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Bandits Complex  作者: 柚木原
3/3

3話

 三階に下りた。驚いた事に死にかけていたあれだけの傷が既に完治している。今は穏やかな寝息を立てて眠っていた。


 呼吸に合わせて白い小ぶりな胸が上下している。腕も、盗掘者としてはあり得ないほど細かった。


 バックパックからOD色のレインコートを取り出し、眠り続けている少女に掛けてやった。


 肌も髪も真っ白だ。再生した部分の肌は病的なまでに青白かった。


 とりあえずカレヴァは煙草に火をつけ、これからどうするかを考えることにした。


 仮にこの少女が盗掘者(バンディット)なら海上キャンプまで連れて行ってしまえばそれで話は終わりだ。だがどう控えめにみても彼女は盗掘者ではない。明らかに都市の調査隊に関係する人間だ。

 事実上黙認されている状態とはいえ、法律的には盗掘者は犯罪者だ。というより地上で存在権を保証されているのは政府直属の調査隊員だけだから、それ以外の人間ーーつまり盗掘者ーーは、地上には存在していない事になる。何をされても、それこそ口封じに殺されたところで誰も何も文句は言えないのだ。


 この少女がカレヴァと同じ第二世代か量産型の第四世代ならば送り届けたところで何も問題はないのだろうが、公式には研究さえ始まっていない第五世代であるらしい。大規模な盗掘者グループの一員ならまだしも、一匹狼のカレヴァ一人殺したところで誰も文句は言わないだろう。


 基本的に盗掘者と調査隊は敵対的ではないが決して友好的な関係でもない、言ってみれば互いに共生しているようなものなのだ。

 盗掘者達は調査隊に付随してくる商人達から物資を買い、調査隊では行けない遠方からの発掘品を持ち込む。


 調査隊は盗掘者達から地図などの情報や、測量の際の護衛などを依頼したりする。調査隊は高度な専門知識を持っていて、それになによりも「市民権」を持つ、正式に存在する人間だ。調査隊から死者が出ればそれは確実に記録されるし、歳末の議会で死者数は発表される。死者数が多ければ議会の支持率が下がってしまうため、例え死んでも記録には絶対に残らない盗掘者を利用しているのだ。

 そういった理由もあることはあるのだが、大して実戦経験のない者に護衛を任せるよりも対異形(アンチ・フリークス)戦の専門家である盗掘者に任せてしまった方がいいという理由の方が現場の人間には重要だろう。

 何よりも対異形戦で有効な発掘された実弾銃のほとんどが盗掘者に独占されているため、有効な対処方法がない、ということもある。



 なんにせよ、自分が面倒な、本当に面倒な案件に関わってしまったことに、カレヴァは深くため息をついた。


 とにかく、この少女を馬鹿正直にキャンプに連れて行くことはできない。隠して連れて行こうにもこの白い髪はひどく目立つ。


 見捨てる、という選択肢もあるにはあるのだが、もしも見捨てた事が露見すればただでは済まないだろう。少なくとも調査隊から追われることになるだろうし、調査隊から匿ってくれるような知り合いもいない。


 カレヴァは思い切り煙を吸い込み、吐いた。口の中に紛れ込んだ葉っぱを吐き出し、吸い殻をポーチに仕舞う。続けざまにもう一本吸いたいところだが、今度はいつ手に入るか分からないので自重する。先ほどの吸い殻も、中に残ったまだ燃えていない煙草葉を再利用するつもりでいた。


 煙草葉は地上で調査隊に見つからぬよう、ごく少数しか生産されていない。酸素に限りのある海中都市では毒ガスを発生させる劇物として当然の如く禁止されていた。もっとも喫煙する権利を買えば喫煙することは出来るのだが。が、その権利は購入者数に限りがある上、とんでもない大金を要求されるから一部の富豪しか喫煙することができないのが現状だ。

 こうして規約に縛られることもなく煙草を吸えるのは腕のいい盗掘者の特権とも言えた。ちなみにカレヴァの持つ煙草は固有名持ち(ユニーク)討伐の賞品として受け取ったものだった。つまり、煙草の匂いを漂わせている盗掘者は腕のいい盗掘者、ということだ。


 悩んでいても仕方が無い。とにかく、この少女をどこか安全な場所にやらなければならない。差し当たりはカレヴァのセーフハウスに連れて行くことにした。完璧な隠れ家とは言い難いが、それでもここでまごついているよりかはだいぶマシだ。


 少女はまだ目を覚まさなかった。最後にまた六階に上がる。


 海中では絶対に見られない、澄み切った青が広がっていた。白い雲があちこちに浮かんでいる。


 その雲を縫うようにして、大きな影が悠然と飛び回っていた。この位置からでははっきり見ることは出来ないが、カレヴァにはその異形がどのような姿をしているのか、はっきり分かった。


 体長は四メートルを軽く超え、羽毛がびっしりと生えた蝙蝠のような姿をしている。だが顔は爬虫類のような形をしていて、どことなく人間の顔のようにも見える、どんな異形よりもずっとおぞましい異形だった。


 カレヴァはあの異形を、七年前に間近で見ていた。以来、あの異形をほとんど専門的に狩っている。



 ここからでは四キロは離れたところを飛んでいる異形に対して攻撃手段を持たないカレヴァは、今日三度目のため息をついた。

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