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死神がゆく  作者: 陵凌
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2.寺田屋

「お侍さん、ウチと遊ばへん?」

もうこうして、女性に声を掛けられるのは何度目でしょう。龍馬は、その言い寄る女性達に、

「ワシは、今、ちっくと急いじゅうきいかん。」

と、口では断っていましたが、顔は溶ける樣にニヤけていました。

相当な女性好きの樣です。

「どうぜ、ねえやん、ワシも結構モテるろうがよ?」

「モテる?…でも、ああいう女性達の目的はお金でしょう?」

「そんな身も蓋も無い事言うたらいかん。折角、ええ気分になっちゅうに…」

「…あの、ご自分の状況というものが、理解出来てますか?」

「勿論、そやなかったら、おまさんとこうやって歩きやせんき。」

さてさて、どこまで本心なのか分かりません。

辿り着いた寺田屋は、やはり夜中の事なので、明かりも落ち、静まり返っていました。

「さて、どうやって入ろうかのう…」

龍馬は、戸口でガタガタと戸を動かそうとします。

無理でしょうに…

私は仕方無く、龍馬の背中にそっと触れました。

龍馬の身体は、するりと寺田屋の内部にすり抜けました。

「ありゃ!?何じゃ?どうやって入ったがぜよ?」

龍馬は、驚いて目をパチクリしています。

「私が触れていれば、どの樣な場所もすり抜ける事が出来ます。」

「ほんまか!?そりゃあ便利じゃのう。」

龍馬は、キョロキョロと周りを見ながら、

「確か、お登勢さんの閨はこっちじゃったと思うけんど…」

と、一人ごちながらヅカヅカと進んで行きます。

やがて、ある一室の前で立ち止まり、躊躇無く、襖を開きました。

「お登勢さん、こんばんは。」

「…えっ!?何!?誰どす!」

お登勢さんという方は驚いた樣です。

当然ですけど…

「ワシじゃ。」

「ワシ?…その声は、まさか!?坂本はん?」

「そうじゃ、龍馬じゃ。」

「嘘…せやかて、坂本はんは死にはったて…」

「うん、死んじょる。」

「は?」

「ほんじゃあき、ワシは死んじゅうがじゃ、お登勢さん。」

「何を言うてはりますの?ほんまに坂本はんなんどすか?」

「まあ、お登勢さん、とりあえず明かりを点けとうせ。」

言われて、お登勢さんは行灯に火を入れました。

「まあ!ほんまに坂本はんやわ!…けど、死んでるて…」

不思議がるお登勢さんに、龍馬は自分が確かに死んでいる事、自分が死んだ時の記憶が無い事、記憶を取り戻さないと成仏出来無い事などを説明しました。

「ほな、ほんまに坂本はんの幽霊なんどすか?はあ…生きてる樣にしか見えまへんけどなあ。」

「顔は塗っちょるがじゃ。」

「けど、ウチとこ来て、どないしはりますの?」

「ほんじゃあき、ワシがどがいにして死んだか聞きたいがじゃ。」

「そう言わはってもなあ、ウチも聞いた話しだけですし…」

「その聞いた話しでかまんき。」

「ウチが聞いた話しは、ほら…誰どしたかいなあ…坂本はんと同郷のがっちりした体格でキリッとしたお顔立ちの…」

「中岡か?」

「そうどす、そうどす。その中岡はんと河原町の近江屋に居るところを刺客に襲われて殺されはったて聞いてます。」

「刺客に襲われた!?」

「そう聞いてますえ。」

「その刺客が何者か分かっちゅうがか!?」

「それは、まだ分かってへんみたいどす。けど…」

「けど?」

「噂では、新撰組の仕業や言うてます。」

「新撰組か…面倒臭いのう。」

「面倒臭いのですか?」

と、私が問うと、

「面倒じゃのう。特に土方さんとかのう…沖田君ならまだ話しが出来るろうけんど…大体なあ、新撰組の頓所へ行くゆうがはのう…面倒臭いのう…」

と、龍馬は面倒臭がるばかりです。

「坂本はん?誰と喋ってはりますの?」

お登勢さんが不思議そうに聞く。

「誰ち?此処に居る死神のねえやんじゃが?」

「死神のねえやん?」

「ありゃ?お登勢さんには見えんかよ?」

「何も見えまへんけど…」

「ねえやん、生きちゅう人には見えんがかよ?」

「見せようと思えば、見せられますけど…」

「ほんなら、見せちゃって。」

「はい。」

お登勢さんは、突然、龍馬の隣りに姿を現した私を見て、大変驚いた様子でした。

「まあ!何処に隠れておりやしたんどす?突然でびっくりしましたえ。」

「紹介しょう、死神のねえやんじゃ。」

「はあ?何言うてはりますの?こんな男前捕まえて…」

「男前!?何を言いゆう?」

「せやかて、ウチには男はんにしか見えしまへんえ。」

お登勢さんが言うと、龍馬は私に向かって、

「どういう事ぜよ?」

と問う。

「私達、死神は人間の方に認識出来る実体を持ちません。ですから人前に現れる時は、その方の理想の異性の姿に見えるのです。まあ、場合によっては同性の場合もありますが…」

「ほんなら、今見えゆうががワシの理想の女っちゅう事か?」

「そうです。」

「何でじゃ?」

「ですから、私達が認識出来る実体を…」

「違う、そうやのうて何で理想の異性の姿になるがぜよ?」

「さあ、それは神様の決めた事ですから、私には分かりかねます。」

「ふうん、成る程のう、けんど男前に見えるち、お登勢さんも存外面食いじゃのう。」

「からかわんといておくれやす。…せやけど、これからどないしはります?」

「そうじゃのう…面倒臭いいうても、どういたち新撰組の頓所へ行かないかんろう。」

「大丈夫ですやろか?」

「心配せんじゃちワシはもう死んじゅうき、斬られてもかまん。」

こうして私と龍馬は、新撰組の頓所に向かったのです。

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