epilogue.1
風が、強く吹いた。
彼女の、無造作に括った色素の薄い長い髪が、はらはらと散らばって空を舞った。
屋上には僕と彼女の二人きりで、他には誰もいない。2mほど距離を置いて向かい合った彼女は静かに呼吸を繰り返す。力なく座り込んだ彼女のことを、僕はこの数か月で十分に理解したつもりだ。出会った瞬間から振り回されてばかりだったと思うけれど、よく考えると、勝手に振り回された気になっていただけかもしれない。自分が好きで動いていただけだったのかもしれない。
彼女の色素の薄い、長い髪が好きだった。色素の薄い肌も、瞳も。表情は崩れないけれど、照れると顔が赤くなるのも―――伏し目がちで、誰かと視線を合わすことを避ける仕草も。
ずっと伸ばしたままの右手が鈍く痛んだ。日頃特に鍛えもしていなかった筋肉が悲鳴を上げる。あれだけ練習して、そして幸運なことに‘的’も動かないのに。練習と本番はやはり違う。手が、こんなに震える。銃口がぶれてしまう。
『銃口の震えは精神の乱れだ。』
柏木さんの言葉がふと脳裏を過って、苦笑する。確かに練習はさせられたけれど、まさか自分が本当にそんな場面に遭遇するなんて、あの時さすがの柏木さんも思わなかっただろう。
―――僕だって思わなかった。
「シロ。」
震える右手を左手で抑えながら、気づけば彼女を呼んでいた。
ぼんやりとした瞳を少しだけ動かして、けれどシロはこちらを見なかった。
言いたいことも、聞きたいこともたくさんあったはずだけれど、何一つ出てこない。ただただ走馬灯のように、出会って、関わった時間が脳内を駆け巡る。
彼女の口元が、小さく動いた。
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