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死神がゆく  作者: 陵凌
3/3

3.新撰組頓所

新撰組の頓所は、殺気が外まで漏れて来る樣な殺伐とした雰囲気に包まれていました。

「何か殺伐としたところですね。」

「そうじゃろう…何せ人斬りが集まっちゅうところじゃきのう。」

龍馬は、正面を避けて裏手に回ります。

「どちらへ?」

「折角、ねえやんが居るがやき、この辺からさっきみたいにスルッと入ろうじゃいか。」

大分、調子に乗っている樣です。

しかし、龍馬の記憶が戻らない事には私も死神として困りますので仕方ありません。

私は龍馬の肩に、そっと手を置きました。

そこは、裏庭の樣でした。

「さて、沖田君の部屋は何処じゃろう?」

龍馬はやみくもに動き回ります。

「もう少し落ち着かれてはどうですか?」

「落ち着くち、正直、此処から早う出たいがじゃ。」

「どうしてですか?」

「どいてち、見つかったら斬られるぜよ。」

「…あのう、貴方死んでるんですよ。」

「あ……ほうじゃ、ワシは死んじゅうがよのう。何じゃ、ほんなら斬られたちかまんのう。」

全く、せっかちなのかのんびり屋なのか分からない方です。

それから龍馬は、次から次へと部屋の障子を開けては首を突っ込んで中の様子を見て回りました。そして、ある部屋の障子を開き、首を突っ込んだ龍馬の面前にギラリと刀が突き付けられたのです。

「おっ!?」

「何処の鼠か知らねえが、新撰組の頓所に忍び込むとは、いい度胸してるじゃねえか。」

驚く龍馬に野太い声が掛かりました。

「ありゃ!その声は…土方さんかえ!?」

龍馬の言葉に、相手の方にも少なからず動揺が生まれた樣です。

「そ、その声は、もしや坂本か!?…いや…そんな筈は無い。坂本は先月、死んだ筈だ!」

「その通りじゃ、ワシは死んじゅうき。」

「何!?ふざけるな!」

土方という方は、そう言うなり龍馬の首根っこを掴んで、部屋に引きずり込みました。

「やや!確かに坂本に瓜二つ。貴様、何者だ!」

土方という方は、刀を振り上げ問い質します。

「土方さん!待っとうせ。ほんじゃあきワシは坂本じゃちや。」

「ふざけるな!坂本は死んだわ!」

「そうじゃ!ワシは死んじゅうき!」

「何を言っている!?じゃあ貴様は何だ!」

「ほんじゃあき、ワシは幽霊ぜよ。」

龍馬の言葉に土方が言葉を失いました。

「ほんでよ土方さん、ワシは沖田君に会いに来たがじゃ。」

「…幽霊?…幽霊だと!?」

「ほうじゃ、やっと分かったかよ?」

「ふん!」

瞬間、気合いと共に土方が薙ぎ払う樣に刀を振り、龍馬に斬り付けました。

「ん?…何じゃあ!?何するがぜよ土方さん!?」

有無を言わさず今度は袈裟掛けに斬り掛かりました。

しかし死人の、しかも幽霊は斬れません。

「斬れねぇ…」

土方が、自分の刀を不思議そうに見つめて言いました。

「ほうじゃき幽霊じゃと言いゆう。」

土方は驚きの表情で龍馬を見ます。

「何しに来た…」

「んっ!?何ぜよ?」

「何をしに来たのかと聞いている。」

「じゃから、沖田君に会いに来たがじゃ。」

「総司に何の用か!」

「ほんじゃあき、ちっくと聞きたい事があるがじゃ。近藤さんはワシの顔見たとたんにキレるじゃろうし、斎藤君は気味悪いし、土方さんは今みたいにいきなり斬りつけるじゃろ?話しが出来るがは沖田君だけじゃ。」

「……」

土方が暗い表情で黙り込みました。

「土方さん?どがいしたぜよ?」

「総司は居らぬ。」

「居らん?」

「近藤さんの妾宅で養生している…」

「養生ち…どこぞ悪いがかよ?」

「アイツはもういかん…」

「いかんち…」

「労咳だ…」

「労咳!?そんなに悪いがかよ?」

「年明け、桜の時期まで持つかどうか…」

「そんな…」

それきり二人とも黙り込んでしまいました。

「…惜しいのう。まだ若いに…」

龍馬がポツリと言います。

「総司に何の話しがある?」

「実はの…」

龍馬はこれまでの経緯を土方に話しました。

「ふ~ん、殺された時の記憶が戻らないと成仏出来ねえか…しかし、それと総司と何の係わりがあるんだ?」

「それがの、寺田屋のお登勢さんの話しじゃ新撰組の仕業じゃないかと街のモンが噂しゆうて…」

「馬鹿な!?断じて新撰組ではない!」

「じゃろうのう…」

「何?」

「実はの、近江屋に奉公しよった峰吉ゆう男も殺されちゅうがじゃ。如何に新撰組が人斬りの集まりじゃ言うても丸腰の町人を斬りはせんじゃろ?妙におかしいと思いよったがじゃ。」

「…余り口にしたくはないが…」

「何ぜよ?」

「恐らく、見廻組の仕業だろう。」

「あちゃー!今度は容保さんところかえ、めんどくさいのう…」

「とはいえ見廻組ならば会津の者とは限らん。」

「ほうじゃのう……土方さん、誰ぞ会津のモンで話しの出来るモンは居らんかよ?」

「…山本覚馬という男が居る。あの男ならば或は…」

「山本覚馬…どんな男ぜよ?」

「保守的な会津の中にあって世の中が良く見えている男だ。」

「ほう…ほんなら早速、その山本に会いに行こうかの。」

そう言って龍馬は立ち上がりました。

「坂本。」

土方が呼び止めます。

「ん?何ぜよ?」

「…総司に会ってくれんか?」

「沖田君に?」

「言いたかねえが、どうもアイツはお前さんが好きな樣だ。事あるごとに坂本さんはどうしているかと気にしていた。お前さんが死んだと聞いて涙まで流しやがった…」

「…お妾さんの家は近いがかの?」

「歩いてもすぐだ。」

「ほんなら会いに行こうかの。ワシを見て迎えが来たち勘違いするかも知れんがの、はは…」

こうして、私達はその沖田なる人物に会いに行く事になりました。


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