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婚約破棄だと思いましたか? 残像ですわ

作者: ariya
掲載日:2026/05/15

 とある王国で繰り広げられた婚約破棄(バトル)教会の鐘(ゴング)とともに開始された。



「エマ・エーデルシュタイン! 積年の恨みをここで晴らしてくれる。くらえ! 婚約破棄だ!!」



 ハンス王太子が婚約破棄を唱えた。


 これは貴族令嬢にとっての致命的な傷を負わせる危険な技であった。


 ハンス王太子は本気である。


「っふ」



 ハンス王太子の攻撃に直撃する直前まで、エマは動揺することなく扇のかげで不敵な笑みをこぼした。


 ハンス王太子にはそれが見えない。


 扇で隠れているからだ。


 よく表情がみえなかったエマはさぞかし動揺していたことだろう。



「やった! 私はついにやったぞ。悪役令嬢を滅ぼし、可愛いマリア(ヒロイン)とついに結ばれる!」


「残念でしたわね」


 背後をとるのは先程攻撃をくらっていたエマであった。




「な……、んだと」




 驚愕するハンス王太子。


 エマはここぞと反撃を開始した。

 鋭い扇攻撃にハンス王太子は持ち前の反射神経で避ける。


 腐ってもこの国の王太子、優れた身体能力だ。



「全ては残像……そもそも、私とあなたは婚約関係にはありません」



 突然明かされる事実にあたりはどよめく。


「ちょっと待て。それはどういうことだ」


「既にあなたとは良好な夫婦関係は築けないし支える自信がないと国王陛下に報告し、婚約解消としました」


 つまりどういうことか。


 観客たちは固唾を飲み見守っていた。


「ちょうど1週間前のこと」


「そんな、父上からそんな話は……」


「ええ、後から現れる国王陛下が発表する予定でした。というか、私が1日1回の朝の挨拶がないあたりで気づけばよろしいじゃないですか?」


 王太子の婚約者は、早朝、王城を訪れて王太子に挨拶をする決まりがあった。


 1週間前からエマは挨拶していない。


 その前も、ハンス王太子の部屋へ訪れていても部屋に入れられず追い返されることがあったのでどうでもいい。


 むしろ1週間前から朝のルーティンが消えて有意義なひとときを過ごせていた。



「私と会わなくても1週間前に側近があなたに報告していたはずです。私が来たと……1週間前から挨拶の報告がないあたりでおかしいと気づくべきでしょう」



 本当は試験期間であった。


 エマとの婚約解消に気づかなくてもわずかな婚約者の変化に気づくかどうか。


 気づいて何かしらの反省を起こしてくれれば婚約解消を取り消しにしてほしい。


 それが国王と王妃の願いであった。


 しかし、1週間は終了してついにはハンス王太子はエマに婚約破棄(必殺技)を突きつけた。



「ハンスよ」


 現れたのは国王と、王妃。


 2人とも呆れ果てていた。王妃はハンカチを握りしめ、しおしおと泣いている。



「こ、これは父上、母上」


「お前という奴はいくらエマと結婚したくないからといって公衆の場で、婚約破棄()を出すなど見損なったぞ」



 既に期待も何もかも消え失せた冷たい目であった。



「そうよ。こんな場所で……エマ嬢に消えない傷を作ろうなど正気じゃないわ」



 王妃はまさか息子がそこまで落ちていたとは思わずに悲しく泣いていた。



 分の悪い雰囲気にハンス王太子は狼狽しはじめる。



「しかし、これには理由があります。あの悪役令嬢は私の可愛いマリア(ヒロイン)を虐めていたのです! 私はそれが許せず」



「ちなみにマリア嬢(ヒロイン)、私ってあなたをいじめていたかしら?」



 エマの隣に現れたのはマリア・バンスであった。



「エマを目の前にして泣いていたのを見たという報告を受けている」



「それは誤解です」



 マリアは困ったように、それでも必死に否定した。



「エマ様は私の相談に乗ってくださっただけです。私が勉強についていけず、1人泣いていたら声をかけてくださって……私が何度もわからないと泣いても懇切丁寧に指導してくださいました」



 マリアが泣いていた理由を聞いてハンス王太子は首を傾げた。



「でも、君は……そんなこと言わなかったじゃないか」


「言えるわけないじゃないですか。初等科レベルの内容がわからず泣いていたなんて」



 マリアは顔を真っ赤にして叫んだ。


 本当はこの場で言うのも恥ずかしい。


 しかし、エマが粛清される場をみていてもたってもいられず前へでたのだ。



「それとあなたに言い寄られて困っていましたわ。妃にならないかとまで言われて反逆罪にならないかと怖くなって私に逐一報告してくださいました」



 ざわざわとさらに響く聴衆の声。



「私は男爵家令嬢、とてもじゃありませんが妃の器ではありませんし……私には許嫁がいます」



 最後に照れながらもマリアは答える。



「そ、そんな……では私は一体」


「勘違い起こして暴走したというところですわ。嘆かわしい。さすがに私でもこんな男のフォローをするのは無理です」


 エマの言葉に国王は頷いた。



「そうだな。王位継承の件は、見合わせることにしよう」



「それはちょっと!」


 ハンス王太子は青ざめた。



「ハンス王太子、いえ元王太子。まだまだ終わりではありませんわ」



 エマはパチンと指を弾いて、そそくさと黒子姿の男たちが現れた。


 彼らは大量の書類を抱えていた。



「私の反撃がまだですわ」


「いや、していただろ!!」


「……くらいなさいまし」



 エマは青筋たてて、書類の概要を説明した。



 これは今までの3年の間、エマがハンス王太子から受けたハラスメントの証拠である。



 つまり、これを元に裁判を起こすと言うのだ。



 できれば婚約してから5年の間の分も欲しかったが、見切りをつけて証拠集めを開始した時には集めた証拠が甘いため諦めた。



「ぐぁぁぁっ! まさか、私が……この私が反撃(ザマァ)されるなど……」



 ひとつひとつ確認させられて、ハンス王太子……失礼、元王太子はその場に打ちひしがれた。



 それを見て国王は深くため息をついた。


「我が子ながら情けない。ハンスよ。婚約者でなくなったとはいえ、エマに誠意をみせよ。そしてこれから王子として勤めを果たせ。さすれば、弟王子たちと並んで王太子候補にあげておいてやろう」



 せめてもの父の慈悲だった。





 こうして婚約破棄(バトル)はエマの勝利に終わった。


 今日も、どこかで婚約破棄(バトル)は繰り広げられているかもしれない。



(終わり)

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