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JOAT -何でも屋-  作者: 多岐川暁
Chapter.VI:シンデレラ症候群
23/30

Act.02

「ここ……ですか……」

 思わず呆然と呟いてしまったのは、目の前にある見上げた建物が余りにも予想外のものだったからだ。

 車に揺られ眠りについてしまい、起こされた時には鬱蒼とした緑が生い茂る場所でフクロウの声も聞こえる。

 ただ、まだ夜が明けていないことからさほど都心から離れていないことはわかる。

「そう、ここ。中はこの間綺麗にしたから大丈夫だよ。こっち」

 先ほど渡された懐中電灯を頼りに岸谷の近くまで歩いて行くと、待っていた岸谷も建物の玄関に向かって歩き出す。

 よく言えばログハウス。けれども、蔦が絡まり余りウッドが見えないこの状態でもログハウスと言っていいのか分からない。

 岸谷が扉を開け、壁際にあるスイッチを入れると部屋の中に煌々と明かりが灯る。

 確かに岸谷が言うように中は普通だった。

「料理は作れる?」

「……材料があれば」

「んー、じゃあ、昼までに材料を用意するよ。とにかくここから出ないようにしてね。寝室は上に三部屋あるから好きな場所使って構わないから」

「え? 一緒にいて下さる訳では……」

「ごめん、俺たちも他に仕事あるし、さきの件も気になるから。それに、俺たちと六条さんが会ってることは既にホテルでバレてるから、俺たちまで雲隠れする訳にはいかないんだ。昼には一度顔出すから待ってて貰えるかな」

 それは問い掛けというよりも了承の言葉しか待っていないもので、不安はあったけど頷くしかない。

「一応、パンと野菜は冷蔵庫に入ってるから。それじゃあ、また後で」

 それだけ言うと、岸谷は慌てた様子で部屋を出て行った。車のエンジン音が遠ざかると、再びフクロウの声が聞こえてきて、酷く落ち着かない気分になる。

 とりあえず室内を見て回れば、一階にはキッチンと大きなリビング、トイレ、バスしかない。ただ、大きなリビングはサロンコンサートを行える作りになっており、大きなグランドピアノも設置されていた。

 続いて二階に上がれば、岸谷が言うように三つの部屋があった。どこもシンプルな作りながら、置いてあるベッドや机はそれなりに高価なものだと分かる。

 どこにも埃はなく、確かに人の手が入った後のように綺麗ではあった。その中の一つを自分の部屋と決めると、一旦一階へ戻り必要な物だけ取りだし再び二階に上がる。

 本当ならトランクケースごと二階に持って上がりたい心境だったが、さすがに一週間分の荷物を入れたトランクケースを二階に持って上がるのは無理だった。

 部屋の中で着替えると眠気もあり、早々に電気を消してベッドに横になってしまう。時計を見れば二時を回っていて、普段なら既に眠っている時間だった。

 すぐさま眠りは落ちてくる。そして落ちる直前までいって、大きな物音で飛び起きた。

「な、なに?」

 外から聞こえてくる音に思わずカーテンを開けて窓の外を見れば、かなり離れた場所でゆらゆらと揺れる灯りが見える。

 それは先ほど手にしていた懐中電灯と同じ動きをしていて、一瞬にして血の気が引いた。

 もう見つかってしまったのかと思ったが、あちらこちらに動く様子からこちらを見つけた訳ではないことが伺えた。

 部屋の明かりをつけることなくベッドサイドに置いた懐中電灯をつけると、慌てて階下に降りる。

 まず最初にやったことは玄関の鍵を掛けることだった。階段を下りた正面にある両開きの扉の鍵を閉めると、かんぬきを掛ける。

 それから慌てて一階の部屋の電気をひたすら消して回る。

 とにかく見つかりたくない一心で電気を消し終えると、今度は隙間のあるカーテンが気になり各部屋のカーテンを確認して歩く。

 暗闇は怖い。一層のこと、こんなところに一人でいるくらいなら、家に戻った方がいいと思ったのは一度じゃない。

 カーテンを全て閉め終わった後は、ただひたすらリビングのソファの上で膝を抱えて蹲っていた。

 小さな物音にも身を縮ませ、緊張で掌に汗が滲む。時折細い光りが差し込んでくると、すぐさまソファの陰に隠れた。

 フローリングの固い床。でも、再び光りが差し込んできて見つかったら、と思うと動くことはできなかった。

 ただひたすら夜が明けるのを待つ。

 フクロウの声、聞いたことのない鳥の声、時折唸り出す冷蔵庫のモーター音、その全てにビクビクしながら過ごしていた。

 それでも、カーテンの隙間から薄明かりが差し込み、徐々にその明かりが強くなると緊張感も緩んだのか意識が飛んでしまった。


「……さん! 六条さん!」

 軽く頬を叩かれる感覚に目を開ければ、目の前にいたのは円城寺だった。

「……何で」

「ここへ来たらあなたが倒れていたんです。一体何があったんですか?」

「何か……外に人の気配があって……」

「外? 外には誰もいませんでした。一体、何故ここで倒れていたんですか?」

 円城寺の腕に横抱きにされ、そのままソファの上に横たわると改めて緩く息を吐き出した。

「夜、岸谷さんが帰られた後、窓の外で懐中電灯のような明かりがチラチラしてて、追っ手がきたのかと……そういえば、昨晩の件は」

「あれは今回の件とは関係ありませんでした。なので詳しい説明はできませんが、あの男はしかるべき所で引き渡ししました」

 しかるべき所とはどこなのだろう。まるで昔読んだ小説なようなことを考えてしまい、まさかと否定する。けれども、余りにも怒濤の出来事に思わず怯えた気持ちで円城寺を見上げた。

「まさか、殺されたりしてませんよね、あの人……」

 思わず口にした事に円城寺は僅かに目を見開く。そして、背後から派手な笑い声が聞こえて振り返る。

「余りにも予想外のこと言われてごめん、笑うつもりはなかったんだけど。大丈夫、きちんと警察に引き取って貰ったから」

 そう言ってテーブルに見たことないパンと紅茶を置いた。でも、笑われた私としては恥ずかしくて顔も上げられない。

 確かにそんなことは小説だけの話しで普通に転がっている話しじゃない。

「とりあえず、昨日約束した通り、冷蔵庫に材料は入れておいたから適当に使って構わないよ。あと、これはパン屋さんで買ってきた朝食。具合悪いとか気分悪いとかある? 一応薬もあるけど」

「大丈夫です」

「あー、形崩れちゃったね」

 そう言って岸谷は指を伸ばしてくると私の胸元に触れた。正確に言えば、胸元についていた小さなマーガレットが束になったコサージュに僅かに触れた。

 お気に入りのそれは、茎があちこちにひしゃげ、花びらも形崩れしている。

「大丈夫です。中に針金が入っていて整えられますから」

「ごめんね。俺が説明不足だったから怖い思いさせちゃったんだろ。とりあえず、俺が円城寺が一日に一回は必ず顔を出すから。とりあえず、これを食べて元気出そう」

 促されるままに紅茶に口をつければ、はちみつの入った紅茶は程よい甘さを舌に伝えてきた。

 見たことないピザのようなパンを食べれば、一度焼いたのか端はカリカリとして美味しい。何よりも香ばしい香りが食欲をそそる。

「家の方の様子も見てきました」

 円城寺の声にパンを口に運ぶ手が止まる。勢いよく円城寺を見れば、その表情からは何も伺えない。

「警察が出入りして騒ぎになっている様子でした」

「警察がなんで? 家で何かあったんですか?」

「六条家の一人娘がいなくなったとなれば警察も動きます」

「まさか……」

「六条家というのはそういう家柄です。犯罪者にはなりたくないので、くれぐれもここからは出ないで下さい」

 円城寺の言葉に頷きはしたものの、まさかそんな大事になるとは考えてもいなかった。円城寺は犯罪者になりたくないと言っていたが、もしかして私が見つかれば円城寺たちに迷惑が掛かることになるのだろうか。

 そこまで考えて、ようやく自分が安易なことをしでかしたことに気づいた。

 常に身の回りに監視の目があり、友人と遊ぶのにもSPがついて回って来た。でも、それだけ危ないことがある、という意味でもあったのだろう。

「わ、私……」

「とにかく一週間ここにいれば大丈夫だから」

「でも、あなた方は」

「別に一週間後に俺たちに頼んだことを言ってくれたら犯罪者にはならないよ。という訳で、きちんと説明してね。いまのところ、俺たち誘拐犯だから」

「ごめんなさい!」

 勢いよく頭を下げて謝れば、岸谷はまるで何でもないことのようにいいよ、と笑う。円城寺も気にした様子はない。

 一歩間違えれば犯罪者になってしまうのかもしれないのに、それでも匿ってくれることが本当に嬉しかった。

 お礼を伝えれば、円城寺は相変わらずだったが、岸谷は満面の笑みを浮かべた。

 家の情報を少し教えて貰い、翌日も昼頃に来ることを聞いた。外にいた人たちも近所の人たちが防犯で見回っているためだと聞き安心した。

 再び一人取り越されたが、先ほどのような不安はない。のんびりと夕食用にシチューを作ると、夜まで読書に勤しんだ。

 とも言っても私が持ち込んだのは一冊の本だけだ。ゆっくりとページを捲り、日が翳り始めると、今度は用意されていた炊飯器でご飯を炊く。こういう時、料理を習っておいて本当に良かったと思う。

 のんびりとした時間の中で風呂も済ませ、夕飯を食べて眠りに落ちる。それは非日常だけど、のんびりとした一日でもあった。

 夜になると普段は聞こえない自然の音に怯えたりもしたけど、前日に余り寝ていないことが響いたのか、その日はゆっくりと眠った。

 ただ、翌日、昼を過ぎても二人が現れることはなかった。もしかして、誘拐で捕まったりしているのではないのかと心配したが、二人は連絡することを止められていた。

 元々、携帯は家に置いてきたし、この家には電話がない。そして家から出ることも禁じられている。何よりも、それをしたがためにあの二人に迷惑を掛けることが嫌だった。

 ゆっくりと夜が更けてくる。

 簡単にサンドウィッチで済ますと、すっかり定位置になっているリビングのソファに座り込むとクッションを抱えた。

 別に昨日と変わらない夜なのに、あの二人が来なかっただけで酷く不安になっている。

 もしかしたら急な仕事が入って来られなかったのかもしれない。そう思うけど、不安はどうしても拭えない。

 落ち着かない気分で紅茶を淹れようと立ち上がった瞬間、部屋中の電気が消えた。

「……え?」

 立ち止まり辺りを見回すが、先ほどまで電気の明かりに慣れていたため視界が利かない。ただ暗闇の中でカップを手にしたまま一人呆然と立ちすくむ。

 不意にガンガンと扉を叩く音が聞こえて、その音の激しさにカップを取り落とす。

 派手に割れるカップの音で扉を叩く音は一瞬止んだが、さらに扉を叩く音は強くなる。

「……もう、や……」

 その場で耳を塞いで蹲ると、恐怖のため震える身体で縮こまる。もう、パニックになった私はどうしていいのかわからなかった。

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