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16話 大根おろしはイヤだ

────────────────────

「ねえ、DD社に連絡は取れたの?」

「いや、全く繋がら無い。俺らのIDじゃスパム扱いされてる可能性がある」

「ただでさえ遠距離だもんね、連絡は無理そうか…」

「ああ、で、そっちの分析はどうなんだ?」

「DDの信号とL反応が有るのは100%間違いないわ。で、今その発信元を精査してるんだけど…」

「どうした? 何か問題か?」

「何度確認しても、同じ所からで出るのよ」

「はあ? どう言う事だ?」

「だから、私に聞かれても分からないわよ」

「…まったく、どう成ってるんだ、ここは」

────────────────────




 ダンジョン探索は精神力を消費する。MPとかでは無く、精神的に疲れるんだ。特に、今回は初めてのダンジョン探索だったことも有る。

 だから、午前中で終わらせた。と言うよりMPも足りなくなったので止めざるを得なかったんだよ。

 結局あの後、2ヶ所の『部屋』を見つけ、1個の『宝箱』を発見した。しかし、入っていたのは鉄塊だった。一番のハズレだ。

 だが、午前中の探索で、入り口から半径70メートル四方のマップを全て攻略することが出来た。

 ここで重要なのは、70メートル『四方』だと言う事だ。つまり、入り口方向の反対側にも回り込んでダンジョンは存在していた。

 ただ、このダンジョンは、そのまま(うち)の地下に存在しているのでは無い。いわゆる亜空間に存在しているのだと言われている。無論何ら確証はない。

 確実なのは、外部から穴を掘っても、有るべき所にダンジョンは発見出来なかったという事実だ。

 そして、(うち)も、井戸の位置もダンジョンに成っているが、井戸を覗いてもダンジョンは見えず、井戸の位置のダンジョン部分には井戸はない。

 何より、家の前は、道を挟んで下り斜面に成っており土地は存在しない。だが、その位置にもダンジョンは存在しているのだから、別の空間に存在するのは間違いないだろう。

 それが亜空間なのか、異次元なのか、時と次元の狭間なのかは全く分からない。

 取りあえず分かっているのは、ダンジョンは発生した出入り口からしか出入りできないと言う事だ。

 これは、モンスターが他の場所から湧き出してくることは無い、と言う事でも有る。入り口さえしっかり管理しておけば何とか成る。実際そうやって管理しているし。

 で、俺は碧達が外に出た後も、その出入り口の水晶柱の前で今日記録したマップをノートへ書き写していた。

 ただ、これって手書きなんだよ。プリントアウトもUSBメモリーに出力もできない。途中で、ちゃぶ台とクッションを取りに行って、座って書き込んだよ。

 頭の中にある『マップ』を見る為にも『マップ』スキルを実行しなくては成らない。そして、それはダンジョン内でしか実行できない訳で…こうなる訳だ。

 このマップ書きだが、ただ写すだけって思うだろう。甘いんだよ。だって、マップは立体なんだぞ、今日移動した所ですら3ヶ所立体交差してやがった。

 そんな立体の状態を平面の紙上に書くって簡単じゃ無いんだよ。しかも、一部三重に成ってる所もあるし…

 当然、高低の事も分かる様にしたい。んな訳で、結構時間が掛かってしまった。

 終わって母屋に帰ると、碧のヤツはサッサと自分たちだけ昼飯を終わらせてやがった。このやろー。

 昼飯をチンして食った後は、俺は畑の開墾だ。碧は掃除と洗濯、夕食の準備をする。

 一応、当分は今日の様に、午前中ダンジョン探索、午後家事・畑仕事と言う形で行くつもりだ。

 そして、一定以上魔石やアイテム類がたまったら、大阪まで行き、売却と、形だけの『大阪ダンジョン』探索を実施するつもりでいる。

 あくまでも『大阪ダンジョン』の探索はカモフラージュなので、潜ったと言う実績を作れれば十分なんだよ。

 と、まあ、そんな感じで計画している。

「お兄ー、鉄塊って幾らぐらいに成る?」

 畑仕事の準備をしていると、鉄塊を片手に碧が近寄ってきた。

「どーも、相場が安定しないらしいから正確な値段が分からないんだよ。多分2000円ぐらいには成ると思うぞ、時々5000円ぐらいで売れることも有るらしいけどね」

「えぇーっ! 結構高いよ、鉄ってそんな高かったっけ? そんなら、道路脇に捨ててある車からはぎ取ってくる!」

 こらこらこらこらこら、アホなとこを言うな。

「あのな、ダンジョンで見つかる金属は、基本純度100%なんだよ」

「うん? それがどうしたの? 金とか銀なら100%は嬉しいけどさ、鉄とか銅じゃ意味ないよ」

 ……どうやら、碧は『超高純度鉄』のことを知らない様だ。一緒にテレビで見てた気がするんだけど…

「ダンジョンが見つかるまではな、『超高純度鉄』確か99.9999%ぐらいのヤツでも10グラム何万円もしたんだぞ」

「うそぉぉぉ!! キロとかトンじゃなくってグラム?」

「そ、鉄は混ざり物が無いと錆びなくなったり、性質が変わったりして有る意味別の金属に成るらしいんだよ。だから100%の鉄なんてもの凄~く貴重だったんだ。だった、過去形ね。その後ダンジョンで大量に発見されて、研究用としての価格ががた落ちしたらしい。その後は使用する製品が生まれたり消えたりで値段が不安定らしいよ」

「…知らなかった。…でも2000円は大っきいね。これからは金属も全部持ち帰るからね。荷物運びよろしく!」

 どうやら荷物運びは俺の役割に成ったみたいだ。まあ、碧はスピードファイターだから、体重は軽くないと駄目なのは確かだけどさ。…良し、しばらくしたらダイエットさせちゃる。ふっふっふっ。

 そんな、仕返し計画を立てながらススキの抜根作業に汗を流した。

 途中でペンペンも遊びに来て、藪から飛び出てくるバッタなどを追いかけていた。ほのぼのとして平和だ。

 体格は生まれたてより大きくは成ったけど、未だに子猫サイズだ。犬って、もう少し成長が早いイメージがあったんだけど…

 まだ、1月半程度だからこんなモノか? もう少し大きく成れば肩には乗っていられなくなるから、リュックにでも入れるか…あ、大きくなれば自力で走り回れるか。

 そんな感じで、時折ぺんぺんと戯れながら畑仕事を終えた。


 そして、翌朝、また、ダンジョンへと入る。

 『転移』はまだ使用しない。未探索部分までは大した距離は無いし、リポップモンスターもそれなりに居るはずだから殺しながら行く。

 流石に2日目と成ると要領が分かってくる。特に昨日相手にしたモンスターだとサクサクと殲滅出来る。

 昨日の入手経験値は各自60程で、ぺんぺんが少し少なかった。ぺんぺんは『知力』を+1して10にしている。MP回復速度を考えての事だろう。ってか、そこまで考えられるんだよぺんぺんは。

 本日も入手経験値はそれ位行くだろうと思う。後は、殲滅効率とエンカウント数が上がれば入手経験値も上がるはずなので、安全を図りつつ移動速度と殲滅速度を徐々に上げていく予定だ。

 未探査エリアに入った当たりから、少し移動速度を落とすがさして問題無く進んでいく。

 ブルー・コモド、角アルマジロ、ジャイアント・バット、タイガー・スパイダー、イエロー・キャタピラー、リビング・ロック、エッジ・ラット、レベル2~3モンスターが勢揃いだ。

 数が多いエッジ・ラットが多少面倒ではあるが、サクサク殲滅、サクサク魔石回収。

 ジャイアント・バットは基本ぺんぺんに任せる。実際気付くのはぺんぺんが速い。ひょっとしたら、コウモリの出す超音波を聞き取れているのかも知れない。

 エコーロケーションだっけ? 反響何チャラ。あれの為に出す超音波が聞こえるなら位置は分かるはず。実際の所は分からないけど、ぺんぺんに頑張ってもらおう。

 そして、未探索部分と言う事は、未探索『部屋』がある訳で、運が良ければ『宝箱』が…

「有ったよ! 第一『宝箱』発見! お兄ーの説は正しそうだねぇ」

 1ヶ所目の『部屋』でいきなり『宝箱』を見つけた。なんとも呆気ない。

「うん? 何かの素材だ、爪っぽい、取りあえず鑑定取るまで保留するヤツだね」

 そう言って碧が取り出したのは、俺の人差し指程有る黒い爪だった。何かのモンスターのドロップ部位のようだ。

 碧はそのまま俺のリュックに放り込んだ。…やはり魔石も、『宝箱』アイテムも全部俺のリックに入れる様だ。じゃあ、お前の背負ってるリュックはなんに使うんだよ。

 リュックに入れられた爪は、中の魔石に当たって意外に澄んだ音色を鳴らした。ガラスのコップを弾いた様な音だ。

「よ~っし、この調子でいくよ~♪」

 ダンジョン探索はゲームと同じだ。目的は『行き止まりを探すこと』だ。

 本来のゲームの趣旨は、地下への階段・出口を探すのが目的なのだろうが、実際にプレイしているプレイヤーは、全てのマップを確認して、そこに有る宝箱を回収することを目的としている。

 その為、分かれ道に立つと、どちらが出口で無いかを地形から想定し、()()()へ移動する。

 その結果、出口や地下への階段にたどり着くと、ガッカリして分岐点まで引き返す。有る意味本末転倒な行動ではある。

 現在の俺達も、目的はマップの網羅なので、同じ行動を取る。

 一定以上ダンジョン入り口から離れると、そこから横へと移動を開始し、扇状に探索を行う。

 無論、迷路の形状によって、綺麗な形では探索は出来ないが、そう言った形を参考に扇型のブロック単位で探索して行く。

 この『鴻池ダンジョン』(碧命名)は、かなりアップダウンの厳しいダンジョンで、時折1メートル近い段差も現れる。

 広さを考えなければ、実際の鍾乳洞などにかなり近い状態だと思う。

 そんなダンジョンを、時折振り返りつつも索敵しながら進む。

 朝8時半に探索を開始し、9時20分に成った際、久々のグリーン・ゴブリンに遭遇した。はぐれゴブリンなのか、1匹だけだ。

 獲物は棍棒で、俺達を見かけると、ゲヒゲヒ言いながら走ってくる。

 あ、転けた。……途中の小さな石筍に足を取られ、見事にダイブして顔面大根おろしに成ったあげく、その前にあった岩に頭をぶつける。

「「……」」

 碧は、その哀れなグリーン・ゴブリンにゆっくり近寄ると、ピクピクしている頭部に包丁槍を突き刺し、一撃で葬る。な~む~。

「……次行こう」

 俺達はあえて何も言わず、探査を続ける。

 でも、あれって、俺達にも起こりえることだから気を付けないといけないんだよな… なんせ、足下はデコボコで石筍も大小伸びてるし。

 特に、小さな石筍は、一見気付きにくく足を取られる原因に成りそうだ。顔面大根おろしはイヤだよな。気を付けよう。

「ゴブ、香木落とさないよね」

 しばらく移動した先で碧はぽつりと呟く。確かに今まで、ハッキリ数えてはいないけど30匹以上は殺している。その内15匹は棍棒持ちだったはずなのだが、ドロップゼロだ。

 短剣は4本もドロップしているって言うのに…

 ちなみに、この短剣は一応1本ずつ腰に下げている。ただ、実際の戦闘ではリーチのことも有って積極的には使用するつもりは無い。

 あくまでも、包丁槍が使えなくなったりした場合の保険だ。それなりに重量が有るんで重い保険だけど、気持ち的には全く違う。

「ドロップ率はそんなに低くは無いはずなんだけどな~、碧のリアルラック値が低いんじゃ無いか?」

 実際、グリーンゴブリンに止めを刺しているのは9割碧だ。「香木落とせぇ!」等と叫びつつぶち殺している。

「えぇー、絶対違うよ、多分お兄ーのラック値がマイナスなんだよー」

 こらこらこらこらこら、言うに事欠いてマイナスですとお~?

「止めを刺してるのは碧だろ!」

「だから、お兄ーのマイナス値が私にも影響してるの!」

 言い切りやがった、ビックリマーク付きで。

 おにょれ~。

 言い返そうと構えた瞬間、ぺんぺんがアイス・ボールを放ったことでその話はそこでうやむやと成った。

 ぺんぺんのアイス・ボールで落下するジャイアント・バットを横目に、もう一匹のジャイアントバットへサンダー・ボールを放つ。

「雷撃」

 ジャイアント・バットは飛んでいる関係で、包丁槍が届かないことが多く、どうしても魔法を使用することに成る。

 本来は、近寄ってきた所を包丁槍で刺すのが良いのだが、数が5匹を超えている状態では遠距離で数を削るしか無い。

「ファイアー・ボール」

 碧も魔法を使用し、3匹目を仕留める。

 そして、残る3匹を俺達2人は包丁槍で、ぺんぺんは魔法で殺した。

「ふぅ、纏めていると手っ取り早いけど、MPの消費を考えるとびみょ~だねぇ」

 碧は一息ついて、魔石を回収し始める。濃い焦げ茶の魔石だ。LEDに使用される物で、一定の周波数を別途掛けることで1つで複数の色を発光するモノが出来るらしく、LEDパネルに革命を起こしているらしい。でも、買い取り価格は200円だ。

「MPはまだ大丈夫か? 厳しい様なら次の『部屋』で休憩取るぞ」

 ペンペン

 ぺんぺんが2回叩いてきた。どうやら休憩したい様だ。

「私はまだ大丈夫だよ、あんまり使ってないから」

 碧は火魔法だから、あんまり使わない様にしてるからな。

「ぺんぺんがMP少なくなってるみたいだらか、30分ばかり休憩入れるぞ。20分経って『部屋』が見つからなかったら一番近い『部屋』に戻るから」

「OK~」

 ペン

 幸い、それから10分としない間に『部屋』が見つかり、『宝箱』も一応有ったが中身は鉄塊だった。

 そして、奥の壁に背を預けて座って30分程休憩を取る。

 僅か30分程ではあるが、俺と碧のMPは満タンに成り、ぺんぺんも多少は回復した様だ。

 ぺんぺんももう少し『知力』に振った方が良いかな。現状魔法しか攻撃手段の無いぺんぺんなので、MPの値が何より重要に成る。

 『知力』に振って自然回復量を上げるか、レベルを上げて最大MP量を上げるかだ。長時間探索なら自然回復量が多い方が良いが、短時間探索なら最大MPが多い方が良いだろう。

 現状は短時間探索に近いので、レベルを上げて最大MPを上げる方が良いかも知れない。

 その後の探索では、『部屋』が4ヶ所、『宝箱』は2個発見出来た。

 入っていたモノは、何かの皮と低級解毒剤だ。皮はともかく、低級解毒剤はアタリだろう。売れば1万は堅い。

 そして、探査エリアだが、昨日は半径70メートル四方を網羅し、今日はその先の50メートルを探査したが、実質的な面積は中心点から離れるに従って広くなる訳で、半分程しか終わらなかった。

 ただ、この日に得た経験値は、昨日より多く、俺が84、碧が81、ぺんぺんが66と成った。

 俺と碧は累積分の経験値と合わせ、それを使ってレベルを上げた。俺は1上げて、碧は2上げた。

 ぺんぺんはレベルアップに必要な値がたまっておらず、今日は保留と成った。どうやら、パラメーターに振らずレベルアップをするつもりらしい。

 一応、ステータスはこんな感じだ。


  ・氏名 鴻池 稔(こうのいけ みのる)

  ・年齢 20歳

  ・Level 4

  ・生命力 40

  ・魔力量 40

  ・スタミナ 14

  ・筋力 14

  ・知力 14

  ・素早さ 13

  ・魔法 転移・サンダー・ボール

  ・スキル マップ

  ・経験値 36

    次回UPに必要な値(パラメーター) 303

    次回修得に必要な値(魔法・スキル) 33


  ・氏名 鴻池 碧(こうのいけ みどり)

  ・年齢 17歳

  ・Level 6

  ・生命力 60

  ・魔力量 60

  ・スタミナ 10

  ・筋力 14

  ・知力 13

  ・素早さ 20+3(疾風のネックレス)

  ・魔法 錬金術 ファイアー・ボール

  ・スキル ステップ

  ・経験値 34

    次回UPに必要な値(パラメーター) 897

    次回修得に必要な値(魔法・スキル) 33


  ・氏名 鴻池(こうのいけ) ぺんぺん

  ・年齢 0歳

  ・Level 3

  ・生命力 30

  ・魔力量 30

  ・スタミナ 05

  ・筋力 05

  ・知力 10

  ・素早さ 06

  ・魔法 アイス・ボール

  ・スキル 空歩

  ・経験値 85 

    次回UPに必要な値(パラメーター) 29

    次回修得に必要な値(魔法・スキル) 9


 ぺんぺんは順調にいけば、明日には問題無くレベル4へと上がれそうだ。レベル3からレベル4への平均必要経験値は110と少ないからね。

 そして、本日の入手アイテムは、『何かの爪』『何かの皮』『鉄塊』『低級解毒薬』の4品と成った。

 モンスタードロップ部位の価格は不明だけど、鉄塊と低級解毒薬は合計1万2000円では売れそうだ。

 1日の収入として考えればかなり良いのではないだろうか?

 無論、これ以外に魔石も有るが、しょせんは表層モンスターの魔石なので、全てがA-1のモノだ。価格は知れている。

 だが、当然全て回収するよ。(うち)には小銭大好き娘がいるからね。もちろん紙のお札はもっと好きらしいけど。

 チリも積もればゴミ屋敷だ。小さなモノをおろそかにしてはいけない。

 昨日来、何となく、ダンジョン生活に目処が出て来た気がする。良い感じだ。

 明日も薬系が見つかることを祈りつつ、畑仕事に取り掛かろうかな。

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