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第7話 クスティへの道。

マルセル伯爵領はクスティ国からだと3日ほど。ブリア国の王都へは5日ほどかかるので、王都に出るより温泉に出かける方が近い。

ビアンカの馬車が領の屋敷に着くと、王室の馬車が横付けされていた。


「あら、まあ…エアハルト殿下?」


馬車が付くと同時に手を貸してくださったのは、ご機嫌の良さそうなエアハルト殿下。手をお借りして馬車から降りたビアンカが跪く。その後ろでうちの息子たちがおろおろしているのが見える。

「…クロエは?」

てっきり同乗しているのだとお思いだったのだろう。私と侍女しか乗っていなかった席を驚いた顔で見渡している。

「殿下、エルザさんの書簡と入れ違いになってしまったんですのね?クロエはクスティ国に残りました。クスティの城に就職しましてね。この国には戻らないそうです。」


…まあ、ほんの少し、腹いせもあって大げさな説明になった。


「え?」


怒ったでもなく、驚いたでもなく…不思議そうに首をかしげる殿下。


「殿下のお役に立つためにと事務官試験も受けましたが…ローザリンデ様とお幸せにお暮しくださいと言っておりましたわ。」


「は?」


…半分は嘘ですけど。


「クスティ国の国王陛下もクロエの仕事ぶりを気に入って下さいましてね?まあ…あの方もまだ妃をお決めになっていらっしゃらないし。ねえ?」

「……」

私の話が呑み込めずに、ぽかんとされている殿下、と、うちの家族。

…さあ、どうなさいますか?殿下?

うちの孫娘を泣かせた責任は取っていただきますわよ?


「フランク!馬を引け!」

いきなりの命令に殿下の護衛騎士がぎょっとしている。

「ライマー、先ぶれをすぐ出せ。クスティ国に入るぞ!」

侍従だろうか、慌てふためいて騎士の乗った単騎を走らせる。


土ぼこりを立ててビアンカが今の今帰って来た方角に去っていく一団を見送る。


「は、母上?」

事の次第がよくわからない息子が動揺している。


「あら。殿下が軍を出せとか言い出さなくてよかったじゃないの」

「いったい…なんなんですか?」

「あの方、うちのクロエに好きだとも嫁に来いとも言ったことがないんですって。7年も囲っておいて、ねえ?自業自得よ。」

「え?ああ……上手くいきますかね、あの二人?」

「どうかしら?殿下が雲雀の様にさえずることができればいいんじゃない?」

「?」


ビアンカはあっという間に小さくなっていく殿下一行を微笑みながら眺める。

春の空が青く、高い。



*****


「突然の訪問に、対応いただき感謝いたします」

エアハルトが胸に手を置いて頭を下げると、陛下はにこやかに笑った。


「いえいえ。クロエちゃんはよく働きますね。噂には聞いておりましたが、殿下の懐刀、と言われるだけのことはありますね」

「……」

クスティ国の国王陛下自ら王城のクロエの職場まで案内してくれた。さほど大きな城ではないが、長い廊下を歩きながら話す。クロエ…ちゃん?ってなんだ?

しかも、改めてみるとクスティ国の国王陛下は中々にいい男だ。いらっとする。が、我慢する。


「クロエちゃんはまだ10日ほどしか働いていないんですが、書庫を掃除しながらうちの国の問題点を箇条書きにして16も指摘してきました。」

「……」

「毎年のように陳情をあげてくる地区の基本的な問題点だったり、歴史的な遺産の保全状態だったり…殿下は本当にいいパートナーをお持ちですね?」

「……はい」

「くくくっ、クロエちゃんがいたらうちの国は5年もしたら大陸最大の観光立国になりそうです」

「……」

楽しそうに笑う陛下を、思わず立ち止まって睨みつけてしまった。


「おやおや。大丈夫ですよ。うちの国はそれを望んでいません。この狭い国土に何万人もの観光客が訪れるなんて…温泉でのんびりできなくなってしまいますからね。それに」

にやっと陛下が笑う。

「それに…殿下の瞳の色を付けた剣を持った近衛が付いているお嬢さんなんて、王子妃以外にいないでしょ?くくっ」

「……ええ。」

「どうもねえ、クロエちゃんはあなたから離れて、医者でもうちの温泉でも治せない病気を発症してしまったらしいんですよ。聞いていましたか?」

「えっ?」

「おや…。不思議な病気でね。説明が難しいから…お知らせできなかったのかな?」


…病気?クロエは病気だから帰ってこなかったのか?

エルザの報告書には、そんなこと一言も…。

ぎゅっと胃が押しつぶされる気がして…思わず口を押える。病気?クロエが?

大変なことを話しているのに、のんびりとした口調のクスティ国の国王陛下にイライラが募る。


「クロエちゃんに会って、よくお話してごらんなさいな。治るかもしれませんよ?それには…あなたは雲雀のようにさえずらなければいけませんよ?」

「…え?」


おとぎ話のような、なぞなぞのような…意味の分からないことを言いながらクスティ国の国王陛下は笑っている。なんだろう…?クスティ国の独特な言い回しなのか?


「今日はうちの王室専用の温泉付きの部屋を用意しますから、お二人で納得できるまでお話ししたほうがいいね。クロエちゃんがそれでもこの国にいたいというならそれでもいいけど…あの子にはこの国は狭すぎるみたいですしね」


そう言いながら、廊下の突き当りの大きなドアを開けた陛下は、愉快そうに笑った。


「クロエちゃん、お客様ですよ」












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