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JOAT -何でも屋-  作者: 多岐川暁
Chapter.II:慈しんで宝を与える
7/30

Act.02

「安住さんはお婆様から何か聞いてないですか?」

「うーん、これといって聞いてないんだよね。最近、ここにも来てなかったし」

「何かヒントがあれば、もう少し探しやすいんだけどなぁ」

 ぼやく岸谷は既に汗だくで、首からタオルを掛けて時折汗を拭っている。ひょろっとした体型にも関わらず、やっぱり男の子でタンスなんか軽々持ち上げてしまい少しだけびっくりした。

「例えば大事にしてたものとかは?」

「お祖父ちゃんの写真くらいしか知らないかな。必ずお線香はあげてたよ」

 作業を始めて数時間、すっかり岸本とは打ち解けてしまっていた。年齢が近いこともあるが、岸本の持っている雰囲気が明るいこともある。

 何よりも、弟がいたらこんな感じだったのか、とも思ったりする。

「でも仏壇は最初に探したしなぁ」

 確かにこの部屋に入るなり、岸本は仏壇を確認して、仏壇一式を予想以上に手早く綺麗に纏めてくれた。

 一応、仏壇は持って帰って母と検討する予定にした。仏壇は無理でも位牌くらいは置くに違いない。

 そこからは押し入れからタンスから、色々物をひっくり返しては岸谷と共にゴミ袋へと詰め込んでいく。円城寺は纏まったゴミ袋を黙々とトラックへと積み込む作業をしている。

「お婆様の生活導線はどうなっていますか?」

 今までだんまりを決め込んでいた円城寺に声を掛けられて、作業していた手を止めて振り返る。

 岸谷と同じように汗だくなのに、こちらは爽やかな汗といった感じでスポーツでもした後のようだ。

 恐らく、円城寺の顔立ちが暑苦しさを感じさせないらしい。確かに整っ

ているし、目の保養にもなる。

「祖母が寝る部屋から始まって洗面所で顔を洗って、台所で過ごす感じだったと思います。最近は足も悪かったのでそんなに動いたりはしなかった筈ですけど」

 しばらく考えた様子だった円城寺は、不意に動き出しその姿を扉の向こうへ消した。

「あー、多分、何か考えついたんだと思うんで、放って置いてやって下さい」

 笑いながら言う岸谷の言葉に肩を竦めて見せれば、岸谷は再び片付けに戻る。

「それにしても、シガーケースを遺言状に書いてまで残すって珍しいですね」

「私が喫煙者だからだと思うんだけど……あれかな、祖父の忘れ形見とか」

「お爺様もタバコを?」

「記憶にあるのは葉巻かな」

 私の記憶にある祖父はタバコを吸っていた記憶はない。ただ、時折葉巻を楽しんでいて、子供心にその香りが好きだった覚えがある。勿論、私の近くで吸っていると祖母に怒られてもいたが……。

「葉巻とタバコは違うものだってことはわかるけど、形の違いしかわからないんだよな」

「タバコがニコチンを楽しむものなら、葉巻はどちらかと言えば香りを楽しむもの。だから葉巻の場合はふかすだけだし」

「吸うとふかすの違いがそもそもわからないし」

 どうやら岸谷は一度もタバコを吸ったことがないことは会話からわかる。まぁ、確かに岸谷には余りタバコは似合いそうになかった。

 それからも雑談をしながら手を動かしていたが、三十分もした頃だろう。

「久住さん」

 名前を呼ばれ振り返れば、そこには円城寺が立っていた。そして手には巾着袋を持っている。

「捜し物の一つはこれかと」

 差し出された巾着袋を開ければ、そこには銀行の通帳と判子、そして一枚のメモが入っていた。

「これをどこで?」

「米櫃の中にビニール袋に入っている状態で埋められてました」

「米櫃? え、なんでそんな場所に……」

「足が悪いとのことでしたから、自分の目の届くところに置くことを考えたのだと思います。でも食器棚というのは安易なので、米櫃の中に隠したのだと思います」

 確かにある意味想像できない場所だからこそ安全とも言える。ただ、どうして円城寺が米櫃にあるなんてことに気づけたのか、そちらの方が不思議でならない。

「米櫃なんてよく思いつきましたね」

「汚れが目立ったんです。米櫃は流しの下の棚にあったんですが、棚の持ち手が他の場所に比べて汚れが目立ったんです。恐らく何度も確認していたのだと思います」

 汚れなんて、あぁ、汚れてるなー、程度で深く考えたこともなかったが、そういう考え方もあるのかと感心してしまう。

 早速袋の中から目についたメモを取り出し二つ折りの紙を開いてみる。メモにはマツシタという名前と電話番号が書いてあるだけで他には何もない。

 少なくともマツシタという名前を祖母から聞いたことがない。ただ、ここに入っているということは何か繋がりがある人なのだろう、ということはわかる。

 続いて通帳を開いてみれば、光熱費などが引き落とされた数字が綴られている。でも、光熱費などが続く中で、毎月三十万円を現金で引き出しておりお隣のお婆ちゃんから聞いた話しが蘇る。

 ——やっぱり、詐欺にあってたのかも……。

 そう思ったところで、今さら確認することもできない。

 年金や保険などの入金もあるが、毎月三十万降ろすことで預金残高はほぼ空っぽの状態だ。

 ただ、あの祖母が詐欺にあって黙っているとは思えない。だからと言って三十万を生活費として使ったとも思えない。基本的に祖母は質素な生活を好む人だったから。

 ふと先ほどのメモを思い出し、再び袋の中からメモを取り出す。

「どうかしましたか?」

「いえ……あの、もう一つ依頼をお願いしていいですか?」

「えぇ、できることでしたら」

「この番号の人を調べて欲しいんです」

 そう言ってメモを差し出せば、一旦メモを受け取った円城寺はすぐに岸谷へとメモを渡す。すると、すぐさまスマホを取り出した岸谷はその番号に電話を掛け始めてしまう。

「え?」

 慌てて声を掛けようとしたが、岸谷は唇に人差し指を当てて静かにしていろと牽制する。落ち着かない気分で岸谷を見ていれば、相手が出たのだろう。

 だが、一言、二言で電話を切ってしまった。

「あの……」

「とりあえず、分からない場合は一度掛けてみて、相手がいるならそこから調べるのがセオリーなんだ。まぁ、最初から詐欺の疑いがあるならこういうことしないけど、今回、名前まできちんと書いてあるし、ほら、恐らくお婆様も何度もかけてると思う」

 そう言って岸谷がメモを指さす。よく見れば、何度も握ったのかそこは指の形に皺が寄っていた。

「で、どこに繋がった」

「児童保護施設。隣の区になるけど、そこに児童保護施設に繋がったよ。ちょっと待ってて」

 円城寺の問い掛けにそれだけ言うと、岸谷は再びスマホを弄りだし一分ほどの時間が過ぎる。

「多分、ここに書いてあるマツモトさんはこの人だと思う」

 そう言ってスマホを突きだしてきた。そこにいるのは五十代くらいの男性で、隣の区の児童保護施設のセンター長代理となっていた。

「あ、名前が幸典……」

「え? 名前?」

「あ、隣のお婆ちゃんがユキさんっていう五十代くらいの男の人がうちに出入りしてたって。通帳から毎月三十万も現金引き出してるから詐欺にあったのかと思って……」

「五十代ならこの人だろうな。一応、これを持って隣の人に確認してみてくれる? もし違うならきちんと調べ直すから」

 そう言ってスマホを渡され、それを受け取るなり私は隣の家へと駆け込んだ。

「お婆ちゃん、綾だけどいる?」

「はいはい、どうしたの?」

 奥の部屋から出てきたお婆ちゃんにスマホの写真を確認して貰えば、お婆ちゃんの言っていたユキさんと同一人物だと分かった。

 とって返すように家に戻れば、のんびりとした様子で二人が待っている。

「やっぱりそうだった! あれ? でもそしたら騙されたって訳じゃないの?」

「それは自分で電話して聞いてみるべきじゃないかな。その松下さんに」

 そう言って岸谷が指さした先には、スマホに映された松下の写真だ。持っていたスマホを岸谷に返すと、すぐに自分の携帯を取り出す。

 途端に円城寺は部屋を出て行ってしまい、岸谷も視線を合わせれば笑う。

「俺も廊下をちょっとやってる。何かあったらすぐに呼んで」

「わかった」

 返事をすれば岸谷も部屋を出て行ってしまい、物置と化した部屋に一人残される。物置といっても、すでに三分の一は片付いて空間ができている。

 壁に寄り掛かるとメモ書きの電話番号を入れて携帯を耳にあてた。ワンコールで相手は電話に出ると、岸谷が言うように児童保護施設だと名のる。

 名前を言って松本に代わって貰うように伝えれば、保留音の後十秒もしない内に相手が出た。

「もしもし、お電話代わりました。松本です」

「私、久住キヨの孫で綾と申します」

「あぁ、キヨさんのお孫さん。えぇ、キヨさんからお話を聞いてますよ。実はキヨさんと連絡が取れなくて何度か足を運ばせて頂いたんですよ」

「その、祖母は一週間ほど前に亡くなりまして」

 途端に相手が言葉を詰まらせると、ゆっくりと息を吐き出す音が長く聞こえた。

「そうですか……キヨさんが……」

 トーンの落ちた松本の声は本当に落胆した様子だった。

「その……ご愁傷様です。そうですか、キヨさんが……実はキヨさん、うちに何度も寄付を頂いていて、私も何度かキヨさんにお会いしに自宅の方へ伺わせて頂きました。本当に優しくしっかりした方で、あなたのことをよくお話になっておられました」

 ポツポツと語る口調からは、悲哀が伝わってきて本当に松本は祖母が亡くなったことを悲しんでくれていることがわかる。

「今、綾さんはご自宅に?」

「いえ、祖母の家です」

「今から一時間程で伺いますので、お会いすることはできないでしょうか。実はお預かりしているものがあるんです」

「祖母からですか?」

「えぇ、もしもの時はあなたにお渡しするようにと」

 唐突ともいえる申し出に面食らったが、今であればあの二人もいる。いざとなれば立ち合って貰うことも可能だ。

 了承の返事をして四時に会うことを約束すると松本との電話を切った。ポケットに戻し扉を開ければ、少し離れた場所で岸谷が本類をビニール紐でまとめていた。

「電話終わったよ」

「どうでしたか?」

「うん、何かお祖母ちゃん施設に寄付してたみたい。別に騙されたとかじゃなくって良かった」

「そっか。心配事減ったじゃん!」

「でも、四時にその松本さんがここへ来るって言ってるんだけど……何か預かってるものがあるとか……」

「預かってるもの? もしかして久住さんのお婆ちゃんが言ってたタバコケースってやつじゃないの?」

「どうだろう。でも、それなら助かるかも。あとはいらない物を捨てていくだけだし」

「どっちにしても五時まではいる契約だし、松本さんと話した後、どうなったか聞かせて貰えばいいよ」

 そう言った岸谷に少しだけ躊躇しながらお願いを伝えた。

「あのさ、できたら……」

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