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1話 プロローグ

────────────────────

「やったぞ! ついに見つけた」

「やったわね!」

「ああ、これで俺達は大金持ちだ!」

 ……………………

「ちょっ、チョット待って! L反応が出てるわ! ウソでしょ!!」

「おい! 冗談は止めろよ!」

「……冗談や間違いだったったら良かったんだけど、……何回確認し直しても、やっぱり出てるのよ、L反応が…」

「ウソだろ…… ここを見つけるまでどれだけ掛かったと思ってんだよ!!」

「私に言っても、どうしようも無いでしょうが! 私だって認めたくないわよ」

「計器の誤動作じゃ無いのか?」

「何度も確認してるわよ! 予備機でも確認してるのよ。……念のため、マニュアルスキャンするわ」

 ……………………

「何よ! 何でDDの信号まで出てんのよ! IDまでしっかり出てるじゃない! どーなってんるの!?」

「DDだぁ? L反応は分からんでもないが、なんでこんなド辺境にDDなんぞが有るんだよ!? おかしいだろーが!」

「だから、私に文句言わないでよ! IDもしっかり捕まえてるから間違いって事は絶対無いわ!」

「あ~、訳分かんねえよ」

「……とにかく、確実なのは、私たちの苦労は間違いなく水の泡だったって事よ」

「………だな」

────────────────────




 俺達兄妹の運命を変えた日から2ヶ月が過ぎた。

 激動の2ヶ月だったのだが、多分今日からはそれ以上の激動の日々が訪れると思う。

 なぜなら、眼下に現れた地下室に、テレビで見たダンジョンモンスターがいるのだから……


 俺の名前は鴻池 稔(こうのいけ みのる)。現在無職で二十歳(はたち)のナイスガイだ。多分。

 2ヶ月程前に、(うち)の両親が交通事故で他界した。もらい事故だ。

 (うち)は、両親と俺、妹の(みどり)の4人で総菜屋を経営していた。

 仕出しと店舗売りをやってたんだが、仕出しの契約に出かけた先で事故に遭っちまったって訳さ。

 当然、悲しみとパニックで訳が分からなくなったのだが、それに輪を掛けてくれたヤツらがいた。親戚一同様だ。

 実は、(うち)の店は借金まみれだった。銀行はもとより、身内からも借りまくって、実質、父方・母方両方の親族から総スカン状態だった。

 ま、そんな厳しい経営状態だったんで、俺も3歳年下の碧も中卒で働く事になったんだけどね…

 で、その親戚が通夜から訪れて、借金の事でがなりまくって来た。

 借金をどうしてくれるんだ、お前達が返すんだろう、事故の金が出るはずだからそれで返せ…等々、ま、通夜の席とは思えない怒号が飛び交った。ま、借金で迷惑掛けてたのは間違いないから仕方ないっちゃー仕方が無いのだけどね。

 その上で、誰一人として葬儀には出なかった。(ちなみに、事故の加害者も来なかったよ。かすり傷のはずなんだけどね)

 そして、保険屋が来てからは、俺達兄妹そっちのけで、事故の保険金と生命保険のお金の取り合いを始めた。

 なぜか、借りた覚えの無い親戚まで、貸したと言い張って大騒ぎさ。(借用書は無い)

 そんな親戚に銀行の担当者まで混じって、初七日もへったくれも無かった。

 気がつけば、事故に関する賠償金や掛けていた生命保険も全て消えていた。

 そして、店舗兼自宅も銀行の抵当に入っていたため出なくてはならなくなっていた。

 残ったのは、家具と原付のスクーター1台と2つの遺骨・位牌、そして俺名義にしてあった200万円弱の貯金だけだった。

 この200万円は、両親がもしも(破産等)のために俺の口座で管理していたモノで、実質店の運転資金なのだが、銀行もさすがにコレには手は出せなかった様だ。俺名義だからね。

 俺も碧も、半月も経てばそれなりに落ち着いたのだが、それからがまた大変だった。

 先ず、住んでいた家から出なくてはならなくなったので、アパートを借りようと思い不動産屋へ行ったのだが、貸してくれなかった。

 保証人が居なかったからだ。そして、保証人協会なるモノが有るらしいのだが、失業状態で働いていなかったため不可だった。

 中卒でそのまま実家で働き出した関係で、不動産関係は初めてで、全く知識が無かった俺は、お金を月々払えば普通に貸してくれると思ってたんだよ…

 礼金・敷金なんて言葉は、テレビなどで何となく聞いた事は有ったが、それが何なのかすら知らなかった。そんな情弱野郎だった訳さ。

 ついでに不動産屋で、保証人の話の際、就職にも保証人が必要だと言う事を教えられ更にお先真っ暗となった。

 一応、曲がりなりにも借金は全て返済と成った訳なので、親戚達にアパートの保証人に成ってくれるように頼んだのだが、怒鳴り返されるか、電話をガチャ切りされただけだった。

 住む場所が無いと、働く事も出来ない訳で、バイトすら不可能となる訳だ。

 俺だけなら最悪、橋の下なんてのも有りだが、17歳の碧にそんな真似はさせられない。

 で、まだ生きていたネットを使って、必死こいて打開策を探した。

 直ぐに、ウイークリーマンションの短期契約ならば保証人は要らない事が分かったのだが、1回の契約で1ヶ月に満たず、更に倍以上の金額だった。

 先が見えない状態では、200万程度の金額は1年程度しか保たず消えるのが目に見えていた。しかも、同じ部屋を連続で契約する事は出来ず、その都度引っ越す必要も有ると成っては、本当に最後の手段だと考えた。

 家の明け渡しが近づき、焦る中で、狭い土地買って、そこにプレハブの家を建てようか?なんて冗談半分で碧が言った事が切っ掛けで、安い土地を探したのだが、その中で100万円以下のマンションや一戸建てが存在している事を知った。

 ただ、マンションは100%駐車場無しでワンルーム、更になぜか共営費5万円なんて言うのも結構有った。どうやら、老人用のなんちゃって老人ホーム用らしい。

 一戸建ても、駐車場無しで、更に一戸建てと言いながら長屋タイプも多く、更に新築不可物件も多かった。

 その後、ネットでは良い物件が無かったため、実際に10件程地元の不動産屋を回り、訪れた不動産屋の知り合いの不動産屋の知り合いの不動産屋、と言う縁遠いネットワークにその物件はあった。

 それは、俺が住んでいる県のお隣の県で、県境にある市の郊外の山中にある一軒家だった。

 築60年以上、上下水道無し、トイレはポッチャン、周囲半径800メートルに民家無し、手数料・登記代込みで65万円なり!!

 依託物件と言う事で、消費税も掛からない。(不動産屋の持ち物件だと消費税が掛かるんだってさ)

 速攻、スクーターで4時間掛けて見に行きましたよ。

 道のどん詰まりに、草ボウボウに成った庭のある古式ゆかしいボロ屋+半壊した倉庫(厩?)が有った。

 家は田舎の家らしくそれなりに大きく、玄関のみアルミサッシで、それ以外は全て木に板ガラスがはめられたモノで、雨戸は全て木の板で作られており、微妙に反り返っていたりする。

 庭も広く、母屋と半壊した倉庫の間に車なら3台は楽に止められる広さがあった。

 そして、倉庫の裏には、ススキ系の草で被われた、家の敷地の3倍ほど有る畑地も有った。

 一応、井戸も生きており、電動井戸ポンプが生きていれば水も問題ないだろうとの事だ。

 以上の物件で、65万円……確認したその日に契約しましたとも。ま、その段階では仮契約だったけどさ。

 後日、持ち主と不動産屋、登記をするおっさんの計4人で契約を交わし、正式に購入した。ま、登記が完了するのはそれから1ヶ月近く掛かるらしいのだけどね。

 ちなみに、必要なモノは、印鑑(認め印で可)と住民票、のみ。印鑑証明も実印も要らない。(ローンでなく現金だかららしい)

 そして、立ち退き日を4日残して引っ越しを実施した。軽トラをレンタルして寝ないで5往復したよ。

 その後、電気・ガス・水道・下水道・ネット・電話・携帯電話の解約手続きを行い、転出処理、そして、転入、電気・ガスの契約と、諸手続だけで3日以上掛かったよ…

 市役所めんどくせ~、何カ所部署回らにゃならんのよ、次あっちに行って、今度はあっちに…、全く。

 で、更に面倒くさかったのが、携帯の解約。会社名記(有限会社)で契約してたんだが、本人(代表者で有る親父)じゃないと解約出来ないとか言いだした。

 いや、死んだんで解約しようとしてるんですけど、って言ったんだが、本人じゃないと出来ませんの一点張りで、結局契約したご近所じゃ無くて別のデカい店舗に行って解約した。そこでは普通に解約してくれたよ…訳分からん。

 俺がそんな手続きをやっている間、碧は家の掃除と家具の配置をやってもらった。

 引っ越し初日から3日間は電気も無い状態だったから、一人でかなり心細かったと思う。井戸に手動の汲み上げポンプが有ったおかげで掃除用の水には困らなかったらしいけどね。

 その後、色々考えた末、中古の軽自動車(諸費用込みで12万円、車検1年10ヶ月付き)を買い、携帯も音声通話のみの格安プランで契約した。

 当初は、携帯は要らないつもりだったが、市役所は元より、電気・ガスの契約時にも「電話は?」としつこく聞かれたし、いざ就職しようとする場合でも、連絡先が無いと言うのはマズかろうと思い至った訳だ。

 ま、就職出来るかどうかは別として、バイトですら電話がないと厳しいだろう。面接の可・不可の連絡すら電話になるだろうし…

 あとさ、自動車の任意保険があんなに高いとも知らなかった。家族限定しか付けられなかったよ。ABSも対衝突安全なんちゃらも無い車だから、初年度は10万円近かった…

 ホントに、何にも知らないんだな…と自分の情弱ぶりにため息の連続だったよ。一人暮らしをした事のない二十歳ってこんなモンだよな、な!。

 結局、なんやかやで、気がつけば残金は120万円程になっていた。

「1ヶ月1万円生活バリに行くからね。お菓子もジュースも無し、お兄ーの頭もバリカンで丸刈りね」

 早々に碧から宣言されてしまいましたよ。ま、理髪代も安くないからな~、中学時代に買ったバリカンがあるから坊主で良いけどね。

 それから、3日程は、庭の草取り、家の周囲の草刈りに追われた。

 庭は、一旦鎌で草を刈り、その後クワで根を掘り返し、根を残さないようにした為時間が掛かってしまった。おかげで筋肉痛と腰痛のコンボも喰らった。

 刈り取った草は、全て畑に捨て、畑の方は当分手は出さない事になった。

 庭と、畑を除く周囲の草刈りが終了すると、やっとまともな民家の(てい)を成した。

 ただ、他が綺麗になった分だけ、半壊した倉庫が目立ってしまう。ま、それ以前に家自体の古めかしさがアレなんだけどね…

 俺たち的には、雨漏りせず住めれば十分だと思っているから良いのさ。畳がすり切れていようが、風で縁側の戸がカタカタ音を立てようが、すきま風が吹きすさぼうが無問題ってやつだ。

 そして、それは、一通りの処理が終わった翌日、縁側で2人してフリーペーパーの求人誌を読んでいた午後3時ごろの事だった。

 突然の音と共に眼前の半壊した倉庫の一部が上空へと吹き飛んだのだ。

 その音は、爆発音では無く圧縮空気が抜けるような音で、音自体はさして大きくは無かった。

 しかし、吹き上げられた木材の量は多く、板だけで無く桟木(さんぎ)やある程度の柱まで7~8メートル程の高さへ上がっていた。

 そして、その吹き上げられた木材は倉庫の上と畑の方へと落下していった。

 その間、俺達2人は、ただ身体をビクッとさせただけで何も出来ず、一言も発さずそれを見送った。思考も停止していたと思う。

「爆発!? 不発弾!?」

「いや、爆発音じゃないと思う」

 ワタワタとしながら騒ぎ出す碧の意見を俺は否定した。

 俺は、以前河川工事の現場で、ダイナマイトを使用するのを見学した事が有る。離れた所から半日見学していたのだが、アノ音とコノ音は全く違った。

 火薬にしろガスにしろ、いわゆる『可燃性の爆発』の音には聞こえなかった。

「えっ、じゃ何? どう言う事?」

「空気圧で吹き上がった様な感じだった…ドカンじゃなくってポンって感じ。地下水でも吹き上がりかけたとか…」

「間欠泉みたいな事?」

「分からんけど、内圧が掛かって上にボン!」

 ただ、そう言っては見たモノの水や蒸気が上がる気配は無い。アレだけ吹き出すだけの圧が掛かったって事は、水や水蒸気が原因だとしたらそれも噴き出すと思うんだよ…それが無いって事は、違うって事か?

「見に行く?」

()めれ。しばらく様子を見よう。何があるか分からん」

 状況が分からない中で、覗きに行くのはマズい。打ち上がらなかった打ち上げ花火の筒のぞき込むような愚行だ。

 結局、それから20分間俺達は縁側で待機を続けた。

 途中、何度も「見に行こうよ」と言う碧を引き留めるのに苦労したよ。こやつはアグレッシブなヤツだからな。積極的って方もだけど、もう一つの意味の攻撃的って方の意味もチョット含めてね…

 その後、念のために更に10分時間を空けてから(くだん)の現場に2人で向かった。

 先ず俺だけで見てくるから、と言ったのだが、碧は聞いてくれなかった。

 で、二人で並んでのこのこと爆発場所へと来たのだが… そこには穴が開いていた。ただし、その穴はコンクリート製の60センチx60センチ程の縦穴だった。

「……地下道?」

「いや、地下室の入り口っぽいな」

 吹き上がった為に上部の崩れた木材が無くなっており、穴の上部には太陽が当たっていた。太陽の位置は天頂とは程遠かった為、穴の中までは直接当たってはいないが反射光で十分に底が見える。

 底は縦穴と同じでセメント製のようで、地上から1メートル程の地点から2面が広くなっており、そこから更に2メートルちょい下に底がある。

 つまり地下3メートルに高さ2メートル程の部屋がありその角に出入り口の縦穴があるのだ。

 ただ、ここからではその部屋の広さは不明だ。ひょっとしたら部屋では無く広い通路の可能性も有る。

「鉄の梯子サビサビだよ。細くは成ってないけど大丈夫かな?」

 碧は梯子と行ったが、実際は学校やマンションの屋上へ上がる所にある、一つ一つ壁に埋め込まれている手すり(タラップ?)だ。ホッチキスの針みたいなアレだ。

「水とか蒸気も無いね。アレかな、メタンとかブタンとか溜まって爆発するアレ。中国下水道名物の」

 名物かどうかは知らんが… 可燃性ガスの引火爆発もそれなりの音がするはずだから、違う気がするんだけどな… ま、中卒の情弱野郎ーだから自信なくなってきたよ。

 なんて考えていた所に突然それが現れた。

 それは薄暗い地下の見えていない部分から突然出て来た。

「わ、ワニ!?」

 碧の声で、俺も一瞬ワニに見えた。だか、直ぐにそれが別物だと分かった。なぜならワニ程鼻先が長くなく、そして鼻先が太かったのだ。何よりワニ独特のあの鱗が無い。

「ワニじゃ無い、アレは…ダンジョンモンスターだ」

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