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第二話 Doll

『Doll』


 三年ほど前に発表されたアメリカ発の筐体型アーケードゲーム機で、プレイヤーはその卵型筐体に乗り込み、自分で組み上げた人形ドールと呼ばれるロボットを操って戦闘する体感型ゲームだ。


 筐体内部はまるでロボットアニメに出てくるコックピットのような作りをしていて、プレーヤーはあたかもコックピットに乗り込んで巨大ロボット――ドールを操縦しているかのような気分を味わうことが出来る。

 元々は戦闘機だか戦車だかのシミュレーションマシンがベースだったらしく、俺のようなロボット好き(オタク)は元より、ミリオタや格闘ゲーマーの支持まで得て、世界中で爆発的な人気を誇るゲームタイトルだ。その人気は衰えるどころか未だ上昇中で、嘘か本当か知らないが、今年に入って全世界のプレイヤー人口がニ億人を超えたらしい。


 Dollでは定期的にイベントが開催されていて、今回開催されたイベント『小隊戦』では、期間中に三対三によるチーム戦で五回勝利すると、イベントアイテムである『高出力ブースター』がチーム全員に支給されるのだ。その高出力ブースターがどうしても欲しく、本来ソロプレイヤーであるこの俺、神内じんないツクモは仕方なく山田と佐野の二人に頼んで暫定的にチームを組んだってわけだ。


 俺は機動力と攻撃力という、本来なら相反する二つの特性を高出力エネルギーブレードを使うことで愛機〈武御雷〉を近接戦闘型の機体へと昇華したのだが、銃弾とビームが飛び交うDolにおいて、白兵戦しか出来ない機体は稀有な存在で、ぶっちゃげていってしまえば他のプレイヤーからは激しく嫌われている。

 そんなDoll界の嫌われ者の俺がチームを組めるような相手はやはりというか、俺とは別の理由で嫌われている山田と佐野しかいなかったのだ。

 ソロプレイヤーである俺は、あの二人が「嫌われている」という噂は何となく聞いていたが、その理由までは知らなかった…………が、今日一緒にチームを組んでみて分かった。

 性格が悪いのだ。それも絶望的なまでに。しかし性格の悪さとDollの腕は関係ないようで、この勝負に勝てば五連勝目だ。ここまでにさっきのを含めて何度FFフレンドリーファイアされたことか……だがついに俺は耐えきった。山田と佐野の精神汚染に耐え抜いてやっと欲しかったイベントアイテムの高出力ブースターを手に入れることが出来るのだ。ここまで耐えた自分を褒めてあげたい。今日はこの後臨時収入が入る予定だから、ファミレスでちょっと豪華な夕食を食べるのもいいな……でも一人で食べたら家で待つ妹が怒るに違いない……。


 などとだらだら考え込んでいたら正面モニターに『作戦終了』の文字が表示され、続いて無機質な声でAI(という設定)が『我々ノ勝利デス』と告げてくる。

 作戦時間終了までまだ時間はある。ということはどうやら宣言通りに山田と佐野の二人は敵チームの残り二機を撃破したようだ。そして俺が念願の高出力ブースターを入手した瞬間でもあった。とかほくそ笑んでいたら、AIが、


《新シイパーツヲ入手シマシタ》


 と報告してくる。

 Dollは特定の条件を満たすと、こうやって様々なパーツを入手することが出来る。入手したパーツの詳細まではいまここで表示されないが、高出力ブースターであることは間違いない。家に帰ってからじっくりと武御雷をカスタマイズすることにしよう。

 続いてモニターに今回のゲームのスコアが表示されるが、俺はそれらをすっ飛ばしてプレイを終了させる。後部ハッチが開いてコックピットシートが後ろに下がっていき、完全に下がった後、シートベルトを外して機体データの入ったIDカードを抜いてやっと筐体から出ることが出来た。


 後ろを見ると順番待ちの列に並んでいるサラリーマン風の男が貧乏ゆすりをしながら俺がコックピットシートから下りるのを待っている。

 イベント期間中ということもあり、Doll専門店であるこの店の客足は上々のようだ。

 シートから降りると時間が惜しいとばかりにすぐにサラリーマンが乗り込んでいく。いったいどんだけ急いでいるんだか?

 俺は休憩スペースのベンチに腰を下ろし、山田と佐野の二人が来るのを待つ。

 しばらくして自販機でジュースでも買うかと思って腰を上げた時、靴を引きずるような独特の足音が聞こえてきて振り返ると二人がニヤニヤしながら並んで立っていた。


「おそか――」

「おい神内ぃ、お前クビだクビ」


 俺の言葉に被せて山田が右手で首を薙ぐ仕草をしながらそう言ってくる。


「へっへっへ……て、偵察用のぱ、パシリとしてならぼ、僕たちのチームに入れてやろうかとお、思ったけど、お、お前使えないからいらないや」


 佐野も山田に便乗するかのようにニタニタ顔で、犬猫を追い払うようかのように俺に向けて手をシッシと振ってくる。


「そりゃよかった。ちょうど俺もあんたらのチーム抜けようとしてたとこだ。珍しく意見が一致したな」

「はっ、『ブースター欲しいからチームに入れてくれ』って言ったのはどこのどいつだよ? 機体スピードは速いみたいだから、ちっとは使えるかと思ったけど、やっぱお前みたいなブレード縛りのオナニー野郎は使えねーわ。さっさと消えろ」


 身長が百七十しかない俺に対して、山田は百八十以上ある長身を活かして上からそう凄んでくるが、いかんせん体重が俺とそう変わらないガリガリの体で凄まれてもちっとも怖くはない。むしろ無理してにつっぱちゃって微笑ましいぐらいだ。


「はっ、FFが特技の誤爆野郎が、試しにいっぺんそのメガネ変えてみた方がいいんじゃねえの? ぜんぜん似合ってないし」


 俺の悪態を受け、初めて山田の額に青筋が入る。ひょっとしてその丸型メガネお洒落のつもりだったのかよ?


「お前みたいな童貞小僧にこのメガネの価値がわか――」

「あーあー、そんなダサイ眼鏡の価値なんてしらねーよ。どうせ道端に落ちてる猫のフンぐらいの価値だろ? おっと、それだとお猫さまの糞に失礼か。じゃー俺用事あるから行くわ。じゃーなー」


 俺は回れ右して片手を上げてそう言うと出口に向かって歩き始める。後ろでは山田がぎゃーぎゃー喚き散らしているがもう相手にしない。

 出口付近の壁に並んでいるコインロッカーを開けて荷物を取り出し、鞄から携帯電話を出して時間を確認する。

 約束の時間まではあと三十分ほど。

 ちょっとばかし早く着いてしまうが、ここにいても山田がぎゃーぎゃーうるさいので俺は約束の場所へと向かって歩き始めることにした。

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