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第五話 プラモ作り

 でもって待ちに待った土曜日。俺は携帯を前に正座し、新城からの連絡をいまかいまかとばかりに待っていた。女の子が部屋に来るという未曾有の事態に緊張しているのが自分でも分かる。

 気を紛らわすために部屋のテレビをつけてみる。適当に押した番組では、ニュースキャスターが東ヨーロッパのどっかの国で起きたミサイル攻撃がなんちゃらとか小難しいことを言っていて戦争が起きるかもしれないみたいなことを神妙な表情で語り、頭頂部のきらめきが眩しい専門家なる者がそれについて何か熱く喋っていたが、興味がないのでリモコンを操作してテレビを消す。


 ごちゃごちゃ言いやがって……何が戦争だ! こっちもある意味戦争なんだよ! 『女の子と部屋で二人っきり』っていうテレビやマンガでしか見たことのないシチュエーションをこれから体験すんだよ! そう、俺にとってこの戦いは聖戦であり性戦に発展するかも知れないんだよ!

 チラっと壁に掛けてある時計を確認する。十三時七分。もうそろそろかな? いや、でも部活後だからシャワーとか浴びてくるだろうしもうチョイかかるかな? 礼儀として俺もシャワー浴びるべきか? 部屋の掃除OK。工具の準備OK。お菓子とお茶の準備OK。思春期の劣情を満たす物の隠蔽工作OK。念のためとばかりに『ストップエイズ』をかかげている団体が配っていた『大人の風船』も引き出しの奥に用意してある。そう、すべては完璧に整っている。

 あとはこの部屋に新城が来れば――完璧だ。そう考えた時、携帯に着信が入る。


 ピリリリリリリリリッ!


「もしもしっ!」

『うわぁビックリした。もう、声大きいよ神内くん』


 意気込みからか、意識せず声が大きくなってしまった。


「悪い悪い。新城はもう部活終わったの?」

『うん。終わったよ。あと10分ぐらいで駅に着くと思うけど大丈夫かな?』

「大丈夫。んじゃ迎えにいくよ」


 そう電話を切って俺は家の階段をどたどたと慌しく下りていく。駅までの距離は自転車で5分ぐらい。これなら余裕で間に合うと思っていたのだが、どうやら新城は余裕を持って時間を告げていたらしい。その証拠に俺が駅に着いた時、腕時計を見ては周囲をキョロキョロと見回している新城がすでに駅前に立っていた。


「お待たせ」


 そんな新城に片手をあげながら、なるたけ爽やかな笑顔を心がけ話しかける。


「あ、神内くん。早いね、まだ時間前だよ」

「それは新城さんも一緒だろ。待たせちゃった?」

「別に待ってないよ。いまさっき着いたとこだから」


 そう言ってVサイン。


「んじゃあ、家に行って作りますか」


 そう言うと新城は断りもなく俺の自転車の後ろに跨る。


「おい……なに勝手に後ろ乗ってんだよ?」

「なによ。自分だけ自転車に乗って、部活で疲れてる大切な大切なお友達は歩かせる気?」

「そんなんじゃなくてチャリ二人乗りは校則違反どころか交通違反だぞ。お巡りさんに見つかったらどうすんだよ?」

「捕まっちゃう前に逃げればいいのよ!」

「どんな理論だよ!」


 そんなツッコミを入れつつ、俺は後ろに暴君を乗っけてキコキコと漕ぎ家へと向かう。俺の腰に手を回し、背中越しに伝わってくる感触にドキマギしていたのは秘密だ。あと無駄に急ブレーキをかけてその度にたゆんと背中に当たるおっぱいの感触を楽しんだことは絶対に秘密だ。絶対にだ!


「おっじゃまっしまーす!」


 元気よくそう言い新城が部屋へと入ってくる。


「て、適当に座ってよ」

「うわー、男の子の部屋に入るのって初めて」


 とか言いながら俺の部屋へと入ってきた新城はキョロキョロと室内を見回す。ん? 「男の部屋に入るのは初めて」だと? 新城はクラスでは当たり前のように男子生徒と親しげに話してるから、てっきりいく人もの野郎の部屋に遊びに行ってるもんだとばかりに思っていたのだが……。俺のそんな疑問などお構いなしな新城は興味を引く物でも見つけたのか、プラモを飾ってある棚へ寄っていく。


「これって『トリプルゼロ』だよね! すっごい! かっこいい!!」

「へー、こりゃ驚いた。インパルス以外のロボット作品も知ってんだね」

「まあね。神内くんだから話せるけど、インパルスがきっかけで他のロボット物も見るようになってさ、こう見えて結構詳しい自信あるよ!」


 そう言って俺に得意げにVサインしてくる。


「あっ、このシロガネ専用機かっこいい! これあたしのと一緒?」


 飾ってあるシロガネ専用機を指差しながら聞いてくる。子どものころに誕生日プレゼントで両親からもらったやつであり、新城が俺から落札したのと同じモデルだ。


「一緒だよ」

「ふーん。じゃああたしのも完成したらこうなるんだぁ。かっこいいなー」


 うっとりした目で俺のシロガネ専用機を見つめる新城。


「あー、残念だけど組んだだけだとそうはならないからな」

「え……どういうことよ?」

「それはパテで溝埋めしてあるし、アニメと同じになるように自分で塗装してあんの。新城さんのは素組みだけの予定だから、完成したらこうなるよ」


 そう言って俺は箱の側面にプリントされてある完成見本を指差す。そこにはつるんとした色で組まれただけのキョウウジ・シロガネ専用機が写っていた。


「あたしのは…………これになるの?」


 なにやら明らかにテンションの下がった声で聞いてくる。てかちょっと涙声だ。


「これ……神内くんが色塗ったんだよね?」


 そう俺のプラモと箱の写真を何度も見比べながら聞いてきて、俺はその問いに「そ、そうだけど……」と答える。飾ってあるシロガネ専用機と箱の写真を比べれば、色数もクオリィティも違うのは誰の目にも明らかだ。


「あたしのも塗って!」

「い、いや、簡単に言うけどなぁ、これって……」

「お願いします! あたしに出来ることなら何でもするからお願いします!」


 いまにも土下座しそうな勢いで頭を下げてくる。その悲痛な思いからか思わず声が大きくなり、隣の部屋から壁ドンされたことに新城はきっと気づいてないだろう。てか家にいたのか我が妹よ。


「お願い神内くん、お金がかかるならバイトして払うから!! あたしのシロガネ専用機を神内くんのと同じようにして! っていうかやれー!」

「わ、わかった。わかったから……ちょ、ちょっと落ち着いて、な?」

「グス……やってくれるの?」

「まー、俺もプラモ作るの好きだし、どうせ作るならよりオリジナルに近づけたいって気持ちもよく分かる」


 そこでいったん区切って新城の顔を見る。いつの間にか大きな瞳に涙を溜めているが、そんな顔も可愛らしい。


「で、組み立てるだけなら今日中に出来るだろうけど、塗装したり本格的に作るとなると、二週間はかかるんだよね。その間待ってられる?」

「うん! あたしも手伝う。てゆーか少しでもシロガネ専用機を自分で作ってみたいんだよね」


 プラモを自分の手で作りたい。この気持ちは非常に良く分かる。非常に良く分かるのだが……。


「新城さんが来た時だけ作るとなると、たぶん……もっと時間かかっちゃうと思うんだけど大丈夫?」

「あたしは大丈夫。でも神内くんこそあたしが来て迷惑にならないかな?」

「あー、俺は基本暇してるから構わないよ。親も転勤で家にいないしね」

「そっかー。神内くんはあたししか友達がいないから、あたしが来てあげないと暇しちゃうんだもんね。じゃあじゃあ、完成するまでの間、神内くんのお家に遊びにきてあげるから快くもてなしなさい!」

「うっせーな。一人でも…………てか一人の時間が長かったからこそ暇の潰し方なんていくらでも持ってんだよ!」

「ちょっと……冗談で言ったのにそんな自信満々に孤独自慢されてもあたし困るよ……」

「うっ……ま、まあ、来たら茶ぐらい出してやんよ」

「やったー! そうこなきゃ。お菓子作って持って来てあげるからリクエストがあったら言ってね」


 文字通り飛び上がって喜ぶ。新城のジャンプに合わせてたわわに実った二つの果実がばいんばいん揺れて目の保養になる。眼福眼福。そして隣からの壁ドン。


「へー、意外だな。お菓子作りが趣味なの?」


 俺の愚息も釣られて飛び上がりそうになるのを隠しつつ、なるたけクールにそう聞いてみる。


「うん。ママの影響だけどね」


 そう言ってペロっと舌を出す。新城と親しそうに会話している男子は何人か心当たりがあるが、きっと手作りのお菓子を貰ったことがあるやつはまだいないはずだ。そんなことを考えるとテンションがプチ上がってしまいます。そのテンションのまま、


「んじゃまー、作り始めますか!」


 と言い、新城が、「オー!」と返してくる。また隣にいる妹から壁ドンされるが気にしない気にしない。

 こうして、俺と新城は『プラモを作る』という目的のために毎週末俺の部屋に来る約束を交わしたのだった。

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