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死神がゆく  作者: 陵凌
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1.霊山護国神社

その方は、京の霊山護国神社で、ふて腐れた樣に座っておいででした。

時折、その方は鼻を掘ったり、欠伸をしたり、背伸びをしたり、挙げ句果てには大の字に寝転がったり、おおよそその方の立場であれば、考えられない行為を繰り返しておられたのです。

「何をされているのですか?」

私は、思わず声を掛けました。

その方は、驚いた様子で振り返り、

「何じゃ!?おおっ!こりゃ、たまるか!別嬪さんじゃのう。」

と、言いました。

この方には、私が美しい女性に見えている樣です。

「何をしゆう言われてものう…まあ、思案しよったがじゃ。」

「思案?」

「それがの、どうもワシは死んじゅうらしい。ほら、その後ろに新しい墓があるろう?そりゃあ、ワシとワシの友達の墓じゃ。ほんじゃあきワシは死んだらしいがよ。」

驚いた事に、この方は自分が置かれている状況が把握出来ている樣でした。

にもかかわらず、先程のように呑気な態度でいるとは、私には理解が出来ません。

「ところで、おまさん誰ぜよ?おまんみたいな別嬪さんが、こんな夜中に墓場に何の用があるがぞね。」

「坂本龍馬様ですね?」

「そうじゃが、ほんじゃあき、おまさん誰ぜよ?」

「私は死神です。」

私がそう言うと、坂本龍馬は一瞬、ポカンとして、

「ほいたら、おまさんワシを迎えに来たがか?」

と言いました。

「いえ、迎えに来たというのは、ちょっと違います。」

「違う?」

「私達、死神の仕事は亡くなった方を天国か地獄に¨お見送り¨させて戴く事です。」

「ふ~ん、ほんでワシはどっちに行くがかの?」

「分かりません。」

「分からんち…」

「坂本龍馬様は…」

「龍馬でええ。」

「龍馬は、自分が死んだ時、どうやって死んだのか憶えていますか?」

「…憶えちょらん。」

「いいですか?死んだ人間が、天国に行くか地獄に行くかは、その人間が死んだ時、この世に未練が有るか無いかで決まるのです。つまり、死んだ時の記憶が無いという事は、どちらに¨お見送り¨すれば良いかが分からないのです。」

「ほうじゃのう…ほいたら、どうするがぜよ。」

「思い出すしかありません。」

「どうやって?」

「それは、自分で思い出すのが一番ですが、無理ならば事情を知る方に話しを聞いて記憶を喚起するのも一つの方法です。」

「誰ぞに聞くのう…」

龍馬は考え込みました。

「ねえやん。」

「ねえやん?」

「死神のねえやん、おまんの事じゃ。」

どうやら私は、死神のねえやんと呼ばれるみたいです。

「何でしょう?」

「未練が有るか無いかで、天国へ行くか地獄へ行くかが決まる言うたけんど、えい事した者と悪い事した奴とはどうなるがぜよ?」

龍馬という方は、頭の回転は早い樣ですが、どうやら余計な事まで考える性の方のようです。

「それは、関係ありません。」

「関係無い?」

「はい。」

「ほいたら、悪い事した奴が天国へ行く事も、えい事した者が地獄へ行く事もあるがか?」

「はい。」

「そりゃあ、あんまり事、不公平じゃいか!」

「それは、あくまで貴方達人間の考えでしょう?神様の目的は亡くなった人の魂を次の世に転生させる事です。この時、必要な事は魂を浄化する事、つまり魂から亡くなった人の自分というものを取り除くのです。」

「自分を取り除く?」

「もし仮に、魂に自分というものが残ったまま転生したら、新しく生まれた人の中に、亡くなった人の自分が有る事になります。それではマズいでしょう?」

「確かにマズいのう…」「この自分というのは、亡くなった時に、この世に思いを残す事、つまり未練なのです。」

「成る程のう…そういう仕組みか…」

どうやら納得された樣です。

「どうされるか決まりましたか?」

「ほうじゃのう、どいたもんかのう…勝先生は江戸じゃし……ほうじゃ!お登勢さんじゃ!お登勢さんがおるじゃいか!」

「その、お登勢さんという方は?」

「寺田屋いう船宿の女将さんじゃ。」

「その寺田屋というのはどちらに?」

「伏見じゃ。ところで此処は何処ぜよ?」

「東山と言われる場所です。」

「東山言うたら、此処は護国神社か、ちっくと遠いのう…」

「どれくらいですか?」「ほうじゃのう、此処からやったら二里ばあかのう。まあ、一回鴨川まで出てみるかよ。」

そして、私は龍馬と東山から鴨川に向かいました。

私は、龍馬にピッタリと寄り添い歩きます。

「ねえやんよ。一つ聞いてもかまんかよ?」

「何でしょう?」

「ワシが死んだ時の事を思い出したら、未練が有るか無いかが分かるき、天国か地獄へ行くがよの?」

「そうです。」

「思い出さらあったらどうなるがぜよ?」

「成仏出来ません。」

「出来ん?」

「はい。」

「ずっと?」

「はい。」

「100年も、200年も?」

「はい。」

「ほいたら、成仏出来らあったら、ずうっと先の世の中も見えるがじゃろ?成仏せん方が面白そうなが。」

とんでもない事を言い出す方です。

「それでは、私の仕事が成立しません。」

「ほうか、すまんすまん、ほうじゃのう、ねえやんが困らあのう。」

呑気というか、屈託が無いというか、どうにも掴みどころの無い方です。

「説明させてもらっても宜しいでしょうか?」

「何ぜよ?」

「通常、記憶を無くさず亡くなった人は、そのまま天国か地獄かに送られますが、龍馬の樣に死んだ時の記憶を失っている場合、その記憶を取り戻す猶予期間が有ります。」

「猶予期間?どればあぜよ?」

「亡くなった日から49日間です。」

「ふ~ん……ん?ワシが死んだがはいつぜ?」

「1867年12月10日、龍馬に分かり易く言うと、慶応3年11月15日です。」

「今は?」

「慶応で言えば、3年12月15日です。」

「ほいたら、ワシが死んでから一月も経っちゅうがか?」

「そうです。」

「後、19日か…」

何やら考え込んでいます。

「まさか、49日間やり過ごすつもりじゃ無いですよね?」

「ま、まさか、そんな事は無いき。」

目が泳いでいます。

嘘をつくのは苦手な樣です。

「必ず、¨お見送り¨させて頂きますからね。」

「分かっちゅうちや。」

私達は、東山から祇園の街に出ました。

「ねえやん、もう一つ聞くけんど?」

「何でしょう?」

「何で、そがいにくっついて歩くがぜよ?歩き難いし、死んじゅう言うても、ワシも男じゃき、その何じゃ、なんぼ死神やちやっぱりのう…」

本当に、人間の男という生き物は仕様が無いものです。

「こうして、私が触れていませんと、龍馬の姿が周りの人に見えてしまいますので。」

「見えたらいかんかよ?」

そう言う龍馬の面前に、私は小ぶりの手鏡を差し出しました。

「な、何ぞ!?こりゃ!!」

驚く筈です。

今、現在の龍馬は死人、言わば幽霊というヤツです。

その顔色は真っ青なのです。

と、言っても血の気の引いた青さではありません。

皆様に分かり易く言うなら、映画山形スクリームのゾンビと言えば宜しいでしょうか?

とにかく、人前に出られる顔色では無いという事です。

「それで人に見られたら、どうなると思いますか?」

「…騒がれるのう…」

大分、堪えた樣です。

いい気味。

やがて私達は、祇園の街を通り過ぎ、鴨川に出ました。

目の前には、河原町へと渡る四条大橋が掛かっています。

すると、龍馬が急に橋の袂で立ち止まりました。

「ねえやん、ちっくと頼まれてくれんかよ?」

「何でしょう?」

「何処ぞで白粉と紅を手に入れて来て貰えんろうか?ワシは橋の下に隠れて待ちゆうき。」

「白粉と紅?どうされるんですか?」

「どうするち、塗るに決まっちゅうやいか。」

確かに、白粉を塗って紅を引けば、死人とは思われ無いでしょうが、別の意味で気持ち悪がられそうですが。

私が、祇園のお茶屋さんから拝借した白粉と紅を持って帰ると、龍馬はおとなしく橋の下でしゃがんでおりました。

「これで、宜しいですか?」

「おう、すまんすまん、助かった。」

そう言うと、龍馬は白粉を自分の顔や首、胸元にたっぷりと塗りました。

続いて紅を取り戻すと、唇では無く両手に塗り広げると、白粉と同じ樣に、顔や首に塗り始めました。

すると、青かった龍馬の顔が、濃い桃色になりました。

更に龍馬は、地面に手の平を擦り付け、手に着いた土を顔や首に塗り始めました。

私は、驚きました。

見る見る内に龍馬の顔が、生きている人間の顔色と変わらないくらいになったのです。

多少、ゴツゴツしていますが、どうも龍馬という人は、惚けている樣で、実は発想力の有る方の樣です。

龍馬は、手鏡で何度も確認して、納得した樣にうなづきました。

「ほな、ねえやん、行こうかの。」

こうして、私達は寺田屋を目指して、鴨川沿いを歩き始めました。

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