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JOAT -何でも屋-  作者: 多岐川暁
Chapter.IV:どうしても欲しいもの
16/30

Act.03

 警察署内の応接室でお茶を飲んでいれば、先ほど出て行った西垣が再び戻ってきた。

「円城寺さんが言った通りあるそうですよ、監視カメラ。いまうちの捜査員が映像を確認しに行きました。よく分かりましたね」

「うちの岸谷の助言です」

「あぁ、彼ね……よく働くんじゃないですか?」

「さぁ、どうでしょう」

 薄く笑う円城寺と、にこやかそうに見えるおじさん刑事の会話はどこか上滑っている。

 ダサ眼鏡に興味はないけど、これで私の容疑が外れるならお礼の一つくらいは言ってもいい。

 いや、むしろ円城寺がダサ眼鏡に頼んで私の容疑を晴らしてくれた、というのが正しいのだろうから、やっぱり礼は円城寺に言うべきかもしれない。

 帰りに寄ろうとピックアップしてきたカフェを幾つか思い浮かべながら、ちぐはぐさを感じる二人の会話を耳にしながら聞いていなかった。

 あそこのケーキは美味しいけど今日は甘い物という気分じゃない。だとしたら、やっぱりあっちの店の方がお勧めかな。紅茶が美味しいし。

 そんなことをダラダラ考えていればおじさん刑事の電話が鳴る。幾つか返事をすると短い遣り取りで電話を切った。

「手嶋さん、あなたでないことは証明されました。刺した人物の顔も割れたらしいので、そちらを調べていく上でまたお話を聞きに行くこともあるかもしれません。その時にはご協力をお願い致します」

 面倒くさいから協力なんてお願いされたくない。けれども、協力するたびに円城寺に連絡を入れたら今回と同じように一緒にいる時間ができる。

 そう思えば笑顔で返事をしていた。

 西垣に見送られながら警察署を出ると、円城寺の車近くでダサ眼鏡が待っていた。

「お疲れさん。どうだった?」

「褒めてたよ。西垣さんが」

「うぇ、勘弁してくれよー。あの人怖いし」

「まぁ、大丈夫だろう」

 二人で会話をしていたが、不意にダサ眼鏡がこちらに会話を向けてきた。

「お疲れさま。恐らくこれで何もないと思うよ」

「有難うございます。円城寺さんも本当に有難うございました」

「うん、相変わらずで安心するよ、あははは」

 そう言うダサ眼鏡を放置して円城寺の言葉を待てば、円城寺は小さくため息をついた。

「送ります」

 そう言って円城寺が扉を開けたのは助手席だ。そこへお礼と共に乗り込むと円城寺がダサ眼鏡に声を掛ける。

「トオル、後ろからついてこい」

「わかった」

 いや、帰れ。そのまま迷子になれ。とか思ったけど、そんなことは口にできない。ダサ眼鏡が歩いて自分の車へと戻る。

 意外なことにダサ眼鏡もスポーツタイプの車に乗っていた。とは言っても円城寺とは違いSUVタイプのものだ。グレーのメタリック車体が日光の光りで鈍く光っている。

 ダサ眼鏡がエンジンを掛ける。それからようやく円城寺は運転席に乗り込むとエンジンを掛けた。

「自宅で宜しいですか?」

「えぇ、お願いします」

 今度はしっかりと言われる前にシートベルトもつけている。円城寺はそれを横目で確認するとゆっくりと車を走らせ始めた。

 走り出して三分。お互いの間に会話はない。車の運転が好きらしい円城寺の邪魔をしたくなかったから私からも話し掛けなかった。

 でも、そろそろ目的地も近い。だからこそ、私は改めて口を開いた。

「そういえば、次の依頼についてお話したいと思っているんですけど」

「そうですか」

 途端に路肩へ車を停めようとする円城寺に慌てて、少しさきに駐車場つきのカフェがあることを伝える。小さくため息をついた円城寺はウィンカーを消すと、私が言った場所へ向けて車を走らせる。

 やっぱり運転が好きだから目的地を途中で変更されるのは嫌だったのかもしれない。

「ごめんなさい」

「気にしないで下さい」

 少し固い声が不機嫌さを現しているようで肩身が狭い。でも、私の好きな店で紅茶を飲めば幸せな気分になれると思う。

 鞄の中からスマホを取り出すついでに、用意していたピアスを足下に落とす。恐らく仕事関係で女を車に乗せることも多い筈だ。そういう時の牽制になればいい。

 そんなことを思いながら、スマホでメールを確認するフリをする。

 そこから数分しない内に店の駐車場へと到着すると、隣にダサ眼鏡の車も停まる。よく見ればダサ眼鏡の後部座席は全て黒いフィルムが貼られて中が見えないようになっている。

 エンジンを停めた円城寺はすぐに車を降りてしまい、窓を開けたダサ眼鏡と何か話している。その間に円城寺の車から降りれば、ダサ眼鏡もエンジンを停めて一緒に降りてきた。

 どうやらダサ眼鏡も一緒に行くつもりらしい。邪魔だと思うけど円城寺が声をかけたなら仕方ない。

 出入り口では円城寺が扉をあけてくれて、三人揃って店に入った。窓際の席に案内され、円城寺とダサ眼鏡が隣同士に座る。

 そして円城寺の前に座った私はメニューを開く。三ページに渡る紅茶の種類。それに喜んだのはダサ眼鏡だ。でも、その横で円城寺の反応も悪くない様子で少しだけホッとする。

 結局、私とダサ眼鏡がケーキセットを頼み、円城寺は紅茶だけを頼んだ。やっぱり甘いものは余り好きじゃなかったらしい。

 ここに来て正解だったと思いながら、最初に運ばれてきた水に口をつける。

「そういえば、トオル昨日買った物どうした」

「は? あぁ、あれは倉庫に片付けたけど、なに? 必要なの?」

「いや、すぐには必要にはならないと思うが、一応わかるところに片付けておけよ」

「えー、面倒くさいなぁ」

「文句ばかり言うならあの倉庫ごと破棄するぞ」

「ごめんなさい、片付けます。今日にでも片付け始めます」

 ペコペコと頭を下げるダサ眼鏡に対して、円城寺は薄く笑っている。てっきり円城寺は寡黙なのだとばかり思っていたが、どうやらダサ眼鏡相手では違うらしい。

 円城寺の声を聞けるという意味で、初めてダサ眼鏡の存在価値を認めたい気分だった。しかも、円城寺の口調が私に対するよりも砕けた感じで新鮮だ。

 今まで邪魔だと思っていたけれども、これならダサ眼鏡を少しだけ格上げしてやってもいい。

「仲が良いんですね」

「へ? あぁ、仲が良い、うん、まぁ……あー、コウとは大学時代からの付き合いだしね」

「そうなんですか?」

 答えたのはダサ眼鏡だったけど問い掛けたさきは勿論円城寺だ。だけど私の質問に円城寺は頷いただけで言葉はない。

 会話の途切れた瞬間、まるでタイミングを図ったかのように紅茶とケーキがテーブルに並べられる。

 早速運ばれてきたミントアイスティーに口をつければ、涼やかな香りと味が口内に弾ける。二口、三口と飲んだ後、私はようやく本題を切り出した。

「この間の依頼をお願いする時にも言ったんですけれども、できたら家の草むしりをお願いしたいんです」

「大変申し訳ありませんがお断りします」

 それはまるで最初から決めていたかのような早い回答だった。その余りの早さに、内容を理解できないくらいだった。

 だが断られる理由がわからない。もしかして、事件が解決するまでは依頼を受けられないということなのだろうか。確かに殺されたのは私のストーカーだったけど、今日で問題はなくなった筈だ。

 それとも逆に、依頼などしなくても気軽に用件を受けてくれるというくらい、自分たちの仲が縮まったということなのか。

 そう考えた途端、鼓動が早くなり、感覚がふわふわとしたものになる。高揚感。それを感じて、思わず笑顔になってしまう。

「何故ですか?」

「はっきり言うと、無駄に仕事をさせられることが嫌なんです」

 初めて円城寺がにっこりと笑う。その笑顔に熱が上がる。

「勿論、お金は払います」

「えぇ、でも依頼で縛り付けられるのは嫌なんです。あなたは期待しているみたいですけど……あなたを好きになったりしませんよ。そもそも女嫌いなんです」

 言葉が脳に伝わってくるまで、随分と間があったように感じる。

 円城寺ほど顔の整った男であれば、言い寄る女も多かったに違いない。確かに面倒に感じるのかもしれないが私は違う。

「そんなの私が」

「容姿にしか自信のない女性は大嫌いなんです。それに今、恋人がいますから間に合ってます」

 笑顔できっぱりと拒絶されたが、聞き捨てならないことがある。

「……女嫌いなのに恋人ですか?」

「別に恋人が女とは限らないですよ」

「まさか……」

 思わず円城寺の隣に座るダサ眼鏡に視線を向ければ、こちらを見ていた男はゆるりと視線を逸らした。

「おい」

 低い円城寺の呼びかけでダサ眼鏡が渋々という顔をして再びこちらに顔を向けた。

「まぁ、そういうことで……その、申し訳ない」

 ほとほと困ったという顔をしたダサ眼鏡はテーブルに手をつくと頭を僅かに下げた。

 本気でありえない。円城寺のような綺麗な男がこんなダサい男と付き合うなんてありえない。

 むしろ、この男が円城寺を脅して付き合っているとしか思えない。

 そう、この男がいなくなれば————。

 指先に触れたそれを掴むと、勢いのままに目に映る手の甲に突き刺した。

「ガッッ! ……つっ……」

 人間とは思えない声を上げる男の手の甲から血が流れる。だがそれを引き抜くと、さらに振り上げた。

「止めろっ!」

 手首を掴まれるが、なりふり構わず暴れるが掴まれた腕が離れることはない。

「トオル! おい!」

 店内で上がる悲鳴。円城寺の声。倒れるカップとグラス。広がる血の色。情報の波の中、手首を掴む円城寺の掌がやけに熱かった記憶を最後に意識は薄れていった。

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