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1章

「どうだ?(れい)

 目を輝かせて朔真(さくま)がこちらを見てきた。

「どうだと言われも」

 都市伝説は基本、誰かが言い出した後付けの屁理屈であり、そうあって欲しいという願望だと思っている。

 とはいえ、その考えを誰かに押し付ける気もないし、信じる信じないは本人の自由なのでシンプルに思っていることを言ってやることにした。

「俺、そういうのは全く信じてないからな」

「グハッ!」

 朔真はオーバーリアクションで床に倒れ伏した。静かになっていいので放置して漫画を読み始める。

 しかし、少しするとズリズリと床を這う音が聞こえてきて、まず右肩を掴まれ、さらに左肩。そして背後で立ち上がる人の気配。直後、後ろから抱きつかれるようにのしかかられた。

「呪うぞ~」

 耳元で朔真が呟いた。

 さて、どうするか。

 一瞬悩んだが、相手してもしなくてもどちらもめんどくさいという結論にたどり着いたので、漫画を閉じると背表紙で軽く朔真の頭を叩いた。

「止めろ」

「い~や~だ~」

 拒絶の言葉と共に体重をかけてくる朔真。

「重い。うざい。暑苦しい。だから止めろ」

 最後の忠告とばかりに言ってやるも、朔真はさらに体重をかけてきて、

「止めない~」

 だったら仕方ない。というわけで、アイアンクローで朔真の頭を掴み、まずは軽く力をいれてやる。

「イタタタタ!」

 叫びながら腕をといたので、横向きに座り直すと朔真を押し戻して引き離した。

「まだそれほど力はいれてないぞ」

「それでも痛い!」

「そうか」

 さらに少し力を強めてやる。

「イタタタタタタタタ!」

 さらに叫び声をあげながら腕を叩いてきたので仕方なく放してやると、朔真はまた床に倒れ伏した。

 放置を決め込み、また漫画を読み始めようとした時、雪奈(ゆきな)が入ってきた。

「外まで朔真先輩の声が聞こえていましたけど、って」

 雪奈は床に倒れ伏している朔真を見て状況を理解したのか頷いていた。

「またですか」

 雪奈に続いて入ってきた冬李(とうり)は少し呆れていた。

「大丈夫ですか?」

 最後に入ってきた(あおい)だけが心配して朔真に駆け寄った。

「葵。お前だけが俺の味方だよ」

 朔真が葵に手を伸ばそうとすると、雪奈が葵の手を引いた。

「気にする必要ないわよ、葵。どうせいつものことなんだから」

「ヒドイ」

 伸ばした手の行き先を失いまた床へと倒れ伏す朔真。

 葵はそんな朔真を見てオロオロしているのだが、雪奈と冬李は何事もないように漫画を読み始めた。

 それから数秒後。

「お前らは鬼かー!」

 叫びながらいきなり立ち上がった朔真にビクッと驚く葵。

「朔真。うるさい」

 奥のソファーで寝ていた(みやこ)が起き上がった。

「ホントにうるさいぞ、朔真。読書の邪魔なうえに葵が怯えているだろ」

「あぁ。すまん」

 俺と京の言葉に朔真は京と葵に謝罪した。その言葉を聞いた京はまたソファーに寝転び、葵は微笑んだ。

「いえ。驚いただけですから大丈夫です」

「そうか。よかった。って!それもこれも原因は」

「お前だろ」

 朔真の言葉を遮って言ってやると、さっき以上に朔真が突っ掛かってきた。

「完璧にお前のせいだろが!零!」

「どこがだ?」

 漫画を読む手を止めずに耳と口だけで朔真の相手をすることにした。

「お前がアイアンクローしてきたからこんなことになったんだろうが!」

「その前にお前がのしかかってきただろ」

「それは、お前が俺の話をバッサリ切り捨ててきたからで……」

 朔真の言葉の勢いがなくなってきた。

「都市伝説を信じるか信じないかは本人の勝手だろ」

「だからってあそこまでバッサリ切り捨てなくてもいいだろ………」

 いじけだす朔真を見て苦笑する葵。

「それに、雪奈と冬李の反応も冷たすぎねーか?」

 俺に言いくるめられた朔真は矛先を雪奈と冬李に向けた。

「朔真先輩相手に甘やかす行動とると後々面倒ですから」

 1・2学期の間で朔真の性格を学習した雪奈はバッサリ切り捨てた。すると、朔真はすがるように冬李を見た。

「僕はノータッチで」

 雪奈みたいにバッサリ切り捨てられることはなかったとはいえ、拒絶された朔真は「ガーン」と言いながら膝と両手を床についた。

 静かになっていいと思っていると、

「零先輩。朔真先輩が言っている都市伝説ってなんですか?」

 都市伝説のことが気になった冬李が問いかけてきた。

「あぁ。それはな」

 俺は朔真に聞いた都市伝説を3人に話した。

「つまらないですね」

 聞き終えた瞬間雪奈がまたバッサリ切り捨てた。

「どこがつまらないって言うんだ!」

 落ち込みから復活した朔真が叫ぶ。

「条件が限定的すぎます。特に『この都市伝説を話している時しか起きない』っていうのが1番ありえません」

 雪奈の指摘は的確で、それは俺も思った。

「あるかもしれないだろ!」

「ありえません!」

「ある!」

「ない!」

 睨みあった朔真と雪奈をよそに漫画を読んでいると、葵が近づいてきた。

「零先輩」

「なんだ?」

 漫画を閉じて葵を見た。

「止めなくていいのですか?」

 葵は心配そうに睨みあう2人を見た。

 2人は「ある!」「ない!」と言い合い、子供のような喧嘩を続けている。

「冬李。頼んだ」

「2人の喧嘩を止めるのは零先輩にしか無理です」

 冬李は両腕でXを作ると読書に戻った。

「零。早く静かにさせて」

 ソファーから起き上がることなく京が急かしてきた。

 仕方ないので、俺は葵を連れて2人の元へ行くと軽く頭を叩いてやる。

「なにしやがる!」

「なにするんですか!」

 2人揃って噛みついてきたのでもう1発叩いてやる。

「子供みたいな喧嘩するな」

 2人は渋々喧嘩を止めた。

「でも、もし本当にその都市伝説が事実で異世界に行ってしまったら怖いですね」

「いいじゃんか!異世界!」

 心配する葵とは反対に嬉しそうに叫ぶ朔真。

「そんな漫画みたいな展開に巻き込まれてみてー」

 気軽に言う朔真に俺は苦笑しながら質問した。

「もし本当に異世界に行けたらどうするんだよ」

「そりゃもちろん勇者になって魔王を倒して伝説になる!」

 朔真は子供のようなことを目を輝かせながら言ってのけた。

 ここまで清々しく言い切られると、笑う気もおきず、「そうか」とだけ俺は言った。

「しかし、異世界に行くなんて漫画みたいな展開がおきてほしいって思うのは普通だろ!」

「勇者になりたいとかは思いませんが、そういう展開がおきてもいいとは思いますね」

 騒ぎを避けていた冬李からの予想外の同意に少し驚いている中、朔真は冬李と肩を組んだ。

「だろ!」

「でも、朔真先輩と一緒には行きたくないですけど」

「なんでだよ!」

 せっかくできた同志にすぐ見放された朔真は冬李を揺らした。

「考えなしに色々厄介事に首を突っ込んで振り回されそうですから」

 冬李の言葉に同意するように頷く雪奈に苦笑する葵。

「まぁ、そんなことはおきないだろうがな」

 話を終わらせるようにそう言い、俺は読書に戻った。

「零は相変わらず冷めてるよな」

 朔真にため息を吐かれた。

 冷めてる、か。

 漫画を読んだりそういう展開を考えたりするのは好きだが、実際おきるかと聞かれればそこら辺は現実主義なのでおきないと答える。俺からしてみればただそれだけの話だ。

「雪奈はどう思う?」

 俺の態度に興味をなくした朔真は雪奈を見た。

「何がですか?」

「異世界。行きたいと思うか?」

「思わないことはないですね」

「だろ!」

 新たな共感者が現れたことで朔真のテンションがまた上がりだした中、雷の音が鳴り響いた。

「キャッ!」

 驚いた葵は耳を塞いだ。

「大丈夫?葵」

「うん。大丈夫」

 雪奈に笑顔を向ける葵。

「葵は雷苦手なのか?」

「どちらかというと苦手です。今はさっきの都市伝説を聞いて余計に意識してしまって」

 葵がハニカんでいると、また雷の音がして「キャッ!」という悲鳴とともに耳を塞いだ。

 葵が怖がる原因を作った朔真はというと、外を見ながら「もっと雷雨よ激しくなれ~。な~れ~」と言っていた。

「これ以上激しくなったら帰るのがめんどくさくなるだろが」

「いいじゃんか!異世界に行けるかもしれないし!あっ!そうだ!」

 朔真は都市伝説を繰り返し呟きだした。

「朔真先輩。怖いので止めてもらえますか?」

 その言葉を聞いた雪奈は葵の耳元で都市伝説を呟いた。

「雪奈ちゃんまで止めてよ!」

 逃げる葵。都市伝説を呟きながら迫る雪奈。それを面白く思った朔真も葵に迫った。

 逃げ回った葵は最終的に俺の後ろに隠れた。その瞬間、2人の動きが止まった。

「ずるいわよ、葵」

「出てこい!」

 2人の理不尽な物言いに、俺は漫画を閉じて2人を見た。すると、2人はビクッとして少し後ずさった。

「葵の嫌がる事をやってた奴らが言えることか?」

『ぐっ!』

 痛いところを突かれ反論出来ずにいる2人を見てため息を吐くと、漫画を開いた。

「まぁ、止めはしないけどな」

 すると、2人が悪い笑みを浮かべ、葵が俺の腕にすがり付いてきた。

「ただし」

 俺は2人にただ微笑みかけた。それだけで2人の動きが止まった。

 静かになり、ゆっくりと読書に集中出来ると思っていると、一際大きなか………………。


        ▼  ▼  ▼


 目を開けると見えてきたのは太陽の光と森の木々。その光景に驚き、起き上がった俺は回りを見回した。

 回りの風景は見慣れた漫研の部室ではなく森の中で、俺の回りには朔真・京・雪奈・冬李・葵の5人も倒れていた。

 5人が居たことにホッとしつつ、状況整理をすることにした。

 とりあえず、さっきまで確実に漫研の部室にいた。そして、朔真と雪奈を牽制してから漫画を読み出した時に大きな雷が落ち、意識を失って次に目が覚めるとこんな森の中。

 ありえない。普通じゃ絶対にありえない状況だ。しかし、頭の中に1つ、ある可能性がずっと離れないでいた。

 それは朔真が話していた都市伝説。

 さっきまでの笑い話が笑えず、全力で否定したいが今の状況下では否定しきれない。そんな状況にイライラしてきた。

 ダメだ。落ち着こう。

 軽く深呼吸をして気持ちを落ち着かせていると、腰の辺りに違和感を覚えたので手を当てるとゴツゴツした手触りがあった。

 疑問に思ってブレザーを開いて腰を見ると、そこには銃があった。しかも、腰の両サイドに1丁ずつの合計2丁。

 なぜこんな物が?

 戸惑いながらもう1度5人を見ると、冬李の手にはスナイパーライフルが、雪奈の手には刀が握られているうえに頭の横には鬼の面があった。

 朔真と京と葵は武器を持っていなかったが、朔真のお腹にはリス、京のお腹には鳥、葵のお腹にはチワワが乗っていた。

 ここがどこなのか。なぜ俺・雪奈・冬李は武器を持ち、朔真・京・葵のお腹の上には動物が乗っているのか。

 なにもかもわからない状況に俺は思考を止めた。そして、立ち上がり、とりあえず銃を抜いてみた。

 本物なのか?

 しかし、当然ながら本物を触ったことなどないのでわからず、空を見上げて銃を突き上げ、躊躇わずに発砲。

 銃声にビクッとして起き上がる5人をよそに、何かが飛んでいくのが見えたので本物で間違いないだろうという結論を出した。

 しかし、片手で撃ったのにもかかわらず反動がほとんどなかった。

 なんて考えていると、

「どこだー!ここはー!」

 朔真の叫び声にとりあえず銃をしまって朔真の頭を叩いた。

「うるさい」

「零。ここはどこなんだ?」

 朔真の問いに1年トリオも俺を見てきた。

「お前の望みだった異世界だと思うぞ」

「ホントか?」

「多分な」

 すると、さっきまでの動揺はどこへやら、朔真は「ウオォォォォ!」と叫びながら興奮しだした。

 この気持ちの切り替えの早さは凄いと感心していると、3人がさらに近づいてきた。

「零先輩。ここはホントに異世界なんですか?」

「情報がなに1つない今の状況じゃ、正確なことは言えない。ただ確かなのは、俺達は漫研の部室からどこかわけのわからない場所に飛ばされたってことだ」

 俺の言葉に雪奈と冬李は難しい顔をし、葵は今にも泣きそうだった。

 今の状況では1年トリオみたいに不安になるのが普通であり、朔真みたいに喜んだり俺みたいに平然としているのは異常なんだろうな。

 なんて考えつつ、俺と同じで平然としながら回りを見回している京を呼んだ。

「京」

 俺の声に反応して近くにやって来た京は頷いた。

「零の考えた通り異世界だと思う」

 俺の考えを肯定した京の言葉に1年トリオの表情がまた暗くなった。

 なので、俺は雪奈と冬李の頭に手をのせ、軽く撫でてやる。葵の頭は京が撫で始めた。

「とりあえず、雪奈と冬李は武器をしっかりと持っておけよ。もしもの時のためにな」

 俺の言葉に2人はそれぞれの武器を見つめた。

「零先輩。この武器は」

「さぁな。とりあえず本物みたいだな」

 俺は腰の銃を3人に見せた。

「じゃあ、さっきの銃声は」

「これだよ」

 2人はまたそれぞれの武器に視線を戻した。そこへテンションMAXになった朔真がやって来て肩を組んできた。

「何話してるんだよ!」

 耳元でうるさいので引き剥がしてから言ってやる。

「お前が能天気の馬鹿だって話だ」

 俺の1言に雪奈と冬李が吹き出し、葵もポカンとした。

「なんだとー!」

「こんな訳も分からない状況でよく騒げるな」

「夢にまでみた異世界に来れたんだ!騒がずにはいられないだろ!」

「だから、お前は能天気の馬鹿なんだよ」

「なにー!」

 俺と朔真のやりとりに雪奈と冬李は笑いだし、葵も笑顔に戻った。

「お前らも笑うな!」

 3人に向かって吠えた朔真は、直後ニヤリと笑った。

「なんだよ」

「いや。お前らがあんなに否定していた都市伝説が事実だったんだからな」

 確かに。今この状況では都市伝説のせいで異世界に飛ばされたと考えるほうが自然だろう。しかし、朔真相手に簡単にそれを認めるとうるさくなるし、まだそうと決まったわけでもないので否定してやることにした。

「そうとは限らないぞ」

「認めたくないのはわかるが、今おきていることが現実だよ」

 しかし、すでにテンションが上がりきっている朔真は上から目線で肩を叩いてきた。

 その言動に少しイラッとしたので、練習がてらに銃の早抜きを行い、朔真の頭に突きつけた。

「って!なんだよ!なんでお前銃なんて持ってるんだよ!」

 距離を取った朔真は俺を指差してきた。

「雪奈や冬李も持ってるぞ」

「何っ!」

 朔真の視線が2人に向いた。

 2人は武器を朔真に見せると、朔真はさらに後ずさった。

「お前らなんで武器持ってるんだよ!」

「さぁな。起きた時からあったんだよ。俺から言わせてもらえば、お前や葵の足元にいる動物や京の頭の上を飛んでいる鳥のほうが不思議だけどな」

 俺の言葉に朔真と葵は足元を、京は頭上を見た。

「何だ?これ?」

 朔真がリスを見ているとリスは制服を駆け上がって肩に乗り、京の肩に鳥がとまった。

「可愛い」

 葵はチワワを抱き上げた。

「ホントに何なんだ?」

 朔真が俺を見てきたわけだか、

「俺が知るわけないだろ」

 なんて言っていると、リスが朔真に向けて「チューチュー」、鳥が京に向けて「ピーピー」と、チワワは葵に向けて「ワンワン」と鳴き出した。

「何言ってるんだ?」

 首を傾げる朔真。

「言葉」

 京のつぶやきに俺は京を見た。

「俺にはただ鳴いてるだけにしか聞こえないのだけど言葉を話しているのか?」

「うん。こちらの言葉だろうから何を話しているかはわからないけど、言葉を話しているのは確か」

 そうなると、やっぱり普通の動物じゃないわけか。なんとなくそうじゃないかとは思っていたが、ホントにそうだとわかるとそれはそれで厄介だ。

「なぁ零。その銃貸してくれないか?」

 朔真が肩を組んできた。

「いいぞ」

 銃身を掴んで差し出してやると、朔真は嬉々として銃を手にしたので銃身を離してやった。

 次の瞬間、朔真の手が落ちた。と思えるぐらい一瞬で手が下がり、朔真は銃を落とした。

「重ー!」

「え?」

 重い?エアガンくらいの重さしかないはずなのに?

 冗談かとおもいきや、地面に落ちた銃を拾い上げようとしている朔真の腕はプルプル震えていた。

 もしかして。

「雪奈。刀を貸してくれ」

「わかりました」

 雪奈は片手で刀を鞘ごと抜き、俺に差し出してきたので両手で受けとる。そして、1息吐いてから気合いを入れる。

「離していいぞ」

 雪奈が手を離すとかなりの重さが両手にかかり、俺の両手が落ちた。どうにか気合いを入れていたから落としはしなかったが、どう考えても片手で持てる物ではない。

「なる……ほど……な……」

「先輩?」

 首を傾げている雪奈の向こうでは、朔真に代わって京が銃を持ち上げようとしているがやっぱり持ち上げれずにいた。

「どうやら、持ち主以外にはかなり重くなるみたいだな。雪奈。返すよ」

 とは言っても、持ち上げられないのでどうにかこうにか刀を縦に向けて地面に突き立てる。

「そういえば、先輩。これなんだと思いますか?」

 雪奈は鬼の面を俺に見せた。

「さぁな」

 すると、雪奈が面をつけようとしたので、

「やめとけ」

「なんでですか?」

「何かもわからない、どんなことがおきるかもわからない。そんな物をヘタに使っておかしなことがおきて対処できなくなっても困るからな」

「そうですね」

 雪奈は面を腰にぶら下げた。

 俺は銃を拾い上げ、みんなを見た。

「ここで話をしてても何もわからないし、移動しようか」

「移動ってどこへ行くんだよ?」

 朔真は回りを見回した。

「とりあえず森を抜けるのが先決だな。それから道を見つけてどこかの街に行って状況とか色々確認したいな」

「で、どっちに行くんですか?」

 雪奈の言葉に零は頭を掻きながら回りを見回す。冬李達も回りを見回した。

「零先輩。向こう側、森の向こうに草原が見えます」

 冬李が指差した先を見るが、草原どころか森の終わりすら見えなかった。

「草原が見えるのか?」

「見えませんか?」

 不思議そうにしている冬李。

 もう1度見るが、やっぱり見えない。

「京?」

「見えない」

 京は首を振った。

「俺も見えんな。冬李。お前メガネかけてるくせにスゲー視力いいな」

 感心した朔真は冬李と肩を組んだ。

「あれ?そういえば」

 戸惑っている冬李を見つつ、いくつか頭の中に仮説をたてながら手を叩いた。

「とりあえず草原のほうへ歩くぞ」

 俺を先頭に森の中を歩いていると、朔真が横にやって来た。

「しかし、お前はこんな時でも冷静だな」

「京や雪奈や冬李も落ち着いているぞ」

 俺は後ろを振り返って3人を見ると、雪奈と冬李の2人は首を振っていた。

「私が落ち着いているのは零先輩や京先輩が落ち着いているからです」

「俺も2人が居なかったらここまで落ち着いていません」

「だそうだ」

 2人の言葉をうけて朔真がそんな言葉を投げ掛けてきたので苦笑を返してやる。すると、葵が疑問を投げ掛けてきた。

「どうしてそんなに落ち着いていられるのですか?」

「内心では戸惑ったり混乱したりしているさ。でも、だからといって騒いだところで何も変わらないから自分自身を落ち着かせているだけだよ。それに」

 俺はみんなを見てニヤリと笑った。

「漫画ではこんな展開ベタだからな」

 俺の1言に京以外の4人は一瞬ポカンとしが、すぐに笑いだした。

「それじゃあ、このあとのベタな展開はなんなんだよ」

「そうだな。モンスターに襲われている人を助ける、だろうな」

 とはいっても、回りに人やモンスターはいるかどうかわからないが、それらの気配はしないので、その展開はないだろう。

「あわよくば、さっきの銃声で誰か人がくるのを期待したんだがな」

 それもないだろう。

「しかし、そうなるとこの中じゃ俺が主人公だよな」

 朔真は胸をはって言い切った。

『違います』

 間髪入れずに雪奈と冬李から否定され、朔真はガックリとうなだれた。そんな朔真を見ながら俺は釘を刺すことにした。

「漫画みたいな展開とはいえ、俺達は主人公でもなんでもない一般人であり、俺達に都合の良いことばかりおきるわけじゃない。もし、戦闘になった場合は死ぬこともある。だから、これから先の判断は自分で責任をもって決めろ。誰かがそうするから自分もなんて曖昧な考えで判断することだけは絶対するな。わかったな」

『はい!』

 3人の力強い返事には安心するのだが、

「おう。任しとけ」

 なんて言っている朔真の返事には不安しかないので、さらに釘を刺す。

「ホントにわかってるのか?朔真」

「大丈夫だって。お前達には迷惑かけねーからよ」

 つまりは厄介事に首を突っ込む気は満々というわけかい。

 ハァとため息を吐いていると森を抜けた。そこは冬李の言う通り草原に出てきた。

 草原に出て左右を見ると、右の遠くに何か見えた。

「冬李。あれ何かわかるか?」

 すると、冬李その何かを凝視した。

「あれは……壁と城?」

 冬李の言葉に雪奈が首を傾げながら、

「壁と」

 と言うと、葵も首を傾げ、

「城?」

 と言った。そんな2人の隣で朔真が目を輝かせていた。

「城だと!早速行くぞ!」

 走り出した朔真の襟を咄嗟に掴むと、「グオッ!」と喉をつまらせてむせ始めた。

「おまっ!ゴホゴホ!」

 むせながらも睨み付けてくる朔真。

「勝手に1人先走るな」

「だからって、止め方があるだろが!」

 俺を睨んでくる朔真。

 相手が朔真でなければそのもっともな言い分に頷いていたのだが、朔真相手なので容赦なく言ってやる。

「だったら、次は声かけて止めてやるよ。ただし、止まらなかったらその次からどうなってもしらないからな」

「すいませんでした」

 頭を下げてくる朔真の横を通りすぎ、俺は歩き出した。雪奈達も後に続いた。

「おい!待てよ!」

 残された朔真は慌てて追ってきた。



 陽も沈みゆくなか、何もない草原をただひたすら歩き続けていると、冬李が言っていた通り高い壁とその向こうに城らしき建物がハッキリと見えてきた。

「うぉ~。まだか~」

「もう少しだから頑張れ」

 歩き疲れからか愚痴を言い出す朔真を励ましながら壁を見た。

 高さは10m程。横の長さは果てしなく長く、形は円形。多分中には城だけではなく街も入っていて、この壁は街を護る外壁なのだろう。だから、外壁の上には周りを見渡すための見張り場があるのが見てとれた。

「うぉ~」

 朔真は肩を組んで体重をかけてきた。

「重い」

「こんなに歩いて疲れてないって、お前は化け物か?」

 化け物とは酷い言い様だが、俺達の中で1番体力がある朔真が疲れているのに自分がそれほど疲れていないのには驚いている。

 後ろを振り返ると、京は淡々と歩いているが疲れが出ているのが見てとれるし、1番体力がない葵が疲れていて雪奈に肩を借りていた。

 肩を貸している雪奈と最後尾を歩く冬李は俺同様あまり疲れた様子はない。

 俺は腰の銃をブレザー越しに触った。

 それもこれもこの武器のお陰か?

 なんて考えていると、壁の近くまでやって来た。

「うぉ~。たけ~」

 近くで見ると、より高く見える壁。しかし、見たかぎりでは、今居る場所の近くに門は無い。

「門がないからもう少し壁沿いを歩くぞ」

「うへぇ。まだ歩くのか?」

「ここで野宿したいならもう歩かないが?」

「さぁ。もう少し頑張って歩くぞ!」

 先頭をきって歩き出した朔真の向こう側から10頭の騎馬の1団がこちらに向かってやって来た。

 それを見て立ち止まった朔真の隣に俺は並んだ。

 騎馬の1団は俺達の前で止まると、先頭にいた男女のうちの女性のほうが喋りかけてきた。

「☆□◇▽○△※▽□」

『えっ?』

 聞いたことのない言語に俺達は首を傾げることしか出来なかった。

 女性はさらに言葉を投げ掛けてくるのだが、訳がわからない。

「何を言っているかわからない」

 そう言い返してやると、女性は首を傾げながらもさらに言葉を投げ掛けようとしたが隣の男性がそれを止め、俺に向けてペンダントを放り投げてきた。

 そのペンダントがなんなのか、なんとなく予想がついた俺は躊躇わずにペンダントを受け取った。

「これでこちらの言葉が通じるようになったかね?」

 さっきまでわからなかった言葉が理解できた。

 やはり翻訳機の類いか。などと思いつつ、俺は返事をした。

「はい。理解できます」

「そうか。やはり、異世界からやって来た来訪者か」

 男性の言葉に気になる点があったが、それより今は、

「零先輩が急に変な言葉を喋り出した」「何か話してるみたいですね」「おい!零!説明しろ!」

 京が袖を掴んでくるし、後ろがうるさいのでそれをなんとかするのが先か。

「後ろの仲間に説明したいので少し待ってもらってもいいですか?」

「あぁかまわんぞ」

 男性の了承もえたので俺は振り返り、そしてペンダントを上へ放り投げた。

「おい!零!」

「わかったからそう叫ぶな」

「日本語に戻った」

 冬李の言葉に首を振る。

「戻ったわけじゃない」

「それはどういうことですか?」

 葵の質問に答える前に落ちてきたペンダントをキャッチして再度投げあげる。

「俺はさっきもずっと日本語を喋っていた。それをあのペンダントが自動でこちらの世界のことばに翻訳していただけだ」

 ペンダントを指差すと、5人はペンダントを見上げた。

「つまり、自動翻訳機というわけですか?」

「そういうことだ」

 またキャッチからの放り投げる。

「だから、このペンダントを俺の手のひらに置くから人差し指で触れてみてくれ。多分それで全員に効果があらわれるとおもうから」

 5人が頷くのを見て、ペンダントをキャッチした俺は手を開いて5人の前へ。5人は人差し指でペンダントに触れた。

「言葉わかるか?」

「おう」

『はい』

 最後に京が頷いたので、俺は半身で振り返って顔を男性に向けた。

「お待たせしました」

「なるほど。そうすれば1つの魔石でも複数人に使用出来るのか」

 俺達を見て男性は感心したように頷いた。

「あの、話を聞かせていただいてもいいですか?」

「あぁ、すまない。とりあえず、もうすぐ陽も暮れるから城へ移動しようか」

 男性の言葉で馬車が俺達の横へやって来た。

「よっしゃ」

 朔真が1番に乗り込んだので俺は隣に乗り込んで座った。すると、京も隣に座り込んできた。

 さらに1年トリオが乗り込んできて向かいに座った。

 そうして馬車が動きだしたので、俺は座席にペンダントを置いた。それを見て雪奈が話しかけてきた。

「零先輩。簡単に信用して乗り込みましたけど、大丈夫なんですか?」

 その問いに俺は一瞬ポカンとした。

「そんなに心配ならなんで乗ったんだ?」

「零先輩が乗ったから」

 その答えにため息を吐いた。

「俺は言ったぞ。自分で決めろって」

『っ!!』

 雪奈と冬李はばつの悪そうな顔をし、葵はうつ向いた。

 そんな3人の様子に俺はまたため息を吐いた。

「朔真。お前はなんで馬車に乗ったんだ?」

「城に行けるんだぞ!乗るに決まってるだろうが!」

 目を輝かせて言ってくる朔真。

 絶対深いことは何も考えてないな。

 そんな朔真に普段ならため息を吐いているのだが、この状況では自分で考えて乗り込んだぶん、3人より幾分かマシだ。

「じゃあ、零先輩はなんで乗り込んだんですか?」

 冬李の問いに雪奈と葵も俺を見てきた。

 3人は多分勘違いをしてそうなので、勘違いを正す意味も込めて釘を刺しておく。

「先に言っとくぞ。自分で決めろとは言ったが、それは1人で決めろってわけじゃないからな」

『えっ?』

 3人の戸惑う表情にやっぱりと思った。

「どういうことですか?」

「悩むことがあれば他人に意見を聞けばいい。その意見を聞いたうえで自分が納得出来て責任をもてる意見を決めればいい」

 だから俺は『1人』で決めろとは言わず、『自分』で決めろと言ったのだ。

 その意味を3人が理解したところで、俺は自分の考えを言った。

「俺がこの馬車に乗った1番の理由は情報が欲しいからだ」

『情報?』

「あぁ。ここがどこなのか?この武器やその動物達はなんなのか?なにもわからない状況じゃこれから先のことも決めれない。だからその情報を得るためにこの馬車に乗った」

 俺の言葉に3人はそれぞれの武器や動物を触った。

 俺も腰に手をあてながらさらに言葉を続けた。

「それに彼らのさっきの対応から悪い人ではないように思えたし、このペンダントが無ければ会話が出来ないのだから彼らの誘いを断るわけにはいかない。というのが俺の考えだ」

 3人が感心するように頷いていた。

「感心するのはいいが、ここから先は人の意見を聞くだけじゃなくて自分達で色々見て考えろよ」

『はい』

 3人がいい返事をすると同時に馬車は門をくぐって壁の内側へと入った。

 門の中はやっぱり街があった。

「スゲー」

 朔真が声をあげたのにつられて3人も外を見た。

 俺も外を見ると、外はゲームや漫画なんかで見るような街並みが広がっていて確かに凄かった。

 街並みの凄さに驚きつつ、俺は人込みの賑やかさや人々の表情を観察した。

 そうしているうちに馬車は城門をくぐり抜けて城の中へ入り、城の入り口前で止まった。

 すると、朔真が1番に馬車から飛び下りた。

「スゲー!でけー城だー!」

 ペンダントを京に渡した俺も馬車を下りて城を見上げた。

 確かに驚くぐらい大きいし、叫びたくなるのはわかる。だが、俺は朔真をはたいた。

「うるせーよ」

「なにするんだよ!」

 当然やってくる朔真の抗議を気にせずさらにはたく。

「いちいち叫ぶな。ペンダント持ってない時の俺達の言葉はこちらの世界の人間には通じないんだから驚いてるだろうが」

 俺の言葉に朔真は周りを見渡し、驚いているみんなの顔を見た。

「すまん。俺が悪かった」

「わかればいい。ただし、ペンダントを持って言葉が解るようになったからって大声を出して騒ぐんじゃねーぞ」

「はい」

 流石に素直に頷いた朔真。

「京」

 京の名前を呼ぶと京はペンダントを渡してくるだけではなく、そのまま俺と手を握った。

 それを指摘することなく俺は男性を見た。

「すいません。俺達の世界ではこんな立派な城なんてないもんで、驚いて声をあげてしまっただけですから」

「そうなのか」

 戸惑った様子で頷く男性を見て、俺は苦笑した。

「えぇ。違う形をした小さな城なら見慣れているんですが、ここまで大きく立派な城は見たことないですね」

 俺はもう1度城を見上げた。

「ほう。違う形の城とな。それはどんな形なんだ?」

 そこに食いついてくるとは思わなかったので答えに戸惑っていると、横にひかえていた女性が、

「隊長。中に入りませんか?」

「おぉ。それもそうだな」

 すると、男性は城の扉を開けて俺達を中に招いた。

 なので、俺を先頭に城の中に入ると、天井にはシャンデリア、床には赤絨毯、さらに天井や壁には豪華な装飾がほどこされていた。ところまでは予想出来たので驚きはしなかった。

 しかし、赤絨毯の両サイドに執事とメイドが並んで道を作るという出迎えは予想出来ずに驚いていると、

『おぉ~』

 後ろの朔真と雪奈が驚きの声をあげた。

 すると、2人の執事とメイドが俺達の前にやって来た。

「どうぞ。こちらを」

 執事の言葉と共にメイドが俺達の前にお盆を差し出した。そのお盆の上には翻訳機代わりのペンダントが5本乗っていた。

 言葉がわからない朔真達でも、お盆のペンダントを見て理解したのか俺が何かを言うより先にペンダントを手に取った。

「私の言葉が解りますか?」

 執事の言葉に俺達が頷くと、執事は言葉を続けた。

「ようこそ、異世界からの来訪者の方々。私はこの城の執事長のイラヤです」

「メイド長のルーサです」

 2人は1礼した。そんな2人に俺達も1礼を返していると、

「異世界の来訪者達がやって来たのか!」

 その言葉とともにエントランス奥の階段の上に男性が走ってあらわれた。

 その姿はどこからどう見ても王様だった。

「ナハル様。応接間でお待ちくださいと申したはずですが?」

「固いことを言うな。イラヤ。それに来訪者を出迎えるのは王として当たり前のことだろ」

 王様の言葉にイラヤさんは呆れていた。

 そんなイラヤさんをよそに王様は俺達の前まで走ってやって来た。すると、王様はまず俺達の後ろにいた男性と女性に目を向けた。

「ヨーラス、ミシュア、来訪者達の出迎えご苦労」

 王様の言葉に2人は頭を下げた。それを見て王様は視線を俺達に向けた。

「さて、ここで話すのもなんだし、食事の準備も出来ているし応接間へ行こうか」

「もともとその予定だったのですから応接間で待っていてください」

 ルーサさんの厳しい1言も笑ってスルーする王様を見て、ため息を吐いたイラヤさんとルーサさん。

 すると、2人は気持ちを切り替えたのか、俺達を見てきた。

「それでは応接間に案内させていただきます」

 イラヤさんとルーサさんを先頭に、王様、俺達、最後尾にヨーラスさんとミシュアさんという順番で応接間へ向かった。

 しかし、さすが王様が住む城とあって、エントランスから応接間まで10分ほどかかってようやく到着した。

 応接間に着くとイラヤさんとミシュアさんが扉を開き、王様が中に入ったので続いて中に入ると、豪華な応接間の中には1人の女性と2人の少女に1人の少年が座って待っていた。

 状況から考えて、王様の妻と子供、つまり王妃と王女に王子だろう。

 なんて考えている間に王様は女性の隣に座り、

「入り口で立っていないで座るといいよ」

 と、勧めてくれたので、俺達は向かいの席に座った。

「さて、先に自己紹介をしないといけないね。私はこのイブサリガル王国の国王のナハルだ。で、妻のリファーリアだ」

「気軽にリファと呼んでください」

 女性、リファさんいやさすがに王族相手にさんは駄目だよな。

 ってわけで、リファ様はそう言って俺達へ微笑みかけた。

「次に子供達だがリファの隣に座っているのが長女のマーラサフィ」

 ナハル様の紹介にマーラサフィ様はニコリと微笑んだ。

「その隣が長男のガルラバル」

 ガルラバル様は軽く1礼した。

「そして次女のセアラだ」

 セアラ様は笑顔で手を振ってきた。

 ナハル様は入り口で控えているイラヤさんとルーサさんを見た。

「私達はすでに挨拶をすませていますので」

 イラヤさんが先にそう言うと、ナハル様は頷いてから背後に控えている2人を見た。

「最後に、君達を迎えにいったヨーラスとミシュア。2人はこの王都の警備をしてくれている部隊の隊長と副長だよ」

 ヨーラスさんとミシュアさんは1礼してきた。

「さて、次は君達の番だね」

 ナハル様の言葉にみんなの視線が俺達に向いた。なので、俺は1番に自己紹介を始めた。

上戸(うえと) 零です。よろしくお願いします」

 俺が1礼すると、京が続いて1礼した。

瀧川(たきがわ) 京です。よろしくお願いします」

 京に続いて今度は朔真が手をあげた。

岩原(いわはら) 朔真です!」

「うるさい」

 朔真の脇を突いてやると、「グオッ!」とオーバーリアクションで脇腹をおさえながら机に倒れこんだ。

「零。テメー」

 恨みがましそうに朔真が俺を睨んできた。

「はいはい。雪奈。自己紹介」

 朔真を無視して雪奈に話を振った。

藤木(ふじき) 雪奈です。よろしくお願いします」

「って、おい!」

長前(ながさき) 冬李です。よろしくお願いします」

「無視するな!」

桜月(おうげつ) 葵です。よろしくお願いします」

「だーかーらー!」

「うるさい」

 騒いでいる朔真にもう1発突きを打ち込んでやる。

「グッ!なぜ殴る!」

「お前がうるさいからだよ。自己紹介なんだからそこまでうるさくする必要ないんだろ」

「だからって殴る必要もないだろ」

 朔真にしてはまともな反論だが、封殺してやることにした。

「俺は、言葉が解るようになったからって大声出すなって言ったぞ」

「ウッ」

 朔真が言葉を詰まらせたので、さらに追い打ちをかけようか考えたが止めておいた。俺がしなくても、

「ホントですよ。自己紹介を大声でする必要ないですね」

「ただうるさいだけです」

 雪奈と冬李の追い打ちに朔真は机に倒れ伏した。

「アハハ。面白いな。君達」

「ほんとですね」

 ナハル様とリファ様の言葉に1年トリオは恥ずかしそうにうつ向いたが、朔真は胸をはっていた。

「面白いことにかんしては自信がありますから」

「そんな自信いらねーよ」

 朔真の頭を叩いてやると、ナハル様達は声をあげて笑いだした。そして、朔真も笑っていると、ノックとともに扉が開いて執事やメイドさん達によって料理が運び込まれてきた。

「スゲー」

 朔真はそんな感想を言いながら早速料理に手を伸ばしたので再度頭を叩いてやった。

「イテーな」

「勝手に食べようとするな」

「ブー」

 恨めしそうに見てくる朔真をよそに俺はナハル様を見た。

「この国では食事の前に行う挨拶とか儀式とかはありますか?」

「いや。とくにないよ。だから自由に食べてもらってかまわないよ。これは君達のために用意した料理だしね」

 そういうことなら。

「ありがたくいただきます」

 俺がそう言うと、朔真が早速料理を食べ始めた。

「朔真」

「ふぁりふぁほぉうほぉふぁいふぁふ」

 口に料理をつめながら言う朔真に呆れながら頭を振ると、銃を抜いて朔真の頭に突きつけた。

「朔真」

 すると、朔真はすぐに口の中の食べ物を飲み込むと、ナハル様達に頭を下げた。

「有難うございます」

 朔真がお礼を言ったのを見てから俺や京も食事に手をつけた。

 しかし、1年トリオが全く食べようとしなかった。

「何してるんだ?食べないのか?だったら………」

 朔真が1年トリオの料理に手を伸ばそうとしたので、頭を叩く。

「イタッ」

「3人共。料理が冷めないうちに食べろよ」

『はい』

 どこか上の空で返事をして食事を食べ始めた1年トリオ。

 頭を掻いていた朔真も食事に戻り、俺も食事を続けた。

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