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第二十一話 勧誘 前篇

 橘さんの後をてくてくとついて行き入ったメイド喫茶で、ウェイトレス代わりのメイドさんに案内されるがままに、三人がけソファーがテーブルを挟んで向かい合せに設置されている個室へと入ると、まず白ロリと橘さんと金髪の順番で腰を下ろし、対面に新城と俺とゴスロリの順で並んで座る。そして橘さんは、


「単刀直入に言おう。君たち二人が欲しい」


 と注文もせず、開口一番そう言ってきた。


「えーっと……橘さんマジで言ってます?」

「もちろん大マジで言っているとも」


 しばしの静寂。俺と橘さんの会話そっちのけでメニューとにらめっこしていた新城のお腹がグーとなる。


「いま〈八咫烏〉のメンバーは八人しかいない。知っていると思うけどチームメンバーの上限は十二人だから、君たち二人を僕たちのチームに誘っても何も問題はないと思うんだけど?」


「え? だって……メンバーが八人だから〈八咫烏〉って名乗っているんじゃないんですか?」

「最初チームを作った時に八人いたから、それにちなんで八咫烏と名づけただけさ。別に僕たちはチーム人数に制限を設けてる訳ではない。むしろ出来ることならメンバーを増やしたいとも思っていたんだ」


 メニューとにらめっこしていた新城が、意を決したような表情でテーブルの端に備え付けられた店員を呼ぶボタンを人差し指で押し、すぐさま「ぴんぽーん」と間抜けな音が個室に響く。


「いやいや、俺はDランクですし、新城にいたってはF……いや、さっきのでEに上がったかな? とにかく、DとEランクですよ? とてもじゃないですがSランクのチームに入るようなプレイヤーじゃないと思うんですが……」

「君たち二人のランクは知っているとも。そしてプレイヤーの腕とランクがあまり関係ないことも僕は知っている。それは君達自身がさっき証明して見せたじゃないか。いいかい? 僕は実際に君たち二人と戦ってその実力を身を持って知ったからこそ、こうして勧誘しているんだよ」

「い、いやー……さっきの対戦はまぐれって言うか、たまたま勝てただけですよ。俺も新城もランク通りの実力しかありませんって。だいたいまだ一回しか対戦してないのに……買いかぶりすぎですよ」


 扉を叩くノックの音がし、やたら胸を強調した作りの制服を着たメイドさんが注文を取りにくる。顔は悪くない。新城はアイスティーとシフォンケーキを頼み、残りの面子はコーヒーを注文して、確認のためオーダーを復唱した後メイドさんは一礼して出ていった。


「その一回で十分なんだよ。僕は日本で十チームしかないSランクチームのリーダーをやらせてもらっている。運や偶然、それこそ『たまたま』負けることなんかないと断言してもいい。事実、僕はここ半年ほど対戦で一度も負けたことがない。だからこそはっきり言えるんだよ。君たち〈にゃん虎隊〉が〈八咫烏〉に勝利したのは実力以外の何物でもない、とね」


「いや、実力って言うか……そう! 相性! 相性だ! たまたまこっちに取って相性が良かっただけなんですよ!」

「さっき戦ったんだ。僕たちの機体構成はある程度分かっているはずだよね? おそらくはあの対戦を見た誰もが僕たち〈八咫烏〉にとって有利な展開になると予想したはずだ。それを……君たちは実力で覆した」


 再びノック。先ほどと違うメイドさんが入ってきて注文したものをテーブルに置き、一礼して去っていく。いまのメイドさんの方がおっぱいが大きくて俺的には好みだ。


「で、でもあの対戦は最後まで俺たち〈にゃん虎隊〉が押されてたし、あの時の……あの時新城がやった曲芸みたいな支援がなけりゃ、〈にゃん虎隊〉は一方的に撃破されていたはずです」


 そう言って黙り込む。しばしの間、新城がずずーとストローでドリンクを飲む音だけが個室に響いた。


「僕も新城君のあのテクニックには驚いたよ。まさかミサイルを連続で撃ち落とすなんて冗談みたいな精密射撃を見たのは初めてだったからね。あれは……君たち〈にゃん虎隊〉の切り札だったのかな?」

「いいえ、あれは新城の咄嗟の思いつきです。あの時新城に『突っ込め』って言われて、訳が分からずその指示に従っただけです。だから……本当にさっきの勝利は偶然なんですよ」

「なるほどね。あくまでも君にとってさっきの勝利は『偶然』というわけだ?」

「はい」


 ケーキを食べ終えた新城が再度メニューを開き何かに狙いを定める。そしてひとつ頷くと再びテーブル端のボタンに手を伸ばし――、


「新城! お前さっきから自由すぎ!!」

「えっ?」


 ぷりぷりした唇を少しだけ開け、きょとんとした顔でこちらを向く。


「『え?』じゃねーよ! いま橘さんと、それはそれはまじめーなお話してる時なの! だってのになに一人自由にやってんだよ?」

「だってさぁー、橘さんと話してるのって……Dollのことでしょ?」

「あ? ああ、そーだよ」

「ならあたしはまだDoll始めたばっかりなんだから、そーゆー難しいことは神内くんに全部任せるよ。こう見えてもあたし神内くんのこと信頼してんだからさ」


 そう言いニッコリ笑う。俺は新城のその言葉になぜか顔中がかーっと熱くなり、「お、おう。そーか。分かった」と小さな声で返すのがやっとだった。


「では神内君、君が首を縦に振ってくれれば二人は〈八咫烏〉のメンバーになってくれるわけだね」


 と、ニッコリ顔の橘さん。


「わーお」


 橘さん……てかこの場にいる〈八咫烏〉メンバー全員にロックオンされて思わず身を引いてしまう。もし背後に椅子の背もたれがなかったら5メートルは後ずさっていたはずだ。


「……なんでです? なんでそこまで俺を勧誘するんですか?」


 こちとら万年CとDをいったりきたりしてる中ランクプレイヤーだ。橘さんはああ言ってくれてるが、Sランクチームに勧誘される程の実力なんて俺は持ち合わせちゃいない。だからこそ、その真意を覘こうと橘さんを正面から見据える。


「新城のことは……新城がチームに欲しいってんなら分かります。飛んでくるミサイルを撃ち落すなんてアニメみたいな芸当初めて見ましたし、おそらく今まで誰もできなかったテクだと思いますからね。でも俺は……俺は近接戦闘しか出来ないんですよ? いくら一対一には自信があるっていったって……チームの足を引っ張るようなヤツが必要とは思えません」


 思いをぶつけて黙り込む。正直新城の才能は凄まじいものがある。前々から射撃のセンスには末恐ろしいものを感じていたが、まさか飛んでいるミサイルを連続で撃ち落すなんて馬鹿げたテクを思いついた上、しかもぶっつけ本番で成功させるなんて思いもしなかった。しかもDollを始めて一ヶ月足らずでだぜ? きっと……いや、間違いなく新城はスナイパーとしてトップクラスの、ひょっとしたら文字通りのトッププレイヤーになるかも知れない逸材だ。今〈八咫烏〉の勧誘を断っても今日の対戦を見たプレイヤーたちから間違いなく噂は広がり、ひっきりなしに勧誘がくることだろう。


(それにひきかえ俺ときたら……)


 エネルギーブレードをぶんぶん振るうことしか出来ない独りよがりな自分に呆れ、思わずため息が出る。そんな俺を見て橘さんは隣の金髪と顔を見合わせると、二人でアイコンタクトを取り静かに頷き合う。金髪がこちらに顔を向け口を開いた。


「あー、いいかブレード使い――いや少年。俺らが少年を勧誘しているのはだなぁ、少年が必要だからなんだよ。他の誰でもない、一対一で、しかもエネルギーブレードでの戦闘にこだわり続け、近接戦闘に特化した少年の〈武御雷〉が、今の俺たちには必要なんだよ」

「だからどうし――」


 喋ろうとした俺を橘さんが手で制す。


「君もDollプレイヤーなら『戦争イベント』を知ってるよね?」

「え? ええ、まあ」


 橘さんの言う『戦争イベント』とは、確か一年前から実施されているDollの上位チームのみ参加出来るイベントだ。不定期に世界中で開催されていて、その内容はDollの運営が用意したAI機側とプレイヤー側に別れて行われる大規模対戦……いや、この場合は大戦といった方がしっくりくるかもしれない。参加機体の数は最小規模でも二百機以上。運営側と合わせると実にに数百機ものDollが広大なフィールドに入り乱れて戦争をする、ある種、全Dollプレイヤーの憧れの舞台だったりする。


 確か日本のトップチームだけでなく、世界中の国のトップチームがホスト国に招待チームとして呼ばれたりしていたはずだ。最近だとニヶ月ぐらい前にヨーロッパのなんとかって国で開催されたんだっけ。ちなみにまだこの戦争イベントで勝利した国は存在しない。


「神内君。君はその戦争イベントの本当の意味を考えたことはあるかい?」

「い、意味って――」

「話は変わるが、君は人間が人工知能に支配されてるSF映画を観たことがあるかな?」


(なんで人工知能? しかもこのタイミングで?)


 俺はいぶかしみながらも相槌を打つ。


「有名なやつなら何度か……こないだもテレビでやってましたし」

「うん。人間が創り出した人工知能に人間が支配される。これほどこっけいな話はないよね」

「ええ、まったくです」

「もしそれと同じことがいまこの世界でも起こっていたとしたら……君は信じるかい?」

「………………へ?」


 この時の俺はそうとう間抜けな顔をしていたと思う。だけど、そんな生涯でもトップクラスの間抜け面を晒している俺を、橘さんは気にするでもなく話を続ける。


「いいかい? これから話すことは他言無用だ。信じる信じないは抜きにしてね。この話をするのは僕たちにとって危険なんだ。無論、君たちにもだが」


 間抜け面を修正する間も会話を止める間もなく、深刻な顔で橘さんは語り始めた。

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