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第七話 Doll

 自転車を二人乗りして新城の二つの果実を背中越しに堪能しながら、ショッピングモールに併設されてるなじみのDoll専門店へと着いた俺は、お店のスタッフに挨拶しつつ新城を連れて真っ直ぐに地下へと向かう。そこにはDollの筐体が十八機並べられていて、壁には巨大モニターでいま行われている対戦が映し出されていた。

 キョロキョロと周囲を興味深そうに見回している新城を手招きして呼び、空いてるDollの筐体(ユーザーはみな『コックピット』と呼ぶ)を見せる。


「すっごーい。これ本物のコックピットみたいじゃない」

「だろ? なんでも本物の戦闘機だか戦車なんだかのシミュレーションマシンがベースになってるらしいからな。どうだ? テンション上がるだろ?」

「うん! すっごい上がる。ね、これ早くやってみたい!」

「はいはい、まずは落ち着けって。最初はこの端末でパイロット登録してIDカードを作るわけだ。やってみな」

「ふんふん」


 そう新城に説明して登録カードを作るのに必要な五百円玉を挿入口にダンクしてから端末を操作させる。新城がサイフを取り出そうとするがそれを手を上げて制す。こないだまた一個俺の作ったプラモがネットオークションで売れて今俺の懐は暖かいのだ。それにきっと新城はまだこないだの出費が響きに響きまくっていることだろう。なーにこれぐらい、さっきの二人乗りで楽しんだ果実の感触分の代金としては安すぎるぐらいだ。新城は申し訳なさそうな顔で「ありがとう」と言うと端末を操作し始めた。


「パイロットネームは……『サオリ・シロガネ』で決まりね。所属国は日本で……登録エリアは……『東京』でいいのかな? あ、住所にメールアドレスも必要なんだ。……登録機体名? ……うーん……」

「機体名だけは後からでも変えれるから飛ばしちゃっても大丈夫だぞ」

「そうなんだ! じゃーここは飛ばしちゃってっと、あれ? 神内くん、なんかいっぱいロボット選べるんだけど、どうしたらいいの?」


 新城が指差した先のモニターにはサイズこそ違いはあるが、人型の上半身というのは共通で、下半身が二脚型、逆関節型、キャタピラのついたタンク型に四脚型と虫みたいな六脚型と、いろんな種類の機体ドールに分かれて並んでいる。


「これは最初に支給される機体を選ぶんだ。この中から一つだけ選んで自分のに出来るんだけど、どんなのがいい?」

「キョウジ・シロガネの! さっきパソコンで見てたやつ!」

「最初の出撃だけは初期機体からしか出来ないんだよ。まー、キョウジ機は後で俺のパーツを使って組むとしてだ、とりあえず今はキョウジと同じように狙撃型の機体でいいか?」

「ぶぅー、仕方ないなー。キョウジと同じっていうその何とか型でいいよ。でもいつかアレにしてよね神内くん。じゃないと怒るからね」

「わかってるって。だからそうむくれるなよ」


 そう言って俺は新城が思い切り膨らませている頬を指でつつきたい衝動を必死に抑えながら、新城に代わって端末を操作してスナイパーライフルを初期装備で持っている『遠距離狙撃型』を選択する。

 選択した機体は中量ニ脚型で、無骨ながら均整のとれたプロポーションに一抱え程もあるスナイパーライフルを両腕で抱え、BWバックウェポンには右に索敵レーダー、左にライフルの予備弾装を備えている、遠距離戦闘を想定した機体構成だ。

 ちなみにカラーリングはまだされていないため、全身が初期カラーの銀色に輝く中、一つ目のカメラアイだけが黄色く光っている。

 登録が終わり、端末から出てきたIDカードを新城に渡しつつ、


「これでよしっと。登録すると十回分の出撃ポイントが付いてくるから……おっ? いまキャンペーン中で二十回分ついてくんだ。ラッキーじゃん。さて新城、さっそくやってみる?」


 と聞いたところ、元気よく「うん!」という返事がかえってきた。

 出撃ポイントとはDollで遊ぶ上で必須のポイントだ。文字通りポイント分だけプレイすることが出来、この出撃ポイントを増やすにはミッションモードや対戦モードで高得点を出すか、現金でチャージするしか方法はない。中級者以上になれば高得点を狙いやすいミッションでポイントを荒稼ぎすることも出切るので、それなりの腕さえ持っていればほぼ無料で遊べるところがこのDollの魅力の一つでもあると言い切るプレイヤーも多い。ちょうどコックピットに空きが出たので、まず新城を座らせIDカードを挿入し、シートベルトをつけさせる。


「ちょっと、なんでゲームにシートベルトあるのよ?」

「ふっふっふ、Dollはすっごい揺れるんだよ。そりゃもう夢の国のアトラクションなんか目じゃないほどにね」


 そうニヤリと笑うと、俺は隣の筐体に乗り込み自分のIDカードを挿入してタッチパネル式の画面を操作し新城――いや、サオリ・シロガネとの協力プレイを選択する。ちなみに俺のプレイヤーネームは――、


「神内くん、なんか、ふ、風牙ふうが? って人から協力プレイの申請きたよ。どうしたらいいのよ?」

「その申請出したの俺だから『OK』ボタンにタッチしてみて」

「分かった。けど……友達として忠告させてもらえば『風牙』って名前はどうかと思うよ」

「うるせー。ほっとけ!」


 赤面しながらやけくそ気味に叫ぶ。三年前の……Dollを始めたばかりの三年前の一番痛いお年頃だった当時、カッコイイと思ってたんだよ。悪いか?


「はいはい。分かりましたよ風牙さん」


 新城はニヤニヤしながらそう答えると、人差し指で表示されている『OK』ボタンをタッチする。


「なんか『チュートリアルを開始しますか?』って出たよ」

「それもOKで。初めてプレイする時は操作説明を受けられんだよね」

「なるほどね。じゃあ押しちゃうよ」


 恐る恐るといった感じで新城の指先が画面のOKボタンに触れた瞬間、低いモーター音を響かせながら、俺と新城のコックピットシートが目の前のドーム型筐体へと吸い込まれていき、球体型の筐体にシートが収まると、後ろの方でガシャンと扉が閉まる音がする。そして間を開けずに球体型モニターに光が灯り、真下以外はすべて見渡せる三百六十度スクリーンに包まれた『コックピット』となった。俺はサブディスプレイを操作して新城と通信回線を繋げる。


「おーい。新城聞こえるかー? ……おーい」

『じ、神内くん……』

「お、通じてたか。返事ないから心配したぞ。で、どした?」

『こ、これ…………これロボットの中じゃん!』


 感極まった声で新城が叫ぶ。


「俺いま新城から見て右隣にいるんだけど分かるか?」

『うん。見えてるよ。その黒いのが神内くんのロボット? ちょっとカッコイイかも……』

「そ、そうか?」


 自分ではなく、俺の機体に向けた言葉であるのは分かっているのに、なぜか照れてしまう。


「そろそろチュートリアル始まると思うから、しっかり操作方法覚えろよ」

「まっかせなさい! あたし暗記は得意なんだから」


 そう元気良く答えが返ってくる。俺はというと、ただ待つのも暇なので久しぶりに俺もチュートリアルを受けることにした。


《チュートリアルを開始します》


 そう無機質なAIの電子音声がコックピットに響き、操作説明が始まる。俺は左右の操作スティックを握り、両足をそれぞれのフットペダルに置く。機体の移動方法から始まり、通常機動に三段階の出力の変更の仕方、クイックブーストとブーストジャンプにブーストダッシュの仕方。ロックオンの仕方に両手と左右のBWに装備された武器の使用方法にそれぞれの武器特性。ついでに右側に備えられているサブディスプレイの操作の仕方。等々。僅か十分じゃ憶えきれねーよってくらい密度の濃い時間が終わり、


《これでチュートリアルを終了します》


 と、再び無機質な電子音声が操作説明の終了をあっさりと告げる。


「新城、分かったか?」


 なにやらコックピットで一人ぶつぶつ呟いている新城に向かってそう問いかける。すると、正面モニタの右下に小さくウィンドウが開き、新城の顔が映し出され、


『ま、まあね』


 と、自信なさげな表情で弱々しく答えが返ってきた。さすがは学校の成績上位者。すでにサブディスプレイの操作方法はバッチリなようだ。


「お、もうサブディスプレイ使えてんじゃん」

『当たり前じゃない。覚えるだけなら簡単よ。でも……ロボットの操作はやってみないと分からないけどね』

「そりゃ当たり前だって。やって慣れるのが一番だよ。じゃ、ミッションモードいくぞ?」

『イエッサー』


 緊張してるのがまる分かりなのに敬礼してくる新城を見て、俺は笑みをこぼしながらミッションスタートのボタンを押すのだった。

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