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第5話「一ヶ月のリミット」a

 転送装置(ワープ・デバイス)を開発した農業立国が、「アークポリス」と改名する前――、各先進国達は国産の転送装置(ワープ・デバイス)を製産しようと必死になった。

 それまで量子や原子を瞬間移動(テレポート)させるような装置は幾度も造られてきたが、物資のような巨大なものを転送させる段階には至っていない。いわんや人を転送させるなど遠い未来のことだと科学者達は思っていた。

 転送装置(ワープ・デバイス)が世に現れるまでは――

 数年前の隕石の落下により甚大な被害を被った農業立国の復興支援に出掛けていった、各国の技術者達がその驚くべき性能を母国へ報告した。

 それまで先進国が主として研究していたのが、瞬間移動(テレポート)を応用した、瞬間移動装置(テレポーター)である。原子レベルなら瞬間移動させることが可能になっていた当時、科学者達は物体の瞬間移動に熱を上げた。

 これは極めて危険な方法だった。物体を原子レベルにまで“分解”し、一斉に瞬間移動、転送先で“再構築”するというものだからである。開発に手こずったのは、この“分解”と“再構築”。分解するだけでも大変だというのに、それを再構築するというのは極めて難しいことだった。下手をすれば、全く別種のものへと作り変えてしまうおそれがある。この問題に科学者達は頭を悩ませた。

 そうして開発が停滞した所へ現れたのが、転送装置(ワープ・デバイス)だった。

 壊滅状態にある発展途上国の産物ということで、どの国もその話を信用しなかった。復興支援から戻ってきた技術者達の話では「真実」らしいが、彼ら全員がその後家族を連れて移住したところを見ると、何か裏があると皆が疑っていた。

 とはいえ、相手は復興の見通しが付かない国だ。“寄付”という形で買ってやるとしよう。そう思って憐れみで装置を購入する先進国達。二つで一セットのこの装置は、値段十万ドルと大きく出た。先進国達は次々と購入していった。これで少しは財政が立ち直るだろう、どれ試してみるか、と装置を起動すると――、ちゃんと機能していたことに各国の研究者が愕然とした。

 すぐさま、研究チームが組織され、研究者達はこの転送装置(ワープ・デバイス)の構造を明かそうとした。明らかにすることで瞬間移動装置(テレポーター)を完全なものへと出来ると信じて……。

 しかし転送装置(ワープ・デバイス)は研究者達の想像を超えていた。

 それは転送方法だ。物体を原子に分解して、目的地で再構築する瞬間移動装置(テレポーター)とは根本的に違う。二つで一組の転送装置(ワープ・デバイス)は空間を直接ねじ曲げて、一方からもう一方へと強引に繋げるという、何とも豪快な方法だった。

 ただここで一つ疑問が。

 当然の事ながら空間をねじ曲げるというのは、計り知れないほどの膨大なエネルギーを要する。転送装置(ワープ・デバイス)はどのようにしてそのエネルギーを得ているのだろうか……。

 研究者達は転送装置(ワープ・デバイス)の解体作業を行った。もしかすれば内部に大出力の発電機のようなものが搭載されているのではないか、と考えたのだ。

 だが、その考えは外れた。

 転送装置(ワープ・デバイス)に搭載されていたのは、幾つかの制御装置と“エネルギー受信機”だけだった。

 つまり転送装置(ワープ・デバイス)の消費する膨大なエネルギーは、別の場所から転送されていたことになる。

 「エネルギーの元手は何だ?」や「エネルギーを転送するのに消費するエネルギーはどこから?」といった新しい疑問が次々と浮かび、研究者達は朝夜問わず研究を続けた。しかし、なかなか成果の出せない研究チームに政府は業を煮やし、研究予算をカット。さらには国産の転送装置(ワープ・デバイス)の開発を凍結して、全て輸入することを決定した。

 次々と開発を断念していく先進国達。転送装置(ワープ・デバイス)を自国のブランドとして開発し、高い技術力をアピールすることはついに出来なかったのだ。

 あれから百数十年経った今でも、転送装置(ワープ・デバイス)の謎は解かれていない。






 一滴、水の滴る音が部屋に響く。

 うっすらと目を開けてみると、薄暗く、冷たい空間が広がっていた。

 明かりは真上を揺れている白熱灯くらいなもので、周りが見えない。一寸先は闇、とはいかないまでも、見えないことには変わりはない。ちょうど忍者との戦闘を思い出させた。

「ここは……」

 どこだ、と言おうとしたところで、上半身を裸にされていることに、さらには腕の動きが上手く取れないことに気付く。ガチャガチャと後ろから聞こえてくる金属音。首を少し後ろにまわして見てみる。……なるほど、両手共に手錠で繋がれている。

 今度は脚を動かしてみるが、こちらも同様。座らされているパイプ椅子の脚にしっかりと固定されている。四肢共に拘束されているのだ。

 どうしたものかな……。

 辺りを見渡してみても、誰もいない、というより見えない。

 何も出来ないのでは、どうしようもない。無駄に体力を消耗させないためにも、じっとしていることにした。

 そんな時、脳裏に先日の出来事が浮かんできた。






「この教会はすでに包囲した。今すぐに武器を捨てて投降しろ」

 野太い男の声がスピーカーから流れてくると同時に、ゲートから治安隊の隊員達がなだれ込んできた。全員、ヘルメットと防護服、楕円形状のシールド、電撃棒(スタンスティック)を身に付けている。全て対テロ装備だ。

 皆、こちらへ、じりじりと向かってくる……!

 マイティ達は彼らに見られないように、風穴から離れ、柱の陰に姿を隠す。

「まずいな……」

 マイティは舌打ちをする。最悪なタイミングだ。

 ただでさえ、テロに対してはピリピリしている連中だ。もし対面してしまえば、テロの容疑者として連行されることは間違いない。

 なら、こちらの身分を明かして、見逃してもらうのはどうか……。これはたぶん無理だろう。こちらは裏仕事に手を汚している身分で治安隊とは犬猿の仲だ。依頼でテロを実行したのだろう、と決め付けられて、そのまま独房にぶちこまれるのがオチだ。

 またそうなった場合、特務零課に身柄を引き取ってもらうことも期待できない。

「おい、どうするッ!」

 オルカが青ざめた顔でこちらを見てきた。

 どうすると聞きたいのはこっちだ、と叫びたいのを我慢しつつ、マイティは必死に考える。

 もし今、自分一人なら教会に立て籠り、脱出の隙を窺うだろう。無論、治安隊には何人か死んでもらう。

 だが、今は三人だ。一人と違って、余計なことまで考えなくてはいけない。しかも一人は重傷。よりによって戦闘能力の高い方が手負いとは……。

 この場合、どんな行動がよりベターか。

 すぐに答えは脳裏に浮上してきた。マイティはすぐさま指示を出す。

「取り合えず、隠れるぞ!」

 まずは作戦会議だ。そのためにも、少しでも時間を稼げるような場所へ移動した方がいい。

「どこへ隠れるつもりだ?」

 そうだな、とマイティは腕を組む。

「――連中がまず向かうのは、爆発が起きた大会議室だろう。なんせ現場だからな。徹底的に調査するに違いない。その次に周辺の小部屋をしらみ潰しに見てまわるはずだ」

「となると俺達が向かうべきは、」

「治安隊が最後に訪れるであろう――、二階の礼拝堂だ。あそこなら多少は時間が稼げる」

 マイティはちらりと横に目をやる。その視線の先には既に事切れた三人の修道僧。彼等の遺体も治安隊の注意を引き付けてくれることは間違いないだろう。

 早速、彼等は階段へ走り、二階へと駆け登っていく。


 途中、オルカの腕から血がぽつ、ぽつ、と滴り落ちていったが、誰一人、気に掛けることはなかった。


 前回強引に開けた重い扉をくぐり、マイティは扉を閉める。鍵も掛けたいところだが、以前オルカによって使い物にならなくなってしまっているため、閉めるだけで我慢することにした。

「さて――、」

 マイティはオルカ達へ振り返る。

「どうしようか?」

 三人の間に沈黙が流れる。

 これが初の実戦となるオルカは当然のことながら、このような事態にどう対処すべきか、など知るわけがない。

 キールはオルカの腕の中で黙ったままだ。

「……何か、いい考えとかない?」

 返事が、こない。

 三人で考えれば何かいい案でも浮かぶのではないかと、意味の無い期待をしていたマイティ。要は、「あの時、お前達が言ったんじゃないか」と責任逃れの為の逃げ道を作ろうとしているだけに過ぎない。情けない副隊長である。

 マイティは二人の部下を交互に見る。

 オルカは必死に考えているようで、宙を睨み付けている。そしてキールも抱かれたまま、礼拝堂の壁を見ている。ただオルカのような刺々しさが彼女には無い。

 と、キールの顔が一瞬、苦痛で歪んだ。

「大丈夫か?」

 心配して訊ねるオルカ。キールが僅かに口を開いた。

「……降ろして」

「何?」

 さすがにずっと抱かれたままでは恥ずかしいのか、とマイティは考えたが、どうやらそうではないらしい。

 キールは血塗れた手で拳銃を握り直す。

「私がここで食い止める。だから、あなた達二人は先に逃げて。私も後から行くから」

 この発言にオルカは驚き、マイティは冷めた目でキールを見た。

「……その身体で戦えるのか?」

 「勿論」と苦しそうに息を吐く彼女に、マイティは不安を隠せない。自ら囮となってくれるのはうれしいのだが、今の彼女が治安隊相手にどれくらい時間を稼げるのか疑わしい。

 キールが上半身をやや起こす。

「このくらいなら、平気」

 とは言うものの、顔色はあまり芳しくない。それだけ傷が深いということなのだろう。

 本来ならすぐにでも病院へ搬送すべきなのだろうが、状況が状況だ。

 ここはキールに任せるとしよう。外人部隊出身の彼女なら、自力で戻ってくることくらい容易いかもしれない。彼女の傷の具合がやや不安だが、本人が大丈夫と言っているから、きっとそうなんだろう。

「じゃあ、お言葉に甘えて――」




「駄目だッ!!」

 マイティの言葉を遮って、オルカが言った。


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