表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/35

第十四話 一人じゃない 前編

「レジェンドはまだ索敵圏外だな……新城、狙撃ポイントを探して移動してくれ。俺は周辺を探ってくる」

『分かった。無理しないでね』

「おう、新城もな。『いかにも』な感じの狙撃ポイントは避けろよ。ポイントごと〈トール〉に狙い撃ちされたらやばいからな」


 廃墟都市ステージの建造物は他のステージの建造物より耐久値が低く破壊しやすいのだ。どんなに良い狙撃ポイントを見つけてもそのポイントごと破壊されてしまう可能性もある。特訓中に何度もそう教えた甲斐があってか、新城は「うん!」と元気良く返してきた。


「狙撃ポイントについたら位置情報を送ってくれ。そしたら……アレを使うからよ」

『分かってるって。それまでは〈にゃん三郎〉のレーダーとリンクしててよね』

「おう。〈にゃん三郎〉のレーダーとリンクさせてもらうぜ。


 サブディスプレイを操作して〈にゃん三郎〉のレーダーと『レーダーを積んでいない』〈武御雷〉をリンクさせる。


「んじゃまー、いってきますか! 作戦通りいくぞ!」

『了解!』


 そう言って〈武御雷〉を通常出力で前進させる。〈レジェント〉の現在地が分からない以上半ば感で進むが、それは向こうも同じことだ。取りあえず〈にゃん三郎〉の索敵範囲にギリギリまで〈武御雷〉を移動させ、今にも崩れ落ちそうなビルの陰に潜ませる。

 俺たちの作戦。それは〈武御雷〉を囮として〈アーサー〉と〈トール〉の注意を引き付け、そこを新城の〈にゃん三郎〉が敵機の射程距離外から攻撃するというシンプルなものだ。


『神内くん。狙撃ポイント見つけたよ。場所送るね』


 新城が見つけた狙撃ポイントがマップ上で点滅していて、俺はマップにマーカーを置いてそれを記録する。


「よっし……これであとはレジェンドの位置を――」


 直後、〈武御雷〉から見て右側方向五キロ先、〈にゃん三郎〉の索敵範囲外にあるにビルが倒壊し、距離があるため僅かに遅れて爆発音が届く。廃墟とはいえ、このステージの建造物が勝手に崩れ落ちることはあり得ない。てっことはつまりあの廃ビルを破壊したのは、レジェンドのどちらかということになる。爆発音はひとつだけだったから一撃で破壊したのだろう。そしてそれだけの高火力を持っているのは佐野の機体、〈トール〉だけだ。機体構成を見る限り中距離戦しかできないであろう〈トール〉が単体で動くとは考えられないから、山田の機体〈アーサー〉も一緒とみていいだろう。


「新城、敵を見つけた! 位置情報を送る。その位置から攻撃できそうか?」

『ちょっと待ってよ、いまデータが……きた。うん。このまま真っ直ぐ進んでくるならこの位置から狙えそう。射程距離に入ったら撃つけどいいよね?』

「頼む。どっちを狙うとかは気にしなくていい。確実に当たるほうを狙ってくれ。おそらく先制攻撃になるから、どぎつい一撃を頼むぜ」

『まっかせてよ! フルチャージした一撃をお見舞いしてあげんだから!』


 そう言って新城が不敵な笑みと一緒にウィンクを返してくる。まったくもって心強い相棒だぜ。


「よっし、じゃあ作戦通りいくぜ!」


 俺はレジェンドの進行上へと先回りするべく〈武御雷〉を移動させる。広域レーダーでも索敵範囲は最大で半径ニキロだから、〈レジェンド〉のどちらかが広域レーダーを積んでたらもうそろそろ発見されててもおかしくはない。だがそれなりの重量のある広域レーダーを搭載だとか偵察だとか、他者を支援する行為を嫌う二人のことだ。きっとレーダーは頭部パーツに内蔵されているもので代用しているのだろう。攻撃編重思考の二人には、支援パーツを効果的に使うなんて考えは思い付きもしないんだろうな。例えば……こんな風に! サブディスプレイを操作して音声認識機能をONにする。


「いくぜ……ジャマー起動!」

『了解シマシタ。ジャマーヲ起動シマス』


 AIがそう返してきて左BWに搭載している筒状の物体の先端部が傘のように開き、「ヴヴヴ」という音と共に薄く光を放つ。いつもは広域レーダーを搭載している場所にあるもの……それは『レーダージャマー』だ。これを使うと妨害電波を放ち、索敵レーダーに障害を起こして搭載機とその周辺にいる機体をレーダー上から消すことが出来る。山田たちと野良チームを組んだ時、五戦目で相手チームがこれを使ってきて発見するのにえらく手間取ったのが、いまとなっては懐かしい。レーダーを積んでる敵機を効果範囲内に入れればレーダー自体を沈黙させることも出来る優秀なパーツなのだが……問題は敵味方関係なく障害を起こすため、味方の機影もレーダー上から消えてしまい、その上、通信機能も使えなくなってしまうためソロのミッションモード以外で使うやつはあまりいない。


 つまり俺のいまの状態は新城の乗る〈にゃん三郎〉のレーダー上からも消えてることになる。普段学校でクラスから消えている俺はこうしていまゲーム上からも消えた存在となったわけだ。そんな隠密スキルをDollでも発揮しつつ、次々とビルが倒壊していく方向に向かって〈武御雷〉を進ませていく。ジャマー起動に伴いジャネレーターの容量がちょっとづつ減っていくのを横目に〈レジェンド〉の進行上から僅かにそれているであろうビルの壁を連続で蹴って屋上へ登る。


「あいつらはっと…………いた!」


 眼下に恥ずかしいぐらいに金ぴかに輝く中量二脚の機体と茶色いタンク型の機体がビルを破壊しながらマップ中心部を目指して真っ直ぐに進んでいるのが見える。きっと自分たちの位置を盛大にアピールして俺を誘っているんだろう。


「みぃーつけたー」


 不敵な笑みを浮かべるとマップを見て現在地と〈にゃん三郎〉がいる狙撃ポイントを確認。もう少しで新城の射程距離だ。出来るだけ静かに〈武御雷〉を屋上から屋上へと飛び移らせて〈レジェント〉の後をつけていく。あと少し……あとちょっと……。


 そして遂に〈レジェンド〉がにゃん三郎の射程距離に入った。きっといま新城はコックピット内で倍率スコープを覗き込みながらスナイパーライフルの十字線をレジェンドのどちらかに向けているはずだ。その標的となるのは〈アーサー〉なのかそれとも〈トール〉か。次の瞬間、〈にゃん三郎〉がいる狙撃ポイントの方角から一条の光が綺麗な軌跡を描きながら走り、そのまま〈トール〉へ命中する。光は〈トール〉に吸い込まれるように消えていき、一瞬の間の後、爆発が起こり胴体部の前面装甲が吹き飛んだ。


 先制攻撃成功! フルチャージの一撃だけあって装甲版が二層はダメになっているが、重量級機体だけあってまだ装甲を残している。腕部を腕パーツと銃火器ではなく、ミサイルポッド単体にして重量を軽くした分、装甲を厚くして(おそらくは対武御雷用だろうけど)耐久値を上げているのだろう。とはいえ、いまごろ佐野のヤツは先制攻撃を受けて浮き足立っているに違いない。だが……これで終わりじゃないんだぜ!


「ジャマー解除!」


 そう叫ぶと〈武御雷〉を屋上から飛び出させ、遅れてAIが『了解シマシタ。ジャマーヲ解除シマス』と返してくる。

 アーサーとトールのレーダーには突然頭上に敵機の機影が映ったことだろう。驚いたか? 驚いただろう? 驚いてくれなきゃ困る。でも驚くのはこれからだ!


「いっくぜぇぇぇっ!!」


 自由落下していく〈武御雷〉の両手両足を広げて姿勢を制御し、狙いを定める。目標は――先制攻撃を受けた〈トール〉だ。

 〈武御雷〉に気づいた〈アーサー〉が反転して両手に装備したマシンガンを乱射してくる。その一連の行動は素早く流石はBランクプレイヤーといえた。


「ダブルマシンガンね……対〈武御雷〉用武装しては悪くない。でも……不意をついたこの状況では完全に後手だぜ!」


 二丁のマシンガンがぱぱぱと火を噴きながら吐き出す弾丸は、ことごとく落下する〈武御雷〉の上を通り過ぎて当たらない。ならばとばかりに〈トール〉のBWに搭載してるエネルギーキャノンの砲門がこちらを向く。


(くるっ!)


 考えるより早くブースターを吹かせ〈武御雷〉を空中で水平移動させると、そのすぐ脇をエネルギーキャノの奔流が通り過ぎていった。


「あっぶね! でも……これで!」


 〈トール〉の背後に着地、すぐさまブースト全快、合わせてエネルギーブレード起動し両腕にすべてを切り裂くエネルギーブレードの刀身が形成されていく。そして俺にとっては力強い、チーム〈レジェンド〉の二人にとっては凶悪な光を放つそのエネルギーブレードを、反転してこちらを向こうとする〈トール〉めがけて振り下ろす。

 狙うは――〈トール〉のミサイルポット!

 高熱の刀身が狙いたがわず〈トール〉の左腕部に装備されたミサイルポッドを切り裂く。切り裂かれたミサイルポッドが火を噴き、ミサイルに誘爆したのか〈トール〉の左腕部で小爆発が起こった。


「部位破壊いただいたっ!」


 〈武御雷〉をバックステップさせ誘爆に巻き込まれないよう〈トール〉から距離を取る。

 〈アーサー〉が〈武御雷〉に銃口を向けようとするが、〈アーサー〉の射線上には〈トール〉がいるため撃つことができずにいる。さしもの山田も、唯一のチームメイトである佐野相手にはFFをしないらしい。ぜひともいま二人がしている会話を聞いてみたいもんだ。〈アーサー〉が移動して〈武御雷〉に向けた射線を確保しようとしてくるが、


「おいおい、いいのかよ山田……相手は俺だけじゃないんだぜ」


 再び閃光が走る。フルチャージで放った銃身の冷却が終わった〈にゃん三郎〉による第二撃だ。

 〈武御雷〉に気を取られ〈にゃん三郎〉に背を向けていた〈アーサー〉は、その攻撃をまともに受けてしまい前方へ吹き飛ぶ。見ると〈アーサー〉はBWに搭載していたショットキャノンを失っていた。俺に続いて新城も部位破壊に成功したってことだ。


「ナイス新城!」

『いえーい!』


 ジャマーを解除したから通信機能が復活していて、モニターでは新城がVサインしてくる。きっと銃身が冷却中で暇なのだろう。さて、普通ならここは倒れているアーサーを狙うのがセオリーだが……ここはッ!

 〈武御雷〉を再度〈トール〉に向けて加速させ、今度はBWのエネルギーキャノンを狙う。エネルギーキャノンさえ破壊出来れば〈トール〉の火力は極端に落ちる。

 残った右腕部のミサイルポッドなんかは〈武御雷〉のチャフで一時的にせよほぼ無力化出来るからそれほど怖くはない。だからこそ今はエネルギーキャノンを狙い、〈トール〉を『移動砲台』から『動く的』へと変えてやるんだ。

 だがそこで〈トール〉予想外の動きに出た。〈トール〉に向かっていく〈武御雷〉から逃げるのではなく、むしろ迎え撃つかのようにどっしりと構え、エネルギーブレードの射程範囲に入るギリギリ外でブースターに点火し急加速するとこちらに向かって突っ込んでくる。


(体当たりかよ!)


 重量級の〈トール〉にこのままぶつかれば軽量級の〈武御雷〉なんぞ力士に吹っ飛ばされるチビッ子のように弾き飛ばされてしまう。


(ヤバイ!)


 ぶつかる直前で〈武御雷〉をジャンプさせ、更に〈トール〉の頭部を踏み台にして二段ジャンプをしてなんとか体当たりをかわす。宙に浮いた〈武御雷〉を、素早く機体を起こした〈アーサー〉が喰らえとばかりにマシンガンの雨を見舞ってくる。


「くっそぉぉ!」


 両腕を十字に交差させコックピットのある胸部を守り、機体左側にあるブースターを噴かして水平移動しながら回避を試みるが、避けきることが出来ずに何発かもらってしまう。昔マシンガンの猛雨を喰らったヤツが揺れ続けるコックピット内でゲロ吐いてたが、今ならちょっとだけその気持ちが分かる。けど、そんなことを考えている場合じゃない。〈武御雷〉を着地させ、ビルの合間へと転がるように飛び込む。いや、じっさい〈武御雷〉は何回転かし、その都度それに合わせてモニターがぐりんぐりんと天地逆転した映像を映し出す。


「こんなん映像だけで酔うっつーの!」


 流石に筐体ごと回転することはなかったが、映像に合わせてコックピットも揺れるもんだから胃から何かがこみ上げてきた。新城が「神内くん!」と叫んでいるが今は返事をする余裕はない。

 歯を食いしばって込み上げてきた何か無理やりシカトし、〈武御雷〉を後退させるべくビルの裏側へと回りこませる。その瞬間、どごん! という音と共に〈武御雷〉が回り込んだビルが崩れ始める。おそらくは〈トール〉の放ったエネルギーランチャーの一撃だ。


「くっそ、佐野のヤツ、辺り一面更地にする気かよ!」


 そう悪態をつくと〈武御雷〉を別のビルの裏側へと移動させ、ジャマーを起動させる。これで〈武御雷〉は再びレーダー上から消え、攻撃するには視認するしかないはずだ。

 また爆発音。少し遅れて倒壊するビル。どうやら佐野のヤツは本気で辺り一面更地にして〈武御雷〉をあぶり出すつもりのようだ。ジェネレータの残量を見る。これまでのブレードによる攻撃の消費に加え、ジャマーまで使ったから残りは二十パーセント程だ。このままジャマーを使い続ければ十数秒後には残量が0になり、ジェネレータの強制冷却モードに入ってしまう。さて、どうしたもんか?

 ジャマーを解除すれば佐野に見つかりビルごと撃破されるだろう。かといって強制冷却モードに入ってもジャマーは停止し、その上エネルギーブレードも使えなくなって攻撃手段がなくなってしまう。しかも冷却中は通常機動のみしかでしか動かせないから、そんな状態であの二人から逃げ切れるとも思えない。


 これは油断だ。俺は二人の性格も機体特性も知っているつもりになっていつの間にか油断していたのだ。俺と新城が対〈レジェンド〉の作戦を考えていたように、山田と佐野の二人も対〈武御雷〉戦を想定した機体構成を用意していたじゃないか。恐らくあいつらの作戦は〈武御雷〉より機体重量があることを活かして「武御雷が向かってきたら逃げないで体当たりで潰す。避けたらもう一機が撃ち落す」というシンプルなものだろう。対〈武御雷〉用の機体構成と作戦。……いまこうして俺が窮地に陥っているのを見る限り効果はばつぐんだ。


(こりゃマジでまずったな。追い詰められた)


 エネルギーキャノンが唸りビルが崩れ落ちていき、その余波を受けて〈武御雷〉が吹き飛ばされる。その衝撃でコックピットが揺れシートの硬い部分に頭をぶつけてしまった。

 頭が痛い。ぼーっとする。だめだ集中しろ。考えろ。〈レジェンド〉の二機が一緒に行動している限り〈武御雷〉一機では戦況は覆せない。逃げるため横断しようとした道路の上をアーサーのマシンガンによるけん制射撃が走り抜ける。この場から動けない。ついでに俺の隠れていたビルが爆発音と共に震える。このビルが崩れたら見つかってしまう。

 まずいまずいまずい。

 このゲームは……この対戦だけは負けちゃならない。もし負けたら新城はきっとDollをやめてしまうだろう。〈レジェンド〉の一員になるぐらいだったらその方がいいに決まってる。だからここで負けたら…………俺はまた一人になっちまう。前と同じようにまた一人でDollをやることになっちまう。新城と仲良くなる前、野良チームにすら入れてもらえなかった俺のチームメイトはAI機だった。俺の設定した通りに動くAIが操る機体だ。俺はそのチームで勝利も敗北も味わったが、喜びや悔しさを共感し合う仲間なんかいなかった。

 でも別に何とも思わなかったし、寂しくもなかった。だって一人でいることが当たり前だったから。俺が背中を預ける味方機はなく、また、俺に背中を預けてくれる味方機もなかった。だから負けたって仕方がないし悔しさも感じなかった。だって俺は一人で戦っていたんだから。 


 でも……でも今はこの勝負に負けたくない。最後の最後まで諦めたくない。

 そう思った時、きらりと閃光が走り、〈トール〉と〈アーサー〉がいる辺りで爆発が起こる。


(あの閃光は……そう。そうだった――)


 再度閃光。爆発。当たり前のことなのに追い詰められた俺はいまこの瞬間まで大切なことを忘れていた。

 いつの間にか一人で戦っているつもりでいた。


(そうなんだ。前と違っていまの俺は――、)


 〈アーサー〉のマシンガンと〈トール〉のエネルギーキャノンが〈にゃん三郎〉のいる狙撃ポイントに向かって放たれる。


(一人じゃないッ!)


 昔とは違う。

 いまの俺には新城という心強い仲間がいるのだ。

長くなったので分割しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ