第二十八話 戦場 中編
主人公の機体、武御雷が某ゲームの機体名と同じだとご指摘を受けました。
下調べをしなかった私のミスです。
不快に思われていた方がいましたら申し訳ございません。
「剣の神さま」で検索して、そのまま何も考えずに決めちゃいました。
いまさら変えられないので、このまま最後までいかせて下さい。
『いいかい、僕たちが動くのは最後だ。各部隊の進行が都市部の半ばまで達したら僕たちも行動を開始する』
レーダを注視したまま橘さんが言う。
味方部隊が敵機を引きつけている間に、俺たち遊撃隊はこっそりとドームへ侵入する作戦だ。
すでに、三つに別れた味方の大部隊は都市部入口へと到達し、内部に侵攻せんと激しい戦闘が行われている。
「了解です」
『タイミングはタッチーに任せるぜ』
藤崎姉妹が頷いて答え、新城がわずかに送れて「は、はい!」と返す。
レーダー上では味方を表す緑色の大きな塊が三つの部隊に別れ、都市の北、東、西、と各場所で敵機である赤い光点を蹴散らしている。
いまのところは人類側の有利に戦闘が進んでいるってとこか。
『ところで神内よ、さっきからず~っと気になってたんだが、お前さんが背負ってる“それ”って本物か?』
〈武御雷・改〉の背中にぶら下がっている、〈斬機刀〉を見ながらシドさんがそう聞いてきた。
まあ、前回対戦した時と明らかに装備が違えば気づくのは当たり前だろう。そして、〈斬機刀〉へ装備を変更したその意味も。
「そうです“本物”ですよ。本物の武器です」
『すげーな。Dollで実体剣なんて初めて見たぜ。それが……俺たちの“切り札”ってことでいいんだよな?』
シドさんがニヤリと笑う。
「そのつもりです。こいつなら……この〈斬機刀〉ならどんなヤツが相手でもぶった切ってやりますよ。ただ……この〈武御雷・改〉は積載量ギリギリでこの斬機刀以外の武装がないんです。だから敵の……〈ケルビム〉のところまでこの〈武御雷・改〉で辿り着けるかどうか……」
俺はシドさんに答え、次いで僅かに顔を曇らせる。
いまの武御雷は、言ってみれば完全に『一対一』専用の機体だ。相手がどんな機体だろうと負ける気はないが、いかんせん俺がいまいるこの場所はDollの歴史の中でも最大規模の戦場なのだ。数でこられたら敵わない。
しかし、そんな俺の不安を橘さんがあっさりと振り払う。
『そこは心配しなくていい。そのための僕たちだ。そのための〈八咫烏〉だ。今の僕たちは君の〈武御雷・改〉を無傷で〈ケルビム〉のところまで送り届けるのが役目さ』
『あたしも護るよ。神内くんのこと。死んでも護る。あたしはきっとそのために神内くんに出会ってそのためにDollに、〈アーチャー・キャット〉乗ったんだよ』
そう言って新城が微笑む。
〈アーチャー・キャット〉。新城の前の機体〈にゃん三郎〉を一から組みなおして新たに作った機体だ。
中量ニ脚なのは前と変わらないが、〈武御雷〉についてこれるようブースターの出力を上げ、前の機体で使っていたスナイパーライフルから、重量が軽く片手でも扱える軽量のスナイパーライフルを二丁両腕に装備し、さらにショルダー・シールドまで追加で装備している。
これらすべては敵機を落とすためではなく、BWからチャフも外さなくてはならなくなった武御雷をミサイルから守るためのもの、つまり新城の新しい機体、〈アーチャー・キャット〉は完全に〈武御雷・改〉専用の支援機として組んでいるのだ。
『いいか神内、お前は絶対におれらが〈ケルビム〉まで届ける。それまで下手こいて落ちんじゃねーぞ!』
「了解です。〈ケルビム〉をぶっ倒すために俺はここに来たんですから!」
〈クイーン〉と索敵機能をリンクし、レーダー越しに戦況を見る。
いまのところ、味方部隊の緑色は順調に敵部隊の赤色を力押しで削りながら、都市中心部を目掛けて進行を続けているようだ。
『そろそろ頃合いか……よし、僕達も動くぞ!』
橘さんがそう言って〈ローエングリン〉を前進させ、その後に残り五機が続く。
フォーメーションは隊の中心に〈武御雷・改〉を置き、前方に〈ブラック・ボマー〉と〈ローエングリン〉、左右を〈クイーン〉と〈アーチャーキャット〉の二機に挟まれ、背後では〈ホワイト・ボマー〉が殿をつとめる。
橘さんがレーダー上に映る敵影を見ながら進行ルートを決め、戦闘を回避しながら都市へと向かう。
緊張からか、あのおしゃべり好きなシドさんですら黙りこみ、俺たちは無言まま都市部入口へと辿りつく。
続いて、このまま本隊を囮に巨大ドームを目指そうとするが……、
『まずいな』
レーダーを見て、戦況を確認した橘さんがそう呟く。
最初こそ部隊を三つに分けることで敵部隊も分散させることに成功していたようだが、すでに敵もそれに対応し始めている。
レーダーを見ると、各部隊の先頭部分が扇状に敵部隊に囲まれていて、先端から徐々に戦力を削られ、完全に侵攻を止められてしまっているようだ。
『クッソ! 敵の対応がはえー。いま何機喰われてんだ!?』
レーダー上では味方機を示す緑色のマーカーが次々と消えていく。『チーム』としてはバランスが取れていても『部隊』としてはアンバランスな構成なため、敵部隊に対応され始めると一気に切り崩されてしまうのだろう。
『落ちつくんだシド! 本隊は囮だ。特殊部隊のどこかがドームに入れれば――』
『んなこと言ったってその囮が目標地点の半分も届いてねーぞ! ケルビム倒す以前の問題だっての! このままじゃどこの部隊もあのデカブツまで辿り着けないだろうが!』
シドさんが顎でデカブツこと、巨大ドームを顎でさす。
確かに本隊が都市の中心部にまで進行して敵部隊を引き付けてくれなきゃ、俺たちのような少数部隊が進んだところであっという間に敵に包囲殲滅されてしまい、中央建造物まで辿り着くなんてことは不可能だろう。
『しかし……このまま僕たちだけで進んでも敵部隊に囲まれるだけだ。本隊がもっと進行してくれない限り僕たちも進めない……』
橘さんが悔しそうにレーダーを睨む。
『ねぇ神内くん、“部隊”で戦う必要があるのかな?』
「あん? どういうことだ新城?」
『んとさ、無理して部隊で戦おうとしてるから連携の取れてる敵にやられてるんだよね? だったら……だったらさ、みんな勝手に戦わせた方がいいんじゃないの? この戦場にいるのは日本の、世界のトップチームばかりなんでしょ? 部隊として弱くても、チームとして強ければ敵に対抗できるんじゃないのかな?』
「あのなぁ新城、Dollは連携こそが勝利の鍵なんだぜ。部隊バラしたらチームごとに各個撃破されるだけだって」
『だからその連携で勝ててないから言ってるの! このままじゃ全滅だよ? 全滅しちゃったら勝ち目なくなっちゃうんだよ! いまならまだ味方機が残ってるんだから――』
『やってみる……価値はあるかも知れないね』
思案顔の橘さんがそう呟き、新城の言葉が止まる。
『本気かタッチー?』
『ああ、本気だとも。新城君の言うように部隊で戦うことを捨て、チームで戦えば一時的にせよ盛り返すことができるかもしれない。少なくとも分散するからかく乱にはなる。敵がその対応に追われている内に〈ケルビム〉の元まで辿り着きさえすればいいんだ。それにこのままじゃ部隊が壊滅するまで時間の問題だ。参加チームもフラストレーションが溜まっているだろう。だったら部隊が崩壊する前にこちらから部隊を捨て、各チームの判断に委ねた方が勝機はある!』
そう言うと橘さんは森郷総司令官に通信を繋げ、各チームの判断に任せるよう進言した。最初はためらっていた森崎司令官だが、いまのままでは突破口を見出せずにいたのか、けっきょくは了承し提案を受け入れたようだ。そしてすぐさまそのことが味方部隊に通信で告げられる。
すると、レーダー上で緑色の塊だった味方部隊が次々と散開し始め、都市内部へと散らばっていく。それにつられて敵部隊も陣形を大きく変えざるをえなくなり、再び戦況が動きだした。
『よし、これで敵部隊は対応に追われるはずだ。好機はこの数分しかない! ドーム目指して進むぞ!』
俺たちは〈ローエングリン〉を先頭に都市を駆ける。
レーダーがピピっと警告音を鳴らし、見ると前方に敵機を示す赤い光点が複数個こちらに近づいてくるのが見えた。
『どうするよ、タッチー?』
『戦闘は避けられんか……みんな、強行突破するぞ!』
『そうこなきゃな!』
「了解です!」
『神内君、君の戦闘は禁止だ。回避に専念してくれ』
「……了解です」
不満げに答えながらも〈武御雷・改〉を通常出力から戦闘出力へ切り替え、戦闘へ備える。
『きたぞ!』
橘さんがそう警告を発すると、前方に〈ゴブリン〉と〈スパイダー〉の混成部隊がこちらに向かって攻撃を開始する。
すぐさま藤崎姉妹の機体が前へ出てその重装甲を味方機の盾とする。重装甲に包まれた〈ホワイト・ボムー〉と〈ブラック・ボマー〉は生半可な攻撃ではダメージを受けない。ならばとばかりに〈スパイダー〉がミサイルを無数に打ち上げてくる、が――、
「新城!」
『分かってる!』
俺が声を発するより先に反応していた新城が〈アーチャー・キャット〉の持つスナイパーライフルの銃口を上空に向け、刹那にも満たない照準のあと連続してエネルギー弾を撃ち出す。
迫りくるミサイルの群れを新城は一発も撃ち漏らすことなく上空で爆発させると、今度は藤崎姉妹の〈ホワイト•ボムー〉と〈ブラック・ボマー〉が装備してるガトリングガンが火を噴き〈ゴブリン〉と〈スパイダー〉をボロ布のようにスクラップへと変えていく。
辛うじてガトリングガンの豪雨のような銃弾から逃げることができた敵機体を〈ローエングリン〉と〈アーチャー・キャット〉が逃すことなく確実に仕留めていき――、
『うおおぉぉぉりゃぁぁ!』
残り一機となった敵機、〈スパイダー〉目がけて〈クイーン〉が飛び出し、ボディブローのように右腕を打ちつけ「ボゴン!」と凶悪な音を周囲に響かせる。
背中から鋼鉄の杭が飛び出た〈スパイダー〉は糸のきれた操り人形のように力なく崩れ落ち、〈クイーン〉が飛び退くと同時に爆発四散した。
『よっしゃー! パイルバンカーの一撃をみたか!』
シドさんが雄叫びを上げながらガッツポーズを決める。
漢のロマン武器で止めを刺せたのだからその気持ちは良く分かるが、いまは状況を考えてくれ。
『シド、あまり無茶をするな。広域レーダーを搭載しているのは君の機体だけなんだからな』
『はいはい、分かってるって。んじゃー他の敵が集まってくる前にさっさと先に進もうぜ』
二人のそんなやり取りを横目に〈八咫烏〉の実力を目の当たりにした俺は「やっるー!」と、ひとり感嘆の声を上げる。
この人たちやっぱ強い。さすがは日本のトップチーム。しかも新城までそのトップチームに交じってそん色ない動きをしてるってんだから驚きだ。
俺一人だけなにもしていないって状況は歯がゆいが、橘さん直々に〈武御雷・改〉の交戦が禁止されているんだから仕方がない。
橘さんがレーダーを一瞥し、言う。
『進むぞ』




