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34話 アリの巣?

 広大なドーム状空間を探索し終えた俺達は、そのドームに他の通路が無い事を再確認後、戻って他のコースを探索する事にした。

 元々、一定エリア帯を少しずつ探索する方式を取っているので、このドームに奥へと続く通路が有ったにせよ、そのまま奥へ行く気は無かった。

 ちなみに、ドーム内の通路確認は、デボに頑張ってもらった。

 徹底的に翼竜を全滅させ、その上で飛んで周囲の壁面や天井部にも洞窟が無いかを確認してもらった。

 下からの目視だけでは、岩の凸凹の関係で死角が有り見逃す可能性が有ったためだ。その為、HPをかなり使うのを我慢してもらって『天駆』で飛び回ってもらった。

 ただ、元々スズメ(?)だけあって、飛ぶ事は好きな様で、嬉々として引き受けてくれていたよ。

 結局その努力は実を結ばなかった訳だが、行き止まりであると言う事が分かった事が重要でもある。

 そんな訳で、一旦別の分岐場所まで戻り、その周辺で狩りをしながら、未探査エリアへも少しずつ進んでいった。

 すると、またこの間と同じ様なドーム空間が現れた。前回同様に『森』で有り、出て来るモンスターも同じ種類ばかりだった。

「宝箱ランドだ~!!」

 碧のテンションは高かった。

 実際、ここでも樹上に多くの『宝箱』が存在し、多くのマジックアイテム類を入手出来た。

 そして、このドーム空間はその後更に5ヶ所発見された。その全てが『森』で有って、モンスターも2種類程違うモノが居ただけで他は全て同じだ。恐竜パラダイス。

 計7ヶ所のドーム空間で手に入れたアイテムはかなりの数になり、その中には現在装備中のマジックアイテムの上位品と思われるモノも幾つかあった。

 それらは随時交換して行ったので、この期間でかなりパラメーター強化が出来たと思う。

 具体的には、『知者の○○』と言う知力+2アイテムを、上位品である『賢者の○○』と言う知力+4アイテムに交換したり、『大地の○○』と言うスタミナ+3アイテムを、『大地母神の○○』と言う+6のアイテムに替えたりなどだ。

 パラメーターアップが頭打ち状態になっている現状での、2~3のアップでも非常にありがたいモノだ。

 MMORPGのカンスト状態で、後は装備品やアイテムで強化するしか無い状態に近いかもしれない。

 もちろん、俺達の場合はまだまだ成長出来る余地はある。

 レベルに関しては問題無くレベル80位までは上げられると思う。『思う』と不確定なのは、現在公式にレベルアップに必要な値で公開されているのがレベル70までだからだ。

 それまでの上昇分から想定して、レベル80位までは何とか成るだろう、と言う事だ。実際は自分たちで確認するより他は無い。

 レベルは何とか成る。だが、パラメーターは正直きつい。

 現在、次に必要な経験値の値が20万後半になっている。

 仮に、今のレベル60台のエリア帯で日に50匹を殺したとしても、63×50=3150、それを一ヶ月付けて、3150×30=94500、つまり1/3程度にしか成らない。

 1ポイントのパラメーターを上げるのに3ヶ月掛かる事になる訳だ。そして、次の1ポイントは更に掛かる……

 成長は可能ではあるが、実質頭打ちと呼んで良い状態だろう。

 こんな状態での、アイテムでの2ポイントがどれほど大きいか。『音速の○○』や『○○の指輪Ⅲ』などに成ると+9や+8だ。100万以上経験値を得たのと同じと言う事に成る。

 ありがたや、ありがたや。

 ただ、こんな頭打ち状態を自認しておきながら、まだ成長を諦めきれないで居る。

 その為、他系統の魔法やスキルは取らない様にしている。正直かなり我慢しているよ。

 ブースト系スキルや、消費軽減系スキルとか、付与系魔法とか…… あと、俺個人としては縮地などの移動系も欲しい。俺だけ持っていないから。

 だが、これらを無作為に取れば、3倍3倍3倍と成って、頭打ち所か、実質不可能と言っても良い状態になるため躊躇っているんだ。

 だから基準として、一応、先に進むのを止めた時点で好きにすると言う事にしている。

 碧などは、「パラメーターが全部20以上になったらって言ったのにー!」と文句を言っていたが、その当人はまだ7ポイントも足りないので言いがかりにも成っていない。

 一応、最初に定めた『パラメーターの各値が20以上』を満たしているのは俺だけだ。

 碧は超不効率だった為で、ぺんぺんとデボは初期のパラメーターが圧倒的に低かった為、効率よくやってもまだそれに達していない。

 実は、全員途中で別系統のスキルを修得した事も原因なんだけどね。

 俺と碧は武器依存系スキルの一系統を、デボは飛行系を、ぺんぺんは物理攻撃系を取ってしまった。

 俺が目標の『全てのパラメーターを20』をクリアーした段階で修得すると、それに釣られて碧が取り、そしてぺんぺん達も…と言う流れだった。

 実際、その時修得したスキルは役に立ちまくりだったのは確かだ。だがらあまり文句は言えない。

 ……振り返れば色々思う事は有る。

 後悔する事が多いけどね……

 それと、7ヶ所のドーム空間を全て確認したあと、そのマップをPCに書き込んでいて、ふと思った。

 これって『アリの巣』に似てね? と。

 上部に複数の通路が網の目の様に有り、その下に散らばる様にして広くなった空間がある。図鑑などで見るアリの巣そっくりだ。

 これがアリの巣だったら、あのドームには卵が有ったり、食料庫になっていたり、女王アリの部屋が有ったりするんだろう。

 だが、あのドームにはそう言ったモノは無かった。有ったのは、木と草と土と『宝箱』と恐竜型モンスターだけだ。

 無論、それまでの洞窟部分と隔絶した環境なのは確かではある。だがそれだけと言えばそれだけだ。

 あの空間に意味を求める事が無駄なのだろうか?

 ダンジョン自体の意味すら分かっていないのに、個々の部分の意味を考えても答えなど出ないのだろう。

 それでも何か意味を求めてしまうのは、性格から来るモノなのかも知れない。胃を壊しやすいタイプだと自認してるよ…

 所で、このドーム空間を探査していた際、帰り道にここに生えている木を切って持ち帰る様にした。

 一度に持ち帰れる量はたかが知れているが、チリも積もればゴミ屋敷ってヤツだ。

 転移で一緒に持ち帰り、出窓部分で薪の大きさに切ってしまう。後は、薪置き場に置いておけばいい。

 当初、大量に有った元倉庫の廃材だが、この2年の内にほとんど無くなってしまっている。

 基本、毎日の様に風呂焚きに使っていたから、無くなるのもしようが無い。

 この薪は、風呂焚き用はもちろんだが、小屋の部分に積み上げて地下室への階段を隠す意味も持っている。

 その為、小屋には薪は残っていても、風呂焚きに使える分は無いという状態になっていた。

 だからといって、購入するのは馬鹿らしいので、最近はガスを使用していた。

 そんなおりに、ただの木が大量に有ると成れば、持ち帰らずには居られない。

 もちろん、この木は生木なので、水分が抜けるまで半年以上は掛かるだろう。それはそれで良い。先を見て蓄えるのだから。

 全てのドームの探査が終わった後も、この場は『良い狩り場』なので頻繁に訪れた。そしてその際、帰りには木を切って持ち帰る様にした。

 その結果、小屋の横、畑側に結構な数の薪が積み上げられている。多分半年分は有るだろう。

 薪ってさ、買うと高いんだよ。昔は安かったんだと思うけど、今は贅沢品に近いと思う。ガスの方が安い事を知って驚いた。

 考えようによっては、あの『森』は凄い資源なんじゃないかとも思う。

 モンスターの様に黒い(もや)と成って消え無いし、ダンジョンの復元作用で半日程で元に戻る。

 碧が以前言っていた『モンスター肉』の話じゃ無いが、無限の資源が手には入る事になる。

 問題は、モンスターの存在と、どうやって持ち出すかって問題だ。

 転移には質量制限があって、限られた量しか転移出来ない。更に一日に転移出来る回数にも制限がある。

 かと言って、地道に引きずって運んでいくとなると、他の場所の狭さがネックとなる。その上距離も結構あるし。

 ……やっぱり無理か。木材の種類しだいでは、良い資源に成ると思ったんだけどな。

 パルプ用とかなら大きさに制限が無いから、細かく切っても良いしって思ったんだけど、残念。

 実現出来れば、日本にとっては革命的な事だったんだけどな……

 (うち)の薪用で使うのが限界の様だ。


 最初ススキだらけで荒れ放題だった2枚の畑だが、今は絶賛フル稼働中だ。

 家に近い方の畑は、キャベツ、タマネギ、ニラ、ニンジン、白菜、ピーマン、ナスなどと言った食卓に必須な野菜を作っている。

 季節に合わせ、出来るだけ常に何らかの野菜が取れる様にだ。

 相性問題のある野菜も結構あるので、配置には気を使ってるよ。あと、農薬は無しだ。自分たちで食べるんで、安全のためにね。

 そのせいで、竹酢液系の農薬擬きを使っているのだが、それもあんまり安くは無いんだよな… 何度となく『錬金術』で作れれば、なんて考えたよ。染まってきている気がする…

 もう一つの奥側の畑は、果樹園と化している。

 柿、桃、ブドウ、ブルーベリーを現在植えている。

 それぞれグループごとに植え、各グループの間隔は充分に開けている。

 柿や桃はさすがにまだ実を結ばないが、ブルーベリーは既に収穫出来ている。

 実は、何時ものディスカウントスーパーのおばちゃんに教えられるまで、ブルーベリーが日本で栽培できることを知らなかったんだよ。

 何となく南国のフルーツって思い込んでいて、果樹の苗木を買いに行った際も全く候補に入っていなかった。

 だが、おばちゃんが、「めちゃくちゃ楽だよ。栽培も簡単。大きくなりすぎないから良いよ」と押しに押して来たので、試しに、と買ったのだが、大正解だった。

 おばちゃんには感謝している。

 おばちゃんも、平日の日中に度々来るド素人って事で、顔を覚えた様で、その時期のお勧めをどしどし押してくる。

 実際おばちゃんのお勧めで失敗した事は無いので、絶大なる信頼を寄せている。

 俺の農業の先生1号だ。ちなみに2号はグーグル先生ね。

 桃も来年辺りは少しは実を付けるかも知れないし、ブドウもいけそうな気がする。

 後は、ナシとかミカン系も植えたいな。出来れば季節がばらければ良いんだけと、それは難しそうだ。

 実質たった1枚の畑ではあるけど、野菜を育てる事は結構大変だった。

 虫や病気、水のやり過ぎ等々… 致命的な失敗は幸い無いのだが、細かな失敗は限りが無い。

 デボが芋虫とかを捕ってくれていなかったら、葉物野菜も結構ダメージを受けていたかも知れない。

 農業って大変なんだなって実感出来たよ。兼業のなんちゃって農業でこれだから、専業農家の人って本当に大変なんだと思う。

 そう言えば、碧のヤツが、「いっそ、自給自足する?」なんて無謀な事を言った事が有った。

 現実的に自給自足は無理だと思う。だって、固定資産税や健康保険税、国民年金なんてモノがかなりの額で必要になる。

 それを農作物とかでまかなうとしたら、自給自足では無く、農家になってしまう。魔石やドロップ品でまかなったら『冒険者』だ。

 何より、野菜はともかく、米作りはもっと大変らしい。野菜の様には行かないと思う。不可能だね、自給自足なんて。

 ダンジョンで、『肉』以外に『米』と『小麦』がドロップしてくれればな~なんてアホな事を2人で言い合った事もあった。

 ホント、アホだったよ。


「お兄ー、肉がそろそろ切れそうだよ」

「どっちだ?」

「両方、鳥も豚も。今日行く? 一応2日間位は持つけど」

「コカトリスは位置が半端だな、早めに終えて、帰りがけドードーかジャイアント・モアを狩って、ビッグ・スタンプと行くか」

 ドードーとビッグ・モアは某絶滅鳥類の類似モンスターだ。両方とも飛べないヤツね。

 余談だが、ジャイアント・モアと名付けられたモンスターの名を、某RPGで有名な飛べない鳥の名にしようと言う運動が起きた事がある。

 現在40代中盤以降の者から現在20代の者まで、幅広く知られたキャラクターだっただけに、短期間ではあるがその名に変わった事があったが、直ぐにジャイアント・モアに戻ってしまった。

 俺的には、なんて無駄な事をしたんだ、って思ったよ。ダンジョンに命を賭けて潜る『冒険者』がやるべき事かよ、ってね。

 でも、それなりのゲーマーが居た様で、それなりの運動には成った様だ。元々は和製RPGではあったけど、今では世界レベルのゲームになっているから、そのキャラクターに愛着の有る者もそれなりに居たって事なんだろう。閑話休題

 あと、ビッグ・スタンプは、巨大な鼻を持つ猪で、その鼻を使って攻撃してくる。その攻撃の様が鼻で判子を押す様な姿なので、その名が付いたと思われる。

 ドードーやジャイアント・モア、ビッグ・スタンプも『肉』を部位ごとにドロップする。

 味もなかなかだ。我が家では、既に1年半以上肉を買った事が無い。全てダンジョン産でまかなっている。

「よお~っし、今日も皆殺しだ~♪」

 何時も通りの、人様に聞かせられない様な事を楽しそうに言う。今更なので突っ込まない。

 通常、午前11時45分をめどに帰るのだが、今日は10時50分頃にはドードーなどが居るレベル45帯へと行かなくては成らない。

 探索時間が全体として短くなるな。う~ん、良し。

「今日は、後で肉狩りに行かないといけないから、森には行かないで新規エリアを中心に行くか」

「いいね、いいね! それで行こう♪」

 碧的には、既存のエリアでは無く未探査エリアであれば『宝箱』が手に入る可能性が上がるので、全く文句は無いようだ。

 現金なヤツだよ。

 そして、俺達は前回の終了地点そばの『部屋』へと転移する。

 幸い今回は『部屋』内にモンスターはおらず、即戦闘と言う事には成らなかった。何時もこうだと楽で良いんだけどな。

 その後は、未探査エリアを慎重に移動して行く。

 未知のモンスターへの対処も慣れたものだ。

 初回は全力で潰し、次から少しずつ手を抜いていって相手の特性と強さを確認していく。

 ある程度情報収集が終了したら、1匹だけで出て来た所で、一人だけで戦い、入手経験値からそのモンスターのレベルを確定させる。

 ちなみに、複数で攻撃した場合、全員の入手経験値の和は少し少なくなる。その為、正確なレベルを知るためには1人で殺す必要がある。

 その日出て来たモンスターには、カバ・ナーガと仮の名を付けた。

 名前から分かると思うけど、蛇の頭部がカバに似ているヤツなんだよ。ナーガのように手は無い。

 水系のブレスを吐くヤツで、ウオーター・ジェットと言える様なレベルで吐き出す。通過した後には幅5ミリ程の線が鍾乳石に刻まれている。

 多分、俺達の身体に当たったら、ぺんぺんとデボの『皮鎧』ではキツいかも知れない。

 俺達の『甲殻鎧』でギリかな? 試してみる気はないよ。

 まあ、この攻撃は『MシールドリングⅡ』並びに『Wシールドリング』によって防いでいる。

 『MシールドリングⅡ』は マジックシールドを発生させる指輪で、ぺんぺんが使用している。

 『Wシールドリング』は物理・魔法両方に対応出来るシールドを発生させる指輪で、デボが使用している。

 デボの『Wシールドリング』はⅠなので、強度はあまり強く無い。その為、このウォーター・ジェットは結構ギリギリの様だ。

 そんな所も検証項目に入っている。今後何百匹と戦うので、そう言った情報はしっかりと検証しないといけない。石橋はたたき割って船で渡るんだよ。

 その後も、BGと仮り名を付けた、全長3メートルを越える巨大なゴキブリや、ゴーゴンと名付けた蛇が体中から生えている二足歩行の何かなどと遭遇し、検証しながら殲滅していく。

「完全にレベルが70を越えたな」

「うん、また、65から5飛んだね」

 あの恐竜パラダイスは、その前の当たりから急にレベルで5分飛んで居た。そして、ここら辺のモンスターはあの恐竜たちより更に5飛んだ70台になっている。

 2ヶ所で10分が飛んだ事になる。実際は、ドーム内のレベル幅の5分も入れれば15飛ぶ事になる訳だ。

 なによりこの場所は、あの恐竜が居たドームを通らなくても来られる場所だ。つまり、レベル55の場所から移動したら、急にレベル70のモンスターが現れると言う事に成る。

 ギリギリでやっている者なら間違いなく死んでいたと思う。

 一応、レベル55のモンスターが居る領域がかなり広かったので、勘の鋭いものなら違和感を感じたかも知れない。まあ、全ては仮定の話だ。

 その後、1つの『宝箱』を見つけたが、『アダマンタイトの塊』と言う微妙に扱いづらいモノで、碧は落胆していた。

 そして、予定通り10時50分からバックして、ドードー達の居る帯域へと移動し、多すぎる程の各種『肉』を入手した。

 そんな『肉』を両手で持って家に戻り、冷凍庫にジップロックに入れてしまい込むと、俺はデボとぺんぺんを連れてシャワーを浴びに行った。

 2人とも風呂好きで、夜の風呂はもちろん昼のシャワーも毎回浴びる。

 確か犬とかは、頻繁に身体を洗うと脂分が取れすぎで逆にあまり良くないという話も聞くんだが…まあ、普通の犬じゃ無いから問題無いだろう。

 実際2人とも2年以上やっていて問題無いので、大丈夫なんだろう。

 3人でシャワーを浴び終え、タオルやドライヤーで乾燥を済ませて、碧と昼食の準備を変わろうと台所に行くが碧は居なかった。

 碧は居間に居て、テレビを見ている。基本帰ってくると、碧はテレビは付けるのだが、テレビが台所から見える様に障子を開けて昼食の準備をしながらチラ見するのが普通だ。

 それが、がっつり見ているって事は、何か珍しい事か、重大事件などが起こったと言う事だろう。

「何か事件か?」

 そう言いながら3人で居間に入ると、碧は振り向きざまに言った。

「また、ダンジョンが発生したよ」

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