02・スパッツは本気か?
「…宜しく」
そう言うと雨宮 水子(以後水子)の隣の席に着く。
ズラの大島の女……!悩んでいる時にややこしい相手を隣に置くなよ苗字一緒の時点で気付けバカ!だから禿げるんだ!ズラなんだ!
怒りと悩みで震えていると、隣のオレが話し掛けて来る。
「大丈夫か、お前」
話し掛けんな殴りそうだと言いたかったが流石にそれはまずい。今は女だし男のオレは結構腕力もあるだろう。わざとバトルファイトなんてしたくない。
気付くと反対側の逸美から丸めた紙が飛んで来ていた。
開くとウサギの柄のプリントがされてあるメモ用紙みたいだ。『大丈夫?保健室行く?』と書かれてある。有難う、男でも女でもお前は親友だ。
逸美を見ると口パクで「だ・い・じょ・う・ぶ」と返す。すると安心したように笑って微笑んでくれた。
バカな元男どもは男のオレにざわついている。お前等元の世界だったらガチホモだぞ。
「お前か、校長にも聞かれたが」
「…何が?」
余り喋らないように頬杖をついたまま顔を水人の反対側に向ける。
「苗字が同じで関係があるのかって聞かれたんだ」
お前と関係があるか?ある。元はそれオレの体だ。返せこの野郎。
「そう…」
最小限の言葉でその会話を切ると水子は前の黒板を見る。どうやら大島が書き間違えていない限り『雨宮 水人』だ。今のオレの名前じゃないよな。おっと、そろそろあたしって言った方が良いのだろうか?
口数が少ないのは男のあたしも同じのようだ。
う〜ん、それにしても疑問だ。他の奴の男バージョンが消えているのにあたしの男はなんでいるのだろう。いや待て、もしかして他の模範生が篭目 逸迩とか言わないよな?
逸美にその事を聞くとどうやら違うみたいだ。
「えっとね、そこの雨宮くんと…確か高倉 宮木くんって人かな?もう一人はわかんないや」
大収穫だ。「ありがと」と礼を言うと黒板に向き直る。
流石に篭目 逸迩って名前だったら逸美が放って置く訳がない。
それにしてもタイミングが良過ぎないか?と水子は思った。あたしの学校が丸ごと性交換したと同時の男の模範生転校。ついでに名前が元のあたしの名前だ。
まずいなぁ、頭がこんがらがって来た。
頭を掻き毟ろうかなとも思った時、逸美が声を掛けて来た。
「大丈夫?ホームルーム終わったし、次の時間体育だし、寝てる?」
どうやら何時の間にかホームルームが終わってたみたいだ。あの長話の大島にしては珍しい…というかいい加減あたしも酷いな。そろそろ自重しよう。
「いや、大丈夫」
立ち上がると背伸びをして隣の席を見る。水人が居なくなっている。
「あ〜、雨宮くんの事気になる?」
妙ににやにやしている逸美が聞いてくる。どうやら色々と勘違いしているみたいだ。顔は可愛くなっているのにこういうところは変わらないみたいだ。
「もう、ミっちゃんにはボクがいるのに」
…どうやらこいつの一人呼称は変わっていないみたいだ、羨ましい。
「いや、そんなんじゃないんだ…っと、早く着替えないと」
気付いたようにあたしが言うと逸美もそうだねと言い後ろのロッカーに走り寄って行く。
素早く青い袋を二つ両手に持つとすぐに戻って来た。
「はい、体操着」
「あ、ありがとう…」
本当、こいつとはどの世界でも良い関係でやっていけそうだ。
そんな事を考えながら青い袋をパッと開き水子は固まった。おぉ〜?と口に出し掛ける。
スパッツだ。黒のラインがサイドに入っているスパッツだ。これはかなりきつい。無表情に近い顔になった水子は青い袋を少し観察する。
『雨宮 水子』と書かれている。マジか…と顎を落とし掛けた。
というかこれを穿くのか!?とスパッツを凝視する。ウエスト物凄く細い。それは良い。今の体見る限り入りそうだ。上は普通のジャージみたいだが、下が如何せんきつ過ぎるだろ。
冬の体育着を着てはいけない決まりでもあるのだろうかと考えてみるが、ジャージは部屋な上に持って来れる訳がない。それに今は6月だ。結構暑い。そんなの着たら倒れる事必至だ。
「……腹を括れオレ」
こんな時はオレでいかせてくれあたし。
目を瞑り、スカートの横のジッパーを着た時のように下に一気に下ろす。
床にそれを落とすと、机の上を探りスパッツを手に掴む。素材的にこれだ。
「せーの」
両足を入れると素早くスパッツを上に上げる。本当に脚がすらりとしていてすんなり入った。これは良い。動きやすい事この上なしだ。これで走ったらかなり行けるだろう。
上も脱ごうとし、その手をピタと止めた。…ブラジャーをつけていたか?
結構制服の生地が厚いので分からないから良い。だが、あれを隠す為のブラジャーを着けていたか?
バッと焦りながら覗き込むと、ない。当たり前だ。見ないように意識して制服も着たからブラジャーなんて意識してなかったのだから。
なんかないのかと考え青い袋を探ると、セーフだ。スポーツブラと言われる物が入れてあった。だが、それを取り出した時に一枚の紙が挟んであった。ウサギのプリントの紙だ。
『貸し、一だよ〜♪』
振り返ると逸美がウインクで返して来た。
入れてくれたのはすぐにわかった。本当にお前は親友だ。三回目だが親友だ。
しかし親友。ブラジャーを着けてない事を知ってるって事はあたしの胸とあれを見た事にならないか?
だから…なんで…こうなる?
あたしの横には半目の男のあたしが立っている。
目の前にはスタートライン。なんと校庭を一周競争という馬鹿げた科目だ。体育だよな、これ。男子と女子を当てさせていいのか。
男のあたしを尻目にちょいちょいとストレッチをする。勝つとか以前に面倒だという感情が来るのは間違いだろうか。そもそも自分に本気で勝っても嬉しくない。せめて○○一年分とかそういう商品をつけて欲しいものだ。
だが、元男のあたしの意地を舐めるな。今が女でもあたし自身に負ける訳はない。こういう時に面倒だと思ってあいつが力を抜く事を誰よりも知っている。
ドンドンと二人一組の女子達が走って行き、逸美が走る番になる。
「頑張って、ミっちゃん」
「あたしよりも自分が頑張れ…」
振り向いて言った逸美に言う。次の番はあたしだが逸美に怪我でもあったら困る。
「あはは、任せておいてよ。これでも走りは得意なんだから」
小さくジャンプをしながら言う逸美の脚を見て思った。結構、いやかなり細い。美人に似合っている脚だ。
並べ〜という体育教師の浅岡の声で逸美は前に出る。
横には……委員長だ。応援するまでもないのか?完璧に運動音痴だぞ委員長。
パンという音銃の合図でダッと二人が走り出す。あぁ、やっぱり委員長よろよろじゃないか。あ、転んだ。逸美が焦ってる。結局ダッシュで駆け寄り委員長を助け起こしたようだ。
「ほら次、並んで並んで!」
美人だった浅岡先生はなんと筋肉質な美青年教師になっていた。一目見た時はその変化の具合に吐き掛けたが今は少し慣れた。
スタートラインに水子と水人が並ぶ。水子の方は逸美と同じ運動をしており、水人は首を回している。あぁ、本当にあたしだ。あの走る前の首回しなんてそっくり。
逸美達が走り終わったようで、浅岡が音銃を空に上げる。
「よーい…」
〜『NG場面』〜
体育着に着替えてる場面。
「せーの!うわッうがっ!」
勢いつけ過ぎてスパッツが足に引っかかり顔面から前の机に激突。
まだ持ち直せたのだが逸美が笑っていたのでNG。
「笑うなバカ―!カメラマン、これ載せたら殴るぞ!」
面白かったでしょうか?ボクはネタずまり中です。
あ、知ってます?小説って浮かんだ時は良いんですけど進んで来た時にスランプになるんですよ…ハハハ。
ともかく、楽しんで頂けたら幸いです。
どうもありがとうございました!
『次回予告』
なんでそこまで一緒なんだ…。
机の中の筆箱。筆箱の中身全て今のあたしと同じだ。
「ん?」
次回、真似事はどうかと思うに面倒事は嫌いだ…。




