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26話 ゼロ歳だとおぉ?

 レッド・ゴブリンと遭遇し、魔法の恐怖を実感して以来、さすがの碧も「もっと奥へ行こ~よ」とは言わなくなった。

 その代わり、『半殺し大作戦』を強要される様になったんだけどね…

 アレって、モンスター相手でも、あんまりやりたくないんだよな。拷問ぽいから。

 ただその甲斐あってか、『低級回復薬』を2つ『盗む』事に成功した。

 この時点でレッド・ゴブリンのドロップと合わせて3個の『低級回復薬』を手に入れた訳で、30万円を稼いだことになる。

 また最近、一角鬼や悪魔の壺から取れる『黒赤の魔石』が、太陽電池パネルの需要拡大の為A-1で400円だった物が500円まで上がり始めている。

 現在メインで狩りを行っているレベル帯には、一角鬼が結構居るので、魔石の収入も確実に上がっていることになる。

 出来れば、まだクズ魔石扱いされている、イエロー・キャタピラーの黄色の魔石と、Gの紺色の魔石の金になる使い道が発見される事を切に願っていたりする。苦労して10円じゃ悲しいんだよ。

 ちなみに、一角鬼から『(きん)欠片(かけら)』はドロップ・『盗む』共に成功していない。当然『半殺し大作戦』でもだ。

 グリーン・ゴブリンからの香木も手に入ってない。ドロップ率が低すぎるよ…

 今回の様に、『低級回復薬』をコンスタントに入手出来れば『奥』へ行く必要は無いんだけど…どう考えても無理だよなまだ。

 それと装備の件は、一時しのぎ案のままになっている。

 980円のジーンズを買ってきて、足の曲げ伸ばしに邪魔にならない範囲で『硬化剤』で装甲化した。

 とは言え、一発で成功した訳では無い。だって、布だからしみこんで思っていた範囲以上に広がるから。

 その為に2枚程失敗して2000円近くの損失を出した。鶏モモ何パック分だよ…

 この問題を解決したのは、『ろうけち染め』の技法だった。契約してて良かったよ、ネット環境。グーグル先生に感謝です。

 これは名前の通り、ロウを使った染色技法で、染色したくない場所にロウを塗って、後でロウを取ると言うモノだ。

 つまり、境界線上に予めロウを塗って、しみこまない様にした上で『硬化剤』を塗った訳だ。

 実際は、段ボールで作った足形にジーンズをはかせた状態で、塗ったんだけどね。

 履きやすさも考えて、膝周りだけで無く、太股やスネの部分も、幾つかの縦の装甲になる様に細かく(ロウ)を入れた。

 尻とかは実質タイル状に成ったよ。じゃないとマトモに動けないからね。

 塗ったロウは沸騰しない程度のお湯で煮れば溶けてしまう。『硬化剤』で大半がコーティングされているので、安物ジーンズ生地も縮む事は無かった。

 この装甲化ジーンズは、俺と碧で各3個ずつ、計6個も作った。おかげで『硬化剤』のストックが無くなったよ。

 トレントとチェーン・バイパーをまた狩りまくらなきゃな。

 『硬化剤』が一定以上溜まったら、今度は上着を同様の方法で装甲化するつもりだ。ジーンズ以上に細かく分割する必要があるので大変そうだけど、やる意義はある。

 ちなみに、脚部のプロテクターは以前のままだ。壊れた部分をレジンと『硬化剤』で修理し、新たなマジックテープを付けただけだ。

 全面を被う構造までは、装甲化ジーンズが有れば当座は要らないだろうと判断した。多分問題無いはず。


 季節は秋から冬へ移り変わろうとする時期となっている。周囲の山々も色付き始めているが、ダンジョン内の気温は年中一定だ。

 これは、洞窟だからなのか、異次元に存在するからなのかは不明だが、俺たちにとっては有りがたい事なのは間違いない。

 何時も通り、今日も8時半にはダンジョンへと向かう。

 階段部分に掛けたブルーシートを剥ぎ取り、階段を下っていく。

 この階段の上部にはまだ屋根は作っていない。今は崩れた倉庫から使える柱を取り出す作業を行っている。

 ただ、崩れた部分の柱だけでは足りなそうなので、まだ立った状態の部分からも取らなくては成らない。それが遅れている原因になっている。

 なんせ、屋根の瓦から下ろさなくっちゃ成らないからね。ジェンガみたいに抜き取れる訳無いし。

 まあ、どのみち全ての木材を薪にするためには、完全に解体しなくちゃ成らないんだから、良いんだけどさ。

 階段を完成させてからは、以前の様にぺんぺんを肩に乗せて降りる必要が無くなった。ぺんぺんは一人で先に駆け下りていく。

「……碧、何でデボが居るんだ?」

 地下に降りて、振り返ると、碧の頭の上に何故かデボが乗ったままだった。

「うん、デボにもユーザー登録させようと思って。ぺんぺんに出来たんだから、デボも行けるでしょ」

 碧は別段悪びれた風も無く、普通に言ってきた。

「いや、普通に無理だろう。ぺんぺんが特別なんだぞ。まあ、デボも頭は良いと思うけどさ、さすがに無理だろ」

 ぺんぺんは生まれたてながら異常とも言える程頭が良かった。言葉を理解しているのがハッキリ分かる程だった。

 特別なんだよ。ぺんぺんは。多分ある種の突然変異(ミュータント)的なモノなのかも知れない。

 デボは体系的には普通では無いけど、知能的には普通に頭の良い鳥レベルだと思うぞ。

 ある程度の言葉は理解しているけど、あくまでも『ある程度』だからな。それは多分前の飼い主の教育の賜だろうし。

「はい、デボ、ここに乗ってね」

 俺の言葉や考察など一切無視して、碧はデボを水晶柱の上にのせた。

 そもそも、水晶柱に接触しているのは『手』じゃ無くって『足』だろ、デボなら羽を付ける必要があるんじゃ無いか?

 そんな事を思った瞬間、デボの全身が輝き、背中に⇔マークが描かれ、ゆっくりと消えていく…

「ほ~ら、成功したよ」

 碧は勝ち誇った様な顔でこっちを見る。これか、これが、どや顔ってヤツなのか?

 って言うか、何だ? 生物だったら何でも良いんかい? 何で足じゃ無くって背中にマークが出るんだよ?

 疑問符の羅列状態な俺を余所に、碧は次の指示を出す。

「よ~し、次はステータス表示だよ、こんな風にステータス出してみて、おおっ、行けたね、じゃ次はそこに書かれている文字を私たちにも見せたいって思って、…おおっ出た出た」

 ……どう成ってるんでしょうか? 俺の中の常識がガラガラと音を立てて崩れていくんだけど… これが普通なのか? 俺の考えがおかしいのか?

 モヤモヤとした気持ちの中で、表示されている値を見ると、こう成っていた。


  ・氏名 鴻池(こうのいけ) デボ

  ・年齢 0歳

  ・Level 1

  ・生命力 10

  ・魔力量 10

  ・スタミナ 05

  ・筋力 06

  ・知力 09

  ・素早さ 05

  ・魔法 無し

  ・スキル 無し

  ・経験値 1


「ププッッッ、『知力』9だって」

 ……おにょれ~、まただよ、またこれだよ。

 このダンジョンを管理している者が、神だか異世界人だか先史文明人だか知らないが、おかしいだろ~がぁ!

 管理者出て来い! GMコールボタンは無いのか!

「色々言いたい事は有る、ホント、有る。…それはさておき、デボ、お前まだ1歳にも成ってなかったのかよ」

「あっ! ホントだ、ゼロ歳になってる!」

 この巨大な球形体型の身体から見て、絶対に生後数年は経過していると無意識に思い込んでいた。だがそうでは無かったらしい。

 どうやらそれは碧も同じだった様で、俺と同様に驚いている。

「ぺんぺんと同い年なんだ。ちょうど良いね」

 何が『ちょうど良い』のか分からないが、まあ良い。

 今の経緯を見ると、デボも言葉を理解しているって事だよな。…これが『普通』なのか? 何か俺の中の常識が分からなくなって来たよ。

 野良猫を捕まえてきて試してみようか? でも、それで『知力』がまた俺より高かったら… や、止めとこう。立ち直れなくなる。

 ひょっとして、ダンジョンに関わった生き物はある程度知能が上がるとか、そんな法則が有る可能性も有るな。

 ぺんぺんは生後間もなくから(うち)のダンジョンの入り口に居たし、デボも『大阪ダンジョン』の付近に住んでいたと思われる。

 その上で、(うち)でダンジョンの側で暮らし始めているし…

 うーん、有り得ない話じゃ無いよな。

 通常はダンジョンの直ぐ側には先ずペットは存在しないから、なかなかこの事実は分からなかった、って感じで。

 …穴だらけの理論だな。

「よぉ~し、次は魔法かスキルの修得だよ」

 悩んでいる俺を一切顧みず、碧は突き進んでいく。

 そして、碧の指示で表示された初期修得可能リストは以下の通りだった。


  ・ストーン・ボール

  ・サンダー・ボール

  ・シールド

  ・リカバリー

  ・天駆

  ・超音波

  ・爪斬


 爪斬はぺんぺんの時と同じだ。う~ん、知らないのが2つ有る、『天駆』と『超音波』だ。

「お兄ー、天駆って何? 字面からすると空歩に似てる感じだけど」

「…悪い、俺も知らないわ。多分人間用には無いタイプのスキルだと思う。多分似た様な系統だと思うけど… こればっかりは試さないと分からないからな」

 天を駆ける、何となく空歩の上位っぽいんだけど、そんな情報は無いんだよな。

 もしかしたら、レベル16制限の縮地よりかなり上に有って、まだ誰も入手出来ていないだけって可能性も有るか… イヤいくら何でもそんな高レベル制限スキルがここで出るってのは無いだろう。

「超音波って、あの超音波?」

 どの超音波だよ。

「イメージ的には咆哮の様に状態異常を発生させるか、漫画なんかで有るみたいに固有振動数がど~たらで、対象物が粉々になるって言うアレじゃ無いか?」

「ソニック・バスター!!」

 いや、多分、状態異常の方だと思うぞ。いくら何でも、そんな強力な攻撃力が初期修得リストに出るはず無いし。

 これも、確認しないと分からないか。

「デボ! ソニック・バスターだよ!」

 いやいや、そんな名前のスキルは無いって。などと突っ込もうとした時には、スキルや魔法を習得したさに出る光にデボが包まれていた。

 そして、デボが選択したのは何故か『ストーン・ボール』だった。

「何でぇ!? 何でよデボぉ~」

 碧がデボのステータスを見て嘆いている。

 ………

 …多分だが、ぺんぺんの時みたいに、上から順に説明しなかったため、一番上を選んだだけなんじゃないかと思う。

 だって、いくら何でもデボに日本語が読める訳無いしね。ぺんぺんも読めなかったから。

 そう言えば、多分今はぺんぺんは簡単な日本語なら読めると思う。確認はしてないけど、そんな気はする。

 両手で持ったデボに疑問をぶつけているアホな碧に、文字の事を説明してやった。

「ああぁぁぁぁ! お兄ーのアホー! 何でその時教えてくれなかったのー!」

 何故か罵倒されてしまったよ。全く、気付けよ自分で。全く…

 碧は舞台女優バリの身振りで、失望を身体で表現しながら「ソニック・バスターがぁー」と 呻き続けていた。

「あぁー、デボ、お前が選択したのは、これぐらいの石の塊を飛ばす魔法だよ。雷撃…ほら、この玉が石のとげとげになったヤツ」

 一応ぺんぺんの時と同様に、デボにも簡単な説明をしてやる。

 ただ、デボがどれほど日本語を理解出来るか分からないので、ぺんぺんと等程度に分かるという前提で、なのだが…

 鳥独特の、頭だけが動く動作で左右に首を傾けながら、俺の説明をデボは聞いていた、…と思う。

 一応、MPの量だけ使える事や、一定時間でMPが回復することも説明した。さすがに数字の概念までは説明してないけどね。

 そんな感じで、分かっている前提で話したんだが、その話が終わって間もなく、デボは羽ばたいて碧の頭の上に着地した。

 そして、体をダンジョン内の方に向けると、両羽を広げたと思ったら、次の瞬間頭上の天上すれすれにストーン・ボールが発生し、それがワイヤーネットへと向かって放たれた。

 高速で放たれたストーンボールは、ワイヤーネットを固定している上部のC鋼にぶつかり、大きな音を発生させながら粉々になって飛び散った。

「あ痛ぁ!」

 結構な数の、跳弾ならぬ跳石が碧や俺達にも飛んできた。ぺんぺんは既に俺の足に隠れている。素早い…。

 C鋼はH鋼などと違ってかなり薄い。俺が使ったのは特に薄い物だったので、ぶつかった所を見ると微妙に凹んでいた。

 だが、ソフトボール大のトゲ付き石が、時速100キロでぶつかってコレなら、良かったと思うべきなのかも知れない。

 頑丈に付くって良かったよ。時間が掛かったけどさ。

 思わぬ形で、『出窓』の強度試験が出来た訳だが、問題のデボは自分でやったことに驚いたのか、一目散に地下室の隅っこまで逃げ去ってうずくまっていた。

 ドロップ品や『錬金術』で作った品を置いた棚と、ドロップ品の剣や槍を立ててある箱の隙間に入って震えているデボを碧はつまみ上げる。

「もぉ! 魔法は危ないんだから、勝手に使っちゃ駄目でしょ!」

 そう言いながら、軽くデコピンを3回デボに繰り出している。ゆるゆるだな。ま、本気でやったら痛いじゃ済まないから仕方ないけど。

 デボはそんな碧の手に何度か身体全体をこすりつけた後、飛んできて俺の肩で同じようにした。

 どうやら謝罪の意を表しているらしい。

 まあ、初めてだから仕方ないよな。と言う事で、俺はデコピンはしないでおいた。

 予定外の連続で遅れたが、そのまま4人で狩りに移る。

 俺はデボは連れて行かないことを表明したんだが、碧に押されて結局連れて行くことになった。

 ただ、さすがに何時もの場所だとフォローが出来ないので、今の時点で探索済み範囲の真ん中当たりでの狩りだ。

 今日の目的は、デボの経験値稼ぎとダンジョンに慣れる事がメインに変わった訳だ。まあ、仕方ない。焦ることも無いし、逆に良いかもしれない。

 結局デボは、終始俺の右肩に乗った状態で、そこから時折『ストーン・ボール』を放つ形で戦闘に参加した。

 碧の頭では無く俺の肩なのは、碧が魔法よりも槍をメインに使用する為、身体の動きが激しいからだ。

 俺は、デボに合わせて魔法オンリーでの戦闘となった。

 そして、デボのMPに合わせて休憩を実施し、半日の狩りを終えた頃には、デボも多少なりと経験値を手に入れていたのだが、先にレベルアップをさせたいので、パラメーター上げはさせなかった。

 出来れば、デボは効率重視の成長を取りたい。

 先ず、レベルを3まで上げ、必要なスキル系を2~3種一気に取る。その上でパラメーター上げに入ると言う方法だ。

 もっとも推奨されている方法だけど、他者の協力が無いと出来ない方法で、意外に実行出来ない方法だったりする。

 事実俺達も出来ていない。

 だが、デボには俺達がいる。ある程度成長して一定以上の戦闘力を有した者が3人居る訳だ。

 この効率重視の成長を実行出来る環境が出来ている訳だ。となれば、当然やるのさ。

 効率こそ全てだ。

 ふっふっふっ、碧やぺんぺんで出来なかった事をデボでやってやる。

 デボ育成計画の発動だ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 知力で主人公を馬鹿にする展開悲しくなります 主人公はステータスの知力は低かったものの、勤勉で真面目に取り組んでるじゃないですか 好き勝手やってる碧がそれを馬鹿にするなんて、碧が嫌な人間…
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