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第八話 初めての出撃

 サブディスプレイを操作してミッションモードの一番最初のステージを選択し、新城にOKボタンを押させる。すると画面が切り替わり、眼下に高層ビルが建ち並ぶ都市ステージが広がった。左を見ると二つの巨大な回転翼のついた大型ヘリに人型の――新城の〈名無し〉機体が吊り下げられている。新城から見れば同じように俺の機体〈武御雷〉が吊り下げられているのが見えていることだろう。いま俺たちは機体に乗ったまま輸送ヘリで都市中心部へと向かっているのだ。


《攻撃目標、テロリストノ全Doll撃破。拘束ヲ解除シマス》


 AIの無機質な音声と共に、「ガチャン」と音が鳴り、拘束が外れ機体が落下していく。ブーストを吹かして重力を殺し、アスファルトの道路へと着地する。隣では新城の機体も着地したところだった。


《戦闘行動ニ移行シマス》


 それが合図となり周囲の情報が入ってくる。

『わわわっ、は、始まっちゃったよ神内くん。どうしたらいいのかちゃんと教えてよね!』

「落ち着けって新城。このステージの敵は攻撃力が高くないから、まずは機体操作と攻撃の練習だと思ってくれ」

『わ、分かってるよ!』

「おっし。んじゃもうすぐ武装ヘリがやってくるから、新城はヘリを落としてくれ。俺は近接武装しかないから地上の敵を引き受ける」


 武御雷は左右の腕パーツに装備したエネルギーブレードしか攻撃手段を持っていないのだ。上空から攻撃してくる武装ヘリを撃破しようとすると、ブーストジャンプして直接斬りつけるしか方法はない。もっともこのステージの目標は敵Dollのみなので、武装ヘリはシカトしちゃってもクリア出来るんだけどね。

 ローター音を響かせながら武装ヘリ三機がこちらに向かって来るのがモニターに映る。


「新城、モニター横のレーダーを見てみてくれ。ヘリが向かってきてるのが分かるか?」

 武御雷には広域レーダーを積んでいるのでミッション開始直後から半径二キロ以内の敵機がすべてレーダーに映っていたけど、新城の機体は初期支給機だから、レーダー積んでるくせに索敵範囲は俺より狭い。だけどモニターで視認出来るほど近づいてきいるのならそろそろレーダーにも映るはずだ。


『うん。見えるよ。レーダーにもモニターにも映ってる』

「よっし、モニターの中心に十字線があるだろ? その十字線はライフルの――武器持っている方のレバーで動かして、ヘリが射程距離に入ったらその十字線をヘリに重ねると逆三角形の枠で自動ロックオンされるから、そしたらライフルで攻撃してくれ」

『りょーかい!』


 新城の機体が片膝をついて武装ヘリが向かってきている方向へライフルの銃身を向ける。


『たー!』


 そんな可愛らしい掛け声と共にライフルから弾丸が打ち出され、数瞬後、武装ヘリがローターから火を吹いてくるくると回転しながら落ちていく。俺は口笛を吹き、


「初弾命中とはやるじゃん新城」


 と素直に賞賛する。


『へへーん。当ったり前じゃない』

「続けて残りのヘリもやちゃって下さいな」

『ふふん。りょーかいであります! やっちゃうであります!』


 聞く人が聞けばやたらと物騒に感じるであろうことを言いながら二発目、三発目と続けてライフルを撃つ。残り二機の武装ヘリを五発で撃墜し、新城の機体が立ち上がって狙撃の構えを解く。


「合計六発で三機撃破か。いいんじゃないか?」

『んー、でもなんかちゃんと狙ったとこに当たってない気がするなー。真ん中狙ったつもりなのにへんなとこに当たるし……なんでだろ?』

「ああ、それは新城の機体に『射撃アシスト』が付いてるからだよ。アシストが付いてるとロックオンした敵機には命中率を優先した修正が入るから、新城の思ったとこに当たらないんじゃないかな?」

『えー!? それだと狙う意味ないじゃんかー』

「サブディスプレイ操作して『アシスト解除』すれば弾道に修正は入らないけど……それって上級者向けの設定だから一気に命中率落ちると思うぞ」

『ふっふっふ、弓道部員をなめちゃいけませんよ神内くん。その上級者向けの設定で見事敵をやっつけてご覧にいれましょー! ……で、どうしたらいいのよ?』

「サブモニターに『音声入力』ってボタンあるだろ? それ押して『射撃アシスト解除』って言えば解除されるよ」

『えっと……こうかな? しゃげきあしすとかいじょ!』


 ピッ、という電子音が鳴り、『シャゲキアシストヲカイジョシマス』と新城機のAIが告げる。武御雷と違って新城機のAIがカタコトなのは初期機体のAIがおバカさんだからだ。まあ、支給機体にあまり高スペックを求めても酷ってもんだが。


「おっし、解除されたな。その設定だと自分が狙ったところ……つまり十字線のとこにしか弾は飛んでいかないから敵の動きを予測して撃つんだ」


 撃った時に敵が動いてしまっていたら当然当たらない。だからこその射撃アシスト機能であり、これを解除する場合は敵機の動きを先読みしてその場所に撃ちこまなくてはならない。敵機との距離が離れれば離れるほど難易度が跳ね上がるため射撃アシストを外すプレイヤーはあまりいないのだが、新城にはこの機能が逆に邪魔に感じたようだ。


『わかった!』


 新城がそう答えると同時に新たな敵部隊が近づいてくる。武装ヘリ四機と、手足が短く胴体部が大きいずんぐりとした機体――通称〈ゴブリン〉が三機。ゴブリンは三世代前のDollという設定で、ミッションモードでは良く出てくる雑魚機体の代表格だ。


『わわっ、今度は敵にロボットもいるよ。神内くん、どっち狙ったらいいのよ?』

「敵のロボは俺が引き受ける。新城はヘリを墜としてくれ! 攻撃が当たらなかった時は無理しないで射撃アシスト使えよ。弾数には限りがあるからな」

『りょーかい! じゃーヘリを狙うからね!』

「頼んだ!」


 そう言うと操縦レバーを前に倒し、フットペダルを強く踏み込みブーストを噴かせ武御雷を前傾姿勢のまま加速させる。敵グループは近づいてきた武御雷を第一攻撃目標としたのか、全機一斉に俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。武装ヘリが俺を狙って誘導ミサイルを放つ。

 俺はすかさず武御雷のBWに搭載しているチャフを使用する。このチャフは電波妨害で一時的にミサイルのロック機能を狂わせる防御兵器で、これを使用することによってミサイルをあらぬ方向へバラけさせることができるのだ。妨害を受けたミサイルがてんでバラバラに飛び回り、〈ゴブリン〉のライフルをジグザグ機動でかわしながら前進する。

 先頭のゴブリンをすれ違いざま左手のエネルギーブレードで切りつけ、のけ反らせると同時に無理矢理に武御雷を逆時計回りに反転させ、右手のエネルギーブレードで止めをさす。

 まず一機。


 武御雷の後ろからはライフルからこん棒のようなトゲトゲがついた、どこか世紀末を感じさせる近接武器に持ち替えた〈ゴブリン〉が迫ってくる。そのこん棒が振り下ろされる直前にサイドステップで避け、ライフルを向けている〈ゴブリン〉の射線上に出ないように気をつけながら機体を反転させ、振り向きざまに左右のエネルギーブレードでこん棒を持っていた〈ゴブリン〉を十字に切り裂き、すぐさま爆発に巻き込まれないようにその場から離れる。

 これで二機。


 残った〈ゴブリン〉へ向かって走る。ちらりとジェネレーターの残量を確認。エネルギーブレードを展開し続けているのでじりじりと減っていっているが、あと一機を落とすには十分な量だ。〈ゴブリン〉はライフルを撃ちながらブーストを使って後退していくが、俺はライフルの弾丸を躱しながらもそれを上回るスピードでぐんぐんと近づいていく。この間のイベントで手に入れたブースターは武御雷との相性が良く、運動性能が僅かながら上がっていた。それに武御雷は伊達に装甲を犠牲にしてまで軽量化しているわけではない。武御雷のスピードは全dollの中でもトップクラスだと自負している。


 接近し正面モニターでぐんぐん大きくなっていく〈ゴブリン〉にスピードを殺さぬままとび蹴りを放ち吹っ飛ばし、〈ゴブリン〉が背にしていたビルへと叩きつける。自分の機体より重量のある相手にこんなことをしようものなら脚パーツがひしゃげるが、武御雷より軽い〈ゴブリン〉相手にはご覧のように吹っ飛ばすことが出来るのだ。武御雷の蹴りを喰らいビルに機体の半分ぐらいめり込んだため身動きが取れないでいる〈ゴブリン〉にエネルギーブレードで止めをさす。

 全機撃破。


 上空にはまだ武装ヘリが飛んでいたので、ブーストジャンプで機体を跳躍させると、そこからビルの壁を足場に再びブーストジャンプ。実はこれ「二段ジャンプ」と呼ばれる割と高度なテクニックなのだが、いかんせん始めたばかりの新城には分かってもらえないだろうな。空中に踊り出た武御雷の姿勢を各スラスターを使って制御し、機体正面に武装ヘリを捉える。すぐさま左手のブレードで――、

 ズガンッ!

 ブレードで斬り落とそうとした武装ヘリが目の前で爆発する。


『ごめん神内くん! 大丈夫?』

「し、新城か?」

『う、うん。ヘリ狙ってたら神内くんがぴょーんて跳んできて、で、でもヘリが神内くん狙い始めたからやっつけなきゃーって思って、取り合えず撃っちゃえって……大丈夫だった?』


 まさか新城も俺が壁を蹴って二段ジャンプやってくるとは思っていなかったのだろう。それより重要なのはヘリを撃った時に俺が跳んできたのではなく、視認した上で撃ったということ。つまり……新城は俺と敵の武装ヘリが接近している状況にあっても武装ヘリに命中させる自信があったということだ。いくら移動速度が遅い武装ヘリとはいえ、射撃アシストなしで、しかも味方機と隣接している敵機に命中させるとは……ひょっとしたら新城はもの凄い才能があるんじゃないのか?


「お、おう。俺は大丈夫だ。サンキューな」

『そう。よかったぁ。……でも次からはあたしに任せてよね。ヘリをやっつけろって言ったの神内くんなんだからさ』


 そう口調ではやや怒りながらも、顔にはほっとした表情を浮かべている。このツンデレめ。いや、この場合はデレツンか。

 苦笑で返しつつレーダーに視線を移すと、周囲に敵影はいなくなっていた。どうやらさっきのが最後の武装ヘリだったようだ。


「さてっと、新城、この勢いのままステージボスを撃破するぞ!」

『りょーかいであります!』


 敬礼してくる新城に思わず苦笑してしまう。まったく……こいつはどんだけロボアニメの影響を受けてるんだか。



『うわー……これがボス? なんていうか……地味ね』

「まあ……誰でもそう思うわな」


 いま俺たちはステージボスの前に立っている。目の前にいるボス機体はテロリストたちのリーダーという設定で、乗っているのは一世代前の機体(という設定)だ。

 通常の中量機体より各パーツが一回り小さく、くすんだ銀色の装甲はところどころ錆びている。両手にはマシンガンとライフルをそれぞれ装備し、BWにはミサイルポッドとレーダー。確か脚パーツのハンガーには近接用武器のエネルギーブレードも持っていたような気がする。言ってみれば典型的な近~中距離で戦える汎用機だ。ボスのカメラアイが赤く光り、マシンガンをこちらに向けてくる。


「新城はアイツの射程外から撃ってくれ! 俺は――」


 武御雷の腰を落としてブーストに火を入れ……、


「突っ込む!!」


 武御雷のブーストから炎が噴出し、解き放たれた矢のように一気に加速する。


『あっ、ちょっと神内くん! 待ってよ!』


 新城の声を無視してボスへと急接近する。そんな俺をまず標的としたのか、ボスがマシンガンをこちらに向け弾丸をばら撒いてくる。武御雷を右にスライドダッシュさせ避けると、そのまま大きく弧を描くようにボス機体へと近づいていく。すぐ左側を武御雷を狙って放たれたマシンガンの弾が恐ろしい速度で何度も通り過ぎる。マシンガンの弾一発一発の威力は大したことないが、連射性に優れているため少しでも動きを止めれば連続で弾丸を撃ち込まれ、たちまち大きなダメージを受けてしまうことになる。ブレードの射程距離まであと少し――と思った時、ボスのBWからミサイルポッドからミサイルが連続して射出される。間違いなく標的は俺だろう。

 上空に向かって射出されたミサイルが大きな弧を描いて方向転回すると、こちらに向かって飛んできた。BWに搭載してあるチャフをばら撒き、向かってきていたミサイルの方向を狂わせる。一発は真横を通り過ぎていき、もう一発はくるくると旋回した後どこかへと飛んでいった。そして最後の一発が武御雷の機動線上で爆発した。俺は武御雷バックステップさせ爆発に巻き込まれないようにそれを避けるが、その僅かな時間の内にボスが武御雷を再ロックオンし、今まで外した分を取り戻すかのようにマシンガンの弾丸を浴びせてくる。 


「くっそ、俺の機動に合わせて射線に修正入れやがったな!」


 そう悪態をつくと両腕を交差させ、十時防御でマシンガンの弾丸に耐えながらブースト移動でボス死角へ入りこもうと試みる。ミッションモードの難易度はプレイヤーの総ランクによって変動するので、一番最初のミッションといえど、Dランクプレイヤーである俺がいることによって、難易度は格段に上がっているようだ。その証拠に昔このステージボスと戦った時は弾道に修正を入れて命中率を上げてくるなんて芸当はしてこなかったはずだ。こりゃあ舐めすぎたかな? そう反省し始めた時、ずどんという音と共にボス機の頭部が吹き飛んだ。


『ちょっと大丈夫なの?』


 ウィンドウの越しに新城が心配そうな顔をしながらそう言ってくる。ナイスタイミングでの新城の支援射撃。しかも頭部破壊だなんて二重丸あげでもいい!


「サンキュー新城! 助かったぜ」


 ボス機は頭部パーツが吹き飛んだことによりメインカメラが死に、その拍子に武御雷へのロックオンが外れたのか、マシンガンが見当違いの方向へ向けて撃ち続けられている。武御雷の椀部、特に腕を交差した時に前に出していた左腕のダメージが三割を超えていたが、戦闘行動にはまだ支障はない。

 俺はマシンガンの呪縛から放たれた武御雷を真っすぐボス機に向けて加速し接近させると、未だ弾丸を吐き出し続けるマシンガンを持っている右腕を肘の辺りから一気にエネルギーブレードで切り落とす。本当はコックピットを狙って撃墜することも出来たが、『これ』は俺のゲームではなく新城にDollの楽しさを知ってもらうためのゲームだ。


「新城、敵のマシンガンは潰した。後は中距離のライフルとミサイルだけだから、俺が囮になっている間に撃破してくれ。弾は残ってるな?」

『うん。弾はまだ四十パーセントぐらいあるみたい。りょーかい! 敵が神内くんを狙っている間にやっつけてあげるよ! だからヘマしないでよね』

「こっちのセリフだっての。まっ、早めに頼むぜ」

『お任せあれ! 死なないでよ神内くん』


 そんなアニメちっくなセリフで締めると、新城はボス機の射程距離外からの狙撃を開始する。マシンガンと違い射撃間隔が長めのライフルの弾を俺は鼻歌交じりに躱していき、ならばとばかりに撃ってくるミサイルはチャフや建物の陰に隠れることで防いでいく。すでに頭部のなくなったボス機は新城の狙撃を一発貰う度に更にズタボロになっていき、終にはスクラップへと変わっていった。


 やがて――、


《目標ノ破壊ヲ確認。作戦終了。オ疲レ様デシタ》


 とAIが告げると、正面モニターにスコアが表示され、スコアに応じた各ポイントが加算されていく。このポイントを溜めることによって、新しいパーツと交換することが出来るようになるのだ。

 筐体の後部が開き自動でシートが下がっていく。俺が「よいしょ」と言いながらシートから降りて体を伸ばしていると、新城も筐体から出てきて俺にたたたと小走りで近づいてきた。


「どうだった?」


 満足げな表情で近寄ってきた新城にあえてそう聞いてみるが、その顔を見れば答えなんかすでに出ているようなもんだ。


「すっごい面白かったよ!」


 飛び切りの笑顔と共にそう答えてきた。どうやら新城はDollを非常に気に入ってくれたみたいだ。まあ、ロボ好きの間で評価の高いDollを、同じくロボ好きの新城が気に入らないわけがないとは思っていたけどね。

 新城の反応に満足しながらちらりと腕時計を見るともう六時半を回っていた。ヤバイ、いつの間にかもう六時を回っているじゃん。


「そろそろ帰ろっか?」


 時計を見ながらそう聞くと、新城も腕時計で時間を確認する。


「そうだね。今日もありがとう」


 それではこれで解散! と言おうとしたした時、


「神内くん、明日も空いてるかな?」


 新城から奇襲を受けた。


「え?」


 我ながら間抜けな反応だなあと思いながらも、出てしまったのだから仕方がない。


「迷惑でなかったら明日もお邪魔していい?」


 なんかもじもじしながら上目遣いにそう聞いてくる。


「いや、ぜんっぜん空いてるよ」

「良かった、じゃあ、明日も今日と同じ時間ぐらいにお邪魔させてもらうね」

「オッケー。待ってるよ」


 こうして、この日は新城と別れた。

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