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Bandits Complex  作者: 柚木原
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2話

 異形の上半身が跳ね上がる。身体を横転させて拘束から抜け出すと、その勢いを利用して立ち上がった。悶え苦しむ異形に止めを刺すべく、振動カーボンブレードを振り下ろした。


 音もなく異形の首が切り離される。

 死体はまだびくびくと痙攣してはいるが、もう脅威はない。そう判断してカレヴァは哀れな盗掘者の元へ向かった。



 左腕はすでになかった。それだけでなく、右頬と右の乳房が食い千切られている。喉も引き裂かれているせいでゴボゴボと空気の漏れる音が一定の感覚で繰り返されていた。


 こんな状態でも人は生きていられるものなのか。カレヴァがよく観察すれば、傷口がじわじわと回復する気味の悪い様子に気付いたはずだ。


 ともあれ、こんな状態で生き続けている人間がまともな人間であるはずがない。

 カレヴァが盗掘者の首筋を確認してみれば、案の定六桁のカレヴァのように遺伝子操作された人類には必ず刻まれている製造番号があった。


 ○二○二○五


 どうやらこの盗掘者は第五世代にあたる人類らしい。公式には第四世代までしか実用化していないことになっているのだが、つまりこの盗掘者はなにやらきな臭い状況にあると考えられた。


 遺伝子操作された人間について説明しておく。


 まず第一世代と呼ばれる個体は製造コストが高く、たったの六体しか製造されなかった。この世代の特徴は思考演算能力に特化していること。開発のきっかけが、生体コンピュータの開発だったことを考えれば当然のことだった。

 この世代は優れた頭脳を持つ代わりに酷く脆弱な肉体を持っていた。

 以降の遺伝子操作に関する研究は全てこの第一世代が担当している。


 第二世代は『本当の地上』における活動を目的に第一世代の個体がデザインした個体群だ。

 肉体的な強化と第一世代には劣るものの優秀な頭脳、それに一番の特徴はテレパス能力を組み込んだことだ。

 肉体・頭脳の強化はそれなりの成功を納めたと言えるが、カレヴァを見ればわかるようにテレパス能力については完全な失敗だと言われている。なにせ劣化アクティブレーダー程度の性能しかなかったのだから。それでも二百を超える個体が製造されたのには原因がある。

 先行量産された十体の時点でテレパス能力に関する欠点は露呈していたのだが、その時点で既に残りの二百体の製造ラインが稼働していた為だ。それにたとえテレパス能力が劣悪だといってもその他の面では遺伝子操作されていない人類に比べればかなり優秀なのだから問題はないと政府に判断されたのも原因の一つだ。

 精神面では通常の人類となんら変わりない構造となっている。



 次に第三世代だ。

 第一、第二世代で遺伝子操作のノウハウが確立されたことで第三世代の開発は非常に挑戦的になった。

 基本は第二世代と同じく肉体・思考能力の強化だが、テレパス能力に関するものを全て削除、その分肉体・思考能力が大幅に強化されている。第三世代の開発期間中に固有名持ちが確認されたのもその理由の一つだ。

 だがこの世代はたったの二十体しか生産されなかった。精神面が非常に脆弱で、先行量産の二十体の時点で大規模な反乱が起きたのだ。

 この騒動で鎮圧部隊の五百名が全滅、都市運営の中枢となっていた第一世代の三名が殺害されてしまった。ここまで被害が大きくなった理由の一つは過剰なほどのスペック強化だとされている。

 第三世代のうちほとんどは戦闘によって討伐されていたのだが、手負いの二体が地上に行方を眩ませたと言われている。

 また、この騒動の鎮圧にあたり第二世代の軍人が重要な役割を果たしたことから、それまで欠陥品扱いされていた第二世代の評価が大幅に上がったそうだ。

 ちなみに、鎮圧に当たった第二世代の個体達は第三世代反乱の事を「個性の爆発」と呼んだりしている。



 第四世代の個体は、第三世代での失敗を踏まえ、精神の徹底的な抑制、スペックの均一化を目標とされた。

 第一世代から第三世代までは志願者から摘出された受精卵を使用していたのだが、第四世代は完全に人工受精卵から生産されているのが特徴だ。

 同一の人工受精卵から生産された為、外見、能力ともにほとんど違いのないのが大きな特徴である。

 第四世代は現在までに五百体を超える数が生産され、その全てが軍に所属している。その中から地上探索用に調査隊が編成されているのだ。また、人工受精卵を使っていることを除けば第二世代個体の廉価版とも言えるスペックとなっている。また第四世代の中でもいくつかのバージョンがあり、製造番号と姓名に現れているのも特徴の一つだ。



 とにかく生きているのなら応急処置をしなければならない。

 カレヴァは腰に巻いたポーチから急速再生剤と包帯を取り出した。急速再生剤を手早く傷口に振りかけ、包帯を巻く。

 カレヴァは第五世代について当然なにも知らなかったが、なにもしていない状態で、あり得ない速度で傷口が再生していくのを見て再生能力が付加されていると考えていた。カレヴァが応急処置の準備をしている間に右頬の傷が完治したほどだ。


 応急処置を終えたカレヴァは一階に置いた荷物を取りに行くことにした。重傷者を担いで降りるには階段の足場が悪すぎたからだ。


 三階の別の部屋に救助した負傷者を移し、改めてトラップを仕掛け直す。


 厄介事を片付けたカレヴァはこの集合住宅に立ち寄った本来の目的を果たすことにした。


 露天状態になっている六階に上がり、双眼鏡を覗き込んだ。ここで一旦周囲を偵察するのが恒例行事となっていた。


 環七を道なりに進むと線路に突き当たる。本来は線路を越える為に環七は陸橋になっているのだが、それは既に崩壊しているのだ。足場が悪く見通しが悪い上に異形が多く出現するため、ここからあらかじめ狙撃で排除しておくのだ。狙撃銃は長く扱いづらい上カレヴァの愛用している自動小銃とは弾種が違うので携行していないのだが、自動小銃でも十分に射程距離内なのであまり問題にはなっていない。普段は取り外しているが、あの自動小銃に取り付けられるスコープはいつも持っている。


 自動小銃にスコープを取り付け、狙撃を開始する。

 スコープと双眼鏡は倍率が違うので盗掘者になったばかりの頃は距離感を把握するのに時間が掛かったが、今ではそんな事もなくなっていた。


 線路を越えた辺りから先は人型の異形が多くなる。調査隊も盗掘者もほとんどあの辺りに近寄らないのでその正体は全く不明なままだった。


 カレヴァは三体ほど異形を排除して、負傷者の身柄を抱えていることを思い出した。今排除してもすぐに動けないのでは意味がない。


 舌打ちをして自動小銃を肩に掛ける。決して安くはない弾を無駄にした事にひどくイラついていた。



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