは、接近戦で『爪斬』の練習をしながらの殲滅だ。
『爪斬』は爪からオーラっぽい刃が伸びて、それで対象を切り刻む事が出来るスキルだ。
グレードに、Ⅰ~Ⅲまでが有って、それに応じて刃の長さと切れ味が変わる。
このスキルの同系統上位に『旋風爪』というのも有り、こちらは『爪斬Ⅱ』レベルの爪を全周囲に飛ばす事が出来るのだが、フレンドリーファイアの問題があって、使い勝手が悪い。使えれば結構良いスキルなんだけどな…
デボはストーン・アローか忌音波を多用している。『忌音波』は麻痺、石化、スローという3つの状態異常がランダムで発生するスキルで、麻痺の確率が7割程なので基本麻痺する予定で使っている。
状態異常って、ゲームでは剣などにそのスキルがあればともかく、あえて魔法として使う事は無かったけど、使ってみると格段に便利だ。
100%効果が出る訳では無いが、一度発生すれば後は楽勝になる。サクサク殲滅、とっても安全、と良い所だらけだ。デボに修得させて良かった。
俺と碧は、各武器の扱いを色々と考察しながらやっている。無駄な時間にしたくないからね。
そんな俺達がレベル60帯に到着したのはダンジョンに入って4時間が経過した頃で、午後3時過ぎだった。
『グリフォン』と名付けられた四つ脚の鷹を、碧が『爆裂突き』で爆砕してる時、脳内マップに『青点』が入って来た。
通常なら存在だけを認識して、こちらに来ないなら放置するのだが、その『青点』の色がやたらと薄かったので気になってしまった。
ドロップアイテムの『グリフォンの尾羽』と黒の魔石(C-3)を回収している碧にその事を伝えた。
「色が薄いって、どう言う事?」
「いや、俺も分からない。基本冒険者と会う事自体少ないからな」
結局俺達はその『青点』を調べに行く事にした。そのまま放置したら、後で気になってしょうが無くなる気がしたからね。
もし、何にか危ない様な、即『転移』出来る準備をしておく。
ただ、方向と距離は分かるのだが、そこへ至る道は脳内マップには表示されない。
そして、その場所に行くために、行きつ戻りつウロウロ30分近く掛かってしまった。
なんせ、最終的には発見した場所から、2つ前の分岐へ戻らなくては成らなかった。この間、ゲームの様に範囲内のマップが全て表示されるスキルが欲しいと思ったよ。
目的の『青点』の15メートル程手前にある張り出した岩から、そっと顔を出して覗く。
すると、その先の地面には人が倒れていた。
こちらに頭を向けてうつ伏せに倒れているので、顔は分からない。
髪は長髪で女性のようにも思えるが、ロン毛の野郎なんて腐る程いる。
「倒れてるね。あれ、男?女?」
「分からん。どうする、何かの罠って感じじゃないよな」
「罠はさすがにないと思う。結構時間たってるし」
色々思う事は有るのだが、『青点』の色が最初見た時より更に薄くなってきているのが気になる。
現状の倒れている様子から見て、光の強さが『生命力』を表しているんじゃ無いかと思えてきた。
「取りあえず行こう、死にかけだったらマズいし」
「了解。デボ、ぺんぺん、周囲の警戒よろしくね」
周囲を今まで以上に警戒しながら近づく。多少なりと不自然な岩の膨らみなどは、今までも碧が槍で突いて確認をしていたのだが、ここではそれよりも小さな膨らみも確認しながら進んだ。
ここら辺のレベル帯に成ると、『気配察知』に掛からない通称ステルス系モンスターが希に居る。
しかも、それだけで無く、擬態能力まで持っているヤツが居るので、こんな警戒が必要になってくる。
ちなみに『オクトパス・スライム』と名付けられている。足が8本ある訳では無いが、タコの足の様に触手を伸ばす事と、擬態能力によってその名が付いた様だ。
そんな警戒を実行したが、特に問題なく件の人間の元にたどり着いた。
碧は、一旦その先まで移動し、そこら辺の怪しげな所もチェックしている。
その間に俺はその人間を仰向けにすると、それが女性で有る事が分かった。
年齢は碧と同じか少し上と言った所か。装備から見てとてもこんな奥に来られる様なレベルには見えない。
一応皮鎧を身につけてはいるが、その質的にはレベル15帯で活動するのがせいぜいって所だろう。
死んだ親父達の遺体に近い顔色をした首筋に手を当てると、わずかでは有るが体温があった。
そのまま脈の位置を探して行くと、かなり弱めだが脈打っているのが分かる。
「どお? 生きてる?」
「一応生きてはいるみたいだな。でも、脈がかなり弱い。何かの状態異常を受けてるかも知れないな」
周辺チェックを終えた碧も近寄って来て、首筋に手を当てる。
「あ、ギリだね。これ。…デボお願い」
碧の頭上にいたデボは、ぴょんと飛び降りると、倒れている女性の腹部に飛び降りて、魔法を使う。
青の光が彼女の全身を包む。『ハイ・クリア』デボが現在使える一番強い状態異常回復魔法だ。石化、ゾンビ化(ウイルス感染)も一定時間内なら治せる。
青い光が消えた後に、続けてオレンジの光が発生する。『ハイヒール』だ。こちらも同じく現状最大の単体回復魔法。
オレンジの光が消えて、10秒もすると顔色に朱が差し始めた。
「おっ、利いてる利いてる♪」
しばらく周囲の警戒を忘れない様にしながら経過を見ていると、2分程で顔色も体温も正常に戻った。脈も問題無い様だ。
「大丈夫そうだな。碧、起こしてくれるか」
「お兄ーがやらないの?」
「こんな状況で、目の前に男がいたら色々面倒な事になるだろ?」
「な~る」
と言う事で、碧がその子をゆっさゆっさと揺すって起こした。
……かなり乱暴だ。女同士だから遠慮が無いのか? いや、俺が男を起こすとしたら、もう少し加減するな… 碧が変な風に育ってきている気がする。ダンジョンに潜るのを止めさせた方が良いかも知れない。マジで…
件の女の子は、結構しぶとかったが、碧のビンタ4連発で目を開けた。
「うわぁ! えっ? 誰? 私どう成ってるの?」
パニック状態になったその子に、碧が脳天チョップを食らわした。ビシッって音がしたよ…
「むぎゃっ」とか短い悲鳴を上げたその子は、頭を両手で抱えたままうずくまる。
「うっさい! 騒がない。騒ぐとモンスターが寄ってくるよ」
碧の乱暴な気付け薬がある程度利いた様では有るが、直ぐに状況を聞けそうでは無いな。
はあ… もう少し落ち着くまで待つか。面倒くさい事だな。




