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第二十九話 戦場 後編

 本隊を解体してから戦場となった都市では、各チームごとにゲリラ戦のようにケルビム軍に対し抗戦し始めた。

 味方を示す緑のマーカーが次々と消えていくが、各チームごとに好き勝手戦うことにより、目論み通り敵部隊を分散させることには成功したみたいだ。

 俺たちは幾度かの戦闘こそあったが、なんとか全機無事に巨大ドームの近くまでくることができた。

 しかし――、


『どうするよタッチー?』


 ビルの陰に隠れているシドさんが、前方を指さしながらそう言ってくる。

 指された方を見ると、そこには巨大ドームの入り口を守る無数のDollの部隊が道を塞ぐように待機していた。

 レーダーを確認しただけでも三十機はいる。それらすべてが密集して入口を守っているのだ。


『くっ、数が多いな』

『まともにやり合って突破できる数じゃないぜぇ。かといって他の入り口探す余裕も弾丸もいまの俺たちには残ってねえ』


 向こうはこっちの五倍の戦力。シドさんの言うように正面からいくのはただの自殺行為にすぎない。その上レーダーが「ピピッ」と鳴って新たな敵の接近を知らせてくるのだ。

 考えている時間はあまりない。


『じ、神内くん……て、敵がどんどん増えてくよ!』

「くそが! 橘さん、このままじゃ囲まれます。俺も戦いますから正面突破しましょう!」


 〈武御雷・改〉の腕を背中の斬機刀に伸ばす。


『いけませんわ』


 誰だ? と思ったら、藤崎姉妹の黒い方が俺をまっすぐに見つめている。


『お姉さまの言うとおりですわ。貴方の戦いの場はここではありません』


 黒いのの後を白いのがそう続ける。てか黒いのが姉だったのかよ。


「で、でも――」


 反論しようとするが、お姉さまに視線だけで黙らせられてしまう。

 お姉さまは俺が黙ったのを確認し満足げに頷くと、今度は橘さんの方を向き、


『諒一さん、“道”を作って頂けるかしら?』


 と言う。

 道? どういうことだと俺は思ったが、さすがはチームメイト。橘さんの顔を見る限りちゃんと意味は通じているみたいだった。


『紅葉君……本気か?』

『もちろんですわ。そのためにわたくしたちはここにいるんでしょう? さて、新城さん、といったかしら』


 黒ゴスお姉さま――紅葉さんがそう言い、〈ブラック・ボマー〉が〈アーチャー・キャット〉の方を向く。


『これを受け取ってくれませんかしら? 貴方の武器では屋内での戦闘に向きませんからね』


 〈ブラック・ボムー〉が自分の持っているガトリングガンを〈アーチャー・キャット〉に押し付け、突然ガトリングガンを渡された新城が戸惑ったような顔をする。


『え? え?』

『ふふ、向こう見ずな男の背中をそっと守ってあげるのが良い女の条件ですのよ。憶えておきなさい。楓、後は頼みましたよ。では諒一さん、…………逝きます!』

『すまん。紅葉君』


 そう二人が言うと、まず〈ローエングリン〉が隠れていたビルから身を躍らせ、BWに搭載している多弾頭ミサイルを一気に上空に打ち上げる。次いで〈ブラック・ボムー〉が姿を表すと、ロケットランチャーを前方に乱射しながら入口を塞ぐ敵部隊目掛けて特攻していく。

 上空に上がった多弾頭ミサイルが向きを変え、〈ブラック・ボマー〉の進行を阻む敵機目掛けて容赦なく降り注ぎ、着弾した地点から連続して爆発が起こる。

 爆炎と爆風によってモーゼの十戒のごとくつくられた道を〈ブラック・ボマー〉がブースターを全開で噴かし突っ込んでいく。


『そこをどいてもらいますわっ!』


 弾の尽きたロケットランチャーを前方へ投げ捨て、多弾頭ミサイルの範囲外にいた入口を固める敵機を重装甲で覆われたハンマーのような両腕でなぎ倒しながら敵部隊の中心へ飛び込んだ〈ブラックボマー〉が、BWに搭載しているミサイルポッドのハッチをすべて開く。


『散りなさいっ!』


 その叫びと共に、ミサイルポッドへ自機の拳を打ち込む〈ブラックボマー〉。


(まさか……これはっ――――自爆!?)


 そう、〈ブラックボマー〉はミサイルポッド全弾を敵部隊に向けて撃つのではなく、ミサイルポッドごと残弾全てを暴発させることにより周囲の敵部隊もろとも自爆したのだ。

 大きな爆発と火柱が上がり、入口を塞いでいた敵部隊がまとめて消し飛ぶ。


『いまがチャンスだ! いくぞッ!』


 橘さんがそう言い〈ローエングリン〉を入口に向かって加速させる。


「ちっくしょうがぁ!」


 それに〈武御雷・改〉が、〈クイーン〉が、〈ホワイト・ボマー〉が、〈アーチャー・キャット〉がその後に続き、入口から巨大ドームへの進入を果たす。

 〈ブラック・ボマー〉ドーム内の通路はトンネルのように一本道になっていて、しかもDollが三機並んで通れるほど大きな通路だった。


「橘さん、こんなんで……こんなんでいいのかよ! 仲間を犠牲にしていいのかよっ!?」

『勝つためには多くのものを捨てなくてはいけない時もある。いまがその時だっただけだ』

『神内、これはゲームじゃねえんだ。手持ちのカード切ってでも勝たなきゃなんねえんだよ! っておい、っざけんなよ。もう新手かよ!?』


 レーダーにふざけた数の敵影が、俺たちの入ってきた入口に殺到してきているのが映る。


『こんどは……わたくしの番のようですわね。さて、新城さん。わたくしたち姉妹も“この先”に連れてってくださいな』


 そう楓さんが言うと、紅葉さんと同じようにガトリングガンを新城に手渡す。


『諒一さん、わたくしはここで限界まで敵の足を止めます。諒一さんたちは先へと進んで下さいな』

『分かった。任せたよ楓君』

『ええ。もしこの戦争に勝てたら……ご褒美を下さいね』


 楓さんが橘さんに『おねだり』をしたあと、楓さんは俺に向けて微笑む。


『神内さん、ご武運を』


 そう言い残すと〈ホワイト・ボマー〉を反転させ後ろを向き、右にロケットランチャー、左に〈アーチャー・キャット〉と交換したエネルギーライフルを握り、入口に向けて構える。

 両脚を開いてどっしりと腰を落とすその背からは、絶対にここを通さないという、強い意志が感じられた。


『ボケッとしてんじゃねーぞ神内! 俺たちは先に進むしかねーんだよ!』


 先に進むべきか躊躇している俺をシドさんが怒鳴りつける。

 レーダーを見ればすでに通路内に多数の敵機がトンネル内へと入ってきていて、そのすべてがこちらへ向かっていた。


「わかったよ……進めばいんだろ、進めばよぉっ!」


 歯を食いしばって〈武御雷・改〉を進ませ暫くすると、後方から大きな爆発音が響く。

 きっと〈ブラック・ボマー〉に続いて〈ホワイト・ボマー〉も敵部隊を道連れに自爆したのだろう。


「くそ、くそぉ……」

『焦るな神内君。君の戦いの場はまだここではない』

『露払いはおれら、〈八咫烏〉の役割だっつったろー』


 そう言いながら通路内に出てくる敵機を〈ローエングリン〉と〈クイーン〉の二機が次々と片付けていく。

 俺は仲間が切り開いてくれた道をただただ進むだけ。


『マップが更新されたようだね』


 橘さんの言葉に反応しマップを見ると、まずこの先に広い空間、更にその先に闘技場のような円形の巨大な空間があることが表示されていた。


『んだよ、この広いスペースは?』


 シドさんがマップを睨みながらそう漏らす。


『この先にある最奥のスペース。まるで闘技場みたいだと思わないかシド?』

『闘技場ねぇ……ってーことはだ、』

『ああ、この場所にケルビムがいると見て間違いないだろう』

『だな。まぁー、その手前にある空間にもなーんかいそうだけどな。っつっても意味ねーか。進むしかねーんだからよ!』


 〈クイーン〉が移動スピードを一段階速め、それに〈ローエングリン〉、〈アーチャー・キャット〉、最後に〈武御雷・改〉が続く。


『広いスペースに出るぞ。各機警戒するんだ!』

『はいよ』

「了解!」

『はい!』


 円形の空間へと繋がる広い場所へ出る直前、そう橘さんが警告し全員が気を引き締める。

 俺たちがその場所に出ると、シドさんの読み通り奥へと続く通路を守るように二機のDollが立っていた。

 灰色のカラーリングをした中量二脚型Doll。一目でいままでの有象無象とは格が違うとわかる。

 その二機のDollのカメラアイに紅い光が灯り、頭部が動いてこちらを向く。俺たちを『敵』として認識したのだろう。


『ラスボス前の中ボスってやつかぁ!?』

『お約束……というわけか。厄介だね』


 ここにきて無傷のDollが二機。それに引き換え、〈クイーン〉も〈ローエングリン〉もボロボロで残弾だってそう多くはないはずだ。

 その時、追い打ちをかけるかのようにレーダーが「ピピッ」と警告音を鳴らし、後方から新たな敵機の接近を知らせてきた。

 レーダーに目をやると、赤い光点が複数こっちへと向かってきている。中ボス戦だからって遠慮はしないということだろう。


『ちっくしょー……ハンパなく数が多いな。タッチー、どんぐらいいけそうだ?』

『この天井の低い場所では多弾頭ミサイルは役に立たない。あまり僕に期待はしないでくれよ』

『はっ、でもミサイルが残ってるってことは、爆裂姉妹のあとを追えるってこったろ。なら……まだまだ時間を稼げるな』

『あたしもやります! あたしも……ここに残ります!』


 新城はそう言うが、〈アーチャー・キャット〉だって損傷していて、すでに左肩に装備していたショルダー・シールドを失っている。


『お? 嬢ちゃんも手伝ってくれんのかい?』

『あたしだって敵の足止めぐらいはできます!』


 新城の言葉を聞いたシドさんが楽しそうに笑う。


『よーし、嬢ちゃんよく言った! それでこそ女の子だぜ!』

『ありがとう、新城君。では君は通路に向かって弾幕を張ってくれ。その間に僕とシドがあの二機を相手取る』

『わかりました!』


 〈アーチャー・キャット〉が通路に向けて二門のガトリングガンを構え、〈クイーン〉と〈ローエングリン〉が灰色のDollへ向かって加速する。


『ってなわけだ神内。こっから先にはお前に任せたぜぇ』

「シドさん……」


 〈武御雷・改〉の背中を、〈アーチャー・キャット〉がドンと叩く。


『任せたわよ神内くん。〈にゃん虎隊〉の代表としてケルビムをやっつけてきなさい!』


 新城がそう言って笑う。


「新城……」

『すまないな神内君。君を〈ケルビム〉の元まで送り届けると言ったが、どうやら僕たちはここまでのようだ。後は……任せたよ』

「橘さん……」


 〈ローエングリン〉、〈クイーン〉、〈アーチャー・キャット〉の三機がそれぞれの標的に向けて火を吹く。


『あー、一度言ってみたかったんだよなぁ。神内……ここはおれに任せて先へいけぇッ!』

『ふふっ、なんだいシド、そのセリフは?』

『ああん? 二枚目のおれにぴったりのセリフだろーが!』

『君は三枚目だろう――っく、神内君早く!』


 灰色のDollの攻撃で〈ローエングリン〉の左腕が吹き飛ぶが、そのまま灰色のDollに体当たりをし、通路を塞ぐ灰色のDollを壁へと叩き付ける。


『いけよ神内! いってケルビムのクソ野郎をぶっ倒してこいっ!』

『いってくれ神内君! この国のために……人類の未来のためにっ!』

『いぃぃっけぇーっ! ツクモォォォッ!』


 三人の声が俺の心を……魂を震わす。


 ――ああ、いくぜ。

 ――いって――――くるぜっ!


「いくぞ武御雷!」


 〈武御雷・改〉のブスーターに火を入れ一気に加速する。

 途中、〈クイーン〉が相手していた灰色のDollが〈武御雷・改〉に反応して道を塞ごうと正面に出てくるが、すれ違いざま斬機刀で切り伏せる。


「邪魔すんじゃねぇぇぇッ!」


 斬機刀によって切られた灰色のDollが背後で爆発する。

 初めて振るったがデタラメな威力だ。たった一振りで敵Dollを撃破しやがった。

 これなら……どんな相手だろうと負ける気がしねえ! 待ってろよ〈ケルビム〉いま行くぜ。


 てめーをぶっ倒しにな!

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