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12話 余所様のダンジョン

 今俺は大阪に居たりする。正確には摂津市だ。

 実は、正式に『ダンジョン立ち入り許可書』通称『冒険者登録書』を手に入れる為に規定の講習を受けたのだ。そう、過去形。

 本日午前中で終了した。実際は昨日で講習は修了だったのだが、許可証の授与式なるものを翌日行うって事で本日となった訳だ。無駄なことを・・・

 あの日、碧に相談した所、碧がレベル3に成るまで待って、と言われ、8日後に何とかその条件を満たしたので、その4日後から受講となった。

 4日後なのは、受講開始日が決まっていた為、その日まで待つ必要があったからだ。ま、移動の事もあって丁度良かったんだけどね。

 碧は、あの日からその8日で231の経験値を入手し、100・120を使ってレベル3まで上げた。俺の入手経験値は228だった。

 その後、2日間で、碧は51、俺は53を手に入れ、結果、こうなった。


  ・氏名 鴻池 稔(こうのいけ みのる)

  ・年齢 20歳

  ・Level 3

  ・生命力 30

  ・魔力量 30

  ・スタミナ 13

  ・筋力 13

  ・知力 13

  ・素早さ 13

  ・魔法 転移・サンダー・ボール

  ・スキル 無し

  ・経験値 20

    次回UPに必要な値(パラメーター) 70

    次回修得に必要な値(魔法・スキル) 9


  ・氏名 鴻池 碧(こうのいけ みどり)

  ・年齢 17歳

  ・Level 3

  ・生命力 30

  ・魔力量 30

  ・スタミナ 10

  ・筋力 13

  ・知力 13

  ・素早さ 20

  ・魔法 錬金術 ファイアー・ボール

  ・スキル 無し

  ・経験値 93

    次回UPに必要な値(パラメーター) 249

    次回修得に必要な値(魔法・スキル) 9


  ・氏名 鴻池(こうのいけ) ぺんぺん

  ・年齢 0歳

  ・Level 1

  ・生命力 10

  ・魔力量 10

  ・スタミナ 03

  ・筋力 03

  ・知力 09

  ・素早さ 04

  ・魔法 無し

  ・スキル 空歩

  ・経験値 88

    次回UPに必要な値(パラメーター) 2

    次回修得に必要な値(魔法・スキル) 2


 ご覧の通りだ・・・・・・

 碧のヤツは、何時ものごとく相談も無く『ファイアー・ボール』を取った。で、見て分かると思うが、次にパラメーターをアップするのに必要な経験値の値が『249』になってる。

 俺と碧のパラメータの差は4、仮に俺が後4パラメーターを上げたとしても、俺が次のパラメーターを上げるのに必要な経験値は『147』、碧と100以上違うことになる。

 だ~か~ら~、言ったんだよ。まずレベルを上げろって。パラメーターのアップは後って。まったくも~。

 はぁぁ、ため息が出るよ。

 ・・・あと、ぺんぺんは、だいたい一日平均8の経験値を手に入れていたので、現在は88と成っている。レベル2まではあと少しって所だろう。ま、レベル2はただの通過点だけどね。

 ちなみに、レベルアップは自動的には行われない。水晶柱で指定して初めてレベルアップする。

 じゃないと、碧みたいにパラメーターアップに必要な値がNEXT経験値を遙かに超えているような事態になったら、レベルアップするのに必要な値がそれを超えるまでパラメーターを上げる事ができなくなるからね。

 ま、RPGと違ってレベルアップしても生命力(HP)魔力量(MP)が+10されるだけだから、レベルアップを慌てる必要性は比較的低いんだよね。

 希にある、特定の場所でしかレベルアップできないゲームのように、迷宮探索中に何回分かのレベルアップ出来る経験値を手に入れて一回戻ろうかどうしようか悩む、なんて状態には成りにくい訳だ。

 ただ、欲しい魔法やスキルの制限レベルの関係で、そのレベルになれる経験値を入手した場合は似たような気持ちになるかも知れないかな。

 色々面倒くさいシステムだよ。このダンジョンの『ゲームシステム』は。ホント。

 何か、話がズレてきたんで元に戻そう。

 受講日の2日前、俺は旅だった。無論、大阪に向かってだ。

 実際は2日は掛からないのだが、余裕を持って出発している。パンクとかしたら嫌だからね。・・・そう、スクーターで向かったんだよ。

 だってさ、電車代って高いんだよ。スクーターならガソリン代だけでいける。半分も掛からない。って事で、チンタラチンタラと国道を走って行ったよ。

 1日目の夜は、途中のディスカウントスーパーで買った安いテントと寝袋、断熱シートで眠った。国道から離れた田んぼのあぜ道だ。

 んで、早朝6時には出発すると、昼過ぎには『ダンジョン管理機構』へとたどり着いた。

 その後、正式な受講手続きをして、その日は終了。ちなみに、寝床は淀川の河川敷だ。川沿いの茂みに、ブルーシートを使ったその道のプロの方々も住んでいるので、気にせずテントを張れた。

 一応、道からは見えない様にはしたけどね。で、この場所が受講期間の寝床となった。ホテル? そんな高い所に泊まれる訳無いでしょ。

 ちなみに、食事は家に有ったカセットコンロと片手鍋を持ち込み、基本は袋麺生活となった。昼は食パンね。一斤80円程のヤツに98円のカップジャムを塗ったものを3枚重ね。1斤で2日分。

 飲み物は『市の美味しい水道水』をミネラルウォーターのペットボトルに入れて持ち込み、それを飲んだ。

 管理機構の食堂なんて利用する訳無い。たけーんだもん。生姜焼き定食1000円って何! カツカレー800円ってなんだよ! ぼったくりも良い所だろ。ここは、東京の中心街じゃ無いんだぞ、摂津だぞ、大阪市ですら無いんだぞぉ。まったく。

 ・・・ま、そんな所で講習を受けた訳だ。講習期間は10日間。通常と違って土日関係なく連続で実施された。

 講習内容は、ダンジョンの基礎知識、モンスターの基礎知識、魔法の基礎知識、スキルの基礎知識、冒険者による講習、剣・弓・槍の実習、罠の解除実習、銃の射撃訓練が行われた。

 最後の『銃の射撃訓練』は近々無くなる予定らしい。

 元々、銃器類はモンスターにダメージを与えにくいので現在では使用する者は少ないのだが、一般開放初期は飛び道具を保険として求める者が多かった為、ダンジョン内限定での『拳銃の所持許可条項』『ダンジョン立ち入り許可証所持者に関する銃器取り扱いに特別法』なんてもの制定してまで、その所持を合法化した経緯がある。

 その為、この講習にも『銃の射撃訓練』が組み込まれた訳だ。そして、実質使用者が少なくなっている現状でもまだ残っていると言う事らしい。

 実際、今でも銃を買おうと思えば買える。ただ、とにかく面倒な手続きが大量に有る。あげくに、銃器は全て『ダンジョン管理機構』預かりで、ダンジョンに入る度に面倒な手続きをして借り出しを行わなくては成らない。

 借り出し手続きには3日が必要で、その事が自由度を奪う為使用されなくなる原因となっているらしい。

 ま、俺には関係ない話さ。

 でも、銃を撃つのは結構楽しかったよ。30発しか撃たせて貰えなかったけど、アレは癖になるかも知れない・・・

 あと、罠関係の実習は為になったと思う。標準的な罠は一通り教えて貰った。一応、スキルで対処するつもりではいるけど、知っていて損には成らないだろう。

 最初は退屈な時間になるかと思ったけど、予想外に実践的な講習で眠くなる暇すら無かった。

 そんな、1日平均7時間の講習を修了して、無事『ダンジョン入場証明書』を入手し、俺は今、『大阪ダンジョン』の前に居る。

 場所はさっき言ったように摂津市だか、『大阪ダンジョン』で有る。ま、大阪()ダンジョンって事だろうけど。

 ここは、例のダンジョン発生時は廃工場だったらしく、その元工場敷地内のど真ん中にダンジョンが見つかったらしい。

 で、その工場を丸まる接収し、管理用の建物が作られた訳だ。

 当初は、自衛隊の駐屯施設もあったらしいが、現在はそれらは解体されて駐車場になっている。なんせ、方々からやってくる者が多いし、数日間駐車するのが当たり前と成っている関係で駐車場は必須と成っている。

 その為、3棟の立体駐車場が建てられている。

 普通だったら、公共交通を利用しろ、と言いそうだけど、冒険者にはそれは色々マズいことになる。

 なぜなら、大量の『武器』『危険物』を持ち込み、持ち帰るのが当たり前だからだ。

 無論、その『武器』『危険物』は前もって許可を取ったものしか所持・移動・持ち込みは出来ない。

 それらの品は、当然普通の宅急便等では移動できない。専門の認定業者は存在するが、過去色々なトラブルが発生して、数が激減している。

 その為、一般の冒険者は自分の手で持ち込み、持ち帰らなくてはならない訳だ。故に自動車が必要と言う事に成る。と成れば、駐車場は必須と成る訳だ。

 特に、初期の『ダンジョンから得たモノ全てをダンジョン管理機構に売却する』の条項が有った当時に、『金儲けてんだから、還元しろよ』という声がガンガンと巻き起こり、その結果として駐車場を整備すると言う事に成った、と言う。

 そんないわれのある施設に入り、施設の正面入り口へと向かう。

 正面入り口には武装した自衛官が左右に1人ずつ立っており、アサルトライフルを肩がけしている。

 これは、施設の警備では無く、ダンジョン内からモンスターが出て来た場合、この建物外に出さない為の立ち番と言う事に成っている。

 実際は、荒くれ者(冒険者)に対する無言の圧力を掛けているのだろうと一般には言われている。多分それで間違ってないと俺も思う。

 後は、自衛隊の管轄区で有ることを誇示する為だとか、未だにいる『ダンジョンに対する変な考えを持つ集団』に対しての威圧だとか言う話もある。

 そんな2人に軽く黙礼して中に入る。その後は、正面にあった総合案内の受付嬢に尋ね、指示通り床に描かれた白の線に従って3分程移動し、目的の部屋へと到達した。

 そこは、学校の教室程の面積が有る部屋で、正面に鉄の柵が有りその奥には鉄扉、左右に受け付けがあった。

 右の受付が買い取りカウンターで、左が入出手続きと物品の受け渡しカウンターになっていた。

 物品の受け渡しカウンターで、自分で管理できない武器類の受け渡しを行うらしいが、俺には関係ない。

 と言う事で、左の入出手続きカウンターに居る20代半ば女優顔をした受付嬢の元へ向かう。

「初めてのご利用ですか? 証明書を提示ください」

 以前テレビで見たのだが、初期は親方日の丸状態で、かなり職員の態度が横柄だったらしいが、現在は市役所レベルには落ち着いていると言ってたけど、もう少しいい気はする。

「はい、今日講習を修了しましたので、『ユーザー登録』と軽く入り口付近の確認をしながら魔法の練習を、と思って来ました」

「では、武器類の持ち込みは無しですね」

「はい、まだそちらの手続きは行っていないので持って来ていません」

 胸ぐらいまである黒のストーレートヘアーを手で後ろに送りながら、彼女は書類を1枚出した。

「こちらに必要事項をお書きください。黒枠の所です」

 その書類には、先程渡した証明書を読み込んだのか、俺の名前や登録番号が既に書かれていた。

 そして、記入する所は帰還予定日と緊急連絡先、そして、最終的な著名だった。

 著名の直ぐ上には、良く有る『全ては自己責任で・・・』の下りがかなり細かい字でビッシリ書かれている。

 ま、実際は、『ダンジョン立ち入り許可証』自体が、その条文を呑んだ者にしか与えられないことになっているので、重複して居ることには成るが、だめ押しなんだろう。

 俺は全てを記入して提出した。

「帰還予定日は本日ですね。一応、帰還手続きは24時間いつでも出来ますので、本日24時までと言う事に成ります」

「分かりました」

 別段、遅れたからと言って罰則はない。それどころか、帰ってこないからと言って雪山登山のように救助隊も来ない。単にデータとして残すだけの物だ。

「では、お気を付けて」

 それだけ言われて俺は送り出された。

 鉄扉の手前5メートルの場所にある柵の一部が電動でスライドして開いた。そこを通ると後ろで閉まった音が響く。

 この柵は高さ1.2メートル程しか無い。乗り越えようと思えば簡単なんだが、意味は有るんだろうか?

 そう疑問に思いながら、壁一面の鉄扉の中央にある通常の扉サイズのドアを開くとその15メートル先に地下鉄の入り口のように覆いのされたダンジョン入り口があった。

 ダンジョン入り口はこの部屋、と言うか吹き抜けの空間の中央にあり、それを囲む周囲は俺が入って来た所以外のは全てコンクリートの壁面だった。

 壁は3階建ての建物位の高さがあり、上部は鉄格子とネットで塞がれている。

 壁面には窓はなく、その代わりに複数のテレビカメラと照明が設置されている。多分常時監視を行っているんだろうと思う。

 でも、大丈夫なのか? ダンジョンの出口からあの受付場まで鉄扉1枚しかないんだが・・・ あの柵はあまり意味ないし・・・ 宇宙船の出入り口みたいに二重ハッチみたいにした方が良いんじゃないか?

 良く分からん、何か理由か、それでも対処出来る方法が有るのかも知れないな。情弱野郎には分からないんだろう。元々の知力8だし・・・

 そう考えつつダンジョン入り口へと向かう。

 (うち)のダンジョンと違って、ここは入り口から斜め下に向かう勾配が出来ていた。

 そして、その傾斜が始まっている部分に見覚えのあるモノと同じ水晶柱が存在していた。

 俺は登録済みなので登録は必要ないが、テレビカメラから見られていることを考え、あえてそれに触れた。そして、ホログラムスクリーンを立ち上げ、初期選択を考えている風を装い2分程の時間を掛けた。

 ただ、『ユーザー登録』時、『魔法・スキル』修得時には光が発生する為、それが無いことを不審に思われる可能性は有る。

 ま、そこまで俺を観察し続ける意味は無いんで、大丈夫だとは思う。

 そして俺は、有る意味初めてダンジョンへと足を踏み入れた。

 そこには俺を守ワイヤーネットの壁など無い。モンスターが出て来れば生身で接しなくては成らない。

 そして、今日は使い慣れた包丁槍すら持っていない。使えるのは魔法だけだ。

 『転移』用のポイントは先程水晶柱に手を置いていた間に登録済みだ。現在の魔力量(MP)は30。『転移』は10のMPを消費する。だから最低10は残すように管理しなくては成らない。

 その範囲で『サンダー・ボール』を使って、しばしダンジョン探索となる訳だ。

 深呼吸をする。すーはー。もう一度、すーはーすーはー。覚悟完了。行きますか。

 俺は、大阪ダンジョンに足を踏み入れた。

 このダンジョンも、標準通りに入り口から15メートルは2メートルの完全な円型と成っている。

 そこを抜けると、高さが3メートル幅が5メートルで床はほぼ平らな洞窟となった。形状は四角だ。そして、壁面は全て細かな凹凸のある岩に成っている。

 俺は、パウチされたノートサイズのマップを手にしている。これは講習で渡されたモノで、日本に有る他の2ヶ所のマップも一緒に渡された。

 小説のように高い金額で売りつけると言う事はしていない。ようは、資源を持ち出してもらってナンボ、の仕事だ。それが出来やすい環境を作って当たり前と言う事だろう。

 マップを売りつけるなんざ愚の骨頂と言う事だ。逆に、未確認部分のマップは買い取ってくれる。

 俺は、時折マップを確認しつつ歩くより遅いスピードで移動していく。

 出入り口周辺は他の冒険者が出入りする関係で、モンスターの数は少なくなっているはずだ。

 だが、この後の経過時間によっては『リポップ』が発生するので、そうそう油断は出来ない。

 『リポップ』はRPG等で使われるのと同じ意味だ。このダンジョン内では一定期間でモンスターが湧き出す。

 特に、一定範囲に居るモンスターの数が平均値を下回るとそれを補うべくリポップが発生する。

 また、一定範囲のモンスターの数が平均値を上回っていてもリポップは繰り返される。ただ、その際はリポップ間隔はどんどんと長くなる。

 そして、数が少ないとそれに応じてリポップの間隔は速くなる。と言っても、一定以上には速くならない。その時間が6時間ほどだと言われている。

 つまり、6時間以上前に殺されたモンスターはリポップする可能性があると言う事だ。俺の目の前や、通り過ぎた背後で・・・

 無論、リポップは瞬間的には発生しない。消滅する時の逆のプロセスで、黒い(もや)が集まり形を取り、顕現するまでに約2分掛かる。

 その間攻撃は出来るが、魔法以外は効果が無く、完全に消滅させることは出来ない。出来るのは顕現するの遅らせることだけだ。つまり、余り意味は無い。

 俺は、そのリポップも警戒しつつ進む。時折背後も確認しながらだ。

 そして、ダンジョンに侵入して5分後、第一モンスターを発見する。

 サーベル・ドッグだ。サーベルと名に付いているが、サーベルタイガーのような長さは無い。10センチ程だ。

 体色は黒で、短毛種だ。個人的にはブラック・ドックで良いんじゃないかと思ってる。サーベルは名前負けだ。

 このモンスターのデータは頭に入ってる。なんせ、このダンジョンの入り口付近に居る一番多いモンスターだから。


 ☆サーベル・ドッグ

  ・レベル 2~3

  ・全長 1メートル(尻尾を含まず)

  ・攻撃方法 噛みつき 引っ掻き

  ・使用魔法・スキル 無し

  ・弱点 頭・腹部

  ・魔石 レモン色(ランクA サイズ1)200円 キャパシター

  ・その他のドロップ品 なし

  ・その他の特徴 10センチ程の牙が飛び出している犬

  ・棲息ダンジョン名及び深度 ほぼ全てのダンジョンに湧く 地上入り口近く


 ほぼ全てのダンジョンに棲息することになっているが、今のところ(うち)のダンジョンでは見かけないので、(うち)にはいない可能性が高い。

 サーベル・ドッグは、俺の姿に気付くとダッシュでこちらに向かってくる。

「雷撃・雷撃」

 俺は無造作に2連発のサンダー・ボールをたたき込んだ。

 本当は1発で様子を見るべきなのだが、やはり最初だけ有って余裕が無かった。正直心臓は毎分100回コースで打ち鳴らされている。

 このサンダー・ボールなのだが、他のボール系魔法と違い、この魔法だけはある程度のホーミング機能がある。

 と言っても30センチ程なのだが、それはこの狭いダンジョンで大きな効果を生む。特に俺みたいな初心者には。

 このホーミングは、別段魔法自体にその機能が込められているという訳では無く、単なる静電気による吸着効果だと言われている。

 モンスターの身体に発生している静電気に吸い寄せられると言う訳だ。所詮静電気なので、大きな軌道修正は出来ないと言う事だ。

 そして、俺の放ったサンダー・ボールは、そのホーミング効果もありサーベル・ドッグへと2発とも直撃した。

 硬直して倒れたサーベル・ドッグは時を置かず黒い(もや)となって消えた。

 オーバーキルだ。モンスターは一定以上のダメージを受けると、今のように直ぐに消滅する。

 だが、それだけの事で、それ以外に意味は無い。故に、魔法などであれば無駄になる為、あまり良いこととは言われない。

 ま、今の俺はそんな余裕は無いのでその誹りを甘受するしかない。安全第一だよ。慣れるまでは。

 現在のMP26、後8回しか使えない。

 良し、次だ。

 転がっているレモン色の魔石を回収して移動を開始する。

 目指すのは入り口から見て左手にある『部屋』だ。

 『部屋』は一定以上の広さのある行き止まりの空間で、ゲームのように扉で閉ざされては居ない。

 そして、こう言った『部屋』には『宝箱』が存在するケースが多い。とは言え、入り口近くのこの『部屋』には当然存在しない。

 『宝箱』はランダムにダンジョン内に現れ、開けて中身を取り出すとモンスターと同様黒い(もや)と成って消える。

 基本的に深く潜れば潜る程出現率は上がり、中身のグレードも上がっていくという。

 俺が『部屋』を目指すのは『宝箱』が目的では無く、安全ゾーンを求める為だ。

 じつは、この『部屋』にはリポップが発生しないと言う特性がある。

 ただ、モンスターは入っては来られるので、いわゆるRPGで言う所のセーフゾーンでは無い。

 俺は、この『部屋』をMP回復の休憩場として使用するつもりだ。この『部屋』ならば、前方の入り口だけを注意しておけば後ろから襲われると言う事は無い。これはかなり大きい。

 知力を初期よりも+5したことで、MPの回復速度もある程度上がり、以前は10回復するのに1時間半近く掛かっていたのが、50分程で回復するようになった。

 たかが知れた回復量だか、それでもある程度の回数サンダー・ボールを余計に放てるようになる。

 後々の外部での魔石売買のことを考えて、このダンジョンに潜った時間は長めにしておきたい。まあ、用心の為だ。

 その後は、ブルー・コモド、角アルマジロ2匹をそれぞれサンダー・ボール一撃で殺し、目的の『部屋』まで到達した。

 その部屋は10畳程の広さがあり、ほぼ円型をしていた。

 そして、何故かその中央に木で出来て金属で縁取られた箱が置かれている。

 ・・・・・・それはどう見ても『下級宝箱』にしか見えなかった。

 幾つかの種類の有る『宝箱』の中で、比較的表層部に出る一番グレードの低い品物が入っている『宝箱』だ。

「マジかよ」

 思わず独り言が出る程、俺は驚いていた。マジかよ。

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